++お礼SS 楽園の守護者


 石造りの建物の出入口を左右から固め、青藍の制服をまとった騎士達は、緊張の面持ちを見交わしていた。
 わずかな音も立てぬよう極力気配を殺し、呼吸すらをもはばかって、建物内部の様子へと意識を集中する。
 やがて、一方の側にいた隻眼の騎士が、小さな明かり取りへと顔を寄せた。
 しばしの後、胸元でその指が動く。
 応じて反対の側にいた亜麻色の髪の若者が息を呑み、ぎこちないながらも同じように、指を動かした。明かり取りから面を上げた隻眼の騎士は、こくりとうなずくと、足音ひとつ立てず一同の先頭へと移動する。亜麻色の髪の若者も、同じように先頭へ立った。
 呼吸を計るように、立てられた指が揺れ、次の瞬間、二人は同時に石畳を蹴って建物内へと飛び込んでゆく。
 途端に内部から、妖獣の軋るような叫び声が発せられた。
 だがそれもすぐに悲鳴を思わせる甲高いものに変わり、残響だけを残して消えてゆく ――


「案外、便利なものだな」
 鋭敏な聴覚を持つが故に、なかなか接近を許してくれぬ種類の妖獣を見下ろして、破邪騎士の一人がぽつりとそう呟いた。
 漏斗のように広がった巨大な耳を持つその妖獣は、見事に不意をつかれ、一刀のもとに太い首と前足とを刎ね飛ばされている。
 言葉を交わせぬその状況で、とっさにアーティルトの使用する指文字で打ち合わせを果たしたカルセストは、はあ、と曖昧な答えを返した。
 確かに物音を立てることなく意志疎通できる指文字の存在は、こういった状況ではそれなりに重宝するかもしれない、などと他人事のように考えつつ。


 のちに ――
 見習騎士達の間から、先輩たるアーティルトの用を足すためにと学ばれ始めた簡易的な指文字が、言葉を交わせぬ際の戦場で役に立つからと、教養のひとつとして一般の兵士達にまで浸透していったりしたのだが。
 それは十数年も後の話である ――



―― 後日談的SS。けっこう便利だと思います。



本を閉じる

Copyright (C) 2011 Makoto.Kanzaki, All rights reserved.