よしなしことを、日々徒然に……
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 2014年08月04日の読書
2014年08月04日(Mon) 
本日の初読図書:
4152090596夏への扉[新訳版]
ロバート・A・ハインライン 小尾芙佐
早川書房 2009-08-07

by G-Tools
えー……お前アホやろうと言われても、反論はできません(苦笑)
いえね、おもしろいから返却前にもう一度読もうかなと思ったんですよ。そしたらどうせなら、新訳版と読み比べれば一石二鳥かな、って……
そんな訳で、ハインラインの「夏への扉」新訳版です。

あらすじや内容についての感想は「旧訳版」を読んだ時に語っているので、省略。
新訳の翻訳者は、やはりベテランの人だそうで。「アルジャーノンに花束を」とかを手がけた人とのこと。
アルジャーノン〜は高校時代に読んだけど、あれも確かに翻訳がすごいと思った記憶があるなあ……

でもって。
もちろんストーリー自体は変わらないわけですが、やはり翻訳によって異なる部分はずいぶんありました。
おおまかな印象で行くと、新訳版は会話やドラマ部分がより判りやすく、平易な文章になっていてとっつきやすいです。ピートのキャリーケースとして新しいボストンバッグを買って覗き窓を付けてやったりといった、旧訳版では削られていたと思しき小エピソードのいくつかが、ちゃんと入っているのも嬉しいところ。
たぶんより原文に忠実なのは、こちらなのでしょう。
ただ一部横文字(「事務所を借りた」が「ロフトを借りた」になってるとか)がそのままだったり、原文に忠実であろうとするあまり、日本人には馴染みのないものを説明なしに直訳(?)している部分が散見されます。おかげで意味がよく判らない部分がところどころありました。

たとえばダンが発明に利用した「電子亀エレクトリック・タートル」。何の説明もないこれは、旧訳版だと「自動操縦草刈機」と書かれていて、すっと違和感なく読んでいけます。
発明部分や法律部分など、SF作品のキモとなるあたりはだいたいそういった感じで、旧訳版の方が「知識の少ないズブの素人読者」にも優しい文章になっていると感じました。
弁護士に対して「情報の秘匿特権を行使できるだろうか?」と訊く場面なども、私の拙い脳ミソでは(?_?)です。
ここは旧訳版だと「ぼくは秘密交通権プリヴイレジド・コミュニケーション(弁護士と依頼人の間の秘密に相談する権利、警察もこれには干渉できない)を行使したいが、いけないだろうか?」となっており、非常に親切設計です。
他にも「少女団」と書いて「ブラウニー」とフリガナをふってあるのも、これがガール・スカウトの年少部門のことだと、日本人のどれだけが知っているでしょう?(旧版では普通にガール・スカウトになっている)
さらに、

滑走道路 → 動路
集団騒擾罪 → バラッキング
ゾンビー組織の秘密勧誘員 → ゾンビ・リクルーター
(省略) → サブフレックス・ファサータス

旧版:嘘をつくと地獄へ陥ちるぞといってやった。
新訳:占い師がお巡りにどんなことを言ったか教えてやった。

なども、旧訳版の方が断然判りやすい翻訳だと思います。


逆に新訳版でようやく意味が判った部分としては、2000年にやって来たダンが、単語の意味が変わっていて戸惑う場面。

旧版:例えば主人ホストという言葉だ。これはオーバーをとってくれて部屋へかけてくれる男のことで、出生率とは何の関係もなかったのだ。

出生率?? なんのことやらと思っていたのですが、

新訳:たとえば“代理ホスト”――その昔“主人役ホスト”とは、コートを脱がせてくれ、寝室に置いてくれる人間を意味していた。出生率とはなんの関係もない言葉だった。

と、たった一単語が加わるだけで、「ああ代理出産(もしくはその機能を持つ技術)のことか!」と想像がつくようになっていました。
他には冷凍場サンクチュアリという言葉が安息所サンクチュアリになっていたのも、なんだか柔らかい感じがして良いですね。

他に新訳版でニヤリと出来たところといえば、旧版の感想でピート(猫)の鳴き声のバリエーションが素晴らしいと書きましたが、その鳴き声にも意味があったことがよく判る点。
たとえばジンジャーエールをねだる時の「モーアー!」と言う鳴き声には「もっと(たぶん more )」というフリガナが振られています。他にも「ナーオウ!」には「いーまあ(おそらく Now )」、「ウェアールル?」には「どこにいたんだよ?( Where were you? かな)」というカッコ書きが。
こういう細かい言葉遊びは、やはりその作品が書かれた言語圏でないと、なかなか理解しにくいですよねえ……(しみじみ)


―― と、まあそういった具合で。
新旧ともに、どちらにも長所と短所があるという感じでした。
理想はやっぱり、両方読むことでしょう(笑)

まあそれは冗談として、
翻訳ものの硬い文章が苦にならず、より内容を深く理解したい人には旧訳がオススメ。
技術的な点や想像された未来像の描写などの細かいところはさらりと読み流し、気軽に人間ドラマを楽しみたい人には新訳版がオススメ、といったところでしょうか。


最後に。
私はこの作品に「巌窟王的復讐もののテイストがある」という情報を見つけて読むことを決めたのですが。しかし主人公のダンは、けしてモンテ・クリスト伯にはならないのです。
恋人と親友に裏切られ、一時は復讐を願っても、彼はけっして人を信じることをやめようとしない。

「何度火傷しようと、ひとを信用しなければならないときがあるのだ。そうしなければ、洞窟の隠者になって片目を開けたまま眠るはめになる。安全でいる方法なんてなにもない。生きていること自体が、そもそもとても危険なことなんだ」

そう語って、彼は新たな友人となったジョンに、莫大な資産となる発明をすべて託し再度の眠りにつく。
受けた裏切りには復讐ではなく無関心を、そして信頼にはより多くの信頼を返す。
そして未来にはきっと良いものが、開いた扉の先には必ず夏が待っていると信じている。
そんな彼の、陰湿さのないある意味「技術バカ」な楽観主義が、この作品をこうまで気持ちいいものにしているのだと思いました。
No.6103 (読書)

 
 この記事へのコメント
 
paoまま  2014/08/05/12:52:45 [HOME]
こんにちは。

この記事を読んで
「あああっ、夏への扉を購入リストに入れるのを忘れとったワ」

ソッコーでとーさんにメールしときました。

そーいや先日の本は4冊とも三次の本屋さんには無くて、取り寄せになったんよ。
以前知り合いの本屋のバイトのおばちゃんが、
「paoままさんの探してる本、注文しといて上げるから」
と言ってそのまま???になった事があったので、今回はどうなんかな?と思っていたのですよ。
そしたらば、とーさんからほんの二日くらいで
「入荷の連絡アリ、受け取りに行きますむ
ってメールが来るではありませんか。
やっぱりあの時のおばちゃんは威勢だけは良かったけど、ちゃんとオーダー出してなかったんじゃね。

そして私は旧約版を読むことにしました。

今回みたいにまこっちゃんが懇切丁寧に新約と旧約の違いを教えて下さると実に有り難いデス。
翻訳モノは訳し方で全然読み味が変わってきますからね〜

今回はまこっちゃんの記事をコロコロと上がったり下りたりしながら吟味の上、旧約購入を決定。

すんごくヒットしたら新約の扉も開けちゃおかにゃー(笑)

あのさー昨日さー・・・
ちょとへこむ事を言われてしょぼくれとったんだわ。
なんかまこっちゃんのおかげで元気が出てきたような気がします。

有難うございますにゃん。
 
No.6104
 
神崎真  2014/08/05/23:49:41
ああ、あれは確か「騙王」でしたよね……<注文したのに来なかった本
実は続きが出ていて購入もしているのですが、一巻目が良い感じに終わっていたので満足してしまい、なかなか読み始められなかったりしています(苦笑)

ってか、注文後二日で入荷はいくら何でも早いですよ!?
系列店に在庫があって、回してもらったとかでしょうか……私が以前、本屋で注文後数日でブツが届いた時には「たまたまタイミングがあっただけで、こんなことはめったにありませんからね!」って、店員さんに念を押されちゃったぐらいですし。
まあ、早いに越したことはないんですけどね。今回はスムーズに行って良かったですvv

> 私は旧約版を読むことにしました
おおっ、またもやままさんにオススメを成功した♪
旧訳版は良いですよ〜〜、ちょっと文章が古くて固いですけど、そこがまた翻訳物の醍醐味というか。
特に古典物は、当時まだ一般読者がSFというジャンルに慣れていなかった分、最近のそれより翻訳が噛み砕かれていて判りやすいと思うんですよ。
でも時代ならではの誤訳や超訳もあったりして、悩ましいところです。
ほんと、翻訳って大事ですよねえ。うちの地元図書館では、館内検索機に翻訳者の名前が入力されていないので、そこらあたりをこだわって捜すのは地味に一苦労です(しみじみ)
 
No.6105
 
雪華  2014/08/06/01:13:19
こんばんわ、アルジャーノンも夏扉も読んでいないダメダメな猫好きの雪華です(苦笑)。
あれ? アルジャーノンは薬で天才にされてしまったネズミでしたっけ??

ううむ。面白そうではあるのですが、翻訳物って地味に苦手なんですよねぇ。
某魔法少年も作家さんとの生活習慣の違いからくる違和感がどうにも拭えず、途中でリタイアしました(苦笑)。・・・・・・・・・ビーンズの説明はそんなに詳細じゃなくてもいいと思うんだ(遠い目)。
荻原規子女史や角野栄子女史のような日本人が書いたファンタジーが一番馴染むと再確認してしまったのが少々切なかったです。
ミステリーも有栖川有栖氏や森博嗣氏が馴染むのは、無意識に出てくるちょっとした仕草や習慣がすんなり頭に入ってくるからなのでしょうねぇ。


ところで、話はころっと変わりまして、復讐物がお好きとのこと。
そこで、あえて最近読んだ復讐物で一番ドン引きしたものを捧げます(苦笑)。

「TSして、悪堕ち?したお話」(ノクターン)

内容は・・・・・・『ノクターン』で察して頂けると幸いです。
復讐内容にドン引きしました(乾笑)。
ご興味がお有りでしたらどぞ〜〜。
 
No.6108
 
神崎真  2014/08/06/22:09:16
こんばんは〜。
おや雪華さんも猫好き仲間ですかvv
私は知りあい宅の子をたまーに撫でさせてもらうだけのモドキですが、それでも猫には癒されるタチですし、鳴き声とかも耳の奥に浮かぶ程度にはイメージできます。

「アルジャーノンに花束を」は、実験で天才にされたネズミと知的障害者の主人公が、再び元の状態に戻って行くまでの過程を、主人公の日記形式で書いた話だったと思います。
最初はつたなかった日記の文章が、だんだん理知的になっていって、それからまた少しずつつたないものに変化していく、その翻訳の妙に感心した記憶が。

> 生活習慣の違いからくる違和感
うん、それはよく判ります。
実際私も、最近の翻訳物はあんまり得意じゃないんですよ。それこそ生活習慣とかちょっとした思想の違いとかで、いっきに冷めることもあったりとかして。
その点、これぐらい古典ものになると、あまりにもすべてが違いすぎて「当時のむこうはこういう文化風俗を持ってたんだあ」という感じで、一種の資料っぽい楽しさがあるんですよね。
ホームズものとかレンズマンシリーズとかが好きなのも、多分そういった部分が琴線に触れたんだと思います(苦笑)

そして、あー……ドン引く復讐ものですか……(汗)
私が好きな復讐ものは、勧善懲悪で爽快感のある、御都合主義的なやつなんですよ。主役が正義の復讐を果たしたあとは、明るい気持ちで未来に旅立っていくようなタイプ。
悪役はひたすら悪く、主役がその手を汚すまでもなく、むしろちょっと誘導してやるだけで自滅していくような、そんな感じのですね。
なので、ノクターン掲載かつ復讐内容にドン引きとか聞くと、ちょっと怖くて手が出せませんです(−ー;)
いままでいろいろ読んできましたけど、やっぱり巌窟王と雪之丞変化に勝る作品は、なかなか見つからないですねえ……
 
No.6109
 
arowana  2015/09/17/23:22:56
初めまして。
新訳のサブフレックス ファサータスの意味がわからなくて検索したらこちらにたどり着きました(結局どういう意味なのでしょう…)。
私も旧訳の読後、新訳も気になって続けて読んでみたので、思わずコメントしています。
新訳のピートの鳴き声、良かったです^ ^どちらかというと旧訳の方が纏まりがよく、用語の古さも実は書かれた時代の雰囲気に合っているような印象で一気に読めたように感じましたが、別の訳で読み返すという楽しみ方は小さな発見が沢山あって二度美味しいですね。
ボリスヴィアンの「うたかたの日々」も別の訳の「日々の泡」と雰囲気が大分異なって読み比べると面白かったです。
それでは
 
No.7104
 
神崎真  2015/09/18/18:51:39
こんばんは、arowana さま。
はじめまして。ようこそいらっしゃいませ!

ああ、同じ本を違う翻訳で楽しむことを理解してくださる同志がいらっしゃったvv
図書館の職員さんにさえ、なかなか理解していただけないのが、この翻訳者へのこだわり。
「大正時代の三上於菟吉のモンテ・クリスト伯が読みたい」と取り寄せを頼んでいるのに、「モンテ・クリスト伯なら(現代語訳が)ありますよ」と応える図書館の方、判ってない、判ってないんだよぅぅぅううう!!

……失礼いたしました(こほん)
古典と呼ばれるようなジャンルに関しては特に、用語の古さが雰囲気を出してくれる昔の翻訳のほうが、時に味わい深く楽しめると思います。
でも新しい訳は新しい訳で、当時は削られてしまった場面が戻されていたり、今の感覚で判りやすい文章になっていたりと、こちらもおもしろく。まさに一粒で二度美味しい、ですvv
特にこの「夏への扉」の新訳は、ピートの鳴き声の意味を知ることができただけでも、充分読んだ価値がありました。

> サブフレックス ファサータス

これは、私も意味が判らなくていろいろ検索してみたのですが、やはり見つけることができませんでした。
本当に、どういう意味なんでしょうね……英語が堪能などなたか、解説して下さらないものでしょうか。

> ボリスヴィアンの「うたかたの日々」

恥ずかしながら読んだことがないのですが、どうやら文章表現が特徴的なお話のようですね。それこそ翻訳者の手腕が試されそうな。
私の個人的お薦めは、シャーロック・ホームズの明治大正期の翻案作品群です。
古きヴィクトリア朝のロンドンが文明開化時の東京に、ホームズさんが保科さんや保村さんになっていたりと、時代を感じさせる楽しい超訳が目白押しですよ(笑)

コメント書き込み、ありがとうございました。
 
No.7106

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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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