よしなしことを、日々徒然に……
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 NARUTO 二次創作
2008年06月04日(Wed) 
ちょっとこのところいろいろあったので、リハビリ代わりに。
別記事でも書いてますが、私はアニメも見てなければ単行本も持っていない。古本屋でコミックス立ち読みしただけのにわかファンですので、いろいろ間違ってたら御免なさいです(−_−;)

→の「全文を表示」からどうぞ。

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 ―― 大手裏剣が繰り出された、あの一瞬。
 あと一歩、わずかでも早く踏み込めていたならば。


 ◆  ◇  ◆


「……んせっ、イルカ先生ってばよ!」
 耳元で張りあげられる、聞き慣れた威勢の良い声に、ふとどこかへと行っていた意識が、身の内に戻ってきたのを感じた。
「こら、口ん中にモノ入れてしゃべるんじゃない」
 一楽のカウンターで、既に幾度くり返したかも定かではない言葉を口にする。
 念願叶ってようやく下忍となったばかりの少年は、そんな注意を気に止める様子もなく。へへっといつものような笑顔を浮かべ、ドンブリを持ち上げる。
 今日はこんなことがあった。Dランク任務の草むしりで、サクラちゃんは爪が痛むとこぼしていた。サスケはいつも生意気で、カカシ先生は今日も手伝いもせず、木陰でイチャパラを読んでいた。
 そんな代わりばえのしない話を、けれどいつも、とても楽しそうに口にしている。
 オレはそれに笑いながらうなずいては、同じカウンターに席を並べ、ラーメンを啜る。

 ―― まるで親子か兄弟のようだ、と。

 ある程度親しくなった人々は、オレ達の姿をそんなふうに評した。

 ―― 気が知れない、と。

 親しくもない人々は、影でそんなふうに吐き捨てる。

 腹に九尾の狐を宿した子供。
 里に災厄を引き起こし、多くの命を奪っていった、憎んでも憎み足りない忌むべき化け物。
 彼らはヤツとナルトを同一視し、幼いこの少年へと容赦ない憎しみを叩きつける。

 火影様の命をはばかって、それは目に見えるあからさまなものでこそない。
 だが、それ故にこそかえって陰に籠もった、よりむごたらしい結果となっていることを、オレは知っている。

 ナルトの身体は、異常に傷の治りが早い。
 それこそが体内に封じられている、九尾の証拠に他ならないのだけれど。
 けれど皮肉なことに、その治癒力こそが、幾度も彼を救い ―― そして追いつめてきた。
 余人の目に映らぬ場所で、どれだけ里人達にいわれない暴力をふるわれようとも、ナルトの身体にその証拠は残らない。
 そして残らないが故にこそ、誰もナルトが傷ついていることに気付こうとしなかった。
 朝には無傷にしか見えない少年が、夜陰の中で幾度、殴られ、足蹴にされてきたことか。誰一人それをおもんぱかろうとはしてこなかったのだ。

 忍術アカデミーに入ってすぐのこの子は、文字通り、獣のような眼差しをしていたと記憶している。
 闇の中で暗く光る、警戒心に満ちた双眸。
 身体の両脇で握りしめられた細い両腕が、込められた力に細かく震えていた。

 あれから、数年。
 この子を取りまく環境は、けして劇的に変化したわけではないだろう。
 幾人かの友と、理解者を得こそしたものの、里人達の多くにとっては、やはりこの子は『九尾のイレモノ』でしかない。
 それなのに。
 この屈託のない笑顔は、どうだろう。
 毎日が楽しくて仕方がないのだと、全身で訴えてくる、この健やかさは。

 ―― いったい何が、この子をこうまで明るく素直に育てあげたのだろう。

 オレとナルトの関係を知る者の多くは、オレこそがそのきっかけを作ったのだろうと、そんなふうに言ってくれる。
 オレが九尾の件にこだわりを見せず、ナルトをただのナルトとして扱ってきたから、彼はあんなふうに育つことができたのだ、と。

 けれど、それは、違う。

 違うことを、オレは誰より知っている。
 だからオレは、不思議でならないのだ。
 どうしてこの少年は、こんなにも屈託ない笑顔をオレに向けてくれるのだろう、と ――


 ◆  ◇  ◆


 ナルトが、封印の書を持ち出したあの時。
 本当ならオレは、もっと早く助けに入ることができたのだ。
 ミズキが放ったクナイも、大手裏剣も、本当ならもっときちんと防御ができたのだ。
 オレだって、腐っても中忍だ。同じ中忍の、それも下忍にもなれずにいたアカデミー生を利用しなければ、巻物ひとつ持ち出せなかったあの男ごときに、遅れを取るほど落ちぶれてはいない。
 それなのに、あれほどの怪我を負ってしまった、その理由は。
 ナルトに向けられたクナイや大手裏剣をはじき返そうと、踏み出す一歩がわずかに遅れてしまった、その訳は。

 ―― 父ちゃん、母ちゃん!!

 その一瞬、脳裏をよぎったその光景は、けして初めてのものではなかった。
 狐を思わせる、黄金の髪をした少年を間近にしたとき、それは幾度だって思い出された情景だった。

 オレは、何も思っていなかったわけじゃなかった。
 こだわりなんて、いくらだって持っていた。

 ただそれを、表立って見せることを、よしとせずにいただけだったのだ。
 ナルトと九尾は違う存在だから。
 ナルトはあくまで九尾を封じてくれている器で、むしろ英雄と呼ばれてさえ良いはずの存在なのだから。
 だから、彼に憎しみを向けるなど間違っているのだから。
 だから、オレは。

 わずかに遅れた、その一瞬。
 刹那の差が、攻撃をはじき返す余裕を奪っていた。
 できたのはただ、この身でそれを受けるばかり。

 それでもどうにか、急所は避けた。
 そうして変化の術でミズキをたばかり、ナルトはナルトなのだと、けして九尾ではないのだと、そう主張して時間を稼ぎ。
 最終的に怒りに燃えた少年は、見事に禁術をものにし、ミズキをうち倒した。

 それは、オレの狡さを見抜けなかった、ただただ純真な少年の、努力の賜物だ。

 オレが、ナルトに何かをしてやれた結果ではない。


 ◆  ◇  ◆


「……とことん真面目な人ですねえ、アナタは」
 あれは、いつの折りだったろう。
 やはり任務帰りのナルト達と一楽にくり出した、その流れであの銀髪の上忍師と呑みに行った時だっただろうか。
 見た目の怪しさ ―― なにしろ口布と額当てのおかげで、右目しかまともに見えていない ―― とは裏腹に、案外気さくで話しやすい相手に、ずいぶんと酒量を過ごしてしまった記憶がある。
 気が付いてみれば、はるか格上の上忍を相手に、くどくどと詮無いことを呟いていた。
 そうして告げられたのが、その言葉だった。
「アナタがナルトに対して、こだわりを抱いていた。……良いんじゃないですか、別に。というか、当たり前でしょう、そんなの」
 相変わらず、口布を外しているようには見えないのに、何故か減っているコップ酒を片手に、カカシ先生はあっさりそう呟いたのだ。
「アナタの両親は、九尾に殺されたんでしたよね。その九尾がナルトの腹ん中にいるんですもの。そりゃあ、憎しみの一つや二つ、感じてたって当然です」
「そ、そんな言い、か……たッ!」
 既によく回らなくなっていた呂律のまま、がしゃりと卓を叩いたオレを、青い隻眼がなだめるように見つめ返す。
「……問題は、それを表に出すか、出さないかでしょ。ナルトと九尾が別物だと、理性でちゃんと判断して、アナタはそれをずっと心の中に留めてきた。少なくとも、ナルトの前では完璧に押さえ込んでいた」
 あの年頃の子供は敏感ですからね。生半可なやり方じゃあ、あっという間に見抜かれちまいますよ、と。
 わずかに見える右目と眉は、穏やかなカーブを描いていて。どこか、笑っているようにも見えた。
「それにね……俺は完璧な善人なんて、存在しないと思ってます。だって嘘臭いでしょ。誰も憎まず、恨まず、己の敵さえも許し愛すなんて ―― そんなの絶対ありえないっしょ。だから、ね……」

 ―― 憎んで悩んで迷いながら、それでもアイツを包み込んで守り続けてきた、そんなアナタを、俺はいっとう尊敬してますよ ――

 そんな最後の言葉は、あるいは過ごしすぎた酒の上での、幻聴だったのかもしれず。


 ◆  ◇  ◆


 背中に残る傷跡は、今でも時おり、身じろぎのはずみに引きつることがある。
 あの、一瞬。
 あともう一歩でも、早く踏み込めていたならば、と。
 悔やむ気持ちは今でも消えず、心の底にわだかまっている。

 けれど。
 それでもオレは、今日もナルトと共に、一楽でラーメンを啜る。
 カウンターに席を並べ、親子か兄弟のようだと周囲にからかわれながら。

 時にはスリーマンセルの仲間達や、その上忍師も列に加えて。
 代わりばえのない今日の出来事を聞かされながら、皆で屈託なく笑うのだろう。

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……個人的に、イルカ先生は中忍の中でもそこそこ強い方であって欲しいという、願望の一作。
そのつまり、ミズキにあっさりやられちゃった理由を追及していったら、こうなったというか……でも絶対いろいろ葛藤あったと思うんですよね、ナルトに対して。それはもう簡単にのりこえられるようなものじゃないんじゃないかと。
悩んで憎んで呪って、自己嫌悪の沼にはまって。
それでも前を向ける。未来を作ろうと努力できる。
そんな人が、私は大好きです。
No.1955 (創作)

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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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