よしなしことを、日々徒然に……
※ 2017年以前の記事は こちら になります ※



 【魅了の魔眼】は危険だからと国外追放された伯爵霊嬢は招き人とともに魔族の国に拾われました。【WEB版】
2022年08月05日(Fri) 
読書記録:
■【魅了の魔眼】は危険だからと国外追放された伯爵霊嬢は招き人とともに魔族の国に拾われました。【WEB版】
 https://ncode.syosetu.com/n8145gr/

幼い頃から病弱かつ存在感が薄く、家族は愚か使用人にも顧みられなかった『伯爵霊嬢』コニッシュ・スウ。彼女の人生は十五歳で闇の聖霊神より祝福を受けてから、劇的に変わった。家族で揃って食事をするようになり、会話が弾む。使用人たちはこぞって話しかける機会を伺ってきて、入学した学園では上位貴族の令嬢達でさえ彼女を連れ歩きたがった。
誰もが優しく接してくれ、ついには王子の第二妃にとまで望まれた。食事の用意すら忘れられていた頃とは、雲泥の差である。
しかしそんな生活は、妹の友人の一言により、あえなく終わる。
『皆さんは惑わされているんです!』
彼女 ―― ヒカリは、聖霊神の召喚という大変希少な魔法が使えたため、特別に貴族学園に入学を許可された平民なのだという。そして光の精霊神の加護によって、彼女はコニッシュに与えられた加護 ―― 【魅了の魔眼】の力を打ち払ったのだ。
その途端、周囲はまるで夢から覚めたかのように、態度を豹変させた。
婚約は破棄され、激怒した両親はまるで妖魔のようだと彼女を罵り、そうして森へと捨てた。
我々の知らないところで野垂れ死ね! と、そう命じて。
父の命令に従い、森をさまよっていた彼女は、たまたまたどり着いた川辺で一人泣いていた。
自分は何も知らなかったのだ。己の瞳の力も、周囲の人々の好意が魅了によるものだということも。それでも父の判断は仕方がない。家を守るために、身内の不始末を身内が断罪するのが最善だったのだろう。
そんなふうに考えていた彼女の目の前を、何かが流れてゆく。
まずは靴、そして足。そうして膝、腿に続き腰、胸……って、人間!?
思わず腕を伸ばして岸へ引き寄せると、それは真っ黒な髪をした気を失った少年で ――


「追放悪役令嬢の旦那様」などの古森きりさんの作品。
書籍化・完結済、ダイジェスト化なし。
書籍の方は上下巻みたいですが、WEB版の方は200KBちょいなので、単行本一冊分ぐらいでサクッと終わっています。
本人も無意識のまま魅了の力を放出していた令嬢が、断罪されて追放の憂き目に。その途中で異世界からやってきた存在 ―― 招き人を助けた結果、彼ともども隣国の王族に保護されて、いろいろと常識を破壊されつつ生きる道を選ぶ系。
隣国は国交が断絶してる魔族の国なんですが、世界観は和風です。主に着物とか木造家屋とか。
で、魔族にしてみればコニッシュの魅了など、最低レベルの子供騙し。水商売の人間ならもっと強力なスキルを使っているし、そもそもほとんどの住人が耐性を持っている、「それが何?」程度の代物。それでも気になるなら魔眼封じの眼鏡をかければ? という、実にあっさりした反応。
それよりも闇の聖霊神から直接加護を与えられたという事実のほうがはるかに重要で、王族に次ぐ神子として扱うが、それだけに意志に反して縛り付けるのは以ての外だから、他の国へ行きたければそれでも構わないというお国柄。
それは招き人である少年シンも同様で、二人して森で妖魔に襲われているところを助けてくれた王弟ミゲルさんに、いろいろと便宜を図ってもらいながら、今後の生活を模索していく感じです。
……正直を言うと、コニッシュさんがいろいろネガティブすぎて、ちょっと読むのが苦痛な部分もあったりしたんですが。3分の2ぐらいでシンくん視点に切り替わってからが面白かったです。
王弟のミゲルさんや、コニッシュつきの世話役になったジェーンさんが、いろいろぶっちゃけたりするのもなんか爽快でしたし。
読み終えた感想としては、これ書籍化経験を持つ書き手さんの、マナーがあれな読者に対する遠回しなメッセージだったんじゃないかなあとも思ったのでした。
No.3228 (読書)


 ニート、冒険者になる
2022年07月29日(Fri) 
読書記録:
■ニート、冒険者になる
 https://ncode.syosetu.com/n8403gl/

大学受験を失敗してニート生活を満喫していた青年が、両親に家を叩き出されてしまい、とりあえず父親のキャンピングカーを強奪して当座の寝床を確保するも、あっという間に行き詰まった。〈駄弁り系〉生配信で稼ごうとユーチューバーを始めても、一ヶ月の平均再生数は3。当然広告収入を得るどころか、登録者がいないために広告を貼ることすらできない。
手切れ金の50万円はもう残り少ない。
こうなれば、残る手段はただひとつだった。
好きな言葉は不労所得、一攫千金。嫌いな言葉は努力、勉強。
そんな彼が始めたのは、冒険者としてダンジョンに潜り、魔物を狩ること。その生配信で ――

ダンジョンが存在する現在日本が舞台の一攫千金もの。完結済。
この世界におけるダンジョンは、ノートパソコンのような端末に冒険者カードを入れて、任意の文言(ワード)を入れると生成されるというもの。このワードによってダンジョンのタイプが異なるため、穴場 ―― 良いアイテムをドロップする、弱い敵しかいないダンジョンなどを生成できたりすると、その文言は秘匿されたり、あるいは高値で売買されたりもするという感じ。
主役はお約束通り、次々と特異なダンジョンを引き当てて、独占したり販売したり、動画がバズって企業とスポンサー契約をしたりで駆け上がっていきます。
普通ならハズレでしかないダンジョンを、逆転の発想で大当たりダンジョンにしてしまうのは面白かったです。
No.3220 (読書)


 僕は婚約破棄なんてしませんからね
2022年07月28日(Thr) 
読書記録:
■僕は婚約破棄なんてしませんからね
 https://ncode.syosetu.com/n3708fp/

ミッドランド王家の第一王子シン・ミッドランドは、10歳になり婚約者を決めることとなった。
ひとまずは表敬訪問ということで、お供一人だけを連れてのお茶会で初顔合わせとなったのだが。
シンを見るなり、相手の公爵令嬢 ―― 同い年の少女セレアは、いきなり悲鳴を上げてぶっ倒れてしまった。完全に白目をむいて意識を失っている。
「……僕ってそんなひどい顔してますかね?」
そんなことを思いつつその日はひとまず場を辞し、後日今度はお見舞いという名目で、床に伏せっているという彼女の元を訪れた。そうして、前回のことはなかったことにしようと告げつつ、マナーを無視してお菓子を食べてみせると、セレアは突然はらはらと涙をこぼし始めた。
「なんで泣くの!?」
「みたことあるんです、このイベント」
イベントってなに? と詳しく聞いてみると、なんでも彼女は一度死んで生まれ変わり、この世界に来たのだという。そうしてこの世界は、その死ぬ前の世界で遊んでいたゲームにそっくりなのだと。
うん、こういうの知ってます。十四歳症候群って言いましたかね。小説とか、冒険物語とか読んで夢中になっちゃった子供が、現実と空想の区別がつかなくなって、自分がその主人公になっちゃったような妄想するっていうやつ。まだ十歳でそうなるとは、このお嬢様もおませさんですね。
などと考えつつ話に付き合っていた彼だったが、話を聞くにつれじょじょに引き込まれていった。なにしろ彼女が語る内容には、三年前、シンが城を抜け出した際にいじめられていた女の子を助け ―― ようとして失敗。結局は衛兵に助けられたという、誰も知らないはずの黒歴史まで混じっていたのだ。
彼女は前世で重い病気にかかっており、十歳で死んだのだという。そしてこのゲームにおけるその立場は、悪役令嬢というらしい。婚約者である王子と恋に落ちたヒロインへ、いじめや嫌がらせを行い、最終的には追放されて実家は没落するのがその役目。彼女に対するハッピーエンドはないのだと。
前世で不幸だった子供が、今世でも不幸を繰り返す。なんだか気の毒になってきた。それは婚約を嫌がるのも無理ないと思う。
けれどなんだかひどく悔しい。自分がまだやってもいないことを、やると今から決めつけられて、それで婚約を断られるって、なんだかとっても理不尽だ。
それにそもそもこの婚約は、政治的な意味合いから当人達の意志など関係なく進められるはずだ。だから彼女に逃れるすべはないのである。
ならば彼女を幸せにするか、悲しませるか、それは全部自分次第ということだ。
そう思ったシンは、セレアからゲームに関する内容を洗いざらい聞き出して分析し、『攻略本』を作成。二人で幸せな未来を築くべく頑張ろうと、心に決めて ――

悪役令嬢転生モノの、お相手王子主役のお話。書籍化・コミカライズ・完結済。
「北海道の現役ハンターが〜」のジュピタースタジオさんのお話です。
シン王子は秀才型というか……まあ年齢にそぐわぬ考え方とか有能さではあるんですが、性格的にはそこまでエキセントリックでもなく、子供らしい部分を備えた常識的な人物像です。努力がちゃんと身になるタイプのリアルチートって感じでしょうか(笑)
で、セレアの話をちゃんと信じて、力を合わせてゲームの強制力に抗いつつ、絆を深めていくのが微笑ましい感じでした。
セレアちゃんもセレアちゃんで、十歳で死んで、生まれ直してまた十歳まで育ったから、中身は十歳だと思いますという、「前世の年齢足したら〜〜」とかいうタイプじゃないので、同い年の王子様といっしょに額を突き合わせて一生懸命頑張るのがいい感じ。
……ただ、いくらずっと入院してた設定とはいえ、医療に関する前世知識が細かすぎるよww
ざっくり案とか基礎知識だけ出して、あとは専門家にお任せというのは良いと思うんですけどね。でも天文関係とか、途中で作る紙芝居の内容なんて、いくらなんでも詳細すぎるわww
と言うかこの世界、病気とか天体についてがほぼ完全に地球と共通している設定でして、その他の題材も史実や古典、実在の人物を多く扱っています。作者さまも本編完結後に「元ネタ一覧」を乗せているぐらいなので、それはそれと割り切って楽しむのが良いと思います。
結末(ザマア)も、そこまで酷いことには……まあ、一人ほどやらかしすぎてアレになった人はいますが、それ以外はまあ程々のところで抑えられていて良かったんじゃないかと。
「この程度のことでいちいち人の人生、潰してしまう必要なんてないんです」という台詞が、まさに「それな!」とうなずかされました。
あ、完結後といえば、「ボツになった展開集」というのが複数掲載されてますけど、私は2つほどしか読んでません。個人的に、本編の読後感を損ないたくなくて、IFルートは苦手なんで。
でも閑話の方は面白かったです。シュリーガンとか、もっと活躍してほしかったなあ……
No.3219 (読書)


 子豚ちゃんな私は、この世界では超美少女らしいです。
2022年07月25日(Mon) 
読書記録:
■子豚ちゃんな私は、この世界では超美少女らしいです。
 https://ncode.syosetu.com/n4243cg/

魔物や獣人が存在する世界に転生した少女。前世の詳しい記憶は残っていないが、地球という星で生きていたことは覚えている。
そんな彼女には、とても切実な悩みがあった。
非常に裕福な豪商の家に生まれ、美しく優秀な両親と兄に溺愛され、自身も絶世の美女だと褒めそやされる環境。愛してくれる家族にはとても感謝しているし、恵まれているとも思う。
しかし……この世界における「美しさ」とは、地球のそれと真逆だったのである。
多めの贅肉に、肉に埋れたような細い目。低い鼻に大きな口。真っ白い綺麗な肌と艶のある髪。
鏡の中の自分を見るたび転げ回りそうになるし、美形一家と呼ばれる家族を見ても、豚の群としか思えない。これは体質的なものが大きいらしく、運動してもまったく痩せられなかったし、周囲も「傾国の美姫」である彼女にそれを求めてはいない。
そんな中、成人である十五歳を迎えた彼女は、結婚を考える時期に来ていた。この世界では基本的に日本よりも早熟で、十五歳になった女性に誕生日の贈り物をすることで、男達は自分を結婚相手候補として意識してくれないかとアピールする風習がある。むしろひとつも贈り物をもらえなかったなら、それはかなり切ない状態である。
案の定、彼女の誕生日には、すごい数の贈り物が届いた。部屋が2つ埋まるほどである。この中から気に入った相手を選び、お見合いをしなければならない。
しかし重ねて言うが、この世界基準のイケメンとは、豚なのだ。しかも自分がイケメンだと自信を持っている豚である。生理的にどうしても、受け付けることができない。
とりあえず、「容姿なんてどうでもいいから、能力のある男が好き」と主張し、数名のみ選んでお見合いをセッティングしてもらった。
どんな男性かはわからないけど、イケメンじゃないといいな。
そう思いながら会った男達は、やはり誰もがこの世界基準ではレベルの高いイケメンたちばかりで。
しかし最後の十人目だけは様子が違った。迎えに出た母が、渋い顔でひとり部屋へ戻ってきたのだ。困った表情で彼女が告げた言葉は、
「彼、獣人なのよ。確かにこちらも、手紙で連絡を取った時には人間ですかなんて聞かなかったけれど、普通は自己申告すべきだわ」
だった。
この世界では、獣人は亜人とも呼ばれ、純粋な人間よりも劣ったものとして見られることが多い。法的に差別されている訳ではないし、母も亜人差別などしてはいなかったのだが、やはり娘の旦那候補としては許せないのかもしれない。
そう思いつつも、母をなだめて迎え入れた相手は ―― 短く切った金髪の間から、同色の三角耳を二つ生やし、腰に黄色と黒のしましま尻尾が存在する、虎の獣人であった。しかもその容姿はというと、鋭い切れ長の茶色い瞳に、通った鼻梁、薄い唇。少し浅黒い肌に、引き締まった無駄のない体。身長は190cmを越える、がっしりとした印象を持った ―― 彼女の理想を体現したかのような、地球基準での「イケメン」、この世界基準では「二目と見られない醜い容姿」の獣人で……

具体的な記憶はほとんどなく、一般知識と感性だけを受け継いだ異世界転生・美醜逆転恋愛もの。全17話完結、番外編いくつか。
主役の少女とその他(主に虎獣人側)の視点が交互に語られているので、同じ場面を別視点で見る勘違い要素もあります。
周囲からの印象は、絶世の美少女の弱みを握って言うことを聞かせている性犯罪者とか、醜い男を騙して貢がせている小悪魔少女(しかし正当性を主張すれば十分まかり通る)、と言った感じ。
主役の方は、自分が他人を容姿で区別している、利己的な人間だという自覚があります。この世界基準のイケメンに馴染むことができないというのを、態度に出さない節度は保ちつつも最後まで貫いてます。
そして最終的にはお相手の獣人(騎士団の獣人部隊副隊長という有能)にも「自分の美的感覚は壊滅的に崩壊している」とカミングアウトしているので、獣人さんの方もそれなりに自信を持ってお付き合いできるようになってます。
家族の方は、相変わらず「容姿を気にしない娘(妹)は天使」という誤解が解けないまま、それでも相手のことを「容姿以外は素晴らしいのに、神に慈悲はないのか」と、同情的に見るようにはなっています。
No.3213 (読書)


 准教授・高槻彰良の推察 3巻 呪いと祝いの語りごと
2022年07月24日(Sun) 
読書記録:


尚弥の数少ない知人である難波が、やっと試験が終わったというのに何やらやつれていた。聞けば不幸の手紙が鞄に入っており、事実ここ数日不幸続きなのだと言う。上から植木鉢が降ってきたり、喧嘩に巻き込まれて大怪我をしそうになったり、真夜中に暖房が壊れて寒さに震えた挙げ句、目覚ましが鳴らず慌てた結果、階段から落ちるわ電車は人身事故で止まっているわと、散々だったらしい。もちろん試験の結果も散々だ。お祓いでも行ったほうが良いのかと頭を抱えている難波を、尚弥は高槻の研究室へ案内して ―― 「第一章 不幸の手紙と呪いの暗号」
高槻に誘われて山梨に行くこととなった尚弥。なんでも院生の瑠衣子の両親が経営しているペンションに泊まるそうで、近くには鬼を祀っている洞窟もあるのだと言う。そうして佐々倉も加えた三人で旅行を楽しんでいた尚弥だったが、立ち寄った土産物屋で、以前に高槻を探ろうとしていたジャーナリスト飯沼と再会してしまう。まだ高槻への興味を失っていないらしい男につきまとわれつつも、三人は当初目的である鬼の洞窟へと向かった。車もろくに入れない小さな村の奥にあるそこには、鬼頭という家によって鬼神が祀られていると言う。祠のある洞窟に向かった三人は、そこで悲鳴を上げて飛び出してくる子供達と鉢合わせになった。洞窟内の祠が地震によって崩れ、そこから鬼の骨が転がりだしていると訴える子供達に、状況を確認した高槻と佐々倉は警察を呼ぶことにした。何故なら祠から出てきていたのは、いつの時代のものか知れぬとはいえ、人間の骨だったから ―― 「二章目 鬼を祀る家」
小学一年生の春。祖父が剣道の師範をしていた健司は、その日も庭で竹刀を振っていた。剣道は好きだった。漫画やアニメのキャラが戦うのに似て格好良かったからだ。そうして一人で稽古ともつかぬ稽古をやっていた彼は、庭木の隙間からこちらを覗いている子供と目があった。知らない、けれどやけに可愛い子だ。その子は庭木に突っ込むようにして身を乗り出し、「いいなあ、それ! ぼくもやりたい!」と言い出した。何だ男の子かと思いつつも、強面の健司に初対面から屈託なく近寄ってくるその子供と、すぐに仲良くなった。彰良と名乗った少年は、近所でこそあるが大きなお屋敷に住んでいて、私立の学校に毎日車で送迎されているらしい。道理で見たことがないはずだ。住む世界が違うと子供心にも思った健司だったが、彰良は両親の許可を取って剣道を習いに通ってくるようになった。そうして迎えた夏休み、健司は彰良から軽井沢の別荘に誘われて……「【extra】それはかつての日の話」

尚弥くんが、いろいろな意味で少しずつ成長していることに、なんだかほろりとしてしまった3巻目。
一章目では、高槻先生が「呪われるならのぞむところだよ!」と笑顔で難波の不幸を受け取った時、いや先生、その不幸に「身内や知人が死傷する」があったらどうすんだよww とかツッコんでいたら、案の定フラグ回収されてて、逆にこの話は読んでて安心できるなあって思いました(笑)
もう一つの呪いは、交通事故で死んだ図書館好きの少女の思い出話が、伝言ゲームで……と言うかたち。確かにありそうな『うわさと誤報の社会心理』だなあとしみじみと<判る方だけ判ってください
二章目は山奥の村に伝わっていた鬼伝説とマレビト殺しという、こちらもお約束な伝承にミステリ風味を添えて。さらに高槻さんの子供時代に関わる女性とか、夜中にうなされる高槻さんとか、ついに高槻さんの背中を見ちゃう尚弥くんとか、気絶から目覚めた後の高槻さんの不思議な様子などなど、見どころけっこうもりだくさん。っていうか属性盛り過ぎだよ高槻先生ww
三章目は番外編で、高槻さんと佐々倉さんが出会った頃のエピソードを佐々倉さん視点で。元気いっぱいなやんちゃ坊主と、頭も育ちも良いけれど物怖じしなくて屈託のない子供の、ありふれた日常がすっごく微笑ましいです。
……二章目の途中で高槻さんがバラそうとして、途中で止められた佐々倉さんの過去の怪異体験とか、さらっと語られた「迷子になっちゃってねえ」の話も入っています。
そしてこの幸せなエピソードを読んでしまうと、この後に訪れただろう高槻さんのあれこれが、本当に痛ましくなってきて……くそう、うまい構成してやがるな! あと健ちゃん、本当にいい人!!

ただ今回、ちょっと違和感があったんですが。
ええと佐々倉さん、いつの間に尚弥の耳のことを知っていたのでしょう?
2章目の土産物屋さんの場面で、「高槻や佐々倉と一緒にいるのは楽だ。ふたりとも尚弥の事情は知っているし、嘘も言わない」って地の文に書かれているんですけど、佐々倉さんにカミングアウトした場面ってありましたっけ。
んん? どっか読み落としたか、順番間違えて読んじゃいましたかね??
No.3212 (読書)


 お嬢様は悪役令嬢
2022年07月20日(Wed) 
読書記録:
■お嬢様は悪役令嬢
 https://www.alphapolis.co.jp/novel/338101958/216641456

全4話でさくっと完結済。
悪役令嬢転生ものですが、内容はR18ありのBLものです。
基本視点はお嬢様の侍従、そして婚約破棄する王子の異母弟である第二王子。
途中に叙述トリックがあって、そっちか! ってなりましたww
そして侍従がけっこう辛辣だと思っていたら、けっこうどころか意外な方面に才能があって、でも恋愛方面には純情とかギャップ萌えのいったりきたりでした。
No.3208 (読書)


 准教授・高槻彰良の推察 2巻 怪異は狭間に宿る
2022年07月19日(Tue) 
読書記録:


前回、調布の神隠し事件で知り合った子供、大河原智樹の通う小学校から相談が持ち込まれた。なんでも智樹の隣のクラス五年二組で新しい怪談が生まれたのだという。内容は『コックリさんをやったあと、帰ってくれずにロッカーへ住み着いてしまった。勝手に扉が開くことがあり、うっかり近寄ると引きずり込まれて違う世界に連れて行かれる』というもの。子供達はひどく怖がっており、PTAからはお祓いをしたほうがという声も上がっているらしい。智樹経由で高槻のことを知った担任教師の招きにより、高槻と尚弥は調査へ向かった……「第一章 学校には何かがいる」
大学祭で卒業生の女優、藤谷更紗がトークショーを行うことになった。そして高槻はその相手を務めるらしいが、尚弥は特に興味もなかった。しかし数少ない知人から屋台に来てくれと頼まれたり、直前に大風邪を引いて中耳炎を併発までした際、高槻がわざわざ自宅を訪れて病院まで連れて行ってくれたこともあり、渋々ながらも大学まで足を運んだ。そもそも芸能人が話すのを聞くのは苦手だった。彼らの多くは話を盛ったり、作り話を披露して笑いを取ろうとする。それらは彼らなりの努力なのかもしれないが、それでも嘘であることに変わりはなく。飛び交う歪みまくった声は尚弥にとって苦痛でしかないのだ。しかし藤谷更紗が「幽霊を見たことがある」と言い出した時、その声は全く歪んでいなかった。それどころか気がついてみると、周囲を埋め尽くす群衆の会話、そのどれひとつとして歪んで聞こえることはなく……「第二章 スタジオの幽霊」
高槻に持ち込まれた依頼は、両親が新興宗教のようなものにハマってしまったので、調べてもらいたいというものだった。遠足中にバスが転落し、乗員と担任を含めたクラス全員が死亡した中で、四年生の少女一人だけが助かった。その『奇跡の少女』にお参りすると、ご利益があるというのだ。軽く調査してみると、少女は母子家庭の一人っ子らしい。本人や母親が特に宣伝をしているでもなく、口コミで噂が広がっているようだ。母親は来客の対応こそするが、金品を要求したり訪れた者や相談事の記録をつけている様子はない。ただ、話を聞いている。それだけで、いただきものは別に『お布施』などではなく、あくまで気持ちを受け取っているだけなのだ、と。母親の言葉に歪みはなかったし、少女もただ話す客のそばで絵を描いたりと、一人遊びしているだけだった。これは高槻が興味を持つ怪異とは、タイプが違う気がする。そう思った尚弥だったが、何故か高槻はいつもの柔和な笑みを消し、不思議なほど真剣にのめり込んでいて……「第三章 奇跡の子供」

本編2冊目も三章構成。
最後の「奇跡の子供」は、ネット広告でコミカライズの思わせぶり抜粋を見せられていた話だったので、ようやくなんというか、つかえが取れた感じです。
展開的には1巻と同様、どの話もだいたい予想は付く感じで予定調和的なんですが、今回はちらっと「実は本物も混じってた?」「え、それって……」的な、もしかしてという謎が残されたりします。
高槻先生の講義部分も、やっぱり読んでいて面白いです。
そして1巻目では、高槻先生に興味をいだきながらもまだ一歩踏み込みきれなかった尚哉くんが、2章目での耳の不調とそれに伴う不安、すなわち「嘘が判らなくなるとそれはそれで怖い」「耳が普通になったと知ったら、先生は自分から興味を失うのではないか」という実感を経て、自分がもう高槻先生との間に線を引いておけないことを自覚したりとか。
まあ高槻先生の方は、「なんで耳の不調を教えてくれないんだろう?」と、あっさり見抜きつつも首を傾げていて、仮に彼の耳が普通に戻ったとしても、興味を失う気なんかさらさらないんですがww
っていうかもう完全に、一生付き合う運命共同体として認識しているので、逆に尚弥の不安が理解できなくて行き違っちゃうあたり、お前らもうけっこ(ry 

あと、1巻で語られた高槻先生の過去関係が、まだまだ序の口でしかなかったのがもうね。やっぱり引っ張ってたんだなと改めて納得。
高槻先生の幼なじみ、健ちゃんこと佐々倉刑事が本当に良い人過ぎる……・゜・(ノД`)・゜・

あ、それとこれはちょうどいま、積録の中から遺留捜査を見ているせいでしょうが……高槻先生が上川隆也さんでイメージされてしまいます。上川さんというかむしろ糸村さんww
穏やかで、物腰は丁寧なのに、空気読めなくて興味があることには突っ走っちゃう。でも、もつれた謎を解いて人の心を救ってくれる、年齢不詳のワンコ系残念イケメン。ほ〜らピッタリ★ ……せめて上川さんがあと15歳若ければなあ。
ドラマ版ではジャニーズ? の若手さんが演じられたらしいですが、あの手のイケメンは見分けがつかなくってですね……^^;;
No.3207 (読書)


 准教授・高槻彰良の推察 1巻 民俗学かく語りき
2022年07月13日(Wed) 
読書記録:


幼い頃、不思議な祭に迷い込んだ深町尚哉は、そこで死んだはずの祖父と出会った。
祖父は言った。
「お前は代償を払わなければならない」
そうして示されたのは、3つの飴。
りんご飴を選べば、歩けなくなる。アンズ飴を選べば言葉を失う。そうして最後のべっこう飴は ―― 他の2つに比べれば、ずっとマシだった。少なくとも、幼い尚哉はそう思ってしまった。
飴を口にし、気がついた時には朝で、布団の中にいた。寝間着に草がついた状態で。
それから時が過ぎ、尚哉は大学生となった。親元を離れ、一人暮らし。周囲とは一線を引き、それでも集団からはじき出されないよう、注意を払いながら過ごすのが身についていた。
何故なら、あの祭から戻った彼は、人の嘘が判るようになっていたから。正確には、嘘をついている人の声が、ひどく歪んで聞こえてしまうから。
人は、ごくごく自然に嘘をつく。他愛のないことであっても、まるで息をするかのように、言葉に嘘が入り交じる。その不協和音に、尚哉は耐えられなかった。そして、人の嘘を指摘した時に向けられる、冷たくあるいはこわばった視線にも ――
そんな彼が民俗学IIの講義を選んだのに、深い意味はなかった。そもそも民俗学がどんなものなのかもよく知らない。ただ、講義要項の説明文が、ちょっと面白かったのだ。
『学校の怪談や都市伝説等から、民俗学というものについて幅広くアプローチする』
まるでテレビのバラエティ番組のようで、興味を惹かれた。そうして試しに受けてみた初講義は、正直言って面白かった。
高槻彰良というイケメン准教授が担当するその講義は、内容もさることながら、目を輝かせてとても楽しそうに語る様子もまた、つい聞き入ってしまうものだったのだ。
そして何よりも ―― 高槻の声は、不思議なほどまっすぐ尚哉の耳に届いた。
何の歪みもなく、濁り淀んだ空気の中に、さながら一条の光が射し込んだかのように。
……もちろん、そんなことがいつまでも続くはずがない。この人だって、いつかは嘘をつき、声を歪ませるのだろう。
そう思いながらも受講し続けていた尚哉へと、2ヶ月が過ぎる頃、高槻が声をかけてきて ――


書籍書き下ろし、コミカライズ&実写ドラマ化済。本編7冊と外伝1冊で継続中。
ネット広告でコミカライズの1話目途中までを見て、耐えきれずに小説の方に手を出してしまいました。
あそこで切るのはずるいと思うんだ……(苦笑)
人の嘘が判るようになったことで、友達を失い、家族からも距離を置かれてしまった大学生が、怪奇現象となると目の色を(文字通り)変えて食いつく、常識のない残念イケメンな准教授とコンビを組んで、謎を解いていく話です。
少なくとも1巻目の謎は、超常現象と見せかけてすべて人間の仕業というオチでしたが……というか、そのあたりはもうお約束で、だいたい先は読めるんですけど、尚哉くんと高槻准教授の関係性が深まっていくのが見どころなんじゃないかと。
正直、この1巻目で高槻さん側の事情まで語られるとは。3巻ぐらいまでは引っ張るんだろうなあって勝手に思ってました^^;;
「身体と頭脳は大人、心は子供」と称される高槻さん。イケメンだし若くして(二十代にしか見えない34歳)准教授だし、フィールドワーク先での聞き込みは老若男女お手の物。瞬間記憶能力とかも持っている有能オブ有能なんですが、初めて行く場所では必ず道に迷うとか、鳥が苦手とか、興味のある事象に出会うと大声ではしゃいだ挙げ句、深刻に悩んでいる初対面の女性に笑顔でハグをかましそうになるなど、いろいろ残念なところがあって、親しみやすいです。
そんな准教授に対し、常識担当としてフォローしてほしいと依頼を受けた尚哉くんがまた、けっこう辛辣にずばずば叱りつけるんですよね。手を握られて赤くなってる女性に「いまはそんな『ただしイケメンに限る』を発動してる場合じゃないでしょうが!」って言っちゃうあたりとか、思わず吹きました。それな! って感じww
あ、その「ただしイケメンに〜」のように、現代の言葉(インスタとかツイッターとか)がかなり使われているので、もう十年ぐらいしたら「ああ、この頃はこうだったなあ」みたいな、ポケベルや自動車電話が出てくる話みたいな気持ちになるかもしれないなあとは思いました。

……全編を通じて語られるのは、「正体の判らない事象は怖い」「だから人は事象に『解釈』を与えることで、恐怖を和らげる」「だから怪奇現象とは人が創作したフィクションだ」ということ。
でも、その中に本当の怪奇現象だって、あるかもしれないじゃないか、と。
このあたりは私も何度かネタにしたことがありますし、すごく共感できるアプローチでした。
No.3197 (読書)


 転生令嬢が国王陛下に溺愛されるたった一つのワケ
2022年07月01日(Fri) 
読書記録:
■転生令嬢が国王陛下に溺愛されるたった一つのワケ 〜第一章
 https://ncode.syosetu.com/n0473gc/

王位継承争いで命を狙われた、若干七歳の第三王子。
そんな彼へと手を差し伸べたのは、ただの同情で自己満足。そして最後まで守り切ることすらできず、目の前で死にゆく姿を見せてしまった、救いようがないほどの愚かな行動。
だからこれは、贖罪なのだろうか。
女騎士であった前世の記憶を持つ、伯爵令嬢フローラ・ウェイベイア。かつての己が死んだ直後に同じ国へと生まれ変わった彼女は、十七歳を迎えた日に国王陛下の甥にあたる少年の花嫁候補として、パーティーへ参加することとなった。
しかしそこに姿を現したのは、国王陛下。24歳になった、かつての第三王子で。
誰をも信頼せず、側仕えも女官も置かないと噂の彼は、フローラへと目を留めると、いきなり問いかけてきた。
「 ―― お前は剣を振れるか」
「嗜み程度ではありますが」
生まれ変わってからも、剣に対する思いは残っており、ある程度の鍛錬は積んでいた。だからそう答えるしかなかった。貴族として国王陛下に対しては、模範的な対応だろう。
しかしその答えに返ってきたのは、
「そうか。ならお前、今日付で俺の女官をやれ」
という言葉で。
誰もそばに置かなかった国王が、いきなり初対面の令嬢を、しかも女官兼護衛騎士として抜擢する。それはとてつもなく面倒で、厄介な問題を次々と呼び込んでくるもので ――


同一世界内での転生モノ。書籍化・コミカライズ済、ダイジェスト化なしで連載中。とりあえず第一章まで読了。
女騎士だと見下され続けたせいで、己の実力をまったく無自覚な天才女騎士と、生まれ変わりをひと目で見抜いた、ちょっとヤンデレ気味な王様とのあれやこれや。
唯一を目の前で失った七歳の王子様は、もはや恋愛感情とかぶっちぎってて、今度はとにかくどんな形でも「一生そばに」と、執着しまくりです。
フローラの方は、庇護対象だったことかつ守りきれなかった負い目などが重なって、やはり恋愛感情は(少なくとも第一章段階では)皆無。
でも紛れもなく両翼って感じです。
十七年間、鍛錬しまくった王様はチートレベルで強いし、逆に生まれ変わってからは鍛錬不足だったフローラさんと、ちょうどバランスが取れてる感じです。二人で試合うのがすごく楽しそうで、良かったねえって気になりました。
No.3184 (読書)


 悪役の王女に転生したけど、隠しキャラが隠れてない。
2022年06月29日(Wed) 
読書記録:
■悪役の王女に転生したけど、隠しキャラが隠れてない。〜闇ギルドランキング(3)
 https://ncode.syosetu.com/n0551gv/

気がついたら異世界の後宮で、幼女の身体に入り込んでいた「わたし」。うっかり足を滑らせて階段を落ち、その後の記憶がないということは、その時に死んでしまったのだろう。
幼女の名はリュシエンヌ=ラ・ヴェリエ。女好きの国王が手を付けたメイドに産ませたは良いものの、母親は産褥で死亡。王族特有の琥珀の目を受け継ぎながら、王族ならば持っているはずの強い魔力をいっさい持たなかった彼女は、嫉妬に狂った王妃と母親を見習うその子供たちや侍女らによって、貧民街の子供のほうがまだマシな生活だろうという、手酷い虐待を受けている状態だった。
しかしリュシエンヌとして目覚めた彼女の記憶によれば、そこは前世でよく遊んでいた乙女ゲームと同じ世界で。5歳の頃にクーデターが起き、民を顧みず贅沢三昧をしていた王族たちは、全員処刑されるはずだった。そしてリュシエンヌだけが、その悲惨な境遇を憐れまれ、クーデターのリーダーであり新たな王として即位するファイエット元侯爵に引き取られ、第一王女として暮らすこととなるのだ。
しかしそれは、けして彼女に幸福をもたらす運命ではない。
旧王家の血を色濃く継ぐ彼女は、反クーデター派にとって利用しやすい旗印である。そんな彼女を悪用させないために、新国王は彼女を養女にしたのだ。それでも暴力を振るってこない新しい家族に対し、ゲームのリュシエンヌは依存してしまった。兄である王太子にもその側近であり婚約者、すなわち未来の家族である公爵子息にも、ひたすらにベッタリまとわりついた。さらには幼い頃の虐待の影響で心が成長しきっていなかったのだろう。些細なことでも癇癪を起こしては我が儘を言い、贅沢を求めて周囲を呆れさせていた。
それでいて当の義兄は、旧王家の圧政によって母である元侯爵夫人を亡くしており、同じ旧王家出身のリュシエンヌを疎ましく思っていた。婚約者もまた、表向きはリュシエンヌに優しく接していたが、内心では辟易とし、義務感だけで付き合っていたのである。
そんな状況で、ヒロインが現れるのだ。兄や婚約者を、せっかく得た心の拠り所を奪われそうになったリュシエンヌは、当然激しく抵抗し、様々な嫌がらせを ―― かつて己が受けていた仕打ちと同じものを、ヒロインへと向け ―― 結果として退学からの修道院送りののち『病死』、あるいは降嫁こそするものの実質的には軟禁され子を作ることも許されぬままフェードアウト、場合によっては兄の手で斬り殺されるというエンドまで存在した。
いやでもリュシエンヌ、悪くないよね?
改めて彼女は、そう思う。
原作のリュシエンヌが義兄と婚約者をヒロインに取られまいとするのは、孤独になりたくないという思いからだろう。そもそも婚約者は未来の家族だ。それを守ろうとするのは当たり前だろう。
今さらながら、なんであんな理不尽なゲームにのめり込んでいたのか。
そう思いながら彼女は、ひとまずクーデターが来る日を待ち、その後は目立たずできるだけ攻略対象者たちとも関わらず、ひっそり暮らしていこうと心に決めた。
そうしてその日も、裏庭の井戸で空腹を紛らわせるべく水を飲み、身体を拭いていた彼女 ――『リュシエンヌ』は、気がつけばすぐそこに見知らぬ少年が立っていることに驚いた。
ここは後宮で、男子禁制である。王族以外の男が存在してはいけない場所だ。
「君、オレのこと見えてる?」
問いかけられてうなずき、ひとまず人目のない場所へと連れてゆく。
「あのね、ここは後宮だから、男の子は入っちゃだめだよ」
そう言うと、十代後半と思しきその少年は笑ったようだった。
茶色の髪に灰色の瞳、口元は布で覆っている。顔を隠すように首にも布を巻いているその姿には、何故か見覚えのようなものがあって。
「逃してくれるの?」
「ちがう。わたしはなんにも見てないし、だれにも会ってないの。だからあなたのことも知らないし、だれにも言わない」
「……ふうん、頭は良いみたいだね」
そう口にした少年は、どうやら他の誰にも見えていないようだった。
その後すぐ王妃に見つかったリュシエンヌだったが、少年が見咎められなかったことに安堵し、暴力を振るわれながらも、ちょっと嬉しくて笑ってしまう。
そうして、痛みの中で唐突に思い出した。自分が死ぬ直前に、原作ゲームに追加された隠しキャラの存在を。
名はルフェーヴル=ニコルソン。闇属性の暗殺者で、隠密能力に長けた青年だ。あいにく広告を見ただけで、追加ディスクをプレイする前に死んでしまった彼女は、それだけの情報と十年以上後の外見しか知ることはなかったが。
……隠しキャラなのに、全然隠れてないじゃん。
ぼんやりとそう思いながら、彼女は気を失ってしまって……


「寝取られ令嬢は英雄を愛でることにした」や「Jolly Rogerに杯を掲げよ」の早瀬黒絵さんの作品。
悪役令嬢転生系。書籍化・コミカライズ済。ダイジェスト化なし。本編完結済。
……というか、完結作だと安心して読み始めたら、読了した頃には続編の連載が始まっていた罠ww
定期更新の予定だそうですし、ちゃんと話を完結させる作者さんっぽいので、こちらも終わってから読むことにしようと思います。
内容としては、なんかもう安心感しかないというか。ヤンデレ×ヤンデレ=ラブラブ馬鹿ップルよね、という展開に、周囲も早々に諦めて受け入れてしまっているという、予定調和的な世界です。
ヒドイン関係はむしろおまけに近く、ひたすら新生・リュシエンヌが溺愛されながら幸せに生きていく(そして人の心が判らない暗殺者が、ちょっと成長していく)お話です。あとヒドインじゃない『ヒロイン』がどうなるかは、地味に気になりました。
なお隠しキャラことルフェーヴルさんは、一見チャラ男的な軽い言動の、でも実際は冷酷かつ自分勝手で、たとえ気に入ったリュシエンヌや原作ヒロインであっても、「手に入らないなら殺しちゃお」「閉じ込めて誰にも見せず、オレがいないと何もできないようにしたいなあ」的ヤンデレ。原作乙ゲーでは一回でも選択肢を間違えると、殺されてバッドエンドという高難易度キャラです。
そんな彼が17歳、リュシエンヌ5歳からべったり互いに執着し続ける、12歳違いの年の差カップルものでもあり。
ルフェーヴルはけっこう早めに前世や乙ゲー云々について説明を聞いているし、原作では不仲の義兄とも早々に和解。しかも義兄は十歳で受ける洗礼の晩に、女神のお告げとして乙ゲーの各ルートを夢で見るという体験をした結果、父である国王や側近候補の公爵令息などと相談。そんな未来が実現しないよう、全力で義妹(義娘)を愛し、不審人物(ヒロイン)を排除するべく計画を練るという、なかなか異色の展開です。
とにかくヒロイン以外がほぼすべて味方なので、虐待シーン以外はおおむねノンストレスで読んでいけました。
転生の理由とか、元々の『リュシエンヌ』の魂がどうなったかもちゃんと語られているので、そう言う意味でも完成度は高いと思います。
……まあ、ルフェーヴル(闇ギルド所属の暗殺者)のターンで、けっこうエグい描写もあったりしますが。ザマアも人を選ぶ感じの内容なので、そこらへんは要注意。あとだらだら長いと感じる人もいるかもしれませんね<テキストファイル200KBでざっくり文庫1冊として、本編だけで10冊分ぐらいある
No.3180 (読書)


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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
最近は小物作り(主にタティングレース)などにも没頭しています。

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