2015年03月19日の読書
2015年03月19日(Thr)
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本日の初読図書: 野球以外にこれといったとりえもない、ごくごく普通の青年だった萩原良彦。大学を卒業し、野球チームを持つ企業にスカウトされた彼は、入社後すぐに練習で膝を傷めてしまった。しかも悪いことは重なるもので、会社の業績が悪化したことで野球部の廃止が決定する。術後の膝に負担をかけないため、歩きっぱなしの営業もできず、倉庫での力作業もできず、社内での居場所を失った良彦は、わずか半年で辞表を提出した。 さらに同じ頃、同居していた祖父が病で死に、祖父に懐いていた彼はますます気力を失っていく。半年引きこもりを続け、ようやく清掃業のバイトを始めたものの、未だに時おり疼く膝を抱えながらこれといった目標を見つけることもできぬまま、漫然と時を過ごしていた。 そんなある日のこと、良彦は祖父の知り合いだという老人から、一冊の本を手渡される。和綴じの冊子は和紙が屏風折りになって綴られており、三分の一ほどのページに毛筆の書体で様々な神々の名と朱印が記されていた。 「お前さんなら、立派に役目を果たせるだろうよ。あとのことは狐に聞いてくれ」 そう言って老人は忽然と姿を消した。 何だったのかと首を傾げつつ、その本を持ったまま近所の大主神社を訪れた良彦は、末社のひとつである方位神の社に足を踏み入れたところで、不意に呼び止められる。「お前が御用人か」と。 そう声をかけてきたのは、つややかな金色の毛皮を持つ見事な狐で。 自身を方位神だと名乗った狐 ―― 黄金は、良彦に己の御用聞きをして願いを叶えろと命じてくる。 黄金が言うには、良彦が受け取った書物は「宣之言書」。それを手にした人間は、ページに浮き出てくる神名に従って社を訪ね、そこに坐す神の御用を聞かねばならない。いわば神の御用聞きになるのだと。 生前、実直で信仰心の篤かった良彦の祖父がそれを勤めていた。だが彼は寿命をまっとうしたので、次の御用人を決めるにあたり、最初は代々とある神に仕える社家の一人が選ばれた。しかし諸事情があって「宣之言書」と繋がる緒が切れてしまい、そこで急遽代理として抜擢されたのが良彦だということだった。 消去法で選ばれた、あくまで代理にすぎないと聞けば、やる気も削がれるものだ。それでも祖父が生前、誰にも知られずにやっていたという行為に、興味が湧かなくもない。 そうして流されるように神様の御用人(代理)を始めた良彦だったが、神様たちが持ち込んでくる『御用』とは、想像の斜め上を行くものばかり。果たしてこれは、助っ人なのかパシリなのか。 信仰を失い力を無くした神々と、平凡なフリーターとが織りなす、ドタバタで、それでいて切なくて、ほっこり心温まる物語がいま始まる ――
神社と寺ってどう違うの? 葬式は寺でやるけど、年末年始は神社に行くし、クリスマスにはケーキを食べるし。 そんな現代のごく普通の青年が、ある日いきなり古事記や日本書紀などに登場する八百万の神様たちの御用聞きに任命されて、わがままに振り回されつつ東奔西走するお話です。 普段きちんと祀りもしないで願い事ばかり押し付けてくる人間のせいで、すっかり力を弱めてしまった神様たち。おかげで世をすねてしまっても、それでも人間を見捨てきれない彼らと、いろいろあって生きる目標を見失ってしまった良彦が、お互いに紆余曲折ありながら失くしてしまったものを再び見つけていく、再生の物語とでも言いましょうか。
モフモフで甘いもの好きでツンデレっぷりが可愛いお狐さまとか、パソコンを駆使してオンラインゲームやSNSをしまくってる一言主神とか、近所のおじさんにしか見えない作業着姿の歳神様とか、くすりと笑えるコメディ部分もいっぱいです。
……ちなみに私も良彦と同じく、高校ぐらいまで神社と寺の区別がついてませんでした(笑) いやいちおう日本神話はだいたい知ってたよ? でも神社がその日本古来の神様を祀ってるところで、お寺は大陸から伝わった仏様を祀る仏教の施設だとか、そんなの日常生活で意識しないよ! ……ってか、仏教と神道が明確に分かれたの自体、明治時代あたりからじゃんとか屁理屈を言ってみたり。
そして良彦の境遇とか考え方が、読んでいて心にグサグサと(泣) って言うか神様よ、半引きこもりで社会復帰し始めたばかりのフリーターに、交通費自腹で全国行脚させるのは勘弁してやってつかぁさい……
あと読んでいて疑問に思ったのが、プロローグとエピローグに登場する「語り手」が誰なのかです。 そこだけ神様視点で描かれているのですが、「私の鱗が」という一文が出てくるので、いつも一緒にいる黄金(狐)ではありえませんし、かと言ってゲストキャラの竜神橋姫がこういうポジションに来るのかなあとも思うし。 大主神社の御祭神かと思いつつ検索してみるも、宮古島の神社しか出てこない……むう、謎だ……(悩)
とりあえず、本来御用人に選ばれるはずの人間が誰だったのか、どうしてその人間とは緒が結ばれなかったのかなど、まだ謎が残っているので続編も読んでみたいところです。
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No.6672
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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