よしなしことを、日々徒然に……
※ 2018年以降の記事は、別ブログの方へUPしています ※
新しいブログへは こちら からどうぞ。



 2014年06月30日の読書
2014年06月30日(Mon) 
本日の初読図書:
448848705X背表紙は歌う (創元推理文庫)
大崎 梢
東京創元社 2013-07-27

by G-Tools
出版社明林書房の営業マン、ひつじくんこと井辻智紀は、大手取次会社を訪れた。取次とは出版社と書店、いわば小売店との間を繋ぐ問屋である。いつもの通り今月の新刊を渡して帰ろうとしたのだが、そんな彼を呼び止める男がいた。その男は名乗りもせず、井辻の名前すら聞こうとせず、底意地の悪い笑みを浮かべながら一方的に辛辣な言葉を投げつけてくる。「明林、このところさっぱり話題作を出してないしな。売れない本、ちまちま作ってんじゃねーよ」と。あまりの暴言に、井辻はただ呆然とするばかりで……「ビターな挑戦者」
名の売れ始めた新人作家 白瀬みずきが、書店まわりをすることになった。いくつかの書店に直接足を運び、挨拶をしたり在庫にサインしたりするプロモーションだ。彼女は長いことこういった活動を好まず、プロフィールもほとんど明かしていなかったのだが、新刊を出すにあたってようやく、ファンではなく書店員に会うのならばと引き受けてくれたらしい。今回の新刊は自伝的要素の強いもので、高校を舞台にした物語。その内容はかなりダークかつダーティだった。これまで顔出しを好まなかったのも、もしもファンと称する高校時代の知り合いになど会う事があったなら、精神的に大きなショックを受けるからだという話だった。ところが書店まわりの数日前になって、訪れる予定の店で井辻に話しかけてきた店員は、白瀬の高校時代の友人だと名乗った。彼、青池は白瀬のファンなのだと告げ、おめでとうを言いたいとにこやかに話すのだが……「新刊ナイト」
四十代半ばにしてベテラン営業ウーマン久保田に、井辻は相談を持ちかけられた。現在、やはり他社の営業である真柴が北陸へ出張に行っているのだが、彼に連絡をとってほしいのだと。なんでも彼女は十年ほど前に新潟にあるシマダ書店の店長と結婚していたのだが、夫の浮気のため四年で離婚し、東京に戻ってきたという。ところが最近になって、関係者のブログを見ることがあり、シマダ書店で何かしらトラブルが起きているようだと知った。だが詳しいことは判らないので、真柴に事情を探ってきて欲しいと頼みたがっていて……「背表紙は歌う」
日本有数の文学賞「東々征治郎賞」のノミネートが発表された。明林書房の作品も候補作に入っており、他のやはりノミネートされた出版社の営業達とも、いったいどこが受賞されるのかと、おおいに話が盛り上がる。受賞作発表までは、書店などでも大々的に候補作を取り上げキャンペーンを行ったりと、この時期、業界は華やかに活気づく。ところがどこからか「受賞作はすでに決まっている」という噂が流れ始めた。事実無根の話だが、出来レースなどという話が広まってしまえば、企画を盛り上げようという業界の意欲も失われてしまうし、なによりも出版社や作者に悪い印象がつきまとうことになる。この作品が受賞すると噂で名指しされた乙川出版の作家 夢田都は、ナーバスになりノミネートを辞退すると言い出した。井辻ら各社の営業マン達は、噂の出所を探るため、力を合わせて立ち上がる……「君とぼくの待機会」
明林書房から出る新刊に、推薦文を付けてほしいとあちこちの書店員に打診をしたのだが、どうも各社からの出版ラッシュもあってなかなか色好い返事をもらえない。せめて読むだけでもとゲラ(原稿)を押し付けるように置いていく日々が続いていたのだが、ある日ようやく一人の書店員から推薦文をもらうことができた。その文章自体はとても良いもので。しかし封筒には謎の文書が同封されていた。「なぞなぞを出します。」から始まる不思議なその文書は、実はよく似たものが新刊のゲラにも書かれている。ただ新刊の中では謎掛けが会話のついでに挿入されているだけで、答えは最後まで明かされていない。どうやら推薦文を書いた書店員は、そのなぞなぞの答えを解き、そして謎をかけ返したようだった。明林書房の中では皆が両者の答えは何かと首を傾げるが、気が付くとその謎解きゲームは、ゲラを渡してあった書店員達の間にも広まっていって……「プロモーション・クイズ」

平台がおまちかね」に続く井辻智紀の業務日誌シリーズ第二弾。
今回も日常に潜む謎解きで、ドロドロとした悪意などは感じられず、ふんわかと気軽に読めます。
……出版界は現在非常に厳しいそうで、確かにこのお話の中でも本屋さんが閉店したり、出版社が倒産したりといったことが幾度も語られます。
それでも彼らはへこたれない。出版社や業種(作家や編集や営業や取次や書店員など)の枠を超えて、力を合わせて前向きに、生き生きとアクティブに日々を過ごしています。
たとえライバル出版社の作品でも、面白いものは面白いと評価し、出版前のゲラを読んではああだこうだと意見を交わす。その根底にあるのは、みんな本が好きなのだという、その思い。
もちろんこれはフィクションであって、現実には業界の全員がそんなに純粋ではないのでしょう。
でも、そんなことは良いんです。こんな世界があったら良い。この仲間に自分も入れたら、きっととっても楽しそう。そんなふうに思えて、ほっこりできるのがこの作品のいいところだと思うのです。

今回、一話目の「ビターな挑戦者」は特に出版業界の厳しさが語られていました。
本が売れない。売れないから少ない部数を刷り、代わりにより多くの多種多様な本を出版する。その結果、書店には毎日新しい書籍が送られ、棚に並べられ、わずか数日で箱に詰めて返品される。書店側はその対応に追われ仕事が増えるばかり。入荷してくる本を検品し、内容を把握することすら追いつかず、押し寄せる本の洪水に飲み込まれ、押し流されて潰れてゆく ――

実際、小説・マンガ好きを自称するエンドユーザーの私ですが、最近どんどん乱立するニューレーベルの多さには、まったくついていけない今日この頃。初めて見る作者さんに、聞いたこともない出版社。二三冊読んでようやく傾向を把握したかと思えば、あっという間に消えてゆく作家・レーベルも数多く。
ましてやそれが雑誌や実用書など、すべての書籍に及んだら、いったい毎日どれだけの本が出版されているのでしょう?
ここらへんの地方には、県庁所在地にあるチェーンの大型書店にすら入荷しない本だって、山ほどあるのです。

オンライン小説から青田買いされ、ろくな校正もされないまま適当なイラストを付けて出版。結果あんまり売れなかったから、続きは出さないで放り出し。WEB版は削除かダイジェスト化されて、結果的に世から消滅という作品がどれほどあるかと思うと、本当にもう……TT

そんなこんなを考えると、取次の毒舌男・デビル大越の台詞は、実に深いです。
……っていうか、僭越ながらわたくし、彼の言動を読んでいて、どうにもこう拙作の某口の悪い不良騎士を思い出してしまって(苦笑)

それだけに、一話目ラストで井辻君がまっこうから大越さんを受けて立ち、真っ直ぐ目を見て答えてくれたことが、本当に嬉しかったのです。
ああ、井辻くんも大越さんも、本当にこういう人が出版業界にいてくれたら良いなあ! と心から思いました。

他の話もばっちり面白かったです。
最後の「プロモーション・クイズ」は、どうやら別シリーズ「成風堂書店事件メモ」とやらと微妙にリンクしているようで。
あああ、また読みたい本リストが増えてゆく……っっ
No.5964 (読書)

 
 この記事へのコメント
 
paoまま  2014/07/01/19:35:42 [HOME]
元本屋さん勤務として思いっきり食いついてしまいました。
ほーほー、うんうん。
またまこっちゃん面白そうな本を出して来ますねー
まこっちゃんに誘惑されて本屋さんへ駆け付けていた日にゃあ、お財布が悲鳴を上げそうです(笑)

大手取次会社ねぇ、ここいらで言うところの「トーハン」さんだね。
出版社の人も色んな人がいたなぁ・・・
しょーがない、この本もお買いもの待機リストに加えますか。

カバーのかけ方の動画をしっかり見てしまいました。
なーんかなつかしい匂いがしますぞよ。
こんなちまちました作業、結構好きだったりします。

洋書っぽいBOOKカバーは良い感じですね。
こんなのがズラっと並んでいたら、まるで古い英国の邸宅のようです。
お約束の書斎には貴重な初版本も何冊かありそうです。

おサレやわー
 
No.5966
 
神崎真  2014/07/01/21:37:42
こんばんわ〜、ままさん。
今回のこのシリーズは、図書館で通りすがりに目が止まったのです。
「平台」とか「背表紙」とかタイトルに書かれていたら、そりゃあ本好きは思わず手を伸ばしてしまいますよねえ?
読んでみたら、今まで未知だった出版業界の裏事情とか描かれていて、期待に違わぬ面白さvv
ユーザーレビューを読んでみると、やはり書店員さんとか出版業界の人に受けているみたいです。ままさんもそのお一人になるの、でしょうか(ふふふ)

> カバーのかけ方
ままさんはこのやり方、ご存知でしたか?
私は今回たまたまブックカバー配布サイトで紹介されているのを見るまで、まったく知りませんでした。
うちのまわりの本屋さんでかけてくれる場合は、だいたい折り返した両脇の袋状の部分に表紙を差し込む方法。もっと手軽なのになると、本の背丈に合わせて切ってある横長の紙を、ぐるっと回し掛けるだけのタイプも数多く。
そういうのに比べると、表紙がしっかり書籍本体にフィットしてくれるこのやり方は、なかなか見た目も美しくてオススメですvv

そして洋書風のこのカバーは、本当に良いですよ〜〜。
実に味わい深いです。できればこのサイトさんにはもっともっとこういうファイルを作成して欲しいです。
ああ、自分に絵心とデザインセンスがあったなら、自分で作るのになあ……表紙が逆じゃないやつを(笑)<洋書デザインだから表紙が裏に来ている(^ー^;;)
 
No.5967

 この記事へのコメントは以下のフォームからどうぞ
Name
E-Mail
URL
感想
2560文字まで

Pass

 
 この記事のトラックバックURL
https://plant.mints.ne.jp/sfs6_diary/sfs6_diary_tb.cgi/201406305964


No. PASS

<< 2014年06月 >>
Sun Mon Tue Wed Thr Fri Sat
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

サーチ :


 最新の記事
 2014年06月30日の読書

 リンク
 神崎へメール
 私立杜守図書館
 蔵書リスト

 

   

 ブログ内記事検索:
 
 AND OR  


Back to Home...

[管理用] [TOP]
shiromuku(fs6)DIARY version 2.41