雨 月 露 宿 骨董品店 日月堂 第十六話
序 章
― Makoto.Kanzaki Original Novel ―
(2013/12/20 16:03)
みぞれ混じりの冷たい雨が、ワイパーが動かなくなったフロントガラスの表面を、幾筋も伝い落ちていった。
両脇の窓は外の寒さを示すかのように、白く曇っている。
エンジンを止めた車の運転席で、彼は深く息をついていた。
これからの予定を思うと、それはため息のひとつも出ようというものだ。
しかし、自分で決めた行動だった。
いつかはそうできたら、と。以前から心の底で考えていた。
その思いは、年下の一風変わった友人ができてから、いっそう強くなったように思う。
その為にも更なる修業を重ね、少しは力をつけられたと奢りではなく手応えを感じていた。そうして今回、ようやくその夢を叶える第一歩を踏み出すことができたのだ。
ちらりと、後部座席へと視線を向ける。
シートに横たわる身体は、ぴくりとも動きを見せない。まだ当分、意識が戻る気配は感じられなかった。
もう一度、氷雨にけむる外の景色を見やり ―― 覚悟を決めるように、車のキーを抜く。
そうして彼は、勢い良く車のドアを開け、雨に打たれながら車外へと降り立ったのだった。
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