よしなしことを、日々徒然に……
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 2014年03月25日の読書
2014年03月25日(Tue) 
本日の初読図書:
4062100886ぼんくら
宮部 みゆき
講談社 2000-04-20

by G-Tools
深川北町にある鉄瓶長屋は、まだ建てられて十年ほどしか経っていない、歴史の浅い長屋である。提灯屋が潰れた跡地を築地の湊屋総右衛門が買い取って長屋に建て替えた際、井戸の中から錆びた鉄瓶が出てきたことから、鉄瓶長屋と呼ばれるようになったという。
南町の外回り同心である井筒平四郎は、毎日の見回りで鉄瓶長屋を訪れるのが習慣になっていた。長屋表で煮売屋を営むお徳のもとで、たっぷり味のしみたこんにゃくや芋を食べてゆくのが日々の楽しみなのである。なにかとずぼらで面倒くさがりのおよそ役人らしくない平四郎だったが、気さくでちゃんと代金も払ってゆく彼は、お徳を始めとした長屋の人々とも仲良くやってきていた。
ある冬の夜の事だった。お徳と同じ並びで八百屋を営む八百富で人殺しがあった。殺されたのは、妹と二人で店を切り盛りしていた兄の太助。血まみれで差配人 久兵衛の元へ駆け込んできた妹のお露は、「兄さんは殺し屋に殺された」と訴えた。一昨年前に久兵衛を逆恨みして殴りこんできた男が、そのとき取り押さえた太助のことを恨めしく思い、復讐にやってきたのだと。
しかし長屋の皆は、お露の様子から真の下手人は彼女だろうと薄々察していた。兄妹には寝たきりの父親がおり、最近になって結婚したい女ができた太助は、父親のことを邪魔に思っていたらしい。太助が半死人の父親を殺そうとして、守ろうとしたお露が逆に殺してしまったのではないか、と ――
そんな折に差配人の久兵衛が「このままこの長屋にいては、一昨年の男がまたやってくるかもしれないから」と失踪してしまう。それは明らかに嘘であろうお露の言葉を、裏打ちする行動だった。久兵衛は差配人という割のいい仕事を自ら投げ出すことで、お露を兄殺しの罪から守ってやろうとしたのだろう。
そう考えた平四郎は、それ以上事件を掘り下げることなく、内々におさめてやった。どうせ一昨年前の男の行方などしれないのだし、ことを荒立てても死んだ人間は帰ってこない。親を守ろうとしたお露の罪を問うたところで、誰も幸せになどなりはしないのだから、せめて黙って行方をくらました久兵衛の意を汲んでやろうと思ったのだ。
お露と父親が去った長屋へ、湊屋から新たな差配人として送り込まれてきたのは、佐吉というまだ若い男だった。通常、差配人というのは人生経験を積み人望のある、初老の男がなるものだ。あんな若造などとても頼りにならないと、長屋の者達は不満をつのらせる。もっとも平四郎などは実直な佐吉の人柄を気に入り、彼ならばそれなりに上手くやっていけるのではないかと面白がっていた。
ところが鉄瓶長屋では、その後も次々と事件が起こってゆく。桶屋の男は博打に入れ込んで娘を借金の形に売り飛ばそうとし、結果的に娘は父親を見捨てて出て行ってしまった。妻子と住んでいた家族仲の良い通い番頭は、たまたま佐吉が拾った迷子がかつて別れた女の産んだ実の子だったことを知り、居辛くなったのか引っ越していってしまう。怪しげな信心にかぶれた大工の一家は、長屋中を巻き込んだあげくに二つの家族を引き連れて姿を消した。
よその長屋から持て余されたあげくに所移りしてきた隠し売女のおくめを除けば、次々と櫛の歯が欠けるように住人が減ってゆく。当然、新差配人の佐吉は落ち込んでいった。彼を送り込んだ湊屋は、気にすることはないと言っているそうだが、それはつまり佐吉のことなど最初からあてにはしていないということではないのか。
「なんで俺、ここにいるんだろう」
思い悩む佐吉を見た平四郎は、湊屋の真意を探ってみようと思い立った。幼馴染で今は隠密同心を務めている“黒豆”や、ずっと苦手意識を持って付き合いを避けていた岡っ引きの政五郎、いずれは養子に迎えようかという甥っ子の少年 弓之助らの手を借りて、引っ越していった住人の現在や湊屋の周囲などを探ってゆく。
すると数々の事件の背後には、湊屋の意志があったのではないかという疑いが出てきた。
湊屋は、鉄瓶長屋から内密に人を追い出したがっているらしい。その理由とはいったい何なのか。ただはした金を包んで出て行くよう言い含めればすむはずのところを、なぜこんなにも手間暇と金をかけて、危ない橋さえも渡ろうとしているのか。
調査を進めるうちに平四郎らは、十数年も前に湊屋で起きた、恐ろしい事件の存在を予想し始めて……

宮部みゆきの江戸モノを読もう月間を始めてから、はや数ヶ月。
ついに当初のきっかけとなった、回向院の茂七親分が関わるお話に引っかかりました。
とは言え親分ご本人は登場せずに、あくまでうわさ話の人。既に米寿を迎えており、岡っ引きとしてのお仕事は手下の政五郎とやらに譲って一線を引いています。ええと「初ものがたり」が確か親分五十代の頃だったから、三十年ほど後のお話になるんでしょうか?
茂七親分の下っ引というと糸吉か権三の印象が強いのですが、あの二人はどうなったのかなあ。

ともあれ。
今回の主役は、よろず面倒くさがりのぼんくら臨時同心 平四郎さん。
謎解きも事件の解決も信心さえもがとにかく億劫で、「自分が出て行かなくても、人というものはなんとかやっていく」「人がやっていけないような事件が起きた場合には、自分などが出て行ってもどうしようもない」というのがその信条。そんなんでお上の御用が務まるのかというと……これがなんとかなっているのだから、不思議なものです。
平四郎さんはとにかく町の人たちと親しくやっており、彼らが事件に巻き込まれて、解決するのに自力だけではすまずお上のご威光という名の『形』を必要とする時に、名前だけを貸してやるような体をとっていまして。うるさいことを言われない町人側としては、それなりに扱いやすくてありがたい存在という訳なんですな。

そんな平四郎さんが、今回ばかりは悩んでみる。
もしも自分がもうちょっとしっかり町人たちに強面を見せ、自分の目の届くところで面倒を起こしたらまずいことになるぞと考えさせていたら、鉄瓶長屋での様々な事件は起こらなかったのではないか、と。
それはそれで……確かにうなずけなくもないのが、苦しいところだったりするんですが。
っていうかぶっちゃけ、今回のお話は正直言うと、個人的には微妙な感じでした。
私は解りやすくスッキリできるお話が好きです。たとえご都合主義でも、最後はハッピーエンド推奨派。シンプルな勧善懲悪が読んでいて楽しいのです。
そういう意味でこのお話は湊屋の一人勝ちというか、身勝手な理由で人死まで出しておいて、最後まで湊屋にはなんのお咎めも報いもなかったのが複雑です。たとえ人の身では裁きを下せずとも、それなら『商人にとってはどうしようもない運』という名の神仏にでも、どうにかして欲しかったところです。たとえばいきなり火事とか天災で湊屋が一気に傾いて、それによって平四郎さんが信心についてをちょっと見なおしてみるとか。そういう展開があったら、いくらかはスッキリできたんじゃないかと。今のままでは殺された太助さんや正次郎、それに人生ねじ曲げられたあげくに利用された佐吉さんらが、あんまり報われなさすぎて……

そもそも最初は、平四郎さんと佐吉さんの二人がコンビを組んで鉄瓶長屋を立て直していく話なのだと思って、ワクワクしながら読んでいたのですよ。なのに読み進んでいくにつれて、あれ、なんかちょっと違う?? となりまして。
それでも人間レコーダーの“おでこ”こと三太郎少年と、なんでも目測しちゃう美少年 弓之助が出てきたあたりから面白くなってきましたけれど、結末がああなってしまうと、やっぱりなんだかこう、ねえ?
平四郎と弓之助の擬似親子萌え〜とか、最後まで何も知らないけれど、でも地に足ついてまっとうに生きている、ある意味一番人間らしいお徳さんとか、酸いも甘いも噛み分けた政五郎さんとか、キャラクターは魅力的なんですけど。

このお話にはまだ続編があるようですが、そちらはどんな感じの展開なんでしょう。そちらもやっぱりこういう終わり方だとすると、ちょっと手を出しかねる、かもでした。
No.5704 (読書)



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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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