2011年12月16日の読書
2011年12月16日(Fri)
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本日の初読図書: 淀君こそ理想の女性だと信じる古風な青年、雑誌編集者の池田誠之助は、1957年9月16日に取材で大阪城を訪れた。城内を散策しつつ三百五十年前に思いを馳せ石垣に寄りかかると、石がはずれて人ひとり通り抜けられそうな通路を見つける。これはたいした発見だと中に入り、暗い通路をくぐり抜けて出た先は、なんと慶長十九年九月十六日だった。そこは世に言う「大阪冬の陣」開始直前の、大阪城奥御殿だったのである。 誠之助は背広姿の異様さから、切支丹の曲者と断罪されそうになったところを口先でどうにか丸め込み、自分はかのフランシスコ・ザビエルの孫、シメオン・池田誠之助英包だと名乗った。そうして現代から持ち込んだ歴史ムック本の知識を頼りに『預言』を行い、デウスの使者シメオンとして城内に居場所を作ってゆく。 どうにかして積年の理想の女性、淀君に一目拝謁したい。そして半年後に迫っている落城から、彼女の命を救いたい。そう願う誠之助だったが……
大阪冬の陣が三百五十年前。つまり今から五十年以上前の、昭和三十二年に書かれたタイムスリップものです。 主役のシメオンこと誠之助は、 1957 年の段階で「三十年前なら立派なスター面」と称される、時代遅れの顔立ちをした若者。そんな彼が過去にタイムスリップしたものだから、絶世の美男子扱いで周囲からモテまくりです。入れ替わり立ち替わり、夜毎に異なる女性が寝所に忍んでくる。それってなんてハーレム?的展開。歴史ムック本が虎の巻とか、オルゴールつきライターで預言の神秘性を演出とか、それこそ昨今のオンライン小説で見るような設定は、まさに時代の先取りというべきか。 ……よもやこの作者さんも、五十年以上たってから、タイムスリップや異世界トリップものがここまで流行るとは思いもしなかったことでしょう(苦笑) とはいえ話の内容は、期待していたものとは方向性が微妙に違ったというか……ぶっちゃけ誠之助さん、なんもしてません。チートや歴史改変要素はまったくなし。そもそも誠之助さん自身が淀君以外に執着がない。ひたすら女性といちゃいちゃしつつ、戦の様子を眺めているだけ。 たまにする預言も、それで未来が変えられるような内容ではなく。さらにごくごくたまに未来を変えようとがんばってみるも、ことごとくタイミングを外してしまい、歴史は歴史の通り変わらず進んでいきます。 ぶっちゃけタイムスリップものというより、普通の時代小説といった色合いが濃い作品でした。 出てくる武将達も、私の知識が少ないせいもあるのでしょうが、ほとんど知らない人達ばかりで正直よく判らず。おそらく書かれた当時は講談などで、読者の方にもっと基礎知識があったんだろうなあと自己弁護してみたり。
話の展開としては、とにかく誠之助さんの感情の振れ幅が少ないんですよね……タイムスリップをすぐに受け入れ、元の時代に帰りたいとも願わず、家族を恋しく思うでなく、戦争に対する恐怖感もまるで持たなければ、昔の生活に不便さを感じもせず。そのくせ淀君にだけは執着しまくり。戦の真っ最中に、寝所に招かれ有頂天。なんだかなあと言う感じです。 ……まあどんなジャンルも、「はしり」というのはこんなものでしょうかね? もっともラストは割と意表を突かれた感じです。こう来るとは思ってませんでした。 まとめて言えば、煩雑な歴史部分をさらっと流しちゃえば、楽しく読める話だと思います。あんまり違和感がなさすぎて、五十年以上前に書かれたのだということをすっかり忘れて読んじゃうぐらいには面白かったです。
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No.3521
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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