2012年05月22日の読書
2012年05月22日(Tue)
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本日の初読図書: 「艶容万年若衆」三上於菟吉
桜も散り果てた卯月なかばのこと、浮世絵師の露月は素晴らしく美しい若衆に出会った。年の頃、まだ咲きも盛らぬ十六七。艶々しい若衆髷は心持ち鬢のほつれた黒髪で、夢見るような瞳は夜の華を思わせる。なんとも美しくあでやかで、物やさしい美少年であった。 学者であった父の影響を受け、向学心にあふれる純粋な彼は、名を呉羽之介といった。そのうるわしさに魅せられた露月は、どうにかしてこの絶世の美の化身を未来永劫この世に遺したいと、ついに一枚の姿絵を描きあげる。それは露月の最高傑作と呼べる出来映えで、呉羽之介の美しさを余すところなく写し取っていた。 その姿絵を見た呉羽之介は、それによって初めて己の容貌が人並みはずれたものであることを自覚する。そしてそんな彼へと露月の友人 片里(へんり)は、まことしやかに様々な事柄を吹き込んだ。すなわち若く美しいそなたは、この世で最も仕合わせ者である。そんな人間が学問などすることはない。どのような女子とて思いのまま手に入るのだから、この世の喜びは得たい放題だ。その若さと美しさは、いずれ失われる貴重なもの。なればこそ今のうちに楽しく遊ぶべきだ、と ―― その言葉で己が遠くない未来、醜く老いさらばえるだろうことに気がついた呉羽之介は、恐怖に震えた。そのようなことは耐え難く、自分が老いてもなお美しいままであろう絵姿が、妬ましくてならなかった。 自分とこの絵姿が入れ替わり、自分の代わりに絵が年を取り、自分は常若に美しくあれれば良いのに。呉羽之介はむせび泣いた。 そして時は過ぎ ―― 果たしてどのような悪魔が願いを聞き届けたのか。呉羽之介の望み通り、絵の姿が変わり始めた。 どれほど経っても呉羽之介は若く美しいまま、しかし絵姿は徐々に年を取り、醜く恐ろしい顔に変じてゆく。それは遊蕩を覚え女達を弄ぶようになった呉羽之介の、内面を映し出しているのに他ならなかった。 清らかな外見はそのままに、精神が堕落してゆく呉羽之介に、露月は心を痛めるのだったが……
オスカー・ワイルド唯一の長編、「ドリアン・グレイの肖像」を翻案したという作品。B5サイズのハードカバーで33ページほどの短編? 中編? です。 よく様々な作品でモチーフに使われる有名どころですし、最初は原作(文庫一冊)の方を読もうとしたのですが、そちらは数頁で挫折しました。 文章とか、長さとかがね…… 舞台は元禄時代のお江戸。美少年は振袖若衆に、油絵画家が浮世絵師に変えられていますが、ネットであらすじを見た感じ、基本的な流れはそこそこ忠実なようです。そしてやはり自分は日本人だからか、欧米の文学を引用した気障な語りより、「昨日少年今白頭」とか「花のいろはうつりにけりないたづらに〜」といった表現の方がピンと来ますね。
そして既に良い年になっている私としては、十六だか七で己の容貌が衰えることを恐れる呉羽之介に苦笑いしつつ、判ってないなあと言いたくなります。 男の魅力は三十からよ! ビバ、人生経験のにじみ出る渋いおっさん! 呉羽之介の不幸は、純粋なところに片里の戯れ言を吹き込まれちゃったことですねえ。普通に年を取っていたら、どんな美中年になってくれていたことか。そう思うと惜しまれます。
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No.3778
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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