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縁側に広げられた今回の品揃えは、またなかなか興味をそそられる物ばかりだった。 ひとつひとつを手に取り、向かいに座った蟲師から、その来歴を逐一聞いてゆく。余計な修飾のほとんどない、淡々とした言葉で語られるその物語。珍かな品を持ち込んでくる人間は彼の他にも幾人かいたけれど、いかにもこちらの興味をそそろうと、大仰なまでに抑揚をつけて語られる彼らの物語よりも、この蟲師の淡々とした語り口の方がよほど心を引きつけるのだから皮肉なものである。 降り注ぐ陽差しに、その白い髪が眩しいほどに光っている。山深くに存在する淵を思わせる濃い碧の瞳も、今は陽差しを映りこませ、明るく輝いている。
「 ―― と、いうわけでね。報酬としてこいつをもらったってことさ」
そう言って蟲師は、七色の光を封じ込めた、水晶のような欠片を手のひらで転がしてみせる。
「どれ、ちょっと見せてみろ」
ちょいちょいと指で招けば、ほれとつまんだ指先が突き出される。 手のひらで受けると、指先が一瞬、かすめるように触れた。乾いてささくれた、けれど温かな、生き物の持つ柔らかさを宿すその感触。
―― 不思議なものだ、と。
そう思った。 なにが不思議だといって、この男をこうして客として迎え、当たり前のように会話しているそのことが不思議だ。
(……蟲師の、ギンコと申します)
そう言って暗い土間から見上げてきたこの男に、自分が最初に抱いた感情は。 それは紛れもなく、激しい不快感と怒りだったと言うのに ――
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No.685
(創作)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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