暗雲の中を、閃光が走っていた。
重く低く垂れこめる暗い空を、青白い稲妻がきらめきながらよぎってゆく。
その情景はまさしく、嵐の海を泳ぐ竜神の姿を喚起させるものだった。
一瞬閃いては幻のように消える紫電は、背筋を震わせるほどに美しい。
わずかの間をおいてとどろく雷鳴は、大気とともに心身をも、腹の底から揺さぶりつくす。
――
雷とは、
神鳴り。
古来より人々は、その光に、響きに、神の訪れをかいま見たという。
しゃりん、と。
低いとどろきを縫うかのように、鈴の響きが夜気を震わせる。
ひるがえる、白い着物の
袂が、篝火の炎を受けて闇に浮かび上がった。
しゃりん
しゃらん
鈴が鳴る。
袖が舞う。
とどろく雷鳴を囃子方に、吹きすさぶ風を
謡に。
濡れた舞台で、巫女が舞う。
首の後ろで結われた豊かな黒髪が、風に乱され、ほつれ毛を広げる。
白いその面差しの中、唇と目元に差された
紅の赤だけが、鮮烈に見る者の目に映える。
しゃりん
しゃらん
杖のようにも、あるいは槍のようにも見える、長い柄の先につけられた金色の宝鈴が、巫女の手の中で鳴り続ける。
いまにも雨の雫が落ちてきそうな、重く暗い空。
ひらめく稲光。
無心に舞いつづける巫女姫。
それはどこまでも美しく、荘厳な光景で ――
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