日  常
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2002/4/26 8:47)
神崎 真


「よう、アル! 久しぶりだ。ずいぶん長い旅行だったみたいだな」
「どうした、顔色が良くないぞ。具合でも悪いのか」
「そうか。しかしなぁ……そうだ、またうちに夕飯食いに来い」
「いらんだと? 変な遠慮すんな。おおかた旅行先で食い物でも合わなかったんだろ」
「いいから来いっつってんだ! 半病人みたいなツラして、訳の判らねえこと言ってんじゃねえ」


「 ―― よし、全部食ったな」
「ちったあ人心地もついただろう? ん?」
「……なぁ、アルベルトよ」
「なにがあったか知らねえが、人間、食わなきゃやってられねえんだぜ? だから、な」
「嫌なことがあったって腹は減る。それこそ、死んじまいたいって思うような時でも、飯は食いたくなるし、ションベンもしたくなる。家賃の催促はやってくるし、ガス代も水道代も容赦なく持ってかれる」
「どんなしんどい時でも、日常ってやつは待っちゃくれねえんだ」
「だから、な」
「辛いことがあったら、とにかく食え。それから寝ろ。そんで、な」
「俺の所に来い」
「 ―― いや、別に俺んとこでなくても良いんだが」
「とにかく、ひとりであんなツラしてるのはやめな」
「おまえは前向きな男なんだろ?」
「判ってるさ。誰だって落ち込む時ゃぁあるってもんだ。昨日まで前向きだった奴が、今日には首くくろうとすることだってある」
「けどな、アルよ」
「そう言うときのために、ダチってのはいるんだぜ?」
「俺が落ち込んだ時は、お前んところに酒持って行くさ」
「話なんざ聞かなくて良いんだ。ただこうやって横にいりゃいい」
「そうして呑んで、食って、仕事して、寝て。起きたらまた呑んで食って仕事して寝て」
「そうやってりゃそのうち、ちったあ楽になってるってもんよ」
「また、同じことで落ち込むこともあるだろうがな」
「先のことは先のことさ」
「とにかく、大事なのはいまだ」
「いまお前が笑っていられるかどうか」
「そうやってお前が不景気なツラしてると、見てる方が辛くなってくるんだからな」
「フン、忘れることがイヤだって顔だな」
「どうして判るかって? なにしろ俺はおっさんだからな。おまえより10年は長く生きてる分、人生の先輩ってやつだ」
「だから判るのさ。忘れられないことは、結局、どうやったって忘れられっこない。だから、無理に覚えてようとなんかしなくて良いんだってな」
「どんなに普段忘れてたって、なんかの弾みに、ふいと思い出しちまう」
「だから、な」
「どうしたって思い出しちまうようなことなら、いつもは黙って胸の奥にしまっとくもんだ」
「どうせ、思い出すときは、どうやったって思い出しちまうんだから」
「忘れていられる時は、忘れていて良いんだ」
「……人間ってやつは、な、結局そうやって生きていくもんさ」


「あん? どうした、アル」
「下向いて、気分でも悪いのか」
「アル?」
「アルベルト?」




「 ―― Danke 」
「Danke schoen , Gustav」


(2002/4/26 9:41)


……ええと。
「安息の場所」を書いていて気分が落ち込んでしまったので、思わず突発で書いてしまいました。
個人的に私、かなりグスタフさん気に入っている模様です(苦笑) いえね、ハインリヒには、こういう戦いとかサイボーグとかから離れたお友達も必要だと思うんです。
……彼らは、サイボーグとして、戦うことからは逃れられないかもしれない。でも、だからといって普通の生活からまったく隔絶されるのは、違うと思うのですよ。ましてハインリヒは、仲間達にだけ依存するような、弱い方であって欲しくないというか(いえそれもめっちゃそそられるんですが/ぐるぐる)
まあそういうわけで、グスタフさんに語っていただきました。
お兄様、あなたの幸せを、私達は心から祈っております。


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