「……和馬さん、和馬さん!」
「え……あっ?」
「お疲れなんですか? こんなところで眠るとお風邪を召しますよ」
お休みになるなら、上の部屋でどうぞ、と。
心配げにのぞき込んでくる青年をしばしまじまじと見返して、和馬は手元に目を落とした。そこにはなにもない。
「……すまん、寝てたか」
「ええ。私が席を外した、ほんの五分ぐらいの間ですが」
「そうか……そうだよな」
どうもうたた寝をしたはずみに、妙な夢を見てしまったらしい。
思わず額に手をあてて苦笑いした。確かに夕べは秋月家の方の仕事で、遅くまでさんざん走りまわらされていた。自覚していた以上に疲れているのかもしれない。
「ちょっと仮眠させてもらうわ」
椅子を引いて立ち上がる。
と ――
ふと動いた視界のすみに、見覚えのあるものが入った。
表には、科目名も名前も書かれていない、しかし新品ではないらしい大学ノート。
思わず動きを止めた和馬に、晴明が首をかしげるようにして問いかけてくる。
「和馬さん?」
「…………」
「どうかなさったんですか?」
「…………」
―― さて真相はいずこ(笑)
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