よしなしことを、日々徒然に……
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 2014年07月21日の読書
2014年07月21日(Mon) 
本日の初読図書:
4150103453夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))
ロバート・A・ハインライン 福島 正実
早川書房 1979-05

by G-Tools
時代は西暦1970年。ロサンジェルスに住む技術者ダニエル・ブーン・デイヴィスは、六週間戦争をかろうじて生き延びたのちに軍を退役し、画期的な自動床掃除器文化女中器ハイヤード・ガールを発明した。そして親友の元弁護士マイルズと株式会社を起業して業績を伸ばす。さらに窓ふきや風呂掃除をやってくれる万能ウィリイの開発に着手したダンは、より高品質なものを送り出すべくもっと時間をかけたがったが、早く会社を成長させたいマイルズとの間で意見の衝突が起きた。株式はダンが51%を持っていたので決定権はダンにあるはずだったが、ここで彼は予想外の裏切りを受ける。ダンは秘書であり婚約者であったベルに株式の一部をプレゼントしていたのだが、そのベルがマイルズの味方をしたのだ。さらにいつの間にか様々な書類が偽造されており、ダンはすべての特許や開発中の資料を奪われ、会社から追放されてしまう。
失意から酒浸りとなり自棄を起こした彼は、保険会社へ行き自分と愛猫ピートの冷凍睡眠を申し込んだ。これは眠っている間に保険会社へ財産を信託しておけば、数十年後に目覚めた時にはそれなりにまとまったものが手に入る制度で、未来に行きたい人間や、あるいは不治の病に侵された者が治療法が見つかる事に希望を託して眠りにつく事が多い。ダンは三十年後に年老いた二人を、若々しい姿であざ笑ってやろうと考えたのだった。
しかし事前健康診断でアルコールを抜いて素面に戻ると、やはり裁判でとことん戦おうと考えを改める。そうして結婚したベルとダンのもとを訪れると、二人はダンを殺そうとし、ピートはその騒ぎの中で行方不明に。ダンの荷物から冷凍睡眠保険の契約書を見付けた二人は、死体を始末せずにすむという理由から、書類を改ざんし別の保険会社へと変更。ダンを麻薬で人事不省にした状態で冷凍睡眠に送り込んでしまう。
三十年後、西暦2000年に目覚めたダンは、保険会社の倒産により無一文になっていた。知り合いも身よりもなく愛猫ピートもおらず、優秀な技術者として培ってきた知識ももはや時代遅れのものに成り下がっている。それでもどうにか働きながら、失った30年の間の歴史と進んだ技術を学んでいった彼は、じょじょに不可解な事実を知ることとなる。
たとえば自分が構想していた新型の製図器と同じものが、すでに社会に普及している。しかもその特許は1970年にD・B・デイヴィス名義で登録されているのだ。自分は頭の中で考えていただけで、開発など一切していないのに。
さらにマイルズの義理の子であり、ダンにとっては姪にも等しかった少女リッキイに遺しておいたはずの株券は、見知らぬハイニックなる人物に渡ったのち、十年後に保険会社へ信託されていた。
成功しさぞ良い気になっているだろうと思われたマイルズは、1971年に死亡。文化女中器会社は万能ウィリイを売り出せぬまま倒産し、ベルは落ちぶれ果てている。そして肝心のリッキイの行方はどうしてもつかめない。
自分が眠ってから、いったい何が起きたというのか。調べる手立ても尽きて悩みぬいたダンは、軍事機密とされているタイムマシンの存在を知り、三十年前の過去に戻ることを計画する。
しかしそれは二分の一の確率で失敗する、危険な賭けで……

1956年に発表された、古典SF不朽の名作。
先日読んだ「配達あかずきん」の中で読みやすいと紹介されており、しかも最近はけっこう古典ものを読む楽しさにも目覚めてきたところ。おまけにあらすじを調べてみたら、巌窟王的復讐譚のテイストもあると知って、これは読むしかない! と遅ればせながら手にとってみました。
そして最近出たというとっつきやすい新訳で行くか、古くから評価が高く味わい深い旧訳にするかでさんざん迷ったあげく、表紙の可愛さに負けて旧訳を選択してみたり。

やー、猫好きにとってこの表紙は販促もとい反則やろうvv

中身の文章も、ハインラインはどうやら半端ない猫好き。そしてきっと実際に猫を飼ったことがあるに違いないとニヤつかずにはいられない出来でした。

猫にはユーモアのセンスがない。あるのは極端に驕慢なエゴと過敏な神経だけなのだ。それではいったい、なぜそんな面倒な動物をチヤホヤするのだと訊かれたら、ぼくには、なんとも答えようがない(中略)にもかかわらずぼくは、眠りこんでいる小猫をおこさないために、高価な袖を切り捨てたという昔の中国の官吏の話に、心の底から同感するのである。

どうです、ダンのこの猫馬鹿ぶり(笑)
猫とは高慢で自分勝手で自分の都合を最優先すると評しながら、しかしそれらをすべて受け入れることで飼い猫ピートと固い友情を築き、冷凍睡眠に入る際も一緒に連れてゆくことを迷わないダンの揺るぎなさに、共感できるかどうかがこの話を面白く思えるか否かの、ひとつの別れ道かもしれません。
冬になると家中の扉の前で鳴いては開けろと訴える猫に対し、一つ一つ順番に開けてやって、どの扉の外も間違いなく冬なのだと確認させてやるとか、猫好きなら本当にやってそうvv
でもピートは単にダンを都合の良い奴隷のように考えているのではなく、その危機に際しては持てる爪と牙のすべてでもって敵に立ち向かうし、移動するときには車の助手席やボストンバッグの中でいい子にしている、実に素敵な信頼関係を築いているあたりが、またたまらなくって。
あと鳴き声のバリエーション(笑) これは訳者さんにグッジョブ! と言うべきか。

……って、猫談義だけでどれだけvv

物語は冷凍睡眠コールドスリープとタイムマシンを効果的に活用して、三十年の時間を行き来して進みます。信じていた友人と婚約者に騙され、三十年後へ島流しにされたダンは、ほぼ無一文で見知らぬ世界へ放り出されます。
その未来の描写がまた、おもしろいのですよ。これぞ古典SFを読む醍醐味というか。

現在となってはもう、とっくに過ぎ去ってしまった西暦2000年。二十一世紀の先駆けが、夢と希望の未来都市として描写され、さまざまな『大発明』が世間を賑わしています。

たとえば車などはとうに時代遅れ。人々は滑走道路で街中を行き来し、車の制作はあくまで労働者を失業させないための雇用制度のひとつであり、できあがったものは余剰製品。二年もすればもう売れないので、スクラップにして鋼鉄工業会社へリサイクルされてしまうといった具合。
製図器ダンもおもしろいですよ。感じとしては旧来の製図台にキーボードを付けたような感じで、ボタンを押すことで簡単に平行線や斜め線などが書ける訳なんですが、これって今で言うCADですよね? でもあくまで製図台なんですよ。機械内で図面を仕上げてから一気にプリントするのではなく、一本一本線を引いていくところは手書き用のと変わらないのが、いかにも『昔に考えられた未来図』で。
そうそう、電動タイプライターも出てきますよん。電動だけどカーボン・リボン。そして書体フォントは一台につき一種類vv
そこでダンが構想するのは、口述筆記をしてくれる自動秘書機オートマチック・セクレタリなのですよ。これにはなんと同音異義語に対応するための『候補選択』キーと、個々に合わせてカスタマイズできる単語登録機能まで考えられているのだから、ハインラインの先見の明は本当にすごいとしか言いようがなく。
他にも一見すると一枚に見えて、実は端をタッチすると記事がめくれていく新聞なんて、さながら iPad といったところでしょうか。
そもそも一番のメイン発明である文化女中器なんて、説明文読んでるとマニピュレーター付のルンバとしか思えないしvv

そしてこの作品世界での二十一世紀では、黄金はすでに貴金属的価値をなくし工業用の針金として商店で売られおり、お金は紙幣が廃止されてプラスチック製の貨幣になっています。

でも発電は原子力だし(笑)
人の消息を捜すのに電話帳を手でめくる必要があるし(笑)
過去の事件を調べるのには図書館で縮尺版を読んでるし(笑)

やー、原作の発表されたのが60年近く前で、物語の中で『現在』とされる1970年でさえもが近未来。
21世紀に至っては、まだまだはるかな彼方だと思われていた時代の、この古典的未来観がおもしろいったらありません。

ストーリーもよく練りこまれています。
私は最初にネットで最後までネタバレ込みのあらすじを知ってから読んでいたのですが、そうでなかったら読了後、即座にもう一度読み返しただろうことは疑いありません。
随所に散りばめられた細かい伏線が、ラストにどんどんと紐解かれていく様など、展開が判っていてもページをめくる手が止まらない。
勧善懲悪、予定調和、未来への希望に満ちているハッピーエンドで、読後感も爽やか。
そして読み終えた後、このタイトルと表紙の妙に、唸らせられるのです。

いやもうほんとに、この作品が名作と呼ばれるのも納得でした(しみじみ)

ひとつ惜しむらくは、復讐譚の要素が微妙に薄かった点ですかね。
結局のところダンが積極的にやったのは、自らと愛猫と姪っ子に等しい大切な子供を守ること、奪われた発明を取り戻すことの二点であり、裏切った友人と婚約者が幸せにならなかったのは、あくまで金のガチョウの腹を割くような真似をした二人の自業自得っぽく。
特にベルなんかは、あんまり罰も受けてない感じですし。まあある意味では、憎まれるよりも価値の無いものとして忘れ去られる方が、よっぽど残酷な罰なのかもしれませんがね。マイルズの末路も、どういうものだったのか具体的なことは明らかにならないままだったしなあ……

ともあれ、繰り返しますが、おもしろかったです。
最終的に、ダンの行動はすべてが予定調和であったのか。一度目の1970年の段階で、既に彼がやるべきことは決定していたのか。それともタイムパラドックスによるパラレルワールド的観念によって、どこかの次元宇宙にはダンもピートもリッキイも救われなかった世界も存在するのか。
問題提起はしながらも、ハインラインはそれを否定しています。
そこまでちゃんと考えているあたりも、さすがだなあと思うのでした。

ああしかし、猫好きには本当にオススメですぜ……ふふふふふ……

2014/08/05 追記:
新訳版も読んじゃいました(笑)
No.6027 (読書)


 食べてはいけません
2014年07月21日(Mon) 
このあたりの梅雨明け宣言も出て、だいぶ世間も暑くなってきました。
しかしまだまだ湿度は高く。
そんな我が家の庭に、気が付くとこんなものが生えていたりとか。



……キノコ、ですよねえ?
なんだかマッシュルームあたりを思わせる、ふっくりぽっこりしたフォルム。
見た目はけっこう可愛らしいです。
しかしいったいどこから菌がやってきたものやら。胞子とかで飛んできたんですかね??
思わずつんつんしてみたい気持ちはありますが、うっかり毒キノコだったりすると困るので、見て愛でるだけに留めておきます(笑)

昨夜ベッドの中で読み始めた、ハインラインの「夏への扉」が予想以上におもしろく、いっきに読了いたしました。
古典SFというやつはたいてい文章が硬く、内容も難解でなかなか読み進められないものですが、これは比較的ライトでさらっと読み進めることができ。
さすが長く読み継がれる作品は違いますなあ……(しみじみ)
No.6028 (日常)



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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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