2013年08月31日の読書
2013年08月31日(Sat)
|
|
|
本日の初読図書: 十九世紀も終わりに近い、英国は帝都ロンドン。 貴族の間では、誇りや財産、機密や領地と言った様々なものを賭けて行われるチェスの勝負『真剣」』が流行していた。貴族達はこぞって優秀な真剣師を雇い、自分達の代理人として闘わせる。賭けられるものが大きい以上、真剣師に負けは許されない。場合によっては、たった一度の負けが死を意味することもあった。代わりとなる『駒』はいくらでもいる。それが真剣師という存在だ。 17才になる混血の少年スィンは、年若き真剣師の一人だった。元は親を失った浮浪児であったが、チェス・カフェのマスターにその才能を見出され、養子として引き取られたのだ。 もちろん真剣師への道は狭くまた厳しかった。マスターにあったのは慈善でも愛情でもなく、あくまで打算による投資でしかない。同じように拾われ、チェスだけを徹底的に仕込まれ、そして使い物にならないと捨てられた子供は数多く存在していた。そんな中でなんとか貴族と契約しカフェ付きの真剣師となれたスィンだったが、しかしここ最近はひどく伸び悩んでいた。 このままでは、いずれマスターから見捨てられてしまう。そうなっては、社交性も体力もない混血の自分など、まともな職すら見つけられないだろう。 そんなふうに行き詰まっていたスィンへと、ある日ひとつの転機が訪れる。母の形見として持っていた品から、父親の身元が分かったのだ。 なんでもその父親は貴族で、名はサー・チャールズ・リスタデール。かなり昔に行方不明になっていて、現在はその娘 ―― スィンにとっては姉にあたる人物が家を継いでいるのだという。 血の繋がった『家族』という存在に興味を惹かれたスィンは、姉に会ってみようとリスタデール邸へ赴いた。 しかしそこにはたった一人の使用人と、椅子に縛りつけられ、自分では立つことも歩くこともできぬ美しき異形の少女が、とり残されているばかりであった。 全身を固く布で巻き締められ、幼児のような小さな身体しか持たぬ、スィンの『姉』。産まれてから一度も部屋を出たことがないという彼女は、傲慢な瞳で自らを『唯一絶対の存在』と称した。 歪(いびつ)でありながらも、どこまでも澄みきった、純粋な狂気 ―― 彼女を放置できなかったスィンは、名前すらなかった姉にネムと名付け、ただ一人残ったメイドと共に邸から連れ出した。幸いカフェでは店員を募集していたので、メイドは住み込みで働きつつネムの世話をしてくれることになる。 閉ざされた部屋でただただ思考だけを紡いで育ってきたネムは、驚異的な記憶力と分析・計算能力を備えていた。やがてその卓越した才能によってチェスをも覚え、真剣に負けそうになったスィンの危機を救う。 しかしそれは二人の元へと、新たな事件を運んでくるきっかけとなった。血生臭い数々の事件の裏には、行方不明になった二人の父親、サー・チャールズ・リスタデールの存在が感じられて……
そんな訳で、表紙の少女が「明らかにデッサン狂ってるやろ」と言うのは間違いです。彼女は設定上、頭部と胴体のバランスがおかしいため、これで正しいのです。 ……ただまあ、スィンが17才に見えないのがちと微妙ですが。私の目にはこの絵だと、13才ぐらいに見えるんですよね……皆さまにはどんなもんでしょう?
ともあれ。 もう十年近くも前、発売当時に本屋さんでパラパラッと立ち読みした印象が今でも忘れられず、熱帯雨林の1円出品を見つけてポチッちゃいました。それぐらいインパクトがあったんです。 もっとも改めてちゃんと読んでみたら、読み落としている部分がたくさんありましたけどね。 なんと言っても一番びっくりしたのは、ホームズさんが登場していることです! しかもけっこう重要な役割果たしてるよ? ホームズ好きとしては、なんでこれに気付かなかった!! っていうか、舞台がロンドンだってことすら判ってませんでしたよ。てっきり異世界ものだとばかり思っていました。 しかし大まかな流れとか『犯人』とかは、割と記憶の通りでむしろ逆にびっくり。 一度パラ見しただけなのに、良くここまで覚えてたな自分……
個人的に『肉体もしくは精神がどっか欠けた代わりに、すごい才能を持つ』という設定が大好物なので、そのあたりがツボにはまって記憶に残ってたんだと思います。 ……ネムの異常さのおかげで陰が薄れてますが、スィンも相当なものなんじゃないかと。 そもそもあの『姉』の姿を予備知識なしに見て、ほとんど驚かずにあっさり受け入れちゃうあたりがまずおかしい。 そしてそんな彼女を、肌身離さず抱きかかえて連れ歩くその執着が、17才男子としてはかなりヘン。 でもって、基本的に優しくて争いを好まない穏和な性格でありながら、チェス棋士としての狂気と才能は秘めているって、ヘタレ有能スキーにはたまりませんがな《o(>▽<)o》
ただまあ、お話としてはなんというか……ライトノベルでした。うん、そうとしか言いようがない。ネムの成長過程にも、心身ともにかなり無理があるし(苦笑) あと「てにおは」がところどころおかしいとか、誤字が残ってるとかありますが、そのあたりはオンライン小説読み慣れたおかげですっかり脳内補完できるようになってたため、ノープロブレム。
ああ、チェスの知識はなくても読むのにまったく問題ありません。むしろない方が良いのかも? 「e4」とか「a5」というのは、マス目の位置(座標)を現す言い方、「ポーン」「ルーク」「ナイト」「ビショップ」「クイーン」「キング」は駒の種類、あとは「キングを取られたら負け」だと、それさえ判っていれば大丈夫です。
ラストは賛否両論ありそうですが……まあ、当人達が幸せならそれで良いんだと思います。エメリンがちょっと気の毒ですけど。私としては二人がこのまま幸せに一生を暮らしていって欲しいところでした。
|
No.5084
(読書)
|
|
|
|
|
プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
|
|
|