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 ぬえの集う街でIX  ―― A meeting by chance is preordained.
 第三章 家族ファミーユ
 ― Makoto.Kanzaki Original Novel ―
 
神崎 真


「な、なにを……ッ!」

 反射的に否定しようとする男だったが、シルバーは全く動じない。それどころか、

「一時的に仮想領域を構築して、適当な情報データを放り込んだ中に誘導してみたが……気づけたかと訊いている」
「な……あ……っ!?」

 今度こそ男は絶句して、愕然とした表情でシルバーを見返した。
 リリもまた、意外そうに目をしばたたかせて、部下と義姉あねとを見比べている。
 シルバーは真面目くさった態度のまま、言葉を結んだ。

「セキュリティは、多重構造やダミーを使用したものが多い。ひとつ破ったからといって終わりだとも、破った先が正しいとも限らないと、念頭に置いておくのが肝要だ」
「 ―――― ッ」

 意味を理解するにつれ、男の顔面は真っ赤に染まっていった。羞恥ではなく、怒りによるものだ。
 確かに男は昨夜、眼の前の人間種ヒューマンの端末へと、不正にアクセスしていた。隠されていた暗証番号パスコードを解読し、仕掛けられたトラップをかいくぐって、目的の ―― この人間種ヒューマンの個人情報を洗いざらい引き出し、自身の端末へと複写ダウンロードしたのだ。もちろん不審に思われたりなどせぬよう、作業を終えたあとは念入りに痕跡を消しておいた。その、はずだったのに。
 まさか侵入ハッキングを行ったとほぼ同時に気づかれた上、偽の情報を掴まされていたというのか。

『 ―― 舐められたモンっすね。この程度のセキュリティなんて、軽い軽い』

 そう嘲笑あざわらいながら、得意満面で行っていたその作業は、すべてが徒労。この人間種ヒューマンの手のひらで踊らされていたのなら、これほどの屈辱はない。
 脳天から湯気を噴きそうになっている男をよそに、シルバーはふと顎に拳を当て、己の思考へと沈む素振りとなった。

「……まあこちらも、ニックがニエルクーティアヌトス、リリがメイリールゥリリアラルーナだとは気付けなかった。ファミーユという姓はさほど珍しくないし、年齢にも食い違いがあったからな。それに現在の画像だけでは、成長や面変りに対応できない……これも電子情報の限界というやつか」

 独りごちるその内容に、男がぽかんと口を開ける。

「ま、まさか……」

 信じられないというように口にされた言葉に、シルバーは視線を男 ―― トッポへと戻した。

「侵入する際は、己も侵入され返す危険リスクを伴う。これも覚えておくことだ」

 リリが、苦笑交じりに肩をすくめる。

「 ―― やっぱりまだまだ、姉さまにはかなわないわね」

 部下であるトッポに、情報収集を命じたのは彼女だった。
 彼は獣人種としてはとても優秀な成績で学業を修めていたが、ご多分に漏れず経済的な理由や差別意識などで高等学校へと進むことができず、くすぶった挙げ句に道を踏み外した存在である。それをリリとニックが拾い上げ、叶う限りの環境を整えてやり、ハッカーとしての技術を身に着けさせた。
 トッポは己の才能を見出し開花させてくれた二人に心酔しており、そして同時に己よりもはるかに高性能ハイスペックな端末を使いながら、やすやすと侵入を許す人間種ヒューマンの技術者達を激しく見下みくだしていた。ただ人間と言うだけで、あの程度のやからが高等教育を許され、大手を振ってのさばっているのが許せないと、根深く負の感情をくすぶらせている。
 リリもそれはそれで理解できなくもないし、自信をつけさせることで、おいおい落ち着かせてやれれば良いと思っていたのだが。

 ―― そもそも、元・首輪付きやそれなりの文化圏で育った子達って、どうしていつまでも人種なんかを気にするのかしら。

 彼女とニックには、そのあたりがいまひとつ理解できないのだった。
 彼らはかつて、人種になど何の意味もなく、人間種も獣人種もみな平等に底辺を這いずり回っていた無法地帯で生まれ育っている。そんな二人にとって、相手が人間種ヒューマンだろうが獣人種キメラだろうが、それはひとつの構成要素に過ぎなかった。向き不向きの参考にはなるが、大切なのはあくまで性格である。同族であれ、けして相容れない相手は存在するし、人間であれ心から愛しいと思える者もいる。
 そんな単純なことを、どうして世の ―― 人間も獣人も含めた ―― 人々は、なかなか判ろうとしないのか。

「不確定要素を前にして、事前に情報を収集するのは大切なことだ。今回の失敗の要因は、入手した情報を精査する前に、家長であるニエルクーティアヌトスが独断で動いてしまったことだな」

 もともとが適当なダミーなのだから、現実に調査して裏付けを取れば、偽物を掴まされたとすぐに判明したはずだ、と。
 そんなことを呟いているシルバーへ、リリは話しかける。

「ねえ、姉さま。お願いがあるんだけど、良いかしら」
「内容によるな」

 シルバーは、ごく当たり前の口調で答えた。
 そこに不正アクセスを仕掛けられたことに対する怒りや不快感は、いっさい感じられない。

「このトッポなんだけど、端末の扱いに関しては、ほとんど独学なのよ」
「……そうなのか?」
「ええ。義務教育で習った他は、書籍とか電脳回線ネットワークの情報頼りで、専門の教育を受けた訳じゃないの。端末や回線も、キメラ居住区じゃあまり高性能なものは用意できなくて……」
「その状態で、あそこまでは侵入できたのか。それは見事だな」
「でしょ?」

 二人のやり取りに、棒立ちになっていたトッポが割り込んでくる。

「て、てめえ、馬鹿にしてんのか!?」
「いや、感心している」
「ァアッ!?」
「……私は優秀な義父ちちと環境に恵まれていたから、技術を磨くことができただけだ。己の意思と才能と、限られた環境のみでそこまで到達したお前は、クラッカーとしてなら私よりも優秀なのかもしれない」

 聞き慣れない単語に、リリが訝しげな表情をする。

「クラッカー? ハッカーとは違うの?」
「一般に混同されがちだが、本来『 Hacker ハッカー』とは電脳に関する知識や技術に優れ、それに強い関心を抱く者を示す総称だ。『 Cracker クラッカー』は、その中でも特に情報の盗用や改竄・破壊といった、不正行為を主として行う一部を指す」
「……ええと、つまりクラッカーよりも、ハッカーの方が上ってことかしら」
「一概に優劣はつけられんな。しかし少なくとも、優秀なハッカーはクラッカーとしても活動できるが、クラッカーが優秀なハッカーだとは限らない」

 単純に破壊を行うよりも、それを防ぐことのほうがはるかに高い技術を必要とする。また新たに優れたプログラムを組んだり、システムを効率的に構築あるいは改良アップデートしたりといった創造的な活動を行えるかどうかは、ハッカーとしての力量を大きく左右する。
 シルバーは、必要があれば俗に言う『不正侵入ハッキング』 ―― 正確には『 cracking クラッキング』 ―― も行うが、その本業はあくまでプログラマーであり、あるいはシステムエンジニアである。

「昨日確認した限り、この男の侵入経路は実に素直で判りやすいものだった。偽装もシンプルだったし、無意味もしくは重複した命令コマンドによって、遅延ロスが生じている部分も見受けられた」

 容赦のない指摘に、トッポがぎりぎりと歯を噛み締める。
 しかしシルバーは、小さくうなずいてみせた。

「それでも、あれを独学でやったというのなら、見事と評する他ない」

 表情がほとんど動かないためそうと判りにくいが、これは彼女として最大級の賛辞であろう。
 そしてリリは、それを読み取れる、数少ない存在であった。

「じゃあ、姉さまから見て、伸びしろはあるってことかしら?」
「本人の意志と、環境があれば」
「て、てめえに何が判る! それがあるぐらいなら、最初からオレだって……ッ!!」

 激高しそうになったトッポを、パンという乾いた音が止める。
 リリが手のひらを打ち合わせたのだ。この世で最も敬愛する二人の片割れにそうされては、彼も口をつぐまざるをえない。
 射殺しそうな目でシルバーを睨みつけるトッポをよそに、リリは打ち合わせた手をそのまま合掌に変えた。

「ならね、姉さま。トッポうちのこに端末の扱い ―― その、クラッカー? としてだけじゃなくて、ちゃんとしたハッカーとしての、プログラミングやなんかについてを含めて、ひと通り教えてやってくれないかしら」

 もちろんきちんと契約書を作って、適正な報酬を支払うわ、と。
 そう続けられて、シルバーは一度ゆっくりと瞬きした。それから口唇を指でなぞりながら、しばし思案にふける。

「 ―― 電脳回線ネットワークを介した、回線上オンライン教育という形ならば、引き受けることも可能だな」
「ほんと!?」
「ああ。一度そちらの端末と回線の性能スペックを知らせてもらえば、環境に合わせた課題を用意できるだろう」
「な、何を勝手に……」

 話を進めようとする二人に、トッポが抗議の声を上げる。
 そちらを振り返ったシルバーの目は、どこか冷たく、あるいは醒めた色をたたえていた。

「もちろん、やる気のない者に割く時間はない。学ぶ意志のない者に何を教えようと、無駄にしかならんからな」
「オ、オレに教えるのが、時間の無駄だってのか!?」
「やる気のない者に、だ。お前はやりたくないのだろう?」
「誰がそんなこと言った!」
「じゃあ、やるのね、トッポ」
「このクソ人間ヒューマンを、出し抜いてやれば良いんでしょ! やってやりますよ!!」

 叫んだ瞬間、トッポの頭部が大きくのけぞった。
 そのままくたりと膝から崩れ落ちるのを、リリが服を掴んで支えた。そうしてシルバーへと笑顔を向ける。

「ごめんなさいね、姉さま。本当に躾が行き届いてなくて……」
「……教育的指導は、ほどほどにな」
「大丈夫。あとを引くような怪我はさせないから」

 裏拳でトッポの顎をカチ上げた彼女は、離れた場所で待機していた別の男へともう片手を振って呼び寄せた。

「じゃあ、詳しくはまた後日連絡するってことで」
「ああ。気をつけて帰れ」
「姉さまも、無理はしないでね」

 白目を剥いているトッポを呼んだ男に預け、リリは空いた両腕を広げた。ゆっくりと数歩シルバーへ歩み寄り、その肩に手を回して頬を寄せる。

「大好きよ、姉さま」
「……ああ」

 シルバーも同じように頬を寄せ、互いの体温と吐息を確かめるように触れあう。

 ―― 今の身内を優先すべき、『どうしても』という時なんて、一生来なければいい。

 そんなふうに考えていたのは、果たして寄り添う二人のどちらであったのか。

 ―― 否、来させなければいいだけなのだ、と。

 そう思ったのもまた、どちらであったのかは誰にも判らないことで……


§   §   §


 玄関脇の、店内からも店外からも死角になる位置で、ジグは壁越しに一連の会話を耳にしていた。
 何かあれば出ていこうと思っていたが、どうやらその必要はなかったようだ。
 あのリリという裏組織の女幹部は、見た目よりも食わせ者だったらしい。しかしそれでもシルバーに対する好意に嘘はないようだし、本音も建前も、最悪の事態を想定した上で己が取るだろう行動を前もって口にできる誠意も、悪くはないと思う。少なくとも、口先ばかりの薄っぺらい感謝を振りかざし、いざとなったらお涙ひとつで裏切るような、頭の悪い女でなかったのは喜ばしい。
 そう結論付けていると、玄関の自動ドアが音を立てて開いた。
 杖をつきながら戻ってきたシルバーは、陰に立っていたジグへと視線を寄越す。

「……気を遣わせたか。すまない」

 特に驚くでも、盗み聞きを咎めるでもなく、ただ謝意を告げてくる。

「詫びなら、アヒムに何かしてやると良い。たぶん、頭がパンクしてる」

 成り行きで奥まで同行させられた挙げ句、いろいろと重い話を聞かされまくった彼は、あの場にいた面々の中でももっとも素直で、お人好しで、他人の痛みを我がことのようにも感じてしまう、まっとうな感性を持った善人なのだから。

「……それにしても、すごい偶然だったな」

 ニックが家長ボスを、リリがその補佐ナンバー2を務める裏組織【Familleファミーユ】は、先日、シルバーが半グレどもに誘拐された際、ドクターの要請を受けて救出に手を貸してくれたうちのひとつであった。リリが引き連れていた男達の中に数名、あの現場で見かけた顔が存在していたから間違いはない。
 あの事件の後、彼らから報告を受けたリリは、救出対象の人間ヒューマンが『黒髪黒目』で『左足が不自由』な『女性』だったと聞いて、もしやと思い部下に調べさせたのだという。そうしてシルバーの正式名が、かつての仲間であった『セルヴィエラ』と同じだと知り、本人かどうかを確かめるべく接触を図ろうとしていたらしい。
 間に入ったドクターは、後日こちらで場を整えると言い、リリもそれを了承した。下手に人目のある場所で顔を合わせては、どういう結果であれ面倒なことになるだろうと判断したそうだが ―― あの家長ボスの立場にある大男が、全てぶち壊してしまったという次第である。

 裏社会の構成員、それも幹部クラスと親しいなどとの噂が広まりでもした日には、シルバーの世間体や立場に、悪影響を及ぼす恐れがある。場合によっては、現在の友人や仕事を失わせる結果にもなりかねない。そこまで懇切丁寧に説明されて、大きな身体を小さく縮こまらせていたニックの姿は、どこか憎めない部分があった。
 まあその直後 ―― ニックやリリへと、いつもの口調で『許し』を『与えた』シルバーに対し、何様のつもりだと激高した部下へと躊躇なく行った『躾』と、そして身内の不始末として自身の責任をもって詫びを入れたその態度は、さすが一家のおさを務めるだけはあると、認めるに足るものだったが。

 それにしても、十年以上も前に、はるか遠い地で離れ離れになった子供達が、数を減らしながらとはいえ同じ街へたどり着き、そうしてまったく意図せぬ事件を介して関わりを持ち、再会することになろうとは。

「 ―― 『袖すり合うも他生の縁』とは、よく言ったものだ」

 ぽつり、と。
 シルバーが小さく呟く。
 ずっと昔、幼い頃のわずかな時間を共に過ごした相手が、巡り巡った現在になって、結果的に彼女を救うこととなった。それをこそ人は、えにしと呼ぶのかもしれない。

 そうして彼女は、きゅっと杖先を鳴らして身体の向きを変えた。アヒムへのフォローと、残したままの端末を取りに戻るためだろう。
 向けられた背中を眺めるジグの脳裏に、先ほど店の奥で交わされた会話の一部が蘇る。

『ある程度は生活基盤ライフラインが整っていて、盗みさえすれば食べることができ、たとえ捕まったとしても折檻程度ですむ。それは充分な生育環境ではありませんか?』
『世の中にはよ、盗めるもの自体がろくになくって、十歳にもならねえようなガキ同士が、腐りかけた生ゴミみたいなもんを早いもん勝ちで取り合ってさ。そんで大人や年かさ連中の気まぐれで、簡単に殺されたり、犯されたり、売り飛ばされたりする。そんな場所もあるってのによ』

 元事務室のソファへ斜めに膝を揃えて座り、優雅に微笑みながら口にしたリリと、その隣でゆったりと背を預け、朗らかに笑っているニック。目の前の二人は、いったいどんな精神状態でそんな内容を口にしているのか。そしてそれを当たり前のように聞いていたシルバーもまた、はたしてどのような時間を、その『無法地帯』とやらで過ごしてきたのか。
 過去に浮浪児だった経験を持つとはいえ、それこそ盗むことで食べ、捕まっても殴られるだけですんでいたアヒムなどには、恐らくかなり衝撃的な見解だっただろう。むしろ手を汚しきる前に足を洗った彼など、ジグの基準からしても堅気カタギとほぼ変わらない。それだけに先ほどの話を聞かされるのは、相当に精神的負担が大きかったはずだ。

『……そんな場所で、お前のような温室育ちの第三世代が、生きていけるとも思えんが』

 かつて耳にした、そんな言葉が思い出される。
 以前、リュウや【Katze】に対し、失礼な真似を繰り返した、自分勝手ではた迷惑な女がいた。他にも多くのトラブルを引き起こしていた彼女に対し、シルバーが行おうとした報復が、過去の悪事と個人情報の全面公開。
 たとえどのような場所へ行こうと、大陸の果てまで逃げ去ろうと、そこに電脳回線ネットワークが繋がっている限り、どこまででも追い続けられる。そうして彼女が復讐などという真似を企む余裕さえ残さず、社会的に抹殺しよう、と。
 もし逃れたいならば、個人の情報がいっさい回線上に現れてこない場所を目指すしかない。獣人種の市民権は愚か、人間の所有物としての登録義務すら存在しない ―― すなわち文明の恩恵をほとんど受けることのできない、真の意味での『無法地帯』へ、と……
 数百年前に起きた大変動によって、この大陸は大きく地形を変え、現在でも地図すら存在しない空白部分が数多くあるらしい。そんな中に遺された旧世界の廃墟に、市民権を持たない獣人種や人間の罪人がいつしか集まり、欲と暴力によって奪い合い殺し合って生きている。
 そんな環境で、身を寄せ合うようにして生命を繋いでいた、子供達の生き残り ――

 玄関ホールに立ち尽くしたまま、ジグは眉を寄せ……そうして、わずかに違和感を覚える。

 ―― ファミーユの名で結ばれたグループの子供達は、当時たまたま道を失い迷い込んできた隊商キャラバンの荷に身を隠すことで、なんとかそれなりの法が適用される文化圏へと脱することができたのだという。
 しかし日々を過ごすうちに一人騙され、二人殺され、三人が行方不明となり……シルバーとも離れ離れになってしまった結果、最終的にリリとニックだけが、この都市までどうにか流れ着いたとのことだった。
 シルバーの方は、はぐれたその後、変わり者だった人間種ヒューマンゴルディオン=アシュレイダと出会い、彼の義娘むすめとして、高水準の生活と教育の恩恵を受けるようになったと、言葉少なに説明していた。

 だがそれでは、少しおかしくないだろうか。

 義父に引き取られる前であったならば、当時のシルバーは無法地帯の浮浪児にすぎなかったはずだ。そんなシルバー……否、『セルヴィエラ=ファミーユ』は、なぜ他の子供達に読み書きなどの手ほどきをすることができたのだろう。
 ファミリー、ファミリア、そしてファミーリエ。家族を示すというそれらの単語も、旧世界で使われていたという、古い言語の一部であったはずだ。義務教育を受けているこの都市の子供達でさえろくに覚えてもいないだろうそんな単語を、なぜ当時の彼女は並べることができたのか。

 ひとつの疑問が解消されたことで、また、新たな疑問が生まれくる。

 ―― まあ、いいか。

 ここはキメラ居住区だ。住人の過去を探るのはマナー違反とされている。自分から話されれば聞きもするが、強いて問い詰めることはよほどの理由がない限りしない。なぜなら心にもすねにも傷を持つ者が、ここには数多く存在するから。
 ならばこれも、突き詰めるべきではないのだろう。
 ジグはそこで、思考を断ち切った。そうして己も店に戻るべく、一歩を踏み出す。


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