2014年08月04日の読書
2014年08月04日(Mon)
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本日の初読図書: えー……お前アホやろうと言われても、反論はできません(苦笑) いえね、おもしろいから返却前にもう一度読もうかなと思ったんですよ。そしたらどうせなら、新訳版と読み比べれば一石二鳥かな、って…… そんな訳で、ハインラインの「夏への扉」新訳版です。
あらすじや内容についての感想は「旧訳版」を読んだ時に語っているので、省略。 新訳の翻訳者は、やはりベテランの人だそうで。「アルジャーノンに花束を」とかを手がけた人とのこと。 アルジャーノン〜は高校時代に読んだけど、あれも確かに翻訳がすごいと思った記憶があるなあ……
でもって。 もちろんストーリー自体は変わらないわけですが、やはり翻訳によって異なる部分はずいぶんありました。 おおまかな印象で行くと、新訳版は会話やドラマ部分がより判りやすく、平易な文章になっていてとっつきやすいです。ピートのキャリーケースとして新しいボストンバッグを買って覗き窓を付けてやったりといった、旧訳版では削られていたと思しき小エピソードのいくつかが、ちゃんと入っているのも嬉しいところ。 たぶんより原文に忠実なのは、こちらなのでしょう。 ただ一部横文字(「事務所を借りた」が「ロフトを借りた」になってるとか)がそのままだったり、原文に忠実であろうとするあまり、日本人には馴染みのないものを説明なしに直訳(?)している部分が散見されます。おかげで意味がよく判らない部分がところどころありました。
たとえばダンが発明に利用した「電子亀」。何の説明もないこれは、旧訳版だと「自動操縦草刈機」と書かれていて、すっと違和感なく読んでいけます。 発明部分や法律部分など、SF作品のキモとなるあたりはだいたいそういった感じで、旧訳版の方が「知識の少ないズブの素人読者」にも優しい文章になっていると感じました。 弁護士に対して「情報の秘匿特権を行使できるだろうか?」と訊く場面なども、私の拙い脳ミソでは(?_?)です。 ここは旧訳版だと「ぼくは秘密交通権(弁護士と依頼人の間の秘密に相談する権利、警察もこれには干渉できない)を行使したいが、いけないだろうか?」となっており、非常に親切設計です。 他にも「少女団」と書いて「ブラウニー」とフリガナをふってあるのも、これがガール・スカウトの年少部門のことだと、日本人のどれだけが知っているでしょう?(旧版では普通にガール・スカウトになっている) さらに、
滑走道路 → 動路 集団騒擾罪 → バラッキング ゾンビー組織の秘密勧誘員 → ゾンビ・リクルーター (省略) → サブフレックス・ファサータス
旧版:嘘をつくと地獄へ陥ちるぞといってやった。 新訳:占い師がお巡りにどんなことを言ったか教えてやった。
なども、旧訳版の方が断然判りやすい翻訳だと思います。
逆に新訳版でようやく意味が判った部分としては、2000年にやって来たダンが、単語の意味が変わっていて戸惑う場面。
旧版:例えば主人という言葉だ。これはオーバーをとってくれて部屋へかけてくれる男のことで、出生率とは何の関係もなかったのだ。
出生率?? なんのことやらと思っていたのですが、
新訳:たとえば“代理”――その昔“主人役”とは、コートを脱がせてくれ、寝室に置いてくれる人間を意味していた。出生率とはなんの関係もない言葉だった。
と、たった一単語が加わるだけで、「ああ代理出産(もしくはその機能を持つ技術)のことか!」と想像がつくようになっていました。 他には冷凍場という言葉が安息所になっていたのも、なんだか柔らかい感じがして良いですね。
他に新訳版でニヤリと出来たところといえば、旧版の感想でピート(猫)の鳴き声のバリエーションが素晴らしいと書きましたが、その鳴き声にも意味があったことがよく判る点。 たとえばジンジャーエールをねだる時の「モーアー!」と言う鳴き声には「もっと(たぶん more )」というフリガナが振られています。他にも「ナーオウ!」には「いーまあ(おそらく Now )」、「ウェアールル?」には「どこにいたんだよ?( Where were you? かな)」というカッコ書きが。 こういう細かい言葉遊びは、やはりその作品が書かれた言語圏でないと、なかなか理解しにくいですよねえ……(しみじみ)
―― と、まあそういった具合で。 新旧ともに、どちらにも長所と短所があるという感じでした。 理想はやっぱり、両方読むことでしょう(笑)
まあそれは冗談として、 翻訳ものの硬い文章が苦にならず、より内容を深く理解したい人には旧訳がオススメ。 技術的な点や想像された未来像の描写などの細かいところはさらりと読み流し、気軽に人間ドラマを楽しみたい人には新訳版がオススメ、といったところでしょうか。
最後に。 私はこの作品に「巌窟王的復讐もののテイストがある」という情報を見つけて読むことを決めたのですが。しかし主人公のダンは、けしてモンテ・クリスト伯にはならないのです。 恋人と親友に裏切られ、一時は復讐を願っても、彼はけっして人を信じることをやめようとしない。
「何度火傷しようと、ひとを信用しなければならないときがあるのだ。そうしなければ、洞窟の隠者になって片目を開けたまま眠るはめになる。安全でいる方法なんてなにもない。生きていること自体が、そもそもとても危険なことなんだ」
そう語って、彼は新たな友人となったジョンに、莫大な資産となる発明をすべて託し再度の眠りにつく。 受けた裏切りには復讐ではなく無関心を、そして信頼にはより多くの信頼を返す。 そして未来にはきっと良いものが、開いた扉の先には必ず夏が待っていると信じている。 そんな彼の、陰湿さのないある意味「技術バカ」な楽観主義が、この作品をこうまで気持ちいいものにしているのだと思いました。
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No.6103
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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