よしなしことを、日々徒然に……
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 2014年11月17日の読書
2014年11月17日(Mon) 
本日の初読図書:
4569810136桜ほうさら
宮部 みゆき
PHP研究所 2013-02-27

by G-Tools
上総国搗根藩で代々小納戸役を務める古橋家。次男の笙之介は、父親に似て温和で学問を好んでおり、武張った者を良しとする藩の気風からは浮いたところがあった。剣術に秀でた兄 勝之介や、悍馬と呼ばれる気の強い母 里江なども、父や笙之介を惰弱と呼んで見下しているところがある。
そんな父 宗左右衛門に、賄賂の疑いが掛かった。証拠となったのはまったく身に覚えのない、しかし父本人でさえ自身のものとしか思えない手跡の書簡で。結局、父は自ら腹を切り、古橋家は廃絶が決まった。だが里江は諦めきれないようで、笙之介を呼びつけ江戸へ向かうように命じた。江戸留守居役の坂埼重秀は、里江が最初に縁付いた夫の叔父で、何かと親身になってくれている。坂埼にとりなしてもらい、古橋家の再興を ―― ひいては勝之介の将来を明るいものに ―― するべきなのだとそう主張する。
だが彼女の言うことは机上の空論だった。そんなことは無理だと言って聞かせても、けしてその耳には届かない。やってみせ、失敗しなければ判らないのだとため息をつく笙之介だったが、周囲にはまだ別の思惑があった。ことを秘密裏に運んでいると思っているのは、里江ばかり。笙之介の師匠である佐伯は、一度遠くへ離れて冷静になってみるのもいいだろうと言ってくれた。そして江戸留守居役の坂埼重秀 ―― 東谷は、また驚くことを笙之介に告げる。
宗左右衛門は確かに無実の罪であり、あれは作り出された冤罪であった。証拠となった書簡は、他人の手跡を真似ることができる代書屋よって捏造されたもの。もともとは賄賂を送った側とされる御用達道具屋「波野千」の跡目争いから端を発した事件で、宗左右衛門はただ側杖を食っただけなのだと。
さらに東谷は語る。そのような精巧な偽書簡を作ることができる代書屋と家中の誰かが繋がっているとなると、これは大問題である。何故なら現在の搗根藩当主は愚昧ではないがけして聡明でもなかったからだ。まもなく跡取りを選ばねばならないその時に、正妻の子と側室の子と、どちらを選ぶかで迷うことは目に見えている。そこで先代藩主はそのことについて死ぬ前に遺言状をしたためていたのだが、そこに選ばれなかった方から偽の遺言状など持ち出してこられては、混乱が起きるのは必至だった。
本人にも判らぬよう手跡を真似られる、そんな特殊な技能を持つ余所者を、搗根藩で匿うのは目立ちすぎる。だから代書屋は必ず江戸にいるはずだ。そこで東谷は笙之介にその代書屋を見つけよと命じる。笙之介にとってその偽文書作りは父の仇なのだから、その手で見つけ出し、そうして内紛の根を未然に断ち切ってみせよ、と。
かくして笙之介は代書屋と同じ世界、すなわち江戸で文書や書物に関わる仕事を持ち、それらしき人物を探すことになった。深川の貧乏長屋富勘に寝起きし、書物問屋村田屋から写本の仕事を請け負って表向きの生業とする。そうして暮らしてゆくうちに、人探しをしている侍から不思議な符丁の解読を頼まれたり、村田家ゆかりの店から娘が拐かされた件に首を突っ込んでみたりと、様々な事件に関わる羽目になって……

お正月特番を機に図書館で予約して、はや一年近く。ようやく順番が回ってきました。ドラマの方はまだ録画して積んだままです(笑)
最初は弁当箱並みの厚さ(605P)に圧倒されましたが、読み始めてみたら最初こそちょっとしんどかったものの、笙之介さんの事情が飲み込めたあたりからは、案外するすると読めてしまいました。
全四話の中編を通して、覚えのない罪を着せられ取り潰された古橋家の賄賂事件の真相を探りつつ、いずれ起こるであろう主家のお家騒動を阻止するための活動を笙之介さんがしていく訳なんですが……ぶっちゃけネタバレますと、最終的には笙之介、ずっと蚊帳の外(苦笑)
裏ではあの人とかこの人とかがそれぞれの情報を握って暗躍していたり、気を揉んでいたりするのを、笙之介は全然気が付かないまま。かなり終わり近くになるまで、ある意味無駄な努力を続けているというか。
……いやまあ、そうやっていろいろと頑張ることによって培った他人様との縁、暖かな『絆』があったからこそ、彼は『九分方の瀬戸際』から帰ってこれたのでしょうが。

けれどもしも、東谷様が笙之介の母親に思い入れを持っていなかったならば。そう思うと、彼は生まれながらにして幸運だったんだなあとも思ってしまったり。
まあ、まったく同じ条件でありながら、自らの意志ですべての救いの手を振り払ってしまった勝之介のことを思えば、やはり笙之介さんが笙之介さんだったからこその、この結末なのでしょうが。

宮部さんのお話にしては、ドロドロした部分は存在するけれど深くは語られず、全体的におっとりとした雰囲気の読後感でした。

過去に執着し捕らわれることなく、今ある状況の中で今できるように、精一杯でものびのびと自由に生きていこう。
結局のところ、これはそういうお話だったのかな、と思いました。
No.6369 (読書)



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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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