2012年05月26日の読書
2012年05月26日(Sat)
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本日の初読図書: 女と共に逃げた男は、途中その女も殺され、銃を手にひとり森の中をさまよっていた。そこで出会った老人とのひとときを綴る「焚火」。 カメラマンの松村が見つけたのは、花見川沿いの茂みに埋もれた古いトーチカ。そこには陸軍工兵軍曹を名乗る少年と、担ぎ売りの老婆がいた。少年は軍用鉄道を守っているのだと言い、実弾の籠められた本物の九九式小銃と旧帝国陸軍の階級章を身に着けていた。二人の話によれば、鉄道は今も夜ごとトーチカのそばを走っているという。いつしか二人の話に引き込まれた彼は、トーチカへと足しげく通い、松村二等兵として共に見張りをするようになった。そうしていつしか、彼の耳にも汽笛が届くようになり……「花見川の要塞」。 ドイツを攻撃するイギリスのB17爆撃機ジーン・ハーロー。その機長であるジェイムズが、機体を撃たれ胴体着陸を余儀なくされたとき、部下の命を救うために取った行動「麦畑のミッション」。 東京駅で働く赤帽たち。その最古参である老人と、もっとも年若とはいえ四十を越えるその甥。赤帽は彼らの代で消えるだろう。老後をどう過ごすか、見果てぬ夢を抱いていた彼らの前に現れたのは……「終着駅」。 竜門卓は探偵だ。それも犬、しかも「猟犬」しか探さない。猟のさなかに見失ったり、あるいは盗まれたりした猟犬を探し出すのが仕事である。相棒の黒犬ジョーと共に山中に分け入り、あるいは伝手を頼りに情報を拾う。だが今回の依頼はいっぷう変わっていた。探して欲しいのは盲導犬だという。竜門は猟犬とはまた異なった人と犬との関わり方に、興味を覚え依頼を引き受ける「セント・メリーのリボン」。
先日読んだ「犬はどこだ」の解説で紹介されていたので読んでみました。 最初は長編か同シリーズの短編集かと思っていたら、目的だった猟犬探偵のお話は表題作一編のみでした。とはいえ全体の半分近くを占めているので、充分満足できましたが。 その他のお話も、それぞれに味わい深かったです。なんというか、一昔前の翻訳ハードボイルドを読んでいるような感じ。そのくせ、ちょっぴりファンタジックな要素を秘めているお話もあったりして、予断を許しません。 個人的にはやはり表題作と、あと「焚火」が面白かったかな。「焚火」なんて、登場人物の名前が一個も出てこないんですよ。「おれ」「女」「老人」「犬」。「おれ」によって描写される過去は、具体的な固有名詞を出さないまま、淡々と、しかし心抉る悲哀を漂わせています。そして最初はちょっと呆けた農夫にしか見えなかった老人が見せる格好良さときたら……! あと「花見川の要塞」は、なんとなく「銀河鉄道の夜」を思い出させられました。ちょっと不思議な大人の童話という感じで、これもなかなか素敵です。 表題作はもう……ひたすら格好いいの一言です。私有地の山中で、猟銃と犬だけを傍らに暮らす竜門の男前なこと。無口で強面、ぶっきらぼう。でも心の底には不器用な優しさを隠しているのがたまりません。 気に入らない相手への容赦なさとか、事情持ちの犯人への処置の甘さとか、良いのかそれでと突っ込むのは野暮でしょう(笑) 今回は相棒犬ジョーの活躍が少なかったので、そちらは続編に期待したいです。
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No.3786
(読書)
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2012年05月23日の読書
2012年05月23日(Wed)
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本日の初読図書: うわぁぁぁあああ! なんだこれ、なんだこれ! なんだこれぇぇぇええッッ!? いったいどこから伏線張り続けてるんだよ、杉浦先生! 羅貫と目の回路を結んだときの「これは……」なんて、あんなさりげないシーンに、どんだけ重たいものを秘めていたんですかッッッ(号泣) もうもう、以前の感想で「不老不死の千艸はこの先、羅貫や親衛隊に取り残されてしまうんじゃないか」とか言っていた己の脳天気さが恨めしい。よもやまさか、こう来るとは(しくしくしく) 事情が判って読み返してみると、随所に出てくる千艸と羅貫の『一緒だ』発言の裏に込められた想いがもう( T _ T )
お話自体はね、ものすごく格好いいです。羅貫サイドも皇子サイドも、確固たる信念のもとに己の道を己で定め、笑顔さえ浮かべながら全力ですべてを燃やし尽くす。そのさまは惚れ惚れするほどに美しくて。妖芽の皇子のふっきれた笑顔。金隷との絆。 対する羅貫と千艸もまた、相手の覚悟を理解し共感し、時に楽しみさえ覚えながら死力を尽くす。 あまりに綺麗で切なくて、読んでいて涙が滲んできました。 残るはあと1冊。十月発売の27巻で、堂々完結とのこと。 あああ、本当にこのまま終了してしまうのでしょうか。そこになにかどんでん返しはないのか!? 残る五ヶ月を、首を長くして待つことになりそうです。 あとちょっと気になったんですが、刀蛇の虹もホシミノコトの作品ですよね? 彼ははたして大丈夫なんでしょうか……(汗)
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No.3779
(読書)
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2012年05月22日の読書
2012年05月22日(Tue)
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本日の初読図書: 「艶容万年若衆」三上於菟吉
桜も散り果てた卯月なかばのこと、浮世絵師の露月は素晴らしく美しい若衆に出会った。年の頃、まだ咲きも盛らぬ十六七。艶々しい若衆髷は心持ち鬢のほつれた黒髪で、夢見るような瞳は夜の華を思わせる。なんとも美しくあでやかで、物やさしい美少年であった。 学者であった父の影響を受け、向学心にあふれる純粋な彼は、名を呉羽之介といった。そのうるわしさに魅せられた露月は、どうにかしてこの絶世の美の化身を未来永劫この世に遺したいと、ついに一枚の姿絵を描きあげる。それは露月の最高傑作と呼べる出来映えで、呉羽之介の美しさを余すところなく写し取っていた。 その姿絵を見た呉羽之介は、それによって初めて己の容貌が人並みはずれたものであることを自覚する。そしてそんな彼へと露月の友人 片里(へんり)は、まことしやかに様々な事柄を吹き込んだ。すなわち若く美しいそなたは、この世で最も仕合わせ者である。そんな人間が学問などすることはない。どのような女子とて思いのまま手に入るのだから、この世の喜びは得たい放題だ。その若さと美しさは、いずれ失われる貴重なもの。なればこそ今のうちに楽しく遊ぶべきだ、と ―― その言葉で己が遠くない未来、醜く老いさらばえるだろうことに気がついた呉羽之介は、恐怖に震えた。そのようなことは耐え難く、自分が老いてもなお美しいままであろう絵姿が、妬ましくてならなかった。 自分とこの絵姿が入れ替わり、自分の代わりに絵が年を取り、自分は常若に美しくあれれば良いのに。呉羽之介はむせび泣いた。 そして時は過ぎ ―― 果たしてどのような悪魔が願いを聞き届けたのか。呉羽之介の望み通り、絵の姿が変わり始めた。 どれほど経っても呉羽之介は若く美しいまま、しかし絵姿は徐々に年を取り、醜く恐ろしい顔に変じてゆく。それは遊蕩を覚え女達を弄ぶようになった呉羽之介の、内面を映し出しているのに他ならなかった。 清らかな外見はそのままに、精神が堕落してゆく呉羽之介に、露月は心を痛めるのだったが……
オスカー・ワイルド唯一の長編、「ドリアン・グレイの肖像」を翻案したという作品。B5サイズのハードカバーで33ページほどの短編? 中編? です。 よく様々な作品でモチーフに使われる有名どころですし、最初は原作(文庫一冊)の方を読もうとしたのですが、そちらは数頁で挫折しました。 文章とか、長さとかがね…… 舞台は元禄時代のお江戸。美少年は振袖若衆に、油絵画家が浮世絵師に変えられていますが、ネットであらすじを見た感じ、基本的な流れはそこそこ忠実なようです。そしてやはり自分は日本人だからか、欧米の文学を引用した気障な語りより、「昨日少年今白頭」とか「花のいろはうつりにけりないたづらに〜」といった表現の方がピンと来ますね。
そして既に良い年になっている私としては、十六だか七で己の容貌が衰えることを恐れる呉羽之介に苦笑いしつつ、判ってないなあと言いたくなります。 男の魅力は三十からよ! ビバ、人生経験のにじみ出る渋いおっさん! 呉羽之介の不幸は、純粋なところに片里の戯れ言を吹き込まれちゃったことですねえ。普通に年を取っていたら、どんな美中年になってくれていたことか。そう思うと惜しまれます。
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No.3778
(読書)
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2012年05月18日の読書
2012年05月18日(Fri)
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本日の初読図書: 「求む奇談! 高額報酬進呈。ただし審査あり」 新聞の募集広告を目にして、酒場 strawberry hill を訪れる様々な人々。彼らは自身が経験した不思議な体験を、奇談蒐集家 恵美酒一(えびすはじめ)に語った。しかし恵美酒が感嘆の声を上げるとその時、美貌の助手 氷坂が待ったをかける。それは不思議でもなんでもないことだ、と。 自らの影に刺されたと主張する公務員。姫君の幽霊の生まれ変わりと結婚したと言う大学教授。かつて未来を見通せる魔術師に命を救われたシャンソン歌手。子供の頃、少女をさらって殺す水色の魔人に襲われた事が忘れられない男。少女時代、苦しい現実から美しい薔薇園のある館へと、誘われながらもチャンスを失った主婦の追憶。そして両親に顧みられず、家出した子供を救ってくれた邪眼の少年。 すべての不思議は、氷坂によって合理的に解決される ――
……んー、なんていうか、すみません。 とりあえず一話目読んだ段階で鬱にはまって、丸一日、ろくに飯も食えないくらいにどん底でした(−ー;) いや、犯人と被害者双方の造形がね、あまりにも己の駄目駄目部分と重なりすぎて(泣) それでも読み始めたからには読了せねばと、がんばって最後まで読み終わりましたが、収録された短編六作+一話のうち三作が鬱結末。他の話も微妙な感じで。真実を暴かれて語り手が幸せになるどころか、知らない方が良かったりそのまま破滅コースという傾向が多く、気分が沈んでいるときに読むのは向かない作品だったかと。 っていうか、女子供が相談者の場合は比較的マシなあたり、作者は成人男子になにか恨みでもあるのか(苦笑) まあ、そんな個人的なことはさておき。 読んでいる際にちょっと違和感を覚えた「いったいいつの時代の話だこれ」という部分が、ラストで回収される重要な伏線だった点は、なかなか意表をつかれました。あと恵美酒さんと氷坂さんの「あんたら何様だ」感も、最後まで読むと、一応納得できます。 幻想文学と見せかけて合理的な安楽椅子探偵……と見せかけつつ、その実は……? という構成は見事。特に六作目に出てきたちょっと唐突感のある「先生」が、ラストエピソードで果たす役割がまた、どうしてどうして。 それぞれ違う人生を歩んできた老若男女が、それぞれの視点で店内の様子や恵美酒さんと氷坂さんを描写する、その言葉の選び方の違いなども興味深かったです。
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No.3763
(読書)
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2012年05月15日の読書
2012年05月15日(Tue)
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本日の初読図書: 堅実な人生設計のもと東京で銀行マンとなった紺屋長一郎(25歳)は、とある避けようのない理不尽な理由から退職を余儀なくされ、出身地である地方都市へと戻ってきた。半年ほどは貯金と失業手当てで食いつなぎつつ無気力に引き籠もっていたが、社会復帰への第一歩として自営業を始めようと考える。 最初に思い浮かべたのはお好み焼き屋。しかし諸事情によりそれは叶わず、結局は調査事務所を開くことにした。 〈紺屋サーチ&レスキュー〉 想定している仕事はただひとつ。犬探しだ。まあ、猫でも構わない。小鳥だとちょっと厳しいだろうか。ともあれ病み上がりで気力も体力も減退している紺屋には、それぐらいがちょうど良かった。 ……それなのに、何故か開業したその日に舞い込んできたのは、失踪した女性システムエンジニアの捜索と、神社に奉納されている古文書の解読という、想定外の依頼がふたつ。 さらには高校時代の後輩ハンペーこと半田平吉までもが、「探偵に憧れていたんです!」と叫んで押しかけ所員となる始末。 引き受けたものはしかたがない、やってくるものもしかたがない。ならばあとは条件をすりあわすまでだ。紺屋は拒む気力すら持たず、依頼期限や報酬内容を整え、調査へと乗り出す。 ひとまずは手分けをして、紺屋は失踪人を探し、ハンペーには古文書について調べさせた。 しかしまったく異なるはずの二つの件は、調査するにつれて何故か微妙に関わり合ってゆき ――
犬捜しを専門にしたがる無気力な探偵という設定に心ひかれて、手に取りました。普通なら「もっと探偵らしいことをしたいのに、犬捜しや浮気調査ばかり」と文句を言うところで、真逆を行くのがおもしろいと思ったのです。 蓋を開けてみたら、紺屋の現状にちょっと心をえぐられる部分もありましたが、それでも引き込まれて一気に読んでしまいました。 作者さんはオンライン作家出身なのだそうですが、悪い意味でのライトノベルという感じはしません。さりとて重厚すぎることもなく、普通に読みやすかったです。 そして元ネット作家だけあって、紺屋がオンライン仲間GENとチャットするシーンなど、非常に親近感を覚える書かれ方。あと粘着系荒らしにあって、HPを閉鎖する羽目になるサイトマスターさんのくだりも「見る見る、こういう話」という感じ。 ……逆に言えば、そういったネット関係の情報に馴染みのない読者には、いささか判りにくい部分もあるかもしれません。
紺屋とハンペーの視点が交互に語られるのもおもしろいところ。 私は一人称で自己評価の低いキャラを、別キャラから見た描写というのがけっこう好きなのです。ハンペーの方も、登場時の印象とは異なって、けっこうお役立ちで一本筋が通ってましたしvv あとこの二人がちゃんと情報交換しないせいで、早く気付けよあれとかこれとか! とやきもきさせられるのが、また楽しくて(笑)
二つの事件の流れを追いつつ、それがひとつにまとまっていき、さらにそこで物語は驚きの逆転を見せます。そして衝撃の結末と、あとを引く余韻 ―― ついに見つかった失踪者 佐久良桐子と紺屋の会話が、穏やかなのにゾッとするような感じで、非常に印象深かったです。
ミステリ小説でありながら、一度は崩壊しかけた紺屋の再生の物語でもあったこのお話は、シリーズものになるらしいです。……その割には、かなり長らく二巻目が出ていませんが。 しかし出てくれたら、是非これは読みたいところ。もうちょっとアクティブになって、これだけは自慢できるという記憶力を発揮しつつ、ハンペーをこき使って事件解決する紺屋が見たいですvv
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No.3758
(読書)
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2012年05月14日の読書
2012年05月14日(Mon)
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本日の初読図書: 三上於菟吉翻訳のモンテ・クリスト伯。 やっぱり五日ぐらいかかりましたが、どうにか中篇も読了。 ……ううむ。 ちょーっと、翻訳が荒いかなあと思い始めています。 人名地名などが、場所によって違うのは当たり前。一行前でデビネーだった人が、次の行でドピネーになっているような適当さが随所にあって、事前知識がないとごっちゃになりそうです。あと翻訳せずに省略してあった部分で説明されていたはずの内容が、後になって普通に出てきたりとか、年数・金額の勘定が適当だったりとか<ダンテスが脱獄してから、結局何年経ってるの?? 表記も気になりますね……二百〇五フランって、なんて読むんだよ。脱字や文字が入れ替わっている部分も相当多く、活字そのものがひっくり返っていたりも一ヶ所や二ヶ所じゃありません。 ……まあそれを言ったら、涙香版もお金の単位がフランになったり圓になったり両になったりと、かなり行き当たりばったりではあるんですが(苦笑)
追記: 時系列が気になったので、原作について調べてみました。
1815年2月24日 ファラオン号が帰港。エドモン19歳、メルセデス17歳。 1815年2月28日 エドモンがイフ城の地下牢に幽閉される。 1824年 地下牢でファリア司祭に出会う。 1829年2月28日 エドモン(33歳)が14年ぶりにイフ城を脱出。 1838年 モンテ・クリスト伯爵として復讐に乗り出す。
以上こちらを参照。 三上版では、復讐に乗り出すのが一八八三年となっていたので(?_?) 八と三の活字が入れ替わってたんですね……(−ー;)
追記ここまで。
もちろん、面白いなあと思うところもあります。たとえば「提燈」と書いて「かんてら」と振り仮名がついていたり、「擦筆畫(さつぴつぐわ)」って「デッサン画」のことだろうかとか、「王子旅館」ってもしか「プリンス・ホテル」!? などなど、昔ながらの翻訳の妙が色々とvv
あと涙香版では省略されていた、信号手を買収して偽の電信を送らせるくだりや、ルイジ・ワ゛ンパの過去などがちゃんと書かれていたのは嬉しいところです。
お話は、オオツュイユの別荘にて赤子の死体の話を聞かされたヴィルフォールとダングラール夫人が密会し、ダングラールは娘婿にアンドレア・カワルカンチをロックオンし、アルベールが伯爵を自宅の晩餐会に誘ったあたりまで進んでいます。 これからが復讐の本番ですね。さてはて、そのあたりはどうなるのでしょう。 今まで読んだバージョンだと握手をしていたシーンが、こちらでは肩を組んでいたりとか、持ち家だったのがホテルになっていたりと、非常に微妙な部分で変化があるので、なかなか油断できません。 さて残るは一冊。最後まで楽しめることを祈りつつ……
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No.3757
(読書)
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2012年05月10日の読書
2012年05月10日(Thr)
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本日の初読図書: 十年の時を経て、再び懐かしき火星、バルスームの土を踏んだジョン・カーター。 しかしそこは勇猛な緑色人の住む荒野でも、愛すべき赤色人が築いた美しい都市でもなかった。見たこともない森林と草原、そして火星で唯一の海が広がる、火星人達がその人生の終わりに巡礼として訪れる来世の国、イス河の果てだったのだ。 愛と平和に満ちた永遠の楽園だと信じられていたそこは、しかし残虐な白色人サーンに支配された地獄に他ならなかった。巡礼達のほとんどは、たどり着いてすぐ恐ろしい植物人間や大白猿に喰い殺され、生き残った者達もサーンの奴隷として虐待の日々を送っているのだという。 死んだと思われたカーターを追い、タルス・タルカスは自らイス河の巡礼の途についていた。この過酷な地で無二の親友たる彼と再会したカーターは、デジャー・ソリスの待つ俗界へと戻るべく、サーンの魔の手から逃れようと奮戦する。 しかし残酷な支配者サーンも、さらに上位の種族ブラック・パイレーツこと黒色人に搾取される存在であった。「死と永遠の生命の女神イサス」をいただく黒色人は、火星の最も古い種族ファースト・ボーンとして君臨していたのだ。 タルス・タルカスと赤色人の娘スビアを逃す代わりに黒色人の捕虜となったカーターは、サーンの乙女ファイドールと共にイサス神殿へと連行される。そこで奴隷となった彼は、同じく奴隷に落とされた黒色人の男ゾダールと友誼を結び、また一年前から捕らわれているという赤色人の少年とも親しくなった。その少年には、不思議とどこか懐かしい、親しみのようなものが感じられるのだったが……
火星シリーズ二冊目の旧訳版を読了。 相変わらずノリと勢いの、御都合主義満載なカーター無双です(笑)<褒め言葉 そして今回のデジャー・ソリスは思い切りありがちな、足手まといヒロイン以外の何者でもないんですが……でも魅力的なんだよなあ。なんでだろう? でもって、前回読んだときも思いましたが、カーターはいろいろタラしすぎです。前回はタルス・タルカスとデジャー・ソリスとウーラでしたが、今回はあっという間に黒色人将校と赤色人の奴隷娘と白色人のお姫様ですか。最後の一人はおかげで大変なことになってますが。 っていうか、ゾダール(黒色人将校)はほんとにお役立ちです。ラストシーンで黙々と扉の隙間から缶詰放り込んでいく、その冷静さが素晴らしすぎるvv
プロローグがある段階で、デジャー・ソリスが無事だと言うことは判りきっているのですけれど、それでもここで話が切られることは、リアルタイムで読んでいた読者にはさぞかしやきもきさせられたことでしょう。 わたしも次の巻の内容をはっきりとは覚えていないので、スビアがどうなったのかがとても心配です。 ……あと荒野で迷子になっていそうなウーラのことも気になるのですが。カーター、前巻であんなに助けてくれた「親友」なんだから、もうちょっと気にかけてあげようよ……
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No.3754
(読書)
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2012年05月09日の読書
2012年05月09日(Wed)
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本日の初読図書: マンガ版二冊目の表紙は、アパートの住人を差し置いて長谷ですか! 中には「長谷君の優雅な日常」なんて読み切りも入っているし、優遇されてるな泉貴坊ちゃん……まあ、家族の最底辺なあたりはしっかり長谷でしたがvv 今回の話は、いったんアパートを出てから、戻ってきてプチたちと夢で出会うあたりまで。アパートに戻るところまでかと思っていたので、長谷くん短編も含めて、ちょっとお得な感じでした。 古本屋さんもご登場。原作者さまはいたくお気に入りだそうです。私は骨董屋さんが良い感じだと思いますが。龍さんの髪の毛ほどいて口づけるシーンは、まさにグッジョブ! 龍さんのコミカルな一面も見せてくれて、さらにナイスだ骨董屋! 原作でもそうなんですけど、夕士くんがアパートを離れている間のエピソードが、読んでいる方も辛くて切なくて、あまり読み返せないのです。それもあって、ちゃんと帰ってきてくれて、古本屋さん達ともワイワイ楽しくやってくれて嬉しかったです。 さて、次の巻では長谷がマイホームパパと化すのでしょうか。そして三浦先生のターン? 早く千晶先生が出てきて欲しいと願いつつ、帯の「3巻はドラマCDつき限定版」という文字にも釘付けになってみたり。た、高そうだけど……これは買っちゃう、かも……?
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No.3751
(読書)
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2012年05月05日の読書
2012年05月05日(Sat)
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本日の初読図書: 吉見家の事件で満身創痍となった霊能者たちは、そのまま半月ほども能登に滞在し、それぞれに傷を癒していた。吉見家の人々も彼らと過ごすことで、精神的な痛手を少しでもやわらげられるようだった。 が、それも終わり、一同は東京へ向かって出発した。そしてその途中、偶然道を間違えたことで、事態は驚きの展開を見せる。 ダム湖のそばで車を止めさせたナルは、しばし呆然と景色を眺めたのち、リン以外の全員に自分達を置いて帰れと告げる。さらに続けられた言葉に、麻衣は愕然とした。 「オフィスは戻り次第、閉鎖する」と ―― 突然の廃業宣言に戸惑う一同は、それでもこのまま放ってはおけないと、そろって近くのキャンプ場へ泊まることにした。 ナルとリンは、どうやら湖に沈んでいる……噂によれば「死体」を探しているらしい。渋谷の事務所は、もともとその為だけに開いたのだと。 そしてただダイバーの作業を見守るしかない彼らの元へ、地元町長から依頼が持ち込まれた。なんでも近くの廃校に幽霊が出るという噂があるから、調査して欲しいというのである。確たる根拠もないつまらない噂の類にしか思えなかったが、時間を持て余していたためか、ナルは受けると返答した。 渋谷サイキックリサーチの、これが最後の調査となるのか。 複雑な思いで向かった先で麻衣達を出迎えたのは、町長達の話とは裏腹な恐ろしい怪異で……
シリーズ読了! はー、感無量ですな。まだ携帯電話すらない時期に書かれた小説を、よくもまあここまで書き直されたものです。小野先生、本当にお疲れ様でした。 ちなみにリライトという点では、個人的にこの巻が一番成功だったのではないかと思います。分量的なことからか、大幅な書き足しがなかったというのもあるのでしょうが。過去の大事故や起きている怪異については内容を詳細にしつつ、さらにナルがその事故を知らない=当時日本にいなかったなどの細かい部分をフォローされていたのは、普通に歓迎できました。 そして一番の改変部分は、例の謎解きを事件後にぼーさんが立て板に水の如くまくし立てるのではなく、つどつど情報を小出しにしつつ、最終的に麻衣が自力で結論にたどり着くという構成にされたこと。これは賛否両論あるようですね。私としては……まあ良かったんじゃないかと。旧版では謎解き部分でシリーズ全体の印象ががらりと劇的に変わったカタルシスも素晴らしかった分、逆に言えばそこだけちょっと浮いてましたから…… 正直ぼーさんの見せ場が減ってしまったのは、とってもとっても悲しいですが(しくしく) ところで前から疑問だったんですけど、ぼーさんが階段でナルに独鈷杵を投げたのは、これでサイコメトリしろってことだったんでしょうか??
一人でも恋はできると結論づけた麻衣の決心は、いま読んでも複雑なものがあります。でもまあこれはこれで、滅多に見られないタイプの結末だということで。 「悪夢の棲む家」をリライトに含めなかったのは、やはりそのあたりの意外性を印象づけるためなんでしょうか。リンさんの片目が青眼だとか、あっちはあっちで興味深い情報満載だったんですけどねえ。 ……ってそう言えば、「日本では加害者の霊が出ない」っていう蘊蓄、「悪夢の棲む家」どころかリライト版5巻「鮮血の迷宮」にさえも、まっこうから逆らっているような……(汗)
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No.3742
(読書)
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2012年05月04日の読書
2012年05月04日(Fri)
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本日の初読図書: 能登の海辺で料亭を営む吉見家には、恐ろしい話が伝えられていた。 代替わりの時には人が死ぬ、と ―― 現実に先代の時には八人、先々代の時には十四人。家族だけでそれだけが死んでいた。他にも泊まり客や、祈祷を頼んだ拝み屋までもが犠牲になったという。 そしてつい先日祖父が死に、家には変事が起き始めていた。飼っていた動物類がすべて死に、子どもの一人には戒名にしか見えない奇妙な形の湿疹ができている。 またも人が死ぬのか。現在吉見家には兄弟や従兄弟を含めて十三人が住んでいるが、それでも八人死ねば半分も残らない。だからこその大家族……だが本当は誰一人として失いたくなどないのだ。 依頼を受けた渋谷サイキックリサーチの一同は、危険を承知しつつも、「相手を見ないうちに帰るほど腰抜けじゃない」と調査を開始する。 ところが家族の一人に憑依した霊を落とした際、事件は起きた。 祓われた霊は一見逃げ出したかに見えたが ―― 実はナルに取り憑いていたのだ。強固な精神を持ったナルに取り憑くほどの、強大な悪霊。それは容易に祓うことなどとてもできず、一同はナルの肉体ごと封じて眠らせるより他なかった。 リーダーであるナルを欠いた状態で、果たして調査を続行できるのか。 呪いの原因も理由も判らぬ中、安原少年をも呼び寄せて、必死に資料を集め推理を重ねてゆく。しかし霊障はじょじょに激しさを増してゆき ――
単純作業をするのに退屈だったので、ドラマCDを聞きながらやっていたら、読みたい熱がたぎってきて積読に手を伸ばせました。 んー、今回のリライト部分は違和感少なかったかな? 吉見家の歴史っていうか家系の来歴まわりがものすごく書き足されていて、正直訳判らん状態ではありましたが<マジで家系図ほしかった あとおこぶ様が祟る理由が、ちょっと変えられていましたね。これは納得かもでした。確かに吉見家は洞窟や祠の掃除もしてたんだから、まったく祀ってない訳ではなかったんですもの。 立山講のうんちくとかは、いささか冗長だとは思いつつ、これはこれで話に深みが出たかと。 そして、もともとこの話あたりからぼーさんのお役立ち度が半端なくなってきているのを、さらにうんちくシーンが増やされて見せ場がありまくったのは嬉しかったです。リンさんとの会話も多いしvv<しょせんは萌え 個人的にリライト版だと、面白い順は1>2>6>4>5>3って感じでしょうか。 リライト前は5>4>2>6>3>1という、ほとんど逆順ってあたりがなんとも(苦笑) さて残るはあと一冊。ティーンズハートでは二分冊だった話を一冊にまとめるとなると……今度は削ってるんでしょうか? 廃校のお話はかなり怖くてゾクゾクしたものでしたが。ああでもぼーさんの謎解きシーンは削ってほしくないな……
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No.3740
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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