更新情報(2012年11月23日)
2012年11月23日(Fri)
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閲覧室の「その他書架」に、黒岩涙香の著作権切れテキスト「白髪鬼」一〇三話目をUPしました。
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No.4348
(更新)
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2012年11月23日の読書
2012年11月23日(Fri)
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本日の初読図書: 横断歩道で信号待ちしていた空井大祐(28歳)は、飲酒運転でつっこんできた大型トラックに跳ね飛ばされ、右足を骨折した。全治三ヶ月。リハビリの末に下った診断は、日常生活に支障なし。趣味の範囲ならスポーツだって楽しめる、とのこと。 幸運な事故だった。総勢十数名が巻き込まれた大規模ひき逃げ事件でありながら、死者は一人もなく、一番の重傷者であった空井でさえ、その程度ですんだのだから。 空井が、自衛隊の戦闘機パイロットでさえなかったなら。 幼い頃からパイロットになるのだと努力し続け、その数日前には夢見ていたブルーインパルスへの異動を内示されていた、そんな空井でさえなかったならば。 激しい運動はできない? 戦闘機パイロット以上の激しい運動など、探す方が難しいぐらいだろう。 そうして空井はP免、パイロット資格剥奪処置となった。 突然降りかかった運命に呆然としながら地上勤務をこなし、一年。空井は今でもまだ、呆然としていた。 そんな彼がこの春の転属で配属されたのは、航空幕僚監部広報課。 自衛隊の中で、唯一外部との渉外を行う部署だ。自衛隊の実体を世間へと周知するべく、様々な企画を立案しあるいは受け入れ、外部と内部の連携を取りながら実行してゆくのがその仕事。 新人の空井が命じられたのは、帝都テレビから長期密着取材に訪れている女性を担当することだった。稲葉リカという彼女は、事件記者あがりの新人ディレクターで、自衛隊にマイナス感情を持っているを隠そうともしなかった。スクープを狙ってガツガツしている若手マスコミ、しかも自衛隊嫌い。攻撃的な態度で突き刺さるような言葉を吐く彼女に、広報課の面々は穏やかな笑顔で受け流しながらも辟易としていた。 しかし彼女にも彼女なりの事情があった。 ずっと事件記者になることを目標としていた彼女は、しかし配属数年で伸び悩み、はずされてしまった。閑職に回されたと感じ、なんとしてもスクープを取ろうとしては、さらに空回る。そんなリカを見た上司が、いっそ粉砕してやってくれと、広報課に預けたのだった。 共に夢を断たれた二人の男女は、時に激しくぶつかり時にすれ違いながらも、やがて打ち解けあい新たな未来を模索し始める……
いったい有川さんは、どれだけ自衛隊がお好きなんだろう。 デビュー作からして自衛隊三部作。その他にもちらほらと書かれていますが、どれも読んでいて目から鱗がボロボロ落ちていきます。 今回は恋愛色は控えめで、いつもの有川的軽妙な明るく楽しい物語ではあるものの、ところどころで背筋を伸ばさせられるような、そんなお話でした。 「自衛官も人間なんです。 ―― あなたと同じように」 全体を貫くメッセージは、これにつきるでしょう。言われたリカの気持ちと、完全に同調してました。横っ面を張られたような、とは言い得て妙。 このお話は、いわゆる「なんかすごい兵器を使いこなしたり、現場で人命救助してる格好良い(別世界の)人たち」とは違う立ち位置にある自衛官、広報課隊員がメインです。それなのに、自衛隊に対する世間からの非難を一身に受け、仲間達を守りつつその存在意義を周知するという、いわば自衛隊を代表する、とても大変で地味な部署。 ひるがえって、事件記者として先輩に言われるままにスタートダッシュを切って、走って走って壁にぶつかり、苦悩する稲葉さん。 どちらも身に沁みました。
そして。 発行を一年遅らせてまで書き加えたという、ラストエピソード。「あの日の松島」。 2011年3月11日の宮城県松島基地の様子を、十ヶ月後になってようやく取材に訪れた稲葉さんのお話。 自衛隊員だって、被災者だった。 この単純な事実を、なんで私は気付いてなかったんでしょう。 警官は、消防職員は、自分達も被災者なのに救助にがんばっていて大変だなと思っていました。でも自衛隊員だけは、後日に他の地区から支援派遣された人達が100%だと、何故か無意識に思っていました。……申し訳ないです。
この話が、どこまで事実に基づいていて、どこまでが創作なのか、そこまでは判りません。 それでも……
またひとつ、広い視野への扉を開かせてくれた有川先生に感謝です。
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No.4349
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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