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 悪魔の降誕祭 収録:悪魔の降誕祭

いきなり金田一耕助のフラットで死体が発見されるという、なかなか珍しい展開のお話。

ジャズシンガー関口たまきのマネージャー小山順子は、殺人事件が起こるかもしれないという不安を持ち、金田一耕助を訪ねてきた。しかし外出中だった金田一耕助が帰宅するよりも早く、彼女は常備薬に仕込まれていた毒物を飲み死亡してしまう。彼女が依頼したかった件についての手がかりは、彼女の持ち物から発見された新聞記事と、そして何者かの手で破られている日めくりカレンダーのふたつばかり。
はたして数日後、関口たまきの自宅で行われたクリスマスパーティーで、たまきの夫である服部徹也が刺し殺された。関係者にはみな、確かなアリバイが存在する状況で……

金田一耕助の留守中に訪れた依頼人が、帰宅を待つ間に常備薬に仕込まれた毒を飲んで死んでしまった訳ですが、自宅で人が死んでいたにもかかわらず、まったく疑いを受けないあたりが金田一さんらしいです。私立探偵というのはけっこう警察に邪魔者呼ばわりされることが多いと思うのですが、一番に駆けつけた警官に「われわれはなにをすればいいんですか」とか訊かれてるし、本文にも「金田一耕助をよくしっている人間にとっては、かれの部屋で殺人事件が起こるということが、なにかしら、滑稽千万な間違いのようにおもわれるらしい」と明記されているしで、金田一さんすっかり身内扱いになってます(笑)

本筋の方は正直あまり後味のよろしくない話というか、いまひとつ印象が薄いというか。
結局は被害者が犯人に対して抱く罪悪感から、刺された後もしばらく平静を装っていたため、アリバイが成立してしまっていたというものなのですが、狡知に長けた犯人という割には、結果オーライなアリバイのような……




 女怪 収録:悪魔の降誕祭

こちらもなかなか珍しい、金田一さんの「恋」のお話です。
語り手は小説家の「先生」。この中で、金田一さんが南方から復員してきてからどのように暮らしてきていたのかが語られています。大森の割烹旅館の離れに転がり込む以前に、三ヶ月ほど銀座のビルディングで探偵事務所を開いていたことがあるという話は、あまり他では見かけない情報かと。

「八つ墓村」事件で高額の報酬にありついた金田一耕助は、先生を誘って伊豆のN温泉へと旅行に出かけ、そこで噂に名高い予言者、狸穴の行者の修験場がその近くにあるという話を聞いた。しかもその屋敷の元の持ち主は、誰であろう、金田一耕助の憧れの人「虹子の店」のマダムだったというのである。
彼女に対し狸穴の行者から何らかの脅迫が行われているらしいと知った彼は、マダムの幸せを守るために調査へと乗り出した。

憧れのマダムのことを語る金田一さんの照れぶりが微笑ましいです。
しかも彼はそのマダムに恋人ができたのを知って、我がことのように喜ぶのですよね。
「どうもわれながら変ですよ。マダムに恋人が出来たとわかると、急に安心したような気になったんです。それでいてマダムが好きになことに変わりはない ―― 中略 ―― 潔く引きさがることにしたんですが、しかし、それかといって、マダムの幸福に、指一本でも触れようとするやつがあったら、やっぱりただではおきません」
愛しい人の幸せを穏やかに見守ろうとする金田一さんが切ないです。そして同時に、その幸せを乱そうとする相手を許さないという、情熱的な部分も持っているのだと知らしめられます。
しかし狸穴の行者について調査を進めるうちに、彼はマダムの過去の罪を暴き、同時にマダムと現在の恋人との間に起きた悲劇をも知ってしまいます。
全てが終わった後に姿を消した金田一耕助が、旅先から先生に送った手紙の一文が、彼の受けた傷をまざまざと示していて辛いです。

……しかしこの話の諸悪の根元は、どう考えてもマダムの恋人なんですよね……あの男さえ変な考えを起こさなければ、全てはうまくいっていただろうに……




 霧の山荘 収録:悪魔の降誕祭

死体消失ものというのでしょうか。

東京の残暑から逃れK高原のホテルに滞在していた金田一耕助は、元映画スター紅葉照子の招きを受け、その別荘へと向かったものの、途中で霧にまかれて道を失ってしまう。
途中、迎えに来たアロハシャツの男と行き会い、その先導で案内された別荘には、しかしなぜか鍵が掛かっており、窓から覗くと血まみれの紅葉照子の死体が。慌ててアロハの男を見張りに残し警察を呼びに言った金田一耕助だったが、いざ警察と共に別荘へ戻ってきてみると、そこには死体など影も形もなく、アロハの男も姿を消してしまっていた。そして狐につままれたような思いで首を傾げていた金田一耕助の元へ、翌日、別荘の裏手から死体が発見されたとの知らせが届く ――

トリックとしては、玄関先の造りがよく似た二つの別荘を、霧を利用して同じ建物に見せかけていたと、その部分はかなり早くから判っているのですが、誰が何のためにそれを行ったのかという部分が二重の構造になっています。

とりあえずこの話の見どころは、静養中の金田一さんの元へ、等々力警部が遊びに来るところでしょう(笑)
この二人、旅先で合流したり、一緒に旅行に出かけたりすることがやたら多いです。等々力さん、仕事柄そんなにお休み取れないでしょうに、長期休暇のたびに金田一さんとお出かけしていたら、奥さん拗ねちゃいますよ?
あと金田一さんといっしょに留守宅の別荘へ無断侵入してますけど、それはありなんですか、現職警部……












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金田一耕助覚書

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