よしなしことを、日々徒然に……
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 2014年05月10日の読書
2014年05月10日(Sat) 
本日の初読図書:
4048741756ばんば憑き
宮部 みゆき
角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-03-01

by G-Tools
安政年間に起こった、コロリの大流行。材木問屋田屋の主人重蔵は、毎年お救い小屋を建て、多くの人々を救済していた。十四になる少女おつぎもまた、昨年のコロリで家族を失い助けられた一人である。気働きの良さを認められ、田屋の使用人として雇われた彼女は、今年も建てられたお救い小屋の手伝いをしていた。重蔵の指示はいつも的確で、彼の言葉に従っている使用人達は、お救い小屋で働いていても一人としてコロリにかかることはない。ある日のこと、そんな重蔵が取り出してきたのは、おつぎにしか見えない、壷に入った坊主が描かれた不思議な掛け軸で ―― 「坊主の壷」
岡っ引きの政五郎に奇妙な相談が持ち込まれた。内職でほそぼそと紙人形を作っている老人 左次郎は、長屋の子供達と仲がいいのだが、その子供の一人があることで怯えているのだという。それは影踏み遊びをしていると、遊んでいる子供よりも、影がひとつ多いことに気付いたかららしい。主のない影は左次郎も眼にしたことがあった。なのでなんとか当たり障りのないそれらしい理屈をつけて、子供の恐怖を取り除いてやりたいのだと左次郎は言う。だが政五郎が調べるにつれて、気味の悪い因縁話ばかりが浮かび上がってきて ―― 「お文の影」
繁盛している醤油問屋近江屋では、いつも奉公人達と家族が一同にそろって朝食を取る。その日も戦場のように騒がしい食事の席であったが、不意に主の善一が顔色を変えて呟いた。「政吉兄さんが死んだ。あれが、うちに来る」と。地震いと生臭い風を引き連れてやってきた『それ』は、男達の手で蔵へと閉じこめられた。七つになる近江屋の娘お美代は、幼いからと何も見せられず話も聞けなかったが、何かただならぬ事が起きているのは感じていた。近所に住む幼なじみの太七などは、その朝へんてこなものが空を飛んできて、近江屋の蔵へ飛び込むのを見たという。それは大きな黒い蒲団のようで、たくさんの目玉が生えていたらしい。近江屋では親戚一同が集まって、蔵を囲んで寝ずの番をするなど大騒ぎしていた。と、不安に思うお美代に、近所にあるみすぼらしい八幡さまの狛犬が話しかけてくる。訛りがひどくきつく、何を言っているのかさっぱり判らなかったが、その訛りには聞き覚えがあった。それは町内の便利屋になっている、飛脚屋の居候 竹次郎のお国言葉だ。お美代が竹次郎に通訳を頼むと、どうやら狛犬は手助けしてやろうと言っており ―― 「博打眼」
手習い所を営む浪人 青山利一郎の元に、習子の親である大之字屋宗吾郎から頼み事があった。なんと自身の子供である、習子の信太郎を斬って欲しいというのだ。通りすがりの僧侶が、大之字屋を見て「この家には討債鬼が憑いている」と告げたらしい。討債鬼とは恨みを抱いて死んだ亡者がその相手の子供に生まれ変わり、貸していたものと同じだけのものを費やさせて恨みを晴らす存在である。宗吾郎は恨まれている心当たりがあるようで、いっぺんに震え上がってしまった。息子を殺さなければ、自分の命と大之字屋の身上が危ういと、完全に信じ込んでいる。利一郎はひとまず引き受けたように見せかけて、まずは怪しいその坊主の周囲を調べ始めるのだが ―― 「討債鬼」
小物商伊勢屋本家に分家から婿養子に入った佐一郎は、妻のお志津と共に箱根へ湯治に出た帰りだった。妻は何かとわがままを言うが、それも幼なじみの気安さからだと思えば、甘えん坊の可愛い女だと思える。今回の湯治は舅姑の目もなく羽を伸ばすことができて、佐一郎はもう少し長く続けたかったのだが、志津が田舎での生活を厭ったため、早々に帰ることになったのが残念であった。江戸までもう少しというところで雨に降られ足止めを食うことになった佐一郎は、むしろもう少し雨が降って欲しいとまで思っていた。そんな二人の元へ、宿の女将が相部屋を頼んでくる。相手は品の良い老女で、江戸の建具屋の御隠居だと言う。志津は嫌がったが、結局は受け入れることになり、佐一郎は老女と当たり障りのない会話を交わした。そしてふてくされた志津が酔い潰れてしまった深夜、目を覚ました佐一郎は、老女が風の鳴る音を聞きながらすすり泣いていることに気がついた。これもご縁、年寄りの昔話を聞いてはもらえないか。そう言って語り始められたのは、五十年も昔に、田舎の村で行われた奇怪な儀式と、それに翻弄された女達の物語だった ―― 「ばんば憑き」
妻を早くに亡くし、七つになる娘と二人で長屋に暮らす浪人 柳井源五郎右衛門は、何でも屋として周囲に認識されていた。傘張りから代書に用心棒など、困ったことがあれば柳井さんに頼むと良いとの評判である。とはいえ己の凡々たることは自分でも重々に承知しており、たいしたことができる訳ではなかったのだが。そんな彼に、ある日娘の加奈が問いかけてくる。「父さまは、よく化ける猫はお嫌いですか」と。なんでも長屋に出入りしている三毛猫のタマは化け猫で、源五郎右衛門に頼みたいことがあるのだが、化け物だからといきなり斬りつけられてはたまらない。そこでまずは加奈からそのあたりを聞いて欲しいと、そう言ったのだという。いったい何を頼まれるのかと首を傾げた源五郎右衛門だったが、娘の手前、化け猫が嫌いだとは言えなかった。そして数日後の夜、加奈が眠った後に美しい女が訪ねてくる。暗がりの中でもはっきり見える姿といい、時おり細くなる瞳といい、明らかに人間ではない。お玉と名乗った彼女は、源五郎右衛門に物の怪を退治してほしいと言った。人に仇を為すようになってしまった、木槌の化け物、野槌を斬ることによって、どうか成仏させてくれと ―― 「野槌の墓」

宮部さんの江戸もの、今回はノンシリーズの短編集です。
収録作品は、どれも『不思議』が関わる怪異譚。……とか言いつつも、「お文の影」には「ぼんくら」シリーズの岡っ引き政五郎と、人間データベースの“おでこ”が登場していたりしますが。ミステリものの登場人物である政五郎達が関わってくるのは、世界観的にちょっと微妙なところではありますね。推理ものに『不思議』が絡まると、アリバイとかの根本的な前提条件が狂ってくるから、なにかと難しいですし。
まあそれはさておき。
今回収録されているお話は、幸いというか宮部さん独特の人間心理をえぐり込むほど後味の悪いものは少なかったと思います。でもよくよく考えると、救われていない部分も多いあたり、やっぱり宮部さんだなあとも言えなくもなく。
特に子供が理不尽な目に遭っている話が目に付きましたね。虐待で殺されるまで行く子が二人、理由は判らないけれど殺された子が一人、主役によって助けられはしたけれどそれでも母子ともに父親から捨てられた子供が一人。フィクションとは言っても、やっぱり読んでいて胸が痛みます……
子供が関わらない方は関わらない方で、なんというか、ううむ。
表題作「ばんば憑き」は、タイトルになるだけあって、突き抜けてゾッとさせられる感が強かったと思います。儀式の様子のおぞましさ。五十年を経てよみがえる過去。人の心が持つ身勝手さと不安定さ。この世に確かなものなど何もないのではという、足元からぐらついてくるような恐怖。そしてわがままな妻を優しく受け止めていた婿養子が、最後に見いだす、狂気と紙一重の慰め ―― それがただの慰めで終わるのか、それともいつの日にか実行されてしまう、恐ろしい計画に変わるのか。はっきりしないあたりが、いっそう空想をかき立てられてゾクゾクしてしまいます。
一方で読んでいて心温まったのは、「博打眼」でした。これも過去に犠牲になった人々を考えると充分に残酷ではあるんですが、それでもおしゃまで素直なお美代ちゃんや、訛りまくったお国言葉で会話する狛犬と竹兄あたりが雰囲気を和らげてくれました。最後にみんなが救われているのも良いことです。
「野槌の墓」も、まあまあそれなりに。自他共に認める凡人と言いながら、それでも理不尽な人生を着実に生きて、娘をまっすぐに育て、もののけにも「この人なら」と見込まれる源五郎右衛門が、個人的にとっても好みです(笑)
最後にお玉がくれた手間賃は、彼の今後を考えると良かったのかどうなのか、微妙な気もしますけどね……人は忘れるからこそ生きていけるのだから。あれじゃあ源五郎右衛門さん、一生後添いは迎えられないんじゃ(苦笑)

しかしどの話も思い返すと、ストーリーとはあまり関わりのないところで、それぞれのキャラクターがこれまで経てきた人生がしっかりと書き込まれていますね。そんなあたりが物語に深みを与えているのだろうなあとか、知ったふうな口をきいてみたり。
妖怪やひとつ多い影といった不思議な現象の部分よりも、人間のする行いの方がずっとずっと怖さを感じさせるあたりも、宮部さんらしいなあと思ったのでした。
No.5803 (読書)



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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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