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 子供の時間(6)
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
 
神崎 真


 暗がりに沈んだ、ドルフィン号のコックピット内。
 目の前で遠慮なく笑いものにされて、002はじょじょに不機嫌そうな顔になっていった。
 それがまたおかしく思えて、ボクはいつまでも笑いを止められない。
「いい加減にしろよ、こら!」
 わめくように言って、げしげしと乱暴に膝を揺する。上に乗せられたボクの身体は、ほとんど弾むみたいに上下した。
 大人げないその仕草に、ボクはきゃっきゃと声を上げる。
「おい。はしゃいでんじゃねえぞ」
 オレは嫌味でやってんだぜ?
 ふてくされる002に、いたずらっぽい口調で言葉を返した。
“良イジャナイカ。ボクハ子供ナンダカラ”
 と、002の眉が片方上がる。
「よく言うぜ。オレと一緒になって、みんなをそそのかして回った奴がよ」
“ソウサ。キミトボクトデ仲間ヲツノッタオカゲデ、コンナニタクサンノ頼レル仲間達ヲ得ルコトガデキタ”
 ―― 辛抱強く説得を重ね、けして焦らず、慎重に進めた脱出計画。
 その甲斐あって、ボク達はこうして追われこそするものの、かつてとは比べものにならない自由を得ることができた。
 途中で幾度もあきらめかけた。
 長く困難な道のりに、何度もくじけそうになった。
 それでもなんとかやり遂げることができたのは、彼がいたからこそだった。
 時にかんしゃくを起こしそうになるボクをなだめ、弱気になる003をなぐさめ。たとえどれだけ辛い目に遭おうとも、けして自棄になることなく前を見つめ続けた彼。
 そんな002がいたからこそ、ボク達の現在いまは、あるのだ。
 ―― だから、ね。
 ボクは小さく微笑んだ。おしゃぶりと前髪で隠れたその表情は、きっと002の目には映らなかっただろうけれど。
“ボクモキミモ、ミンナノ中デハモットモ年下ナンダ。ダカラモウ、無理ニ大人デイナクッタッテ、良インダヨ”
 わがままぐらい、いくらでも言えばいい。
 苛立ちをあらわにして、辛いことは辛いのだと素直に口にして。年相応にわめいたとしても、もう許されるのだから。
 もしもその行動が間違っていれば、止めてくれる年上の仲間達が、ここにはいる。
 ここは、キミが一人で生きていかざるを得なかった、幼い頃を過ごしたNYでもなく、また守ってやらなければならなかった、ジェット団の子分達の前でもなく。
 キミがその手でボクや003を守らなくても、他の誰かがちゃんと守ってくれる。
 女子供を守るのが男の義務だというのならば、キミもまた、まだたった十八才の子供なのだから。
 だから ――
“キミダッテ、判ッテイルンダロウ?”
 いつの間にか、周囲のすべてに突っかかるかのような物言いをするようになったキミ。
 感情のままに物を言い、みなに呆れられることが当たり前になって。誰もがキミをそういう人間なのだと疑わないでいる。
 けれど、キミがそんな言動を取るようになったのは……感情を抑えることをやめ、思うがままにふるまうようになったのは……
「…………」
 002の手がもち上がり、くしゃりと自分の前髪をかきまわした。そうすると、指の長い大きな手のひらが、浮かべた表情を隠してしまう。けれどボクの『目』には、すべてが余すことなく見えていた。
 やがて……手の下から、小さな呟きが洩れる。
「あいつらには、言うなよ?」

 ―― このオレが、みんなに甘えてるだなんて。

 言葉の後半は、形にならない思念によって、伝えられる。

“サテト、ドウシヨウカナ?”
 からかうように答えると、002はムッとしてボクを持ち上げた。
「んだこのっ、てめえ脅迫する気か!?」
“エ、ソンナフウニ聞コエタカイ? フゥン”
「だからその含みがあるような言い方は止めろってんだッ」
“ソレハ被害妄想ッテ言ウンジャナイノ”
「い〜や、ぜってーなんか考えてるだろ」
“……ソコマデ期待サレチャ、ナニカシナイト悪イ気ガシテクルナ”
「や〜め〜ろ〜〜ッ!!」
 そうわめいて、ゆさゆさと乱暴にボクを揺すぶる。
 そんなに大声を上げていると、みんなが起きてくるんじゃないのかな。
 ちらりと思ったけれど、それでも002をからかうことは止められなかった。
 だってこの彼が、こんなふうに顔を真っ赤にしてボクを怒鳴りつけるなんて、あの頃からは本当に想像もできなかったのだもの。
 だから、これぐらいのお遊びは許しておくれよね、みんな。

 だってボク達は、やっとこんなふうにはしゃぐことが、できるようになったのだから ――


【FIN】

(2002/2/28 10:10)
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またも某所へ投稿した作品です。そちらでは一回の掲載容量を5KB前後に制限なさっているので、こういう形で書いてみました
……っていうか、当初は前後編かせいぜい三話ぐらいで終わる予定だったのが、どんどん伸びてこんなんなってしまったのですが(汗)
そもそもこのお話、最初の数行をご覧になればお判りの通り、ジェットのお話なんですよ、ええ。イワンのではなく。ある日ネットサーフィン中にふと降ってきたネタ、それは『平成版アニメのジェットは、何故にああも青いのか』というもので。でもって、最初は三人称で書いていたんですが、どうにも筆が進まなくって、一話目のラストあたりから急遽イワンの一人称に書き替えることにしたのです。そしたらまあ、イワンが語る語る語る……(遠い目)

結果的に、まるで『1の話を書こうとしていたら、2が予想以上に出張っちゃった(てへっ)』みたいなお話に仕上がってしまいましたヽ(´〜`)/
でもまあ、これはこれで面白いものになったので、結果オーライと言うところですかね?


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