ミスリル令嬢と笑わない魔法使い
2022年11月30日(Wed)
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読書記録: ■ミスリル令嬢と笑わない魔法使い https://ncode.syosetu.com/n5681hh/
華やかな美女を引き連れたハロルド=イルンストン伯爵令息は、街中の公衆の面前で、堂々と言い放った。 「お前のように気が強くて馬鹿で女らしさが欠片もないような奴と結婚するなんて絶対に嫌だ。それに俺には愛するドロテアがいる。だからお前との婚約は破棄する」 仲が良かった親同士の口約束により、ミスリルことミスタリア=リルファーデ子爵令嬢は、幼い頃から彼と婚約していた。数年前に領地を襲った不作と流行病のため、イルンストン伯爵家からはかなりの援助を受けているが、それでも生活は困窮しているし、両親もその時に命を落としている。いまここで婚約を破棄され、つまり援助を打ち切られると、経済的にはかなり苦しいこととなるだろう。 「分かりました。でも婚約破棄に関しては叔父様の許可を得てください。わたしだけではどうしようもないので」 「ああ、分かっている。今日は前もって伝えに来ただけだ。後日改めて書類は送る」 清々したというように去っていく元婚約者を見送りながら、さて就職先を探さねばとミスリルは考えていた。 正直に言えば、婚約破棄自体はどうでも良かった。ショックではあるが、恋愛的な意味で好きになるには、これまでの相手の態度が悪すぎた。他人に書かせたのが丸分かりの、形ばかりの手紙の他は、婚約者としての義務など何ひとつ果たしてくれなかったのだから。 「よし! 働こう!」 生まれた時から別の世界で生まれ育った記憶を持っていたミスリルは、一般的な貴族令嬢が持つだろう、働くことに対する忌避感などない。幼い頃は領民に混じって、農作業や狩りなどもやったし、使用人を多く雇う余裕がない現在では、家の中の掃除などもミスリルが手伝っている。 これまでは元婚約者に「恥ずかしいからやめてくれ」と言われていたが、もう気にする必要もない。 そうして職業斡旋所に向かった彼女は、宮廷魔法士団の清掃係という募集に飛びついた。住み込みで三食つきで、おまけに給金が高い! これを逃す手はなかった。 掃除はかなりの力仕事ではあるが、身体強化魔法を使えるミスリルにとって、重いものを運ぶなどは得意中の得意である。 来年には弟が十六歳となり成人する。少なくともそれまでの間、家族を養うために頑張ろう。 そうして彼女は、あまりの汚さに『魔窟』と名高い宮廷魔法士団『紫水』の清掃係として、無事採用された。 「折れない欠けないへこまない、打たれ強さは世界一! このミスリルに何でもお任せください!」 そんな決め台詞とともに、彼女は『魔窟』の攻略にかかるのであった ――
異世界物で転生女主人公。書籍化・完結済でダイジェスト化なし。 「寝取られ令嬢は英雄を愛でることにした」や「悪役の王女に転生したけど、隠しキャラが隠れてない」の早瀬黒絵さん作品です。 婚約破棄からのシンデレラ・ストーリーはテンプレですが、なんかこう……ミスリルちゃんのメンタルがチタンもといミスリルすぎて、読んでいて不安が一切ないというか(笑) 嫌がらせで虫を送りつけられようが、自室のドアを開かなくされようが、水ぶっかけられようが、本人まったく気にしてないんですもん。「こんなのに負けない!」っていうんじゃなくて、「あー、なんか頑張ってるなあ」という感じで、嫌がらせということは理解していても「ま、実害ないし」とスルー状態で、逆に相手が哀れというか。 そして改めて親しくなったお相手の方にはかなり深刻な秘密があって、当人はすごーーーくそれを気に病んでいるのですけれど、読者視線で見ていると「いや早く打ち明けたほうが良いって」「彼女なら絶対気にしないよ」「むしろたぶん歓声上げて喜ぶww」というもどかしさがですね。
ちょっと気になったのは、ミスリルちゃんが次男とはいえ高位貴族の嫁に入るには、さすがに天真爛漫がすぎるかなあというあたり。なんというかお花畑ヒロインに近い部分を少々感じてしまって、駄目な方は駄目かも、と。いや本人は、いちおう最低限のマナーは把握しているし、現在進行形で努力して勉強しているので、電波系ヒドインという訳ではないんですけど。 あとこれ、転生要素いったか? という点。 まあ確かにそのおかげで、彼女は貴族令嬢でも働くことの大変さ大事さを知っていたし、若くして両親を亡くしても、弟を支えて立ち続けていられたのでしょうが……でもそれってミスリルちゃんがミスリルちゃんってだけで充分説得力出せたんじゃないかなあって。 唐突に現れる、前世知識による便利道具も、いまいち活用されきれてない感がちらりほらり。 なお個人的には、主役の親友アリエラ嬢が幸せになれたかどうかが気になりますね……年齢と髪と目の色からすると、紫水のもう一人の副士団長かもとか思うんですが。このかた、結婚してるかどうかの言及、あったっけ……?
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No.3380
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
最近は小物作り(主にタティングレース)などにも没頭しています。
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