ガラスの瞳に映る影
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2002/6/2 16:26)
神崎 真


「 ―― 後味の悪い、事件だったな」
 夕陽に赤く染まる、ドルフィン号の甲板上。
 つい先刻まで人工とはいえひとつの島があった海面を眺めながら。
 気がついた時には、ふとそんな言葉を呟いていた。
 いま水平線には、立ちのぼる噴煙だけがその姿を見せている。
 確かにそこに存在していたはずの小島は、もはやその存在そのものさえもが、この世の中から消え去っていて。
 009の話によれば、科学者達の支配下から脱した巨人やゾンビ共が、科学者達を殺し、研究施設を破壊していったのだそうだ。
 逃げようと、009はそう言ったらしい。
 だが彼らは、その言葉に耳など貸そうともせず、ただひたすらに破壊へ没頭していたという。
 そうすることが、島自体の崩壊につながるのだ、と。
 あの巨人達は気がつかなかったのだろうか。
 明らかに脳改造を施され、知能に大きな影響を受けていただろう彼ら。だが単純な復讐心のみにかりたてられ、与えられた力を解き放つことで、自分達自身の命さえをも危険にさらしているのだと、本当に彼らは理解していなかったのだろうか。
 その結果として、島と共にその命を、炎の中へと沈めることになってしまったのだろうか。


 ―― ナイン


 彼らには、自分達のしていることが判っていたはずだ。
 そうすることで、自分達もまた、この世から消えてしまうのだと、判っていたに違いない。
 俺は、そう思う。
 なぜならば……


「帰ろうぜ」
 うつむいていた009の頭に手を置き、002がそう促す。
 それをきっかけにして、仲間達も次々と立ち上がり、船内に通じるハッチへと向かった。
 大騒ぎする006のマフラーを007がつかみ、無理矢理引きずってゆく。
 俺もまた、彼らの後を追い、空を汚す噴煙へと背中を向けた。


 ―― そうだ。
 もしも、この仲間達の存在がなかったならば。
 逃げ出した先で、けして安息の場所など得られはしないだろうと、判りきっていたならば。
 俺もまた、同じことをしていただろう。
 恨んでも恨みきれぬ、この身体を改造した科学者達を葬り去り、その研究データーと施設を消滅させる。
 二度と自分達と同じような犠牲者が、生み出されることなどないように。
 そうして同時に、厭わしいこの機械の身体もまた、もろともに破壊する。
 やろうと思いさえすれば、それは至極簡単なことだった。
 ただこの体内に埋め込まれた、原爆のスイッチを入れさえすれば。
 だが、俺はそうしなかった。
 俺はこの仲間達と共にBG基地を脱出し、そうして生き延びるために戦うことを選んだ。
 あの基地にいた頃の俺は、それを選ぶことができたのだ。
 だから……
 胸の内にとどこおる、この苦さは一種の後ろめたさ。
 あの巨人やゾンビ達は、あり得たかもしれない、俺達の影だ。
 俺達は、自分達自身で自分達を救った。
 だが彼らは、自分達の手で自分達に終止符を打つことを選んだ。
 ただ、それだけの違い。
 ほんの少し状況が異なれば、あそこで爆発の中に消えていたのは、俺達だったかもしれない。
 ああやって燃えているのは、黒い幽霊ブラックゴーストの基地があった、あの島だったかもしれないのだ。
 彼らは死を選び、そして俺達は生きた。
 だが俺達が死ではなく生への道を選ぶことができたのは……それは俺達の身体が、彼らのそれよりも、ほんのわずかばかりまともな見た目をしていたからではないのか。
 それは、ごくごくささいな運命の分かれ道。
 だが、その分かれ道こそが……


「 ―― どうした、004」
 ハッチに入りかけたところで、005がこちらを振り返っていた。
 見下ろしてくるその静かな眼差しに、俺は小さく笑ってかぶりを振った。
「なんでもない」
 そう言って、大きな背中を軽く押す。


 ……それでも、俺達は生きようとする意志の力を持っていた。
 自分を生かそうと願い、それ故に努力をし続けてきたのだ。
 だからこそ、俺達は今ここにいる。俺達がくぐり抜けてきたのは、その意志無くして生き延びることができたような、生やさしい戦いではなかった。
 だから ――


 俺は、最後にハッチをくぐるとその扉を閉じた。
 がちゃりと重い音が響き、外界との間を、分厚い鉄の扉が閉ざす。


 俺の目に、たなびく黒煙が映ることは、もうなかった。


(2002/6/2 17:15)


す、すいません。オチがないです(汗)
いえそのですね……怪物島のビデオを見返していたら、ラストでのハインリヒの台詞が妙に引っかかってしまって。あんたがそれを言うの? 何故? とか思っていたら、多分こんなことを考えていたんじゃないかなぁ、とかグルグルとね……
ハインリヒの肉体は、00ナンバーの中でも群を抜いて、人間ひととしてどうかと思うタイプの見た目となっています。その彼が、人間社会の中で生きていくことを選べたその理由。
もしかしたら彼こそが、もっともあの巨人やゾンビ達、あるいはミュートスサイボーグ達と近しい存在であり、そして生きることを選べなかった彼らに対して後ろめたさとか、もっと言えば「負けるな、しっかりしろ!」と怒鳴りつけたいような気持ちがあったのではないか、と……

それにしても、これはマンガで書きたかったなぁ。あるいはアニメで(←無理)
頭の中、コマ割りとかカメラワークで思い浮かんでるんですよ、この話。それを文章で表現するって、難しいです。ああ、自分に絵心があれば!

しかし……どんどんパロディの長さが短くなっていくな……(冷汗)


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