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 竜神祀りゅうじんさい  きつね2
 序 章
 ― Makoto.Kanzaki Original Novel ―
(2007/07/18 15:12:32)
神崎 真


 暗雲の中を、閃光が走っていた。
 重く低く垂れこめる暗い空を、青白い稲妻がきらめきながらよぎってゆく。
 その情景はまさしく、嵐の海を泳ぐ竜神の姿を喚起させるものだった。
 一瞬閃いては幻のように消える紫電は、背筋を震わせるほどに美しい。
 わずかの間をおいてとどろく雷鳴は、大気とともに心身をも、腹の底から揺さぶりつくす。

 ―― かみなりとは、神鳴かむなり。
 
 古来より人々は、その光に、響きに、神の訪れをかいま見たという。

 しゃりん、と。

 低いとどろきを縫うかのように、鈴の響きが夜気を震わせる。
 ひるがえる、白い着物のたもとが、篝火の炎を受けて闇に浮かび上がった。

 しゃりん
 しゃらん

 鈴が鳴る。
 袖が舞う。

 とどろく雷鳴を囃子方に、吹きすさぶ風をうたいに。
 濡れた舞台で、巫女が舞う。

 首の後ろで結われた豊かな黒髪が、風に乱され、ほつれ毛を広げる。
 白いその面差しの中、唇と目元に差されたべにの赤だけが、鮮烈に見る者の目に映える。

 しゃりん
 しゃらん

 杖のようにも、あるいは槍のようにも見える、長い柄の先につけられた金色の宝鈴が、巫女の手の中で鳴り続ける。

 いまにも雨の雫が落ちてきそうな、重く暗い空。
 ひらめく稲光。
 無心に舞いつづける巫女姫。

 それはどこまでも美しく、荘厳な光景で ――


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