よしなしことを、日々徒然に……
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 2014年07月05日の読書
2014年07月05日(Sat) 
本日の初読図書:
4865290540カーマリー地方教会特務課の事件簿 (3) (ぽにきゃんBOOKSライトノベルシリーズ)
橘 早月 中嶋 敦子
ポニーキャニオン 2014-07-03

by G-Tools
多くの裏切り者を出しながらも、どうにか教会長暗殺を未然に防いだカーマリー地方教会。事件の背後に潜むのは、教派統一改革を目論む強行派チャスチス枢機卿だと思われた。だが彼の関与を示す決定的な証拠は見つけられず、このままでは黒幕を逃してしまうことになりかねない。そこでオブザーらはチャスチルが結婚前の若い頃を過ごしたという、北の港町エリブへと調査に向かった。
エリブは宗教対立している隣国デーランドの、正統教会との繋がりが強く残っている土地である。キーセ教信徒が正統教会と関係を持つことは固く禁じられているが、しかし元々が聖教会派から分裂派生した宗教であるがゆえに、正統教会とキーセ神教聖統派は教義に近しいものを持っていた。ことにチャスチルが婿養子として迎えられたブレンダー家は、聖統派の中でも正統教会よりの信仰をしているという。ならばチャスチルが婿養子として選ばれたのは、あるいはエリブで正統教会と接触を持っていたからではないかと仮説が立ったのだ。その事実さえ証明できれば、たとえカーマリーで起きた事件への関与を証明できずとも、チャスチルを火刑台に送る充分な材料となる。
かくしてエリブで調査を開始したオブザー、ライツ、ジークフリートの三人だったが、どうにもオブザーの様子におかしな所があった。何かを隠している。というよりも、誰も知らない情報を一人で抱えており、それによって導かれる仮説に対し、複雑な『何か』を感じているようなのだ。
やがて判明した、チャスチルの過去。二十数年前に紡がれた絡みあう因縁の糸の織り成した図に、ライツやジークフリートは愕然とする。
そしてチャスチルと正統教会との関わり、そしてまた悪魔と契約を交わしているという確かな証拠が見つかったことで、ついに教会本部が動き始める ――

第一部完結。
イザベラ館の惨劇から始まった一連の事件が、ついに幕を下ろしました。
今回はこれまでに比べてシリアス配分が多めです。そしてオブザーやジーク以外からの目線も増えていたように思いました。
盗賊神父ライツに押掛け武装女神官マチルダ、そして全ての黒幕であるチャスチル枢機卿。
誰もが心に自分なりの信仰を持ち、彼らの『神』のために戦っていた。彼らにとっては自身の信仰こそが守るべきもので。けれど、それは誰が正しくて、誰が間違っているということには繋がらない。

「信仰は成否ではない。ただ、お前の行いが人の法で裁かれると言うだけのことだ」

神は誰を裁くこともしない。
だから人を裁くのはあくまで人なのだと。それ故に彼らは、自分の信じるもののために武器を取る。

ならば神とは何なのか。
その解釈はこの話の中でもそれぞれがそれぞれに持っていますが、私は「神とは許すもの」というのが一番しっくりときましたね。あくまで一神教における神の解釈ですが。

(主よ、許したまえ。導いてくれる必要などない。ただ許してくれ。それだけでええんや)

ジークの素朴な祈りが、なんだかすとんと納得できます。
そしてオブザーの信仰。
主はけして全知全能の完全なる存在ではない。そんな存在になど、怖ろしくて自身の罪を告白できない。時に残酷で、慈悲もなく、犠牲を強いる不完全な神であるからこそ、祈りを捧げ許しを請うことができる。罪を知る貴方に似て罪多き、過ちに汚れる身をどうか導き賜え、と。
これもまた心に沁みますね。

私はどうも一神教というやつが苦手でして。
全知全能の絶対者とか言われると、とたんに嘘っぽく胡散臭さを感じてしまいます。しかしオブザーのこの解釈だと、ああそういう考え方もあるんだなあと素直に感情移入できました。

それにしても今回は、ジークがちょっと怖かったッス。
3巻目にしてようやく表紙やカラー口絵で活躍した彼ですが、剣を持つと人が変わることがそろそろ明らかになってきました。普段はちょっと抜けた温厚な関西弁の兄ちゃんですが、一度『敵』だと見定めた相手には、まったく容赦がありません。それまで顔も知らなかった歳若い兵士を相手に、一撃でその頭を粉砕する。そこに迷いは微塵もない。なぜなら相手は倒すべき『敵』だから。
……ある意味彼こそが一番、無自覚にタチの悪い『正義を掲げた殺戮者』になり得る素質を持っているのかもしれません。
オブザーはきっと、自分の歪みを自覚して、その上で自ら信仰と狂信の境界に立っていると思います。けれどジークはどこか危うい。一歩道を誤れば、それが自分の神にとって正しい道だと信じたなら、彼こそが人によって裁かれるような立場へと足を踏み入れてしまうかもしれない。そんなふうに思えてならないのです。
だからこそジークがカーマリーへやってきて、はちゃめちゃな仲間達に揉まれつつ様々な価値観を目にし、完全な正義や唯一絶対などないのだと叩き込まれたことは、良い経験だったのではないでしょうか。
2巻目でオブザーがジークに言い聞かせていた言葉。

「信仰のため、正義のためと信じて疑わない者こそ、もっとも残虐な殺戮者になる。神のためにと誓って剣を取るのなら、忘れずに覚えておけ、聖騎士」

この言葉を、彼にはいつまでも忘れないでいてほしいものです。

……ストーリー的なところで行くと、今回はとにかくアッシュがフラグを立てまくってましたね……
あざといほどに立ちまくるフラグ。そしてこのシリーズは時に恐ろしいほど容赦なく人が退場してゆくので、初めて読んだ時には本当にもう、最後までドキドキハラハラしていました。
フラグどころか、カラー口絵からしてアレですからねえ……ふふふふふ……(遠い目)

イラストと言えば、今回はライツがいっぱいでちょっと嬉しかったですvv
個人的には目を開けてるシリアス顔も見たかったですが。あとこの巻ではオブザーが黒眼鏡を外しっぱなしなのも、これはこれで格好良く。特にチャスチルに引導を渡すシーンの凄みは、第一部のトリを飾るにふさわしい一枚かと。

難点は、ちょっと校正の甘さ的なものが幾つか目につきました。
間違いではない……かもしれないけれど、どうも首を傾げてしまうような微妙な「てにをは」の使い方とか。
私服を着ているはずの場面で、イラストが僧服になってるとか。
同じく私服なのに、何故かタバコを取り出すのが僧服のポケットだったりとか。
やはりイラストで、本文では紙袋と書かれている手荷物が籠になってたりとか。
一個を肩に担ぎ、一個を腰で支えているはずの洗濯カゴを、二つとも肩に載せてたりとか。

ライトノベルではこの程度などよくある齟齬なのですが、この作品では今までほとんど目につく部分がなかっただけに、今回はやけに引っかかってしまいました。
作品自体のレベルが高いからこそ、細かいところまでしっかりチェックして欲しいものです。

あとこれはWEB版読んだ時から気になっていたんですが。
チャスチルはなんでリリスを身請けしたんでしょうね。莫大な金額を払ってまで。
そのまま愛人として囲うなら判るんですが、すぐに置いてけぼりにして二度と会うこともなく。しかもお腹の子供も殺せと命じてるし。これってチャスチルに何のメリットがあったんでしょう。
それでもリリスに多少の情があり、自由の身にしてやろうとしたんでしょうか?
それとも……戒律を破ったことをばらされないように、売れっ子高級娼婦から一介の女という、後ろ盾も発言力もない立場に追いやろうとしたのか。
女悪魔がリリスの姿を写していたことを考えると、チャスチルなりにリリスへのこだわりはあったんでしょうが……そこは理詰めでは計り知れない、人間の心の複雑さなのか……

……そしてどうでも良いっちゃあ良いことなんですが、ちょっと気付いて笑った点。
ジークがカーマリーに飛ばされるきっかけとなったアミダクジ。
あれ正式には『阿弥陀籤』って書くんですってね。なんでも昔は放射状に書かれたそうで、その形が阿弥陀如来の仏像の後光に似てるから、アミダクジと名付けられたのだとか。
一神教世界なのに、めちゃめちゃ仏教用語やんvv
No.5987 (読書)



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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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