研究材料をろくな性能アップもさせずに、と。
あの日ブラックファントムのコックピットで、イワンを抱いたプロフェッサー・ガモは、そう言って儂をなじった。
それは科学者として、まともな行動ではない。お前は研究対象としての価値ある存在に対し、ふさわしいだけの愛情を注いでいないではないか、と。
儂はその言葉に対し、そんなものは愛情ではないと返答した。
儂はもはや、彼らを研究材料として見ることなどできない。
そうだ。サイボーグとして改造されたことで、悩み、苦しんできた彼らに、どうしてこれ以上の改造を施せるというのか。
―― だが、
一度は否定したにもかかわらず、あの時のガモの言葉は、その後も儂の脳裏に、根深くこびりつき続けていた。
* * *
儂は、ゼロゼロナンバー達を改造することで、重い罪を背負った。
科学者としての欲望にとらわれ、償いきることなどできない罪を、この手で犯したのだ。
それ故に儂は、彼らに対してできるだけのことをしなければならなかった。たとえそれがこの命と代えるようなことになったとしても、儂が彼らの為にしてやれることであるのならば、どんなことでもしよう。そう、心に決めていた。
そうして彼らと共にブラックゴーストの手を逃れ、闘いと逃亡の日々を送り
――
いつしか彼らは、こんな儂に対しても、愛情のようなものを抱いてくれるようになっていた。それはけして、儂の思いあがりや勘違いなどではないはずだ。
そして、だからこそいっそうに、儂は己の罪深さを自覚する。
彼らに対して償いようのない大罪を犯したこの儂が、その罪ゆえに、愛しいとさえ思える存在を得て……幸せとさえ呼べる日々を送っている。
それが罪でなくて、いったいなんだと表現すれば良いのか。
……儂は、彼らにこれ以上の苦しみを与えたはくない。
そしてまた同時に、これ以上の罪を犯したくもない。
ガモの言うように、彼らをこれ以上パワーアップさせ、さらなる改造を施すことなど、断じてできるような所行ではなかった。
しかし……
それもまた、儂のエゴなのだろうか。
これ以上の罪を犯したくはない。
そうやって己の良心を言い訳とすることで、儂は救えるかもしれない
生命を、目の前で見殺しにする結果になるのではないか。
ブラックゴーストの復活が予測され、新たな闘いが始まろうとしている、
現在
――
現れる敵は、強大な力を持っていることだろう。
試作品サイボーグである彼らの能力だけでは、いつかきっと、取り返しのつかない事態が起こるに違いない。
その時になって、儂は後悔しないと言えるのか?
この手を持ってすれば新たな力を与えられると判っていて、みすみすかなわぬだろう敵に向かってゆく彼らを、ただ見送ることができるのか?
己が罪を重ねることを怖れるばかりに、彼らの命が……かけがえのない命が喪われていくことを、黙って見ていることができるのか?
科学者である儂のこの手は、ただメスを握ることしかできない。
儂ができることは、ただ、それだけしかないのだ。
―― きみ達は、儂を呪うだろうか。
この身の内に変わらず存在する、科学者としての欲望。
新たな機能を設計し、作り上げ、それが実際に動くその様を見たいと渇望する、このあさましい想い。
儂の選択は、確かにそれらをもまた、原動力としているのだから。
儂は、怖い。
再び犯そうとする、その罪が。
そして惜しむ。
失うかもしれない、彼らからの信頼を。
この道を選べば、もはや彼らは二度と、儂に笑いかけてくれぬかもしれぬな。
だが、それでも儂は……儂、は……
* * *
―― 怖れるべきは、再びの罪。
しかし罪とは、果たしてなにをもって、罪と為すのか。
一度目の罪は、この手で彼らに死をもたらしたこと。
科学者としての欲望と奢りに瞳をふさがれ、咎なき者達の生を踏みにじり、命を……未来を奪い去ったこと。
そして二度目に犯そうとしている、その罪は……
再び彼らを改造し、科学者として新たな研究成果を、現実のものとすることか。
あるいは自らの手を汚すことを怖れ、彼らに訪れようとしている二度目の死に、気づかぬふりをし続けることか。
儂は、選ばねばなるまい。
己が進むべき、その道を。
たとえどちらの道を選んだとしても、この背に負う、さらなる罪の重さに違いはないとしても
――
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