よしなしことを、日々徒然に……
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 2012年05月29日の読書
2012年05月29日(Tue) 
本日の初読図書:
4048705601騙王 (メディアワークス文庫)
秋目 人
アスキーメディアワークス 2011-07-23

by G-Tools
ローデン国第二王子フィッツラルドは、常勝将軍として兵達や国民に人気が高い。
わずか十六歳にして負け戦なしとうたわれる彼を、次期国王にと望む人々は、それなりの数存在していた。
しかしフィッツラルドが王位を継ぐことはありえない。何故ならフィッツラルドは、側妾だった母親が不義を働いて産んだ、王家の血を持たない子供だったのだ。その秘密を知るのは、彼自身と今は亡き母、そして現国王の三人のみ。
義理の兄である第一王子はけして出来が良いとは言えず、優秀な弟に嫉妬しては、頻繁に刺客を送ってくる始末。たとえ隣国との戦争のさなかでさえ、そこで総大将たる弟が倒れたらどうなるのか、それを考える頭すらないらしい。
実際の所、負け戦なしと崇められてはいても、実状はいつもギリギリの綱渡りなのだ。天命? 神の加護? そんなものは兵を鼓舞するための言葉でしかない。軍費を捻出するために、高利貸しからの借金は膨らむ一方だし、その高利貸しはもちろん敵方にも金を貸していて、常に勝つ側へつこうとするので味方に引き止めるのも一苦労だ。
だがフィッツラルドは、己の命をあきらめる気などさらさらなかった。
兄の下でこのまま怯える日々を送り、いつか暗殺されるぐらいなら、玉座を掴むことこそ安泰への道だ。それも誰からも文句の出ない、正当な方法でやらなければならない。
ゆえに彼は、かたることを選んだ。
父を、兄を、部下を、国民を。
すべてを騙り、彼は自らの運命を切り開いてゆく ――

十二国記、アルスラーン戦記、三国志、デルフィニア戦記あたりを好む人には向いているとレビューにあったので、手に取ってみました。
ひ弱な少年が口先三寸で相手を煙に巻きつつ成り上がっていくパターンかと思っていたら、もっとがっつり骨太な人物造形でした。わずか十六歳にして常勝将軍とか言われていて、ちゃんと軍隊の先頭で剣を振るったりしてるし、暗殺者から命を狙われるのも日常茶飯事。矢を避けるのはうまくなったとか、毒に身体を慣らしてあるとか、肉体的にも非常にハードな人生を送ってらっしゃいます。
なにより意外なのは、この手の頭脳・情報戦を得意とする主役は、たいてい一人や二人は絶対的な信頼をおける心の拠り所的、腹心なりパートナーなりがいるものなのに、彼にはそんな相手が誰一人いません。奴隷から取り立てた部下も、兄から奪った婚約者も、長年の付き合いがある高利貸しも、みんな気の抜けない話し合い騙し合いの末、時に協力を得、時に裏切られる緊張感の続く間柄。 唯一忠臣と呼べそうなラグラスは、頭脳戦とか無理っぽい単純キャラだしなあ……(苦笑)
そうして彼はすべての人間をだまし、かたり、それぞれにそれぞれ、一片の真実と多くの偽りを渡して、全体的な真実は自分一人の胸だけに納め孤高に立つのです。その点で、この表紙絵は見事に本の内容を表現していると思います。あとカラー口絵も素晴らしい。
初対面の人間はみな口を揃えてその金髪「だけ」を褒め称える ―― すなわちそれ以外は褒めようがない ―― そんな平凡な容姿でありながら、王者の存在感を身に纏うフィッツラルドを見事に描き出しているかと。

あと「後世に伝えられる歴史は、けして事実をあらわしているとは限らない。時に無意識に、時に意図的に、それらは改竄され、変化し、姿を変えてゆく」、そんなテーマは私もよく使う内容なので、終章のくだりは非常に興味深く読めました。
ローデン国の系譜とかも、とてもおもしろく……っていうかぶっちゃけ、うわーネタかぶってるっぽいとか途中まで思っていたら、どうしてどうして。私なんぞ、プロの作家さんの足元にも及べるはずがありませんでした。まさか、最後の最後でああくるとは。降参です、参りました。
長台詞びっちり、陰謀ばっち来い、予定調和的展開万歳、結局主役が最強よねvv という方にはオススメします。
あー、でも戦場シーンとかあるわりに、何故か派手さは感じません。終始淡々と描写されている印象なのは、三人称でありながらも、視点が常にフィッツラルドに固定されているからでしょうか。それだけ動じない主人公というあたりも、私の好みにはフィットしていた訳ですが。そしてなんだかんだ言いつつ、根っこの根っこのそのまた奥底あたりでは、総愛されっぽいところも大好物なんですがvv
文章もライトノベルほど軽くはないけれど、戦記物ほど重厚でもなくという感じで、ほど良いところかと。

そしてジェスタ国のルウェウス王子について、思わせぶりな部分が残されている部分は……これは続きが書かれるんでしょうか。正直続刊は出てほしい気持ちもあるし、このままで余韻を楽しみたい気持ちもあるしで、複雑なところです。
No.3791 (読書)



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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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