以前に読んだことがあったのですが、事件もトリックも犯人も忘れているのに、オチだけ覚えていたちょっと悲しいお話。
語り手は探偵小説家八代竜介。
ある晩、会合で帰りが遅くなった八代竜介は、駅で美しい女性から同道を頼まれる。6人もの女性を殺した連続殺人鬼が未だ捕まっていない昨今、夜道の一人歩きは不安だということで、その女性を自宅まで送り届けた八代竜介だったが、彼らはその犯人像に良く似た風体を持つ、黒眼鏡に義足の男に後をつけられていたようだった。
女性、賀川加奈子の話によれば、その男は彼女の夫、亀井淳吉であり、出征前に一晩限り共に過ごしただけの相手だという。ただ一晩の夫よりも、現実そばにいてくれた現在の夫を選んだ彼女は、復員した亀井を退けたのだが、亀井は諦めることなく彼女につきまとい続けているらしい。
そんなある日、加奈子の現在の夫が自宅で殺されているのが発見された。加奈子もまた首を絞められた状態で失神しており、犯人は義足の男 ―― 亀井淳吉だと証言した。
しかし後日、粗末なお釜帽によれよれの袷(あわせ)、折り目のたるんだ袴を着た男が、近在のゴミためから義足の男がついていたステッキと、偽の義足を掘り出した。金田一耕助と名乗るその男の発見により、義足の男は亀井ではなかったという疑いが出てきて ――
横溝正史もので語り手がいつもの人間ではない場合は要注意。
……なんですが、この話の場合、本筋にはあんまり関係なかったですね。金田一さんも、あれは虚栄心と自尊心からくるブラッフではなかったかと言ってますし。
ああでも、そういう行動をとるという心理状態そのものが、あの結末を導いたわけで……うーん(悩)
まあついその部分が一番印象に残って、実際の犯人とか動機とかはすぐに忘れてしまっちゃってるあたり、おもしろい趣向ではあります。
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