准教授・高槻彰良の推察6 鏡がうつす影
2025年08月25日(Mon)
|
|
|
読書記録:
長野での一件から一週間。高槻は笑顔を見せてこそいるが、気遣う言葉に対して話をはぐらかすあたり、尚弥にはそれが心からのものではないと理解できてしまう。いくら真相に近づいても、また同じことが繰り返されるのであれば、自分のやっていることに意味はあるのか。そんな弱音を聞かせてくれるようになった高槻に、何か自分にできることはないかと悩んでいた尚弥だったが、そんな折にまたも怪奇事件の依頼が舞い込んだ。遊園地のお化け屋敷で、何も仕掛けのない鏡の前で悲鳴があがったり、アンケートやSNSで「あの鏡が一番怖い」「トラウマものだ」といった内容が書かれているのだと言う。しかしいつもなら目を輝かせて飛びつくだろう高槻が、今回はあまり乗り気でない。尚弥はいささか強引かとも思いつつ、いつもの調子に戻させようと依頼を受けさせ、佐々倉や留衣子らと共に遊園地へ同行した……「お化け屋敷の幽霊」 長かった夏休みもついに終わった9月。高槻の研究室を一人の男が訪れた。彼は高槻の母方の従兄弟で、実家と縁を切っている高槻とは、実に二十年ぶりに会ったのだと言う。相談は、二ヶ月ほど前に政略的な縁で婚約した相手についてだった。仕事が忙しく少し間を置いて顔を合わせたところ、まるで別人のようにやつれており、その肩には気味の悪い出来物が現れている。まるで人の顔を思わせるそれを、彼女――未華子は人面瘡だと言い、民俗学を研究している高槻に相談したいと頼んできたのだと。そんな従兄弟――優斗を、高槻は幼い頃は仲が良かったと笑顔で紹介する。しかし優斗の方は、大昔のことだと切り捨て、ろくに話をしようともしない。相談を持ちかけてのそんな態度に苛立つ尚弥だったが、高槻は一人でも行くと言い張るので、渋々同行するしかなかった。そうして顔を合わせた未華子は、高槻を見るなり感極まった表情で口を開いた。「天狗様!」と。彼女はかつて高槻の母が開いていたお茶会へ、幼い頃に参加したことのある人物で……「肌に宿る顔」 二十歳になるまでに忘れないと、不幸が起こる。そんな怪談として語られる『紫の鏡』。今回の依頼者は浅草にある老舗旅館の娘で、もうすぐ二十歳を迎えるという女子大生だった。彼女の旅館には家長しか入ることを許されぬ部屋があり、その中には『紫鏡』が置かれているという。そして彼女の母親は彼女が七歳の頃にその部屋へ入り、そのまま失踪してしまったのを、彼女は実際に目撃したと語った。だからこそ、自分が二十歳になった時にも、なにか不幸が訪れるかもしれないと彼女は怯えていたのだ。その鏡がある部屋へ案内してもらい、ひとまず室内には入らず入口から眺めた二人だったが、尚弥は何故か急に空気が重くなったかのような息苦しさを感じて……「紫の鏡」
5巻のラストがあまりにぶった切りだったので、読了そのまま6巻に着手。 これリアルタイムで読んでいたら、続刊出るまで気が気じゃなかったと思いますよ本当に。 内容的には5巻の後日談的意味合いが強い一章目。珍しく高槻先生が誰かに説教したりしないお話でした。まあ当人がそれどころではなかったというのもあるのでしょうが。正直、いつ「しかしそれは……」とか言い出すかとハラハラしていたら、意気投合して良いお友達が増えたのは良かったんじゃないですかね(笑) そして尚弥が、ついに覚悟を決めた感じがすごく成長したなあって印象でした。 二章目では、番犬として認められてますしね。『可愛らしい』とついてるけど、それでも鉄面皮野郎を少しでも動揺させられたのが非常にスカッとしました。 あとついに高槻のお母さん(現在)も登場した訳ですが……その声が一切歪まないというのが本当に切ないですね……従兄弟の方が、初登場時とは打って変わった印象になったのがせめてもの救いでしょうか。 そして三章目。 いろいろとひっくり返ったなと感じました。前巻でも「怪奇の皮を被った、実は人間が起こした事件(謎がちょっと残る)」という話運びから、ついに本当の怪奇に足を突っ込んだなあと思ったのですが。今回は「人間が起こした事件と見せかけて、実は怪異だった」という、まったく逆転した構成。しかも物語の軸となるのは、高槻よりもむしろ尚弥と、そして『もう一人』の存在というね。 怪談を聞いて理性を飛ばす高槻に対する尚弥の突っ込みが、これまで以上に早く的確になってるところとかも成長を感じたりするんですが、本当に尚弥の方が保護者っぽくなってきている感じが(笑) それに表紙絵の尚弥の服装、今度はもうはっきりと、裏地の星空が高槻先生と同じ色になっているのが本当に意味深です。 でもこれまで得体が知れない怖さのある印象だった『もう一人』が、尚弥の言葉を通すと急になんだか『人間のことが良く判らない、ちょっと天然さん?』と思えてくるのが不思議なもので。 ある意味では高槻よりもさらに異界(黄泉)寄りになってしまったかもしれない尚弥。 怪奇は「現象」と「解釈」で構成されているというのならば、尚弥によって解釈されるもう一人の存在は、これからどんなふうになっていくのでしょうね。 どういう形であれ、二人(三人?)が辛い思いをしない方向に行ってほしいと切に願います。
追記: ずーーーーっと気になっていた、佐々倉はいつの間に尚弥の耳のことを知ったのかという疑問の答えが、ようやく語られてました。 っていうか尚弥くん、そこはもうちょっと早めに突っ込んでおこうよww
|
|
No.4477
(読書)
|
|
|
|
|
| プロフィール |
|
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
最近は小物作り(主にタティングレース)などにも没頭しています。
|
 にほんブログ村
|
|