雪之丞後日 三上於菟吉 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)門並《かどな》み |:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号 (例)紫|裂《ぎ》れ [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)薙《な》いて[#「薙《な》いで」の誤りか] -------------------------------------------------------    芝居者闇太郎  大阪新町の、門並《かどな》み茶屋があるその一軒の、「門柳《かどやぎ》」の格子戸を、中からあけて、 「じゃあ、また来るよ。」  お近いうちにという声におくられて、これは江戸ッ子、押もおされもせぬ芝居者、闇太郎が唐桟《とうざん》がらの羽織着附け―― 「ヒャクショイ、いやに室《へや》の中が暖かいと思ったら、外の風が身にしみる。」  本当に、春の夜寒は格別だ。もう四ツも過ぎていようか、なんとなく軒並にならんだ軒燈も眠げに、巷路《こうじ》を吹き過ぎる風は北東から襲ってくる。闇太郎は身をつぼめて急ぎながら、 「此方が芝居者で、江戸へ便りがあるというので、またあの連中から預りものをしてしまったが――おれも芝居道に足を踏み込んでいなければ、こんなものの使いなら、自分でやってのけるがなあ。まあ好い、懇意な時蔵が行くんなら、これは長州侍から預った手紙で、たしかにお前へ届けたぞと言ってやれば、それで役目はすむことだ。おっそろしく吹きやあがる。」  と、きこえぬほどの独りごと、 「なんしろ、雪之丞《ゆきのじよう》の江戸行きも、二度のお目見得、帰り新参という奴で、江戸中が湧くのはわかってるが、おそくも来月か、さらい月は乗込ませてえものだが、太夫もあの体じゃあなあ――」  横っぷきに吹かれながら、とある小橋へ差かかる。ここらは灯も遠く、なんとない暗っぽさだ。ところが、何時《いつ》後を附けて来たものか、黒い頭巾、黒の羽織、黒っぽい袴という恰好の二人の武士が、急に、タッタッタッと闇太郎の前後にせまって来た。 「新町の門柳で、預って来たものを出して貰いたい。」  その一人は、けわしく言って、大刀《かたな》へ右手《めて》をかけた。 「こいつあ驚いた。」  闇太郎は、素早く体を橋の欄干へとひいて、 「なるほど、あッしが、新町で、ちょいとばかり遊んだのは、こりゃあ本当だ。そらね、この通り酒っくさいし、女の匂いもすらあ。だが、預りものなんざ、なんにもした覚えがねえ。人違いじゃありますめえかね。」 「四の五の申すな。先方《さき》は長州の侍だ。おれはたしかに今夜、あの侍が、貴様を招《よ》んだことは承知の上だ。さあ、出せ、出してしまえ。」  侍は、ぐいと眼《まなこ》を見張って叱咤する。連れ侍が、これも闇太郎を逃してはならないと押並んで、 「調べあげてあるのだ。出せといったら出せ。」  おっかぶせたもの言いを、闇太郎は、さも呆れた顔で、 「そいつあ、ちっとばかり御無理じゃありませんかね。あの妓《こ》が、あッしが江戸ッ児なんでね、小指を出して、さあ斬ろうかといったものの、そんなこたあ、憚《はばか》りながら食傷しているってんで、逃げて来やしたが――」  大刀《だいとう》の柄《つか》へ手をかけていたのを、二三寸抜きかけて、 「黙れ、当方の申すことだけを答えろ。さあ、手紙を出せ。」  闇太郎は、人通りのない小路を、向うからやってくる二三人の人影をみとめた。これも新地あたりを素見《ぞめ》いて来た帰りでもあるのだろう。小唄をそそっているようだが、侍たちは、闇太郎を追いつめるのに夢中だ。  今にもきっぱなそうとする侍を、闇太郎はじろりと一瞥して、 「無理を言いなさんな、知らねえことは知らねえ。」  と、そう言ったとき、後の方の年若侍が、 「エイ面倒だ、叩き斬ってやる。」  と、斬刀一閃――闇太郎は素早くかためた拳固で、相手の利き腕を打って身をかわした。 「こいつあどうも、わけのわからねえ人たちだ。」  二刀目がたたみ込んでくるのを、何処《どこ》をどう体をひねったか、其奴は欄干をどんと跳ね越して、堀の中へつんもぐった。  鯉口を切っていた年上の武士は引きぬいた。大きな凄い眼を、真赤に充血させて叫んだ。 「貴様は、何処かで一度見た奴だ――そうだ、たしかに見た奴だ。」  と、突然、ギラギラと、夜目にも彼の怒りが燃上るのが、闇太郎にも知れた。彼は、何事《なに》か思い出したように、 「うぬ、これを食らえ。」  と、鋭い気合で、闇太郎の小鬢《こびん》をかすめ、長刀を振りおろした。  闇太郎は、この男が、自分の体構えに見覚えがあるといったのを、そういえば、俺にも何か見覚えがあるようだと思いながら、激しく打下してくる刃《やいば》の下をかい潜って、 「そうか。そういえば俺の方にも、なんだか覚えがあるぞ。」  と、言いかけると、先方は、遮《しや》に無に、苛《いら》って斬ってくる。闇太郎はこの男を思い出そうとした。だが、しかし、さっきの通行人どもは、月のない夜の、遠い灯にこっちの姿を眺めたと見えて、 「やあ、喧嘩だ、喧嘩だ。」 「刀を抜いて、人を斬ろうとしているぜ。」 「行って見ろ、行って見ろ。」  そう叫びながら、此方をむいて駈けてくる。  闇太郎は侍の顔を見定めようとするのを断念した。此奴にかかわっていては、往来の人たちに見とがめられるだろうし、それに、いつか、雪之丞が、芝居者になった以上、一切持ってはならないと、堅く誓わせて匕首《あいくち》も持たせないから、これは早いところ、この侍にも水雑炊を食らわせた方が好いと思った。そこで、 「ヤッ。」  と、いう掛声と一緒に、薙《な》いて[#「薙《な》いで」の誤りか]くるのをやりすごし、附け入ると刀をひらりと※[#「てへん+宛」、第3水準1-84-80]《も》ぎとって、そのまま、 「そら、たっぷりと、二人でおあがり。」  と、ずでんどう。侍は急に闇太郎の手を離れて、どぶんと水煙りをたてて、堀のなかへ落ちこんでしまった。 「だいぶ好い刀《もの》だが、こいつも一緒に――おい、返したぜ。」  と、刀も川の中に投《ほう》り込んだ。  通行人たちはもうそこまで駈けて来た。 「やった、やった。川のなかへ斬りこんだぞ。」  と、罵《ののし》り喚《わめ》くのをあとに、闇太郎は一散に橋を渡って身をくらました。  闇太郎は、長くは駈けもしない。とある角を曲ると、平常《へいぜい》の歩きぶりになって、道々も今の侍のことについて考えている。 「えいと、あれは、何処の侍だったろう。」  ふと、十四五年前の、忘れもやらぬ無念な追憶に触れると、彼の心は飛上った。 「あッ、そうだ。あれは、ことによると佐伯五平だぞ。」  彼は、ふッと、唇を噛んで立止った。もう道頓堀近くまで来ていた。暗い闇だが、眼の前には、雪之丞が勤めている中の芝居の、櫓《やぐら》そなえをした棟がよく見えるのを睨んで、闇太郎はうめいた。 「あれは、たしかに佐伯五平だ。いま思出した。俺は、十五かそこらで、あいつは立派な武士だった。俺は、あいつに歯が立たなかったのだ。」  闇太郎は、忘れるともなく忘れていた、鉄砲組同心の衣笠貞之進を、切腹までさせた佐伯五平が、どうしてこんなところへ来ているのかと考えた。しかも、貞之進という男は、この闇太郎――つまりその頃は、貞太郎といった忰《せがれ》の父ではないか――闇太郎は、自嘲するように舌打ちをして、腕を組み直した。 「おれもよっぽど間抜けな奴だ。」  職務上の争いから、父親は腹を切ったのだとはいえ、その恥辱《はずかしめ》を、この儘ではおけなくなり、総領息子貞太郎は、相手の五平に斬りかけたのだが、残念ながら力及ばず、とうとう家《うち》を飛出して、いつか、ならずものになってしまったということは、考えて見れば、まず浮世を知ったというものだった。しかし、その敵《かたき》を、現在眼の前に見た以上、こうしているのが順当だろうか―― 「いや、そうじゃあねえ、速《はや》るこたあねえ。今日の一件から見ると、門柳に来ている長州のおさむらいさんが、芝居へ使いをだしておれを呼びよせたことを、よく知っているから、おれが、中座の役者の内の者だということはわかっている筈だ。と、すると、先方《むこう》でもこの儘じゃあすっこむめえ。まあ、この方角のこたあ、まずこうしておいてと――」  と、彼は、寒風が、夜の空へ咲かした、星の顔を見あげると、 「どれ、案じているだろう、早く雪さんに顔を見せようか。」と、急ぎ出した。道頓堀からは橋一つ、笠屋町の細小路の、雪之丞の住家へと帰る。    病臥する雪之丞  たしかに、この若花形《わかおやま》は夢を見ている。先刻《さつき》から幽《かすか》なうめき声さえたてて、眠りから覚めきらない。  馥郁《ふくいく》と梅が香の薫る室《へや》のなか、何処の贔屓《ひいき》からの贈りものか、鳩型の置時計が、丁ど暁《あけ》七ツ(午前四時)過ぎをさしている。蘭燈の影はなかば照して……。朱の色がちなちりめんの寝具の中に、鬘《かつら》下地に紫|裂《ぎ》れで病鉢巻をしている、ひどく顔色の青白い女形は、かつて、江戸で、江戸中の人気を浚って帰って、今では大阪が自慢にして中々手離そうとしない中村雪之丞。  この人気ものは、大阪中に心配させて、とかく病気休みをするのだった。江戸からも再三買いに来ているのだが、師匠の菊之丞も手離さず、中座の仕打ちは猶更だった。だが、気保養に旅でもさせたらと、このごろでは師匠でさえいうようになっている。  このほども、なんとなく気持ちが勝れず、一芝居休んでいるのだが、医者は、当人へは内密《ないしよ》だが、癆咳《ろうがい》ではなかろうかと、闇太郎にだけささやいたことがある。しかし、雪之丞は、そんなことは更に知らない、自分だけが知っている、大きな――実際大きすぎた復讐を江戸で果した、あの労《つか》れが今出て来たのだと思って、休んで寝ているのだった。  雪之丞は、呻吟しつづけながら、深い夢路をたどっている。夢は、あの、将軍家の寵臣|土部《つちべ》三斎の娘浪路と、雪之丞とが、夜だか昼だかわからないが、広々した部屋のなかで、何かしら悲しい場景に打たれているところだ。娘は泣く。この世に生きては居られないで、雪之丞をただ一人残して、自分は死んでしまわなければならないと泣く。文金の高島田を、よよとふるわせながら、雪之丞の両手をとって、頬を、熱ぼったく胸に押つける。 「わたくしは、どうあっても死んだ方がよいのです。もうこうなった以上は、生きてはいられません。それにしても、あなたを此の世に残して死んでしまわねばならないとは――」  敵同士とは知らぬものの、遂げぬ恋に、悲惨な末路に死んでゆく浪路の、身を絞るなげきに、雪之丞は、いっそ心中をしてしまえといった気もして来て、左右にゆれる、浪路の鬢《びん》のほつれを眺めつつ泣いているのだ。  そんな世界が、大層長くつゞいていたように思われても、夢魔の訪れは、時計の半秒か一秒のことであったろう。痴夢の世界から帰った雪之丞は、曙染《あけぼのぞめ》の寝まきが、盗《ね》汗でぐっしょりと冷たかった。そして、桜色の夜具を掴んでいた。 「あんまりよく眠《やす》んでいなさるので、あッしの方のことは、あしたの朝でも好いからと思っていたが、なんだか夢見が悪そうなふうで、うなっておいでだから、ちょいと起して見ましたのさ。」  闇太郎は、雪之丞の枕もとに坐っている。そう言われても、雪之丞は、少時《すこし》のうち、これが夢か、現《うつつ》かに迷っているらしかったが、やっと気がついて、 「まあ、わたしとしたら。」  と、半身起しかけたが、いま見た夢を説明するわけでもなく、 「闇さん、丁度あなたが出ていったあとで、江戸からまた中村座の手代が来て、おそくも、来月はじめか、この月末までに立ってもらいたい、仕度は十二分に調っているといって、どうしても、わたしの体がほしいのだというのです。いずれ、あなたに相談してからと言っておきましたが、思い切って、わたしは江戸へ行って見ようかとも思いますよ。」  雪之丞が、江戸の土を再び踏みたくない思いも、も一度行って見たい思いも、知りすぎるほど、解りすぎるほど知っている闇太郎だ。 「太夫。」  と、呼びかけて、 「厭な思い出もありなさろうが、こりゃあやっぱり、一ぺん行きなすった方が好さそうだね。こんだあ、何もかも忘れて、江戸のものに、お前さんの芸だけを充分に見せるんだ。それに、江戸にゃあ、剣術の脇田一松斎先生も、孤軒先生も逢いたがってお出なさるし、それに――」  浪路の墓参りでもしたらば、雪之丞の神経は落ちつくだろうとも言いたい。闇太郎は、蒲団の上に、居くずれるように坐った、雪之丞の曙ぞめの寝間着につつまれた、細い体を見つめながら、 「それもまあ、お前さんの、体もちの都合もあるが、そりゃあ、あッしにしたところで、菊之丞さんの弟子で行ったあの時分のお前さんと、今日のお前さんの芸とを、見競《みくら》べて見てもらいてえってもんだ。あの時の大当りだって、一座ひっくるめて他に誰も居やあしねえ、雪さんお前の芸で来たんだ。」 「そんなことはあるまいけれど、わたしもこんな体だし、あなたが言うのとは、また逆な意味で、もう一度だけ、猿若町のものになって見たい気もするのです。」 「じゃあ定《き》めよう。一本立ちの、立女形で招ばれてゆくか? 団十郎《なりたや》を向うに廻すか――菊五郎《おとわや》でも好いや。さあ、そうなると、第一にあッしが見るのが楽しみになってくる。」  と、はずんでいったが、思いやりぶかい調子になって、 「だが、大層苦しそうな顔色だが、一体お前さんのうなされた、夢見というのはどんなふうだったのです。見れば、いまだに汗が浮いているけど――」  星眸《せいぼう》ともいうべき眼尻も衰えが見え、紅唇《くちびる》はしぼんだように見えたが、雪之丞は艶のわるい頬を、ほのあかく染めて、 「闇太郎さん、ほんとうに、わたしはばかな夢ばかり見るのですよ。こんなことは、いうまいと一生思っていたのだけれど、あの浪路さまを、始終夢に見るのです。もう、どうせ、相手も歿《なく》なった体だし、どう思っても仕方がないのだけれど――」 「なるほど、そりゃあその筈だ。お前さんを思いつめて、あんな可哀そうなことになったのだし、あッしも実際、あの事は気になっていたのだ。もう、恩怨いずれもありゃしねえ、土部家の墓だって、三斎がはいっていたってかまわねえじゃありませんか、ゆっくり参詣して、お前さんの心のなかを、浪路さんの墓石に、ゆっくり話すのも好いでしょう。」  闇太郎は、そんなふうに言って、気を代えさせようと勤めながら、 「お前さんの方は、それで話がきまったとして、今夜新町の茶屋へ行った帰りに、二人ばかり侍に行きあってね。」  と、そこで、彼は、節面白く、先ほどの侍が、脅迫じみたことを言った末に、斬ってかかるのを掻いくぐり、溝川《どぶがわ》のなかへはめてきた有様を話して、 「それがお前さん、あッしが盗賊闇太郎になる前の、そら、いつかも話したでしょう、同心の忰っていうわけでね――衣笠貞之進というあッしの親父が、佐伯五平という奴に切腹させられた口惜《くちおし》まぎれに、小忰だったあッしが夢中になって挑んでいったが、その当時の貞太郎には、及びもつかない相手だったというのがそれさ。そいつを、溝っ川へ叩っ込む前に、気がついていれば、なあに、今夜こそそのままにはおかなかったのだが――彼奴もそれと察したようだから、いずれ、芝居の方へでもやってくるにはくるだろうが、御存じの、九寸五分は、お約束通り持ってはいないが、今度はただはおきませんさ。」 「まあ。」と、雪之丞はびっくりして、 「それでは、その五平とかいう奴が、大阪まで来ているのですね。すると、その男は、幕府隠密に違いない。あなたも、その男が居たればこそ、いろいろ苦労もおしなすったのだから、芝居へ来るなり、当家へくるなりした上は、存分にしてやらなければ――」  雪之丞は、自分が、長崎表で滅びてしまった両親《ふたおや》のために、どれほど長い艱難辛苦をしたあげく、あの江戸のまん中で、十人あまりを巡繰りに相手にして、とうとう今日の、面晴れした身となったのを、思いださずにはいられなかった。闇太郎の心持ちも、どんなにか推量せずにはいられない。  互の、思いは深く、つきない。二人は黙りあってしまった。そのうち、雪之丞がなんだか身うちが冷《ひえ》てくる気がして、癆咳特有の咳が出はじめる。 「そら。」  闇太郎はしまったというふうに叫んだ、 「あッしという男も気がきかねえ。咳が出ちゃあ何より困る。さあ、この薬を服《の》んで、それからっと、そうだ、横になんなせえ。」  枕許の火鉢へ銀瓶をかけ、薬が煮えたったと見ると、注いですすめる。 「そういっているうちに、二月もなかばになりますよ、元気でひとつ江戸入りをなさるんだね。」    かしまだち  雪之丞の病いは、医者の一所懸命な療治により、日ならずして素人目には快《よ》くなったように見えた。  中座の方の都合も、仕打ちたちは渋々ながらつけてくれたので、江戸から迎いに来ていた者たちは、それッということになって、万事万端、手ぐすね引いて待ちに待っていたので用意はすぐに調った。  二月十四日の朝まだき、いよいよ雪之丞の一行はかしまだつことになった。だが、日ごろから、こういうときは、附きっきりで世話をやく、抜目のない闇太郎が、昨夜っから顔が見えない。もう出発の時刻《とき》も間近だというのに、まだ顔を見せていないのが、雪之丞は気になった。 「ゆうべおそく、とても元気で、あッしだってこれで、大阪《こつち》にも長いことになるから、ちっとやそっと、逢いたい連中もありまさあね。今夜《こんよ》は二三|刻《とき》ひまをくださいと、みんなの前で、わざとのように言って出かけたが、それにしても今朝の帰りは、あんまり遅すぎる。もう明六ツが鳴ってから、だいぶ経つのに。」  すっかり旅立ちの仕度はしてしまったが、疲れた頬のあたりを気にして、ぼんぼりの光りを近よせて化粧を直しながら雪之丞はそんなことを呟いていたとき、闇太郎はひょっくりと帰って来た。  雪之丞の左右に、人気《ひとけ》がないのを見すますと、闇太郎はにたりとうち笑い、 「どうも、出発の前晩に、とんだ苦労をかけましたね。あッしもね、折角逢いたがっていた奴に、具合よくぶつかってね。そんなわけで遅れたわけでさ。」  雪之丞は、紅を濃くさしくわえていた、薄化粧の顔を闇太郎の方に振りむけた。このごろに見ない透き通るような美しさを、天下一の美男と騒がれるわけだと、闇太郎も凝《じつ》と見かえした。 「闇さん、不思議なものですねえ、今日の日まで、どうしてもそのお方に逢えなかったのにねえ。」  では、親の敵の、佐伯五平をやったのかと、雪之丞は言葉のなかにふくめて言った。闇太郎は、大仕事をはたしたふうでもなく、 「向うは、御存じの大将をまぜて三人ばかり来たが、こんどは、九寸五分にも及ばないというわけでしてね。ちょうど、高津のお寺のところで、彼奴あめちゃくちゃに叩き伏せてやりやしたよ。他の連中は、まあ、手負いというふうだが――」 「まあ、それは、とんだ騒ぎでしたね。世が世なら、わたしとしたって、こうしては居ないと思っていたのに。よかったねえ。」  雪之丞は、守り本尊の、楊柳《ようりゆう》観音の小さな軸に手をあわせると、立っていってくるくると巻いて懐に入れた。 「さあ、これで、此方のほうはすっかり片づいたとして、太夫の方は、仕度はすっかり出来ましたかね。」  中座の大立物中村菊之丞が来る。太夫たちがくる。支配役たちが来る。大勢の役者や劇場《しばい》関係者たちがくる。そうした人たちが膳部をひかえて、目出たくかしまだちを祝った。その賑いの中でも、師匠の菊之丞だけはなんとなく名残りが惜まれるか、 「お前も中村座へいったら、体を大事にして、二のかわりは断ったが好い。早く大阪へ帰らなければいけない、わしはその日を待っている。」  雪之丞は、芝居へ出てから、師匠の手許を離れるのは、こんどがはじめてだ。なんとなく涙ぐみそうになるのを堪《こら》えて、 「では、お師匠さま、行って参ります。どうぞあなたも、お体を大切に。」  かしまだちはさんざめいた。外は二月の早春。雪之丞だけは門口から駕籠に乗った。紫の野郎帽子、紺ぽい地色に珊瑚樹が縫いこんである着物に、帯は朱へ青海波《せいがいは》の厚板織、それへふわりと黒びろうど襟小緑の道行きらしいものを着ているのが、なんとなくなまめかしい。これに従うのが例の闇太郎――合羽着に、手甲脚絆、道中差しを一本さして、笠はわざとかぶっていない。  猿若町からの迎いの手代三人が先頭に、弟子が七人ばかり後につづく。 「まあ、雪之丞さんが、とうとう江戸へお出なさる。」 「ほんとうに、こっちの芝居は一月も休んどいて、江戸へ行くなんて――いつお帰りのつもりなんでしょう。」 「でも、もうすっかりお癒りになったようね、嬉しい。」  と、近所の娘や女たちは寄りあつまって目送する。  雪之丞はそれに答えて、笑《え》ましげに会釈をした。そして、一行は東へ、東へと、のどかな旅をつづける――    大井川出合い  此処は江戸から五十里あまり、大井川へかかる島田の駅の、大きな旅籠《はたご》屋――いずれも朝が早い出発に、仕度にいそがしいその中で、離れに泊った二人連れの武士は、別に急ぐでもないふうだ。年若い方のは、茶無地の着もの、紺のらせいた[#「らせいた」に傍点]羽織、緑っぽい縞の袴、眼つきは力々《りり》しいが色は浅黒く、二十四五の見当。年配の方は、座蒲団も敷かず、一々御尤という態度で、応待している。 「此処までくると、阪地《はんち》へは、半分近く来ているなあ。甲府小普請も、四年勤めたが、その間に、なんど大阪へ行きたかったか――でも、よい。もう今度は逃さぬ。なあに、たかが、芝居もの風情――」  この者こそ、かつては長崎奉行、役義を止められてからも、娘浪路が将軍家の寵を得ているのに贅《おご》った、三千石土部三斎の一子仙介だ。三斎浪路が不祥の死を遂げたので、兄駿河守は蟄居《ちつきよ》、その後、一家は甲府勤番に左遷されて、やっとこんど小普請入りを免ぜられて江戸へ帰ったのだった。  若い仙介は、一門が指をくわえて、たかが女形風情に圧迫されてしまったのが、残念で残念でたまらない。家柄を思えと、家禄だけにしがみついている者たちへの面あてにも、自分の手で雪之丞を刃の錆《さび》にしなければと思い込んでいる。それで、一族同門の怨念はもとより、あの時に滅びた、長崎表からの徒党一味の仇も討って、どうにかして男子の本懐を達したい一念に燃えさかっているのである。  仙介は、別に声をひくめもせずに言った。 「いくら雪之丞が強くっても、こっちにも無念流がある。お前さえ強《しつ》かりしていてくれれば、芝居小屋へ出入りの途中、一刀のもとに斬って捨てるが――」 「ええゝもう、それは、あなた様が一所懸命ならば、先方は油断がありますから――しかし、あの男は、全く見かけによらぬ、実際怖しい奴に違いはありません。」  と、この方は声をひくめる。 「なあに、この四年間粉骨砕身して手腕《うで》を磨いた体だ。拙者も、今までの身分ゆえ、それは助勢もあろうが、たかが女形の一人ぐらい、なんでもない。」  ところが、この離れと、母屋との間の雑木林の木の下で、朝の逍遥ともいったふうに歩き、停《たたず》んでいる女の耳に、それがきこえたのであろう、女はくすりと笑って、 「ふん、雪さんの手のうちも知らないで、脅そうとして威張っているよ。」  まあ、おかしいとでもいった恰好だ。土部一家の仕打ちを、絶えず窺っていたお初は女|掏摸《すり》である。仙介の大阪行きということになったので、彼女は尾行してきたのだった。  お初は、一時は、かなわないほどなら殺してしまおうと、古寺の床下の、隠れ穴にまで雪之丞を追いこみ、短銃までぶっぱなしたことがあったほど、激しい思慕《おもい》を雪之丞に対して抱きながら、それだのに、どうにもならぬこの世の因果、さっぱりしてしまった筈の今でも雪之丞のことといえば、影になってかばって、今だに思いきれないでいる。  なかの侍は言った。 「さあ、これからが大井川だ。川止めにもあわずにすましてしまえば、後は東海道を楽に見物しながら行ける。勘定を済まして当家を出よう。」 「はい。」  と、年寄侍は、手を打って女中を呼んだ。  どんよりした空合が、薄日のさしているのもかげってしまった。往《ゆき》さ、来るさ、旅人たちは冷たいものの降らないさきにと、川を渡るのを急いでいる。  大井川の川越し人足の寄せ場には、旅人の群れがさきをあらそっていた。ところへ、やって来たのは、当然三千石の家格ならば、槍を立てるわけだが、それもはばかって、仙介主従も川渡りの旅人《りよじん》に交った。その後に、破れのない菅笠をかぶったお初が、かすりの合羽に甲斐甲斐しい姿を包んで、あの豊満な、年増姿を河原に立った。  めい/\の人足が定《き》まると、 「さあ、乗っておくんなせえ。」  と急立《せきた》てられて、仙介主従が、まずさっと、渡し込む。 「大丈夫かねえ、人足さん。わたしゃ川のなかで、悪ふざけすると承知しないよ。」  笑いながら言って、お初も川越しの肩馬に、両足《あし》を割って乗る。 「姐《あね》さん、戯語《じようだん》は言いなさんな。さあ、好いかね、渡すよ。」  これも、滔《とう》々たる川中へと乗り入った。  大井川の流れは、深いところは胸を越す、浅いところで二尺七八寸、雪消《ゆきげ》の水が増して、日和つゞきではあるが、相当に川瀬は急だ。だが、ここだけは、渡船もないし、川の中が往来だ。しかも、一人と一人がお定めで、代え人足のついてゆくのもあれば、四人乗りの蓮台《れんだい》から、一人の小さいのにまで、人足は二人増し、四人増し、八人、十二人、身分のある人のへは、人垣をつくって水をせいているから、その賑かなこと。それに人足は饒舌だ。 「おい、定衆、あすこへ来たのは、たしかに女形だぜ。そら、野郎帽子をかぶっていらあ。」 「うん、役者だ、役者だ。たんまり酒手は出たろうな。」 「つけわたりゃ好いだろう。江戸もんがついてる様子だ。」  最初に目を附けたのが、年寄侍を肩に乗せている、定衆という人足だった。そこら中に響きわたる大声でいったから、お初もそれをきいて、ちょいと向うを見ると、ハッと驚いて、 「あらッ、まあ。」  と、思わず叫んだ。  年寄侍はもとより、主人仙介も驚愕した。あれこそ、まさしく、大阪に居るとばかり思っていた雪之丞だ。なんと不思議なことに、江戸をさして下ってくる。  雪之丞はゆったりと、蓮台に乗って、それをとりまく同勢は十二三人、いずれも傍《わき》について渡ってくるところだ。  やや、へだたりはあるが、それはまぎれもない雪之丞だと見ると、 「おい、人足、いま来た方へ帰してくれ、こらッ人足。」  と、仙介は、人足の肩の上で、殆ど棒立ちになるばかりで焦った。 「なんだって? ここまで来てから、引っかえすんだと――ばかいっちゃいけねえ。河の中にも道はありますよ。あっしどもは向う河岸にあがらなければならねえ。」  人足は、あぶなくのめるところを、踏んどめて、怒ったように叫んだ。 「忘れものでもあるんですかい、お武家さん。」 「いや、そうではない、わしは用があるのだ。」 「それじゃあ、一ぺん金谷へ渡ってからにしておくんなさい。」 「つべこべ申すな、早急に引きかえせ。」  仙介は我儘に、額にかけている両手で人足の頭を揺さぶる。  そのひまに、雪之丞一行は、景気の好い掛声で、流れを切って、河の中心に進んで来た。 「なんとまあ、めっぽう美しい女形じゃねえか。」 「あれは多分、上方役者の雪之丞だ。江戸へ行くと見えるな。」 「ぞっとするね、あんな美しいのに逢ったのも、お客さん、この肩馬に乗ったからだよ。」  などと、人足も旅人も、わッわッという歓声を、川音にまじえるのを、この若女形はほほえんで受けて、誰にも彼にもそらさずに会釈をしながら渡ってゆく。それを担いだ蓮台の人足たちは、意気揚々として、ヨーヨーという掛声も勇ましく、ほとんど流れの音も消すばかりだ。  しかし、土部仙介は顔色をまっ蒼にして、 「こら、帰さぬかッ、もどせ。」  と、乗馬《うま》を蹴るように足をバタバタさせて喚くのを、年寄侍は自分の乗った人足を近よらせて、しきりになだめ、止めているのだが、その声は、川瀬の音にまぎれて、きこえない。  すると、ふと、この侍たちの様子を遠くから眺めた闇太郎、急に雪之丞の蓮台の傍に自分のを乗り入れて、 「こいつあちっと、雨模様だ。さきを、とっとと急がないと降って来ますぜ。そら、あすこに居る侍たちも、さきを急いでいるふうですよ。」  と、にやと笑って、顔面蒼白な武士を、※[#「月+咢」、第3水準1-90-51]《あご》でさして見せた。  雪之丞は、その方を眺めると、眉を顰《ひそ》めて、 「短気らしいおさむらいさんが――」  と、いったが、 「本当に、降って来そうだ。」  そのくせ、笠をかぶろうともしないで、眼を反らしただけだ。  こちらの川の中では、雪之丞の蓮台が、一きわ威勢よく川水を蹴立てて、もうやがて島田の宿の河原に着くのを、うつむけた菅笠のかげから、これも肩車の人足を、川中で止めて、面白そうに仙介主従を眺めていたお初が、そっと見送った。  ふと、気を変えたお初は、例の小気味のよい薄笑いをうかべて、 「なんてまあ、太夫は綺麗なんだろうね。ねえ、ごらんよ、人足さん、豪勢な景気じゃないか、いくら金を撒いたって、あんなこたあ大名にも出来ないね、まるで、あの連中が川止めにしちゃったようだ。」  お初がいう通り、川止めのように、これから越そうとするものが立ち止まって、雪之丞の蓮台の着くのを、わッわッと騒いで待っている。  お初は皮肉だ。 「おやまあ、そこのお侍さん、どうかなすったんですか。顔色を変えてさ。そんなに反っくりかえると、川のなかへ落っこちますよ、もうし、お武家さん。」  だが、仙介の耳にはきこえよう筈もない。彼は、ギリギリ歯がみをして、 「もとへもどれ、帰れ。」と、体じゅうに力を入れて、人足をねじむかせようとするのだ。そんな武家風《さむらいかぜ》を吹かせて、東海道《ここ》の道中がなるかと、むかっ腹をたてた人足の顔色を見て、びっくりしたのは年寄侍、 「かんにんせい、かんにんせい、鳥目は充分にとらせる。」  と、武士の体面もわすれて、拝まないばかりに慌てていって、 「この通りじゃ、この通りじゃ、頼む。」  と、しきりに首を下げるようにしてなだめるが、人足も気が強い、 「抜くなら抜きゃあがれだが、頼まれれば仕方がねえや、なあお武家さん。」  仙介を、流れの中へ、たたき込みかねない見幕だ。 「なにを。」  と、仙介は目を剥《む》いたが、強腹《ごうはら》でならない人足は、その時仙介を振りおとすかと思うほど早く、ざふざふと急ぎ出した。後へもどりはしたが、ぐっと深い方へはいっていって、 「おゝ深けえ、おゝ深けえ。」  と、わざと大きな声で喚きたてた。のせている年寄侍の周章狼狽をよそに、定衆も、お初の人足も、近くを通ってゆく人足たちも小馬鹿にしてみんな笑った。  こっちはまた、勇みたった人足が、脚を揃えて、さっと蓮台を河原へ担ぎあげた。中村座の手代や、闇太郎が両手をあげて、煽るように礼心を示すので、人足たちはすっかり調子づいている。花出車《はなだし》をかついでいる気分で、川から上っても、わっしょいわっしょいと囃している。  何処からともなく伝わって、大阪下りの若女形中村雪之丞の江戸入りだと、物見高い見物が、旅人といわず、宿の方からまで駈出して集ってくる老若男女の群れ、その中を縫って、素早く闇太郎が駕籠をととのえる。 「では、また、帰りには、ゆっくりとお世話になりますよ。」  と、いう雪之丞の言葉をあとに行きすぎるのを、見送る見物人。一行の後姿を伸上って見ながら噂をしていたものが散りかけたところへ、血相を変えて上って来た仙介主従は、年寄侍が人足に鳥目を渡すひまも待てず、仙介は転がるように河原を駈出した。  と、深編笠の、きりりとした旅装束の男が、仙介より一足早く上って、すたすたと急いでいたが、いま、袖を摺らないばかりに追いぬいてゆく仙介を、後から肩をつかんだ。 「何者ッ。」  と、噛みつくばかりの見幕で、捻じむける仙介の顔へ、おっかぶせるように、太い声が編笠の中からいう。 「あの一行に、手をお触れなさるな。」 「いいや、宿怨があるのだ、おはなしなさい。」 「ならぬ。」  と、仙介の上ずった声を押しつけていった。 「ならぬとは何事だ。あの女形を刀にかけねば、拙者一分がたたぬのだ。」 「重ねて申す、只今は御遠慮ください。」 「敵を討つに、邪魔をなさるか。」  仙介はいきまいて、刀の鞆《つか》に手をかける。 「今は、時機《とき》でござらぬと申すのだ。長くとは申さぬ、江戸着両三日後まで、辛棒なさい。」  仙介は、何をばかな、問答無益とばかり行きかけるのを、 「お待ちなさらぬか。」  と、深編笠の男は、近くに人足《ひとあし》がないのを見定めて、声を高めて言った。 「拙者は、あのものどもを、阪地から尾行いたしてまいったものだ。あの中に尋常ならぬ使いをいたすものがあるので、その行きさきをつきとめるまで、彼等に用心いたさせるような振舞いはおつつしみなさい。将軍家へ不忠でござる。」  そう、きっぱり言われると、仙介とて時勢を知らぬわけではない。見す/\敵を目の前に見てと、残念さに、足のさきまでぶる/\顫わせながらも、踏み止まらなければならなかった。  太い声は、猶も、半ば仙介を慰め、なかばは嘲りをふくめていう。 「お見受けすれば、壮年の御武家。あれらごとき芝居者を相手に、お騒ぎあるほどのことは――」  その時、漸く追いついた年寄侍は、編笠の男に会釈しながら、その言葉の、尻馬にのって、 「もうこうなれば、江戸でゆっくりお仕事をなさることにして――」  と、仙介の袂をおさえないばかりに慰撫《なだ》めている。 「たかが、あのような化もの。男の屑のあんなものをお斬りなさるのは、豆腐を斬るもおなじではござらぬか、つまらん。」  噛んで吐き出すふうにいう編笠男に、仙介の面目は丸つぶれ、小癪にさわって、顔面をぴくぴくさせているばかりだが、年寄侍は黙して、頷くふりをして相槌を打った。  正体の知れぬ編笠男が、とってつけたような豪傑笑いを、からからと笑うと、何処から出て来たのか、お初が通りすがって、三人を流し目に見て、ふふんというふうに傍らを通っていった。    月 夜 話  中村雪之丞の名入りの立幟りが幾十となく立ちならび、吉原、魚河岸、その他の盛り場や贔屓からの贈りものは、積樽から、引幕、朱塗定紋附の大鏡台、座布団、部屋着といったふうに、茶屋/\には緋毛氈を引いた雛壇をつくって飾りきれないほどで、前景気を見物する人で猿若町中村座の前は雑閙《ざつとう》しきった。 「ちょいと/\、あの花駕籠へ乗って、乗込みをしたのだとさ。」 「ああ、あの花駕籠なの。」  と、娘たちは、座の表木戸口に飾ってある、緋や、浅黄や紫の、鹿の子しぼりの茵《しとね》が、三枚も重なっている、屋根に花飾りをした空っぽの駕籠を、懐しそうに覗いている。 「以前《せん》に来た時もよかったんだってね。あの時、あたし見そくなったから、今度こそ屹度《きつと》見なけりゃあ――なんしょで願がけしてるのよ、こんどの芝居、かならず見られますようにって。」 「見れば見たで、ぽうっとしてしまって、毎日見たくなるし、困るわねえ。」 「それもそうだけれど、乗込みの、手打ちの式を見りゃあよかったわねえ。江戸中の鳶頭が日本橋まで迎いに出たのですって。」 「芸者もだってよ。雪之丞は、お振袖で、薄紫の裃をつけていたんですって。」 「手拭撒いたっててよ。」 「簪も、定紋《もん》のついた紅板もよ。」 「ほしかったわね。」  二人が顔を見合せて溜息をついたとき、おなじ思いの若い女たちは、おんなじような溜息と、ほゝえみを交しあった。  しかし、その当人の雪之丞は、長い道中をゆられて来たために、また薬に親しんでいる。  一座する役者たちだとか、座方のものとか、顔を見せなければならない贔屓などに逢っては、 「わたくしも、こんどこそは、師匠もおりませぬので、一所懸命に舞台をさせていただきます。清玄などという芝居は、あちらでも評判がよろしゅうございました。」  なぞといって、自分でも桜姫の、あの凄艶な舞台に酔うようなことをいうのだったが、どうも雪之丞の病気は重そうだということが、一層こんどの出勤を評判にした。 「太夫も、ことによると、こんどぎりで見られねえぜ、惜しい役者だが。」 「うん、あんまり綺麗すぎるからな。あんなな、ほんとの女にもねえものな。」  そんな、華かな人気のなかで、雪之丞がなんともさびしく思ったのは、あの、剣術の師匠、一子相伝の秘巻を許してくれた脇田一松斎が、つい先日死去したということや、漢学を熱心に学んだ孤軒老人が、例によって雲を踏み、霞を食うという態度で何処へか行ってしまったという、楽しみにした恩師二人に、逢うことの出来ない心に大きな空虚《ひび》のあることだった。  ――あのお二人は、自分の大事の敵打ちを、あとまで熱心に扶持して、望みを遂げさせてくださった方だったのに――  この二人が居なければ、生きて逢う、悦びの人はほかにないのだ。  芝居裏の、静かな家を仮住みにして、あと二日で、初日というある夜、更けてから闇太郎が、例によって結城縞の着附けで、 「どうも、江戸というところは煩《うる》さいね。」  と、みんなを寝かせて、静かに今度の出しものの中幕につかう三曲の、胡弓《こきゆう》を弾いて見ている、雪之丞の傍に来て言った。雪之丞は胡弓の手をとめて、 「では、編笠の侍とかが?」 「いやね、そいつあもう心配しなさるにゃあおよばねえ、とっくに仕事はしてしまって、そいつの鼻毛は抜いてやったが、なんだかだと面倒さ。だが、お初がいうにゃあ、あの土部仙介もおかしなやつで、一門の奴等がなんといっても、彼奴素的に因業もので、助勢はまっ平御免だと、あくまで、お前さんと一騎打ちする了見でいるというから、油断は大敵ですよ。」 「そりゃあそうかも知れないが、あの人がわたしを打つとなれば、又敵打ちは法度で止めてあるし、出合った時は、充分それを言ってあげるつもりだけれど――」  闇太郎は、まだ何か言いたそうだったが、ひろげてあるせりふ書きなどを見ると、他のことを、二言三言はなして、 「咳が出なさるようだから、早くお眠《やす》みなさるがいいね。」と立っていった。  雪之丞は寝もやらず、大井川で、ちらと見かけたお初の、いまもかわらぬ心づくしを悲しく思っていた。  そして、それからそれへと、わすれかねる浪路のことや、陰惨な自分の過去未来を考えるうちに、びっくりするほど早く時がたって、もう丑満だった。流石《さすが》繁昌の土地も、すっかり寝しずまってしまった。厠へたって、手を洗おうとして雨戸をあけると、こんもりした植込みのかげに、ふとうずくまった人影がある。  落附いた雪之丞、雪洞《ぼんぼり》を手にもちかえて、 「誰じゃ、そこに居なさるのは。」  雪洞の光りに照らされるまでもなく、月夜のなかに姿をあらわしたのは、空色のおこそ頭巾に、色白な顔をつゝんだ女―― 「まあ、お前さんは、お初どのではありませんか。」  お初の焼きつくような眼は、雪之丞のそれと出あったまま、絡みついてはなれなかった。 「太夫さん、わたしゃどうしたものか、この頃ばかになってしまいましたよ。闇の親分の後について、此処までやって来ましたものの。」  と、苦っぽい笑みを口の廻りに漂よわせたのが、月の光りのうちに、むしろ泣いたように見えるのである。  雪之丞は、その場にたたずんだまま、何と答えてよいものやら、返事も出来なかった。 「わたしゃあねえ。」  お初はそういって、猶も口許を歪めつづけながら、 「今では素っかたぎになって、暮していますということだけでも、お前さんの耳に入れたいと思って――じゃあ、左様なら、雪之丞さん、もう二度と逢えるお初ではないと思いますよ。」  と、そういうなり、彼女は、もっと喰い入る眼つきで雪之丞を凝視したかと思ううち、月の隈になっている木立ちのかげへ、すっと見えなくなってしまった。  雪之丞はたゞ立ち尽していた。  言葉をかけようか、かけまいかという気もしていたが、ほっと溜息をつくと、そのまま雨戸をしめてじぶんの室《へや》にかえった。  寝床へ横になると咳が出て、再び起きあがる。咳がおさまりかけると、また、血痰だ。懐紙にうけたのを燈火にかざして眺める。  夜は深い。    敵うたず  いよ/\芝居は今日が初日。雪之丞は夜明け前から寝床をはなれて、急いで嗽《うが》い手水《ちようず》をすまし、鬘下地に結わせ、雪と牡丹の花が黒地に縫いの着物を着て、闇太郎に急用があると呼ばせた。  闇太郎は、はいってくるなり、 「お早よう。おゝ、五年前とおなじ衣裳で、どこへお出かけになるのですえ。」 「まだ芝居の開くには、一時あまり暇があるほどに、これからわたくしは、お墓へいってくるつもりです。」 「今日までなんともいわないから、どうしたことと思っていましたよ。そうだ、その衣裳で浪路さんに逢いにいったら、よろこびなさるに違いねえ。あッしも一緒にお供しましょう。」 「浪路どののお墓へは、わたしとお前さんだけでなくてはいけません。」  と、雪之丞は弟子に乗物を呼ばせた。  晴れてゆく朝の空には、霞がたなびいていた。まだほの暗いうちから、中村座行きの娘や内儀たちは、今日を晴れと着かざって、陸続と通りすぎる中を、雪之丞は駕籠の垂れをおろさせて過ぎていった。漸く人足《ひとあし》が絶えたところへくると、闇太郎が、 「さあ、垂れをあげても大丈夫ですよ。ごらんなさい、この、朝の風情をさ。」  と、いって駕籠わきへ立ち、 「どうです、上野三界というけれど、眺めの好いのは、此処らあたりでしょうね。」  と、天王寺の塔が、ほんのりと見えるあたりを指差した。  雪之丞は、何もかも感慨がある。猿若町の舞台をふんで、江戸の人に見てもらうのも、こうした景色を見るのも、みんな浪路のたまものだとも考えて、 「三日見ぬ間というが、もう桜もちらほら咲いている。」  そういいながら、心では、早く/\と墓地へ行って、心のたけを訴えたいと願っていた。  いつか路は、上野山下を通りすぎて、鬱蒼とした常磐木《ときわぎ》が茂ったあたりへ出て、谷中《やなか》の寺院が見えるあたりに来た。 「さあ、この辺で駕籠をおります。」  と、雪之丞は、紫っぽい鼻緒の草履を穿き、闇太郎にとある寺の中へ導かれていった。  闇太郎は、寺男を断わって、自分で閼伽《あか》桶と花を提げてくると、おなじような石塔や、垣構いの細路を通りぬけて、土部一族の墓場へ案内した。 「もう五年になるが、あの時は阪地へゆきがけに来た時は、新墓で線香の煙りが絶えなかったが――もう苔が生えたねえ。そらこれが三斎の墓だ。あすこに、一墓《いつぽん》離れているのが浪路さんので、亡骸は、あの下に埋まっているというわけなんだ。」  雪之丞は、清光院殿月明三斎居士とあるのには、ほんのかたちばかり首をさげたが、浪路の墓石の前へ、居くずれるように膝まずいた。 「浪路どの、とうとう雪之丞は、江戸へ来て、あなたにお目にかかることが出来ました。」彼の顔色は蒼白に変り、次の一言をいおうとする言葉もいえないほどに、身ぶるいがして、懐中からとり出した香を手向けるのもやっとだった。そして、うずくまったまま黙祷をしつづけている。  しかし、雪之丞は泣いてはいない。彼はただ、渺漠《びようばく》たる過去を考え、それを忍んでいるだけだ。闇太郎はひとりごちて、 「いくら将軍家のお手がついても、もうこうなっちゃあはじまらねえな。生きている時には、素晴しい美貌《きりよう》の女《ひと》だったが。」  ふと、闇太郎は、寺の裏手から、こっちへ近づいてくる武家をみとめて、 「おや、あれは。」  と、いいかけて雪之丞にむかい、 「あれは、一件の人ですよ。いつもの勢いは、ないようだが――」  雪之丞もそう言われて、きっとして眺めた。  なるほど、土部仙介が、この朝、この墓所へ参詣に来たのに違いはない。紺ぽい着ものに茶苧《ちやう》の袴を穿いて、どことなく屈託げに見える彼だった。  この気配に仙介もこちらを瞶《みつ》めた。惺惨《せいさん》な眼の色が、この時急に殺気をおびてきらめいた。彼は歩武さえもすでに駈足とかわって、こちらへむいてやってくる。  闇太郎はみじん結城の手をこまぬいて、とある立木のそばに身を寄せた。雪之丞はと見れば、衣紋を直して、笑顔さえも見せて待っている。  仙介は墓所の扉のところへ立ちふさがって、 「これは何という引合せだ。さあ、雪之丞、尋常にこれへ出て勝負をせい。」  雪之丞は猶も笑顔をつくって、 「これは/\土部の御子息さまでございますか、あなた様の仰しゃる通り、不思議なところでお目にかかりました。」 「左様なことは聞く耳もたぬ。わしは今日、猿若町が初日だというので、お主の部屋へ斬り込む所存だった。そのさきに墓所へその旨を告げに来たのだ。」  そう言いながら、眼は血走り、口は歪み、実《げ》にも悪鬼羅刹という形相になって、大刀の柄に手をかける。  雪之丞は静かにいった。 「あたくしどもは、役者渡世、そのようなお言葉はちょっと呑込めませぬが――又敵を、打ちつ打たれつしつづけたら、この世は闇になりましょう。あたくしどもなどにしても、あゝして沢山の人たちを相手にしたのですから、それでは、体がいくつあってもたりませぬ。」  しかし、仙介は怒って、 「相手にせぬというなら、拙者ひとりで其方を討つ。おのれ、どうするかッ。」と、いいざま、するりと抜いた大剣。雪之丞は、鉄壁微塵と振りかぶさった剣の下で、顔色こそ常よりは蒼いが、微動もせずに立っていた。脇田一門での麒麟児といわれた雪之丞、やわか、仙介に斬られる道埋があろうか。  セイセイという響きが仙介の咽喉からきこえてきた。彼はその息づかいもものかは、 「エイ。」  と、いう掛声と一緒に、無二無三に斬りつけてくる。かわすと見えた雪之丞、早くも手をとって相手の体をおさえつけ、じたばたするのを襟許をつかんで離さず、 「仙介さま、どんなにあなたがお強くっていらしっても、この場合、お討たれいたす所存はないのです。私は幼少のおり両親が三斎さまのために横死し、家は滅びましたので、その怨みをはらそうと、長い艱難をしのぎしのぎ、五年前に江戸へ下った時に、あれ程のことを致したのです。そのことを三斎さま御墓前で、ようくお考えなすって、下さいまし。」  と、じゅんじゅんと諭してから、仙介の体を抱き起した。仙介は大刀を握ったまま、片手をついてうなだれていた。闇太郎はもうよい折と、雪之丞をうながして、 「さあ、もう芝居が遅くなりますよ。」    阿 古 屋  芝居は、初日前からの附け込みばかり、夜の明けきらないうちから、立見場まで大入り木戸止めの騒ぎだ。  お目見得口上のつらねは、中幕の上「壇浦兜軍記」のあとへ附くことになって、美しい傾城《けいせい》阿古屋で、雪之丞の芸をたっぷりたのしんでから、それから、雪之丞をとりまいた江戸の座附き役者たちの口上と、舞台一ぱいに居ならぶ役者の素顔を見ようという、見物の興味はいやが上に興奮していた。  雪之丞が楽屋口からはいると、座席がなくって見物出来ない連中が、裏木戸に停《た》っていて、どっという歓声が湧きおこる。雪之丞は、闇太郎に守られて、その人込みを、艶のない唇に、笑《え》まいを残しながら、やっとの事で見物人をわけて、部屋にはいった。  阿古屋の琴責めと口上、そのあとに桜姫を勤めて雪之丞は解放されるのだ。見物はそれだけでは堪能しなかろうが、病後だからと、座方でも大事をとったのだ。  さて、太夫元や、関係者たちが、入れかわり立ちかわり部屋へはいって来て、その賑かななかに、もうやがて中幕は明こうとする。雪之丞は弟子たちや、床山や、衣装かたに手つだわれて、波に龍宮の縫い箔の、金襴どんすの褂《かけ》や三枚重ねの胴抜きの衣装を附けた。前へ下がる帯の模様は、龍宮の満珠の玉。帯も褂も、立波のくだけるしぶきは、水晶がちりばめてある。髪は大きく立て兵庫に、数々の櫛簪《くしかんざし》が重く、それを着たら、どんな若女形でも、目が廻りそうだと思われた。 「どうも、なんだか、今日は体が悪そうだが――」  と、闇太郎は、心配そうにさゝやいた。雪之丞は悲しい微笑で頭を振って、 「大丈夫ですよ、まだ、これくらいの衣装を着て、琴責めには負けていられません。」  喝采は遠く舞台の方から響いてくる。雪之丞、雪之丞と呼ぶ声が、場内を圧倒するようだ。 「太夫さん、出でございます。」  と、男衆が知らせてくると、 「では、行って来ますよ、闇さん。」  さすがに、ロ許に薄く笑みをうかべて、闇太郎を見る。闇太郎はなんだか不安さに、もう見かえろうとはしない、雪之丞の、白い素足を眺めた。  わッ、わッ、というどよめきを前に、いよいよ若女形は、割竹をもった二人の下役に追われながら、舞台の上の堀河御所の白洲に坐った。例の秩父庄司次郎重忠と、岩永左衛門の赤っ面とが、二重屋台の上には控えている。  誰もが知っている通り、この芝居はすこぶる手順よくはこんだ。雪之丞の三曲は人を魅了して、見物一同鳴りをしずめた陶酔境にひたっている。そして幕近くなって、榛沢《はんざわ》六郎が、 「いざ、阿古屋、たちませい。」  と、呼ばわると、雪之丞の阿古屋は、しと/\と座を立ち、二三歩あるいたようだったが、カチと、柝《き》がはいるその拍子に、カッと血を吐いた。その血の量は、彼ほどの名女形にも、どうにも押しかくすことも出来ない様子で、よろ/\とよろめいた。そして、ます/\吐きつゞける。  何よりも慌てたのは、役者たちだった。つづいてその動揺は見物に移ってゆく。 「あらッ、血を吐いた。」 「雪之丞さんが血を吐いた。」  こうした叫びと一緒に、 「幕だ、幕だ。」  という声が、舞台で鳴り響く。  やがて、贔屓から雪之丞へおくられた縮緬《ちりめん》の幕が、波を打ってひっぱられた。  幕の裏に倒れた雪之丞は、おそらく、これが最後と思ったのだろうか、しきりと眼をあげて、そこらを探ねていた。すると、顔色を変えた闇太郎が走《は》せつけて、雪之丞の手をしっかりと握った。 「太夫、太夫、強《し》っかりしなければいけない。」  雪之丞は、その声をきくと、息も絶々の下から、 「あたしは、仕残したことが一ツある。広海屋の赤んぼを隠したままだから、母親にかえしてやっておくれ。」 「そいつなんだ、あッしが言いそびれていたのは。」  と、闇太郎はせき込んでいったが、 「安心してまかせといてくんなせえ。」  と、耳に口をつけて言った。雪之丞は、がっくりとうなずいたようだった。  座方は、すべて、一種のエ奮に渦まいていた。医者が来たころには、雪之丞は楽屋にはこばれて、鬘《かつら》ははずしていたが、その手足は冷たくなっていた。弟子たちがさめざめと泣いている傍で、闇太郎はどうしていいかわからぬといったように、ぼんやりしていた。    ×     ×     ×  春ももう深くなった。八重桜が吹くともない風にふかれて、どこからともなく散ってくるような真昼時、鈴が森の波打ちぎわのあたりに、小意気な男女が停《たたず》んでいる。手甲脚絆、藍みじんの結城という拵《こし》らえが闇太郎、もう一人は阿呆のように気のぬけたお初だ。闇太郎は、 「一体お前は、どこまでついてくるんだね、お初さん。」  と、いいかけて、相手の顔をちら/\と見た。紺がすりの合羽に、身をやつしたお初は、ぽかんとしていたところを、相手にこういわれて、 「さあ、何処まで行くか知れないが、まあ、あたしを、暫くお前さんと一緒に歩かせておくれよ。」 「そうかなあ、お前がそういうんなら、まあ、それも好いだろうさ。雪さんの弟子たちはさきへ帰してしまったから、今度は、俺も自由の身さ。おれはもう、江戸はふツふツ嫌になったよ。上方へでもゆくよりほか、仕方がねえや。」  と、いったが、闇太郎はふと気を返して、真剣な面持で、 「お初さん、どうせ行末は野晒《のざらし》の二人だ。上方へいったら、命を的の、生き甲斐《げえ》のある仕事をして、膾《なます》にでもなんでも、きざまれようじゃあねえか。」  お初はどやしつけられたように、眼に生々と灯を点しかけて、にこりと頷いた。 「じゃあ、そろ/\出かけないか。」  と、闇太郎は行手を仰いでいった。  東海道五十三次、そのあとへまた大阪路、ゆく末ははるかである。    (了) 底本:「オール讀物・時代小説のヒーロー50傑」(1989年10月臨時増刊号) ※このテキストは、「資料庫」のカミコロ様が入力されたものを元に、神崎真が校正、ルビや訳注をつけたものです。 ====================================================  雪之丞後日  作者:三上於菟吉  入力:カミコロ  サイト名:資料庫  http://www.geocities.co.jp/Hollywood/7675/top.html  校正:神崎真  サイト名:私立杜守図書館  https://plant.mints.ne.jp/ ====================================================