よしなしことを、日々徒然に……



 2012年05月31日の読書
2012年05月31日(Thr) 
本日の初読図書:
4044550549首の姫と首なし騎士 (角川ビーンズ文庫)
睦月 けい 田倉 トヲル
角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-08-31

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悪政によって大陸全土を支配したオーランド国を倒すため、連合軍を率いたジョセフ・フェルモント将軍。彼はふらりと戦場に現れた謎の少年を配下に取り立て、重く用いた。名すら持たなかったその少年は、初陣にして敵兵の首を刈り尽くし、取った首級を並べて地獄絵図を作り上げた。返り血を浴びて楽しげに笑う凄惨なその姿から、人々は彼を恐れ「首なし騎士」と呼んで敬遠した。
やがてオーランド国は破れ、ジョセフ将軍はフェルモント国を建国、初代王となる。その傍らには常に首なし騎士が忠実に立ち続けた。
それから七年。
建国の英雄ジョセフ・フェルモントは二年前に没し、現在はその息子ヘンドリクスが王位を継いでいる。しかしアルベルト・ホースマンと名づけられた首なし騎士は、現国王に一片の忠心も抱いてはいなかった。彼の主はあくまで亡き先代であり、他の誰もアルベルトに命令することはできなかったのだ。
気に入らないことは絶対にやらず、上にも下にも容赦なく刃を向け、すれ違っただけでも首を刎ねる。さながら抜き身の刃、鞘をなくした妖刀、狂犬。そんな風評をまとうアルベルトを持て余した現国王は、まるで嫌がらせのように下らない命令を下しては、にべもなくはねつけられていた。
そんなある日のこと、外出嫌いで書庫に引き籠もり読書ばかりしている変わり者と名高い末の姫シャーロットが、父王の命で狩りに出かけることとなった。その護衛を命じられたアルベルトは、なんの気まぐれか今回は付き従ってくる。そしてオーガに襲われるというアクシデントを経て、なんとか無事王宮まで戻ってきたところで、いきなり彼はシャーロットの護衛騎士になると宣言したのだった。
曰く「王としての資質を見定めたいから」、と。
なんでもアルベルトは、亡き先代から遺言を託されていたのだという。それは次の国王に相応しい人物を彼の目で見定め、再び忠誠を誓ってもいいと思ったその時は、王位継承の証である“クラウン”と共に隣に並べというものだった。
それは即ち、現在の国王はもちろん、第一王子レイフォード、第二王子クローヴィスの三人ともが、王たるに値しないと宣言したも同様で。
誰よりも王族らしくない、フェルモント家の突然変異と呼ばれ疎まれてきたシャーロットは、危険人物に目をつけられたことへの恐怖と、そして困惑ばかりを覚えるのだが ――

長らく積んでいたのを、「騙王」に引き続き中世風FT読みたい熱で手を伸ばしました。
普通におもしろかったです。
シャーロットが読書好きで、歴史書読んで過去を調べたり、口伝集をおとぎ話と切って捨てたり、王冠クラウンなんてただの金と宝石の塊で政治の役になど立たないとか言ってたりするので、魔法の類の絡まない歴史風小説だと思って読んでいたら、途中でどんでん返しが。
っていうか、シャーロットが最初にやった『祖父の声真似』って、ほんとに単なる物マネにすぎなかったのね……(苦笑)<彼女の“声”ならそれで良かった
鉄面皮でマイペースな俺サマ一匹狼が、これと認めた主人にのみ忠誠を捧げるという設定は大好物です。最初はジジイと少年、次は姫と青年。ふふふふふ、作者様は判ってらっしゃるvv
狂気の笑みを浮かべながら、戦場で首を刈る首なし騎士様は格好良すぎます。
そして妹のためならば、文字通りなんでもやっちゃう第一王子も素敵ですvv
本編でも語られていますが、第一王子が結婚するとしたら、奥さんは苦労するだろうなあ。いっそ夫と一緒になって、シャーロットを溺愛 ―― いやむしろ取り合いするぐらいの人じゃないと、釣り合いが取れないんじゃないかと。
そして新たな主の『隣に並ぶ』事になったアルベルトは、やっぱり将来的に……なんでしょうか。なんだかんだ言いつつ、最終的には尻に敷かれちゃう力関係を希望しますvv
No.3798 (読書)


 2012年05月29日の読書
2012年05月29日(Tue) 
本日の初読図書:
4048705601騙王 (メディアワークス文庫)
秋目 人
アスキーメディアワークス 2011-07-23

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ローデン国第二王子フィッツラルドは、常勝将軍として兵達や国民に人気が高い。
わずか十六歳にして負け戦なしとうたわれる彼を、次期国王にと望む人々は、それなりの数存在していた。
しかしフィッツラルドが王位を継ぐことはありえない。何故ならフィッツラルドは、側妾だった母親が不義を働いて産んだ、王家の血を持たない子供だったのだ。その秘密を知るのは、彼自身と今は亡き母、そして現国王の三人のみ。
義理の兄である第一王子はけして出来が良いとは言えず、優秀な弟に嫉妬しては、頻繁に刺客を送ってくる始末。たとえ隣国との戦争のさなかでさえ、そこで総大将たる弟が倒れたらどうなるのか、それを考える頭すらないらしい。
実際の所、負け戦なしと崇められてはいても、実状はいつもギリギリの綱渡りなのだ。天命? 神の加護? そんなものは兵を鼓舞するための言葉でしかない。軍費を捻出するために、高利貸しからの借金は膨らむ一方だし、その高利貸しはもちろん敵方にも金を貸していて、常に勝つ側へつこうとするので味方に引き止めるのも一苦労だ。
だがフィッツラルドは、己の命をあきらめる気などさらさらなかった。
兄の下でこのまま怯える日々を送り、いつか暗殺されるぐらいなら、玉座を掴むことこそ安泰への道だ。それも誰からも文句の出ない、正当な方法でやらなければならない。
ゆえに彼は、かたることを選んだ。
父を、兄を、部下を、国民を。
すべてを騙り、彼は自らの運命を切り開いてゆく ――

十二国記、アルスラーン戦記、三国志、デルフィニア戦記あたりを好む人には向いているとレビューにあったので、手に取ってみました。
ひ弱な少年が口先三寸で相手を煙に巻きつつ成り上がっていくパターンかと思っていたら、もっとがっつり骨太な人物造形でした。わずか十六歳にして常勝将軍とか言われていて、ちゃんと軍隊の先頭で剣を振るったりしてるし、暗殺者から命を狙われるのも日常茶飯事。矢を避けるのはうまくなったとか、毒に身体を慣らしてあるとか、肉体的にも非常にハードな人生を送ってらっしゃいます。
なにより意外なのは、この手の頭脳・情報戦を得意とする主役は、たいてい一人や二人は絶対的な信頼をおける心の拠り所的、腹心なりパートナーなりがいるものなのに、彼にはそんな相手が誰一人いません。奴隷から取り立てた部下も、兄から奪った婚約者も、長年の付き合いがある高利貸しも、みんな気の抜けない話し合い騙し合いの末、時に協力を得、時に裏切られる緊張感の続く間柄。 唯一忠臣と呼べそうなラグラスは、頭脳戦とか無理っぽい単純キャラだしなあ……(苦笑)
そうして彼はすべての人間をだまし、かたり、それぞれにそれぞれ、一片の真実と多くの偽りを渡して、全体的な真実は自分一人の胸だけに納め孤高に立つのです。その点で、この表紙絵は見事に本の内容を表現していると思います。あとカラー口絵も素晴らしい。
初対面の人間はみな口を揃えてその金髪「だけ」を褒め称える ―― すなわちそれ以外は褒めようがない ―― そんな平凡な容姿でありながら、王者の存在感を身に纏うフィッツラルドを見事に描き出しているかと。

あと「後世に伝えられる歴史は、けして事実をあらわしているとは限らない。時に無意識に、時に意図的に、それらは改竄され、変化し、姿を変えてゆく」、そんなテーマは私もよく使う内容なので、終章のくだりは非常に興味深く読めました。
ローデン国の系譜とかも、とてもおもしろく……っていうかぶっちゃけ、うわーネタかぶってるっぽいとか途中まで思っていたら、どうしてどうして。私なんぞ、プロの作家さんの足元にも及べるはずがありませんでした。まさか、最後の最後でああくるとは。降参です、参りました。
長台詞びっちり、陰謀ばっち来い、予定調和的展開万歳、結局主役が最強よねvv という方にはオススメします。
あー、でも戦場シーンとかあるわりに、何故か派手さは感じません。終始淡々と描写されている印象なのは、三人称でありながらも、視点が常にフィッツラルドに固定されているからでしょうか。それだけ動じない主人公というあたりも、私の好みにはフィットしていた訳ですが。そしてなんだかんだ言いつつ、根っこの根っこのそのまた奥底あたりでは、総愛されっぽいところも大好物なんですがvv
文章もライトノベルほど軽くはないけれど、戦記物ほど重厚でもなくという感じで、ほど良いところかと。

そしてジェスタ国のルウェウス王子について、思わせぶりな部分が残されている部分は……これは続きが書かれるんでしょうか。正直続刊は出てほしい気持ちもあるし、このままで余韻を楽しみたい気持ちもあるしで、複雑なところです。
No.3791 (読書)


 2012年05月28日の読書
2012年05月28日(Mon) 
本日の初読図書:
「コウの子育て奮闘記(Arcadia)」
 http://www.mai-net.net/bbs/sst/sst.php?act=dump&cate=original&all=30300&n=0&count=1

その日、サンタレン王国王都のハンターギルドは驚愕に包まれた。
気性が荒く手懐けることさえ難しく、まして複数を同時に飼うことなど不可能と言われた魔物ドラゴンホースを二頭立てにした巨大な馬車に、稀少な魔物の部位を満載にした男が現れたのだ。
すべてを売り払ったその金額は、白金貨で約500枚(およそ 1000 億円)に及んだ。
男の名は、コウ・シバザキ。精霊に異常なほど愛される、異世界からやってきた存在である。
彼の目的は、王都に屋敷を買い、綺麗どころを侍らせて悦に入るというもの。その第一歩として大金を入手……いささかしすぎた感は否めないが、それはさておき。
ハンターギルドで使い走りにした浮浪児に、妙に懐かれた挙げ句、仲間26人を引き連れて押しかけられたのもまあ、しかたがないだろう。報酬が貴族の下屋敷となっていた討伐依頼を受けたら、ちょっと当初の予定より魔物が多すぎて、殲滅戦になっちゃったりいろいろあったけど、念願のお屋敷も手に入った。
最高ランクの女奴隷も五人ばかり購入して……でも子供達と同じ屋根の下で、不道徳なことをすると教育に悪いなあ。とりあえず大人数の子供達の面倒を見させないと、屋敷内がカオスと化すし。
って、あれ? なんか当初と目的ずれてきてない??
気がつけば、31歳にして26人の子供と5人の奴隷、さらに使用人達の面倒まで見る羽目になったコウの奮闘記が始まっていた。

異世界召喚チートFT。
完結済と書いてあったので安心して読み始めたら、続き物の第一部でした_| ̄|○
めっさ中途半端なところで終わってる……しかもコウが召喚された事情とか前後の状況とかが、まだ全然明らかにされてません。
話自体はのんびりほのぼの、まったりという感じ。
チートな能力を持ちつつお人好しで押しに弱い主人公が、何かと周囲に振りまわされつつ、無自覚な好意と尊敬を向けられる、大好物な展開です。
ただ↑の通り、細かいところはまだほとんど描写されておらず、文章もかなりライトなノリ。なので読了後の気分は、ちょっと肩すかしを食った感じかな。
続きが早く出てくれると良いんですけど……もう完結してから半年経ってるのに、動きがないみたいだからなあ……
No.3790 (読書)


 2012年05月26日の読書
2012年05月26日(Sat) 
本日の初読図書:
4334740316セント・メリーのリボン (光文社文庫)
稲見 一良
光文社 2006-03-14

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女と共に逃げた男は、途中その女も殺され、銃を手にひとり森の中をさまよっていた。そこで出会った老人とのひとときを綴る「焚火」。
カメラマンの松村が見つけたのは、花見川沿いの茂みに埋もれた古いトーチカ。そこには陸軍工兵軍曹を名乗る少年と、担ぎ売りの老婆がいた。少年は軍用鉄道を守っているのだと言い、実弾の籠められた本物の九九式小銃と旧帝国陸軍の階級章を身に着けていた。二人の話によれば、鉄道は今も夜ごとトーチカのそばを走っているという。いつしか二人の話に引き込まれた彼は、トーチカへと足しげく通い、松村二等兵として共に見張りをするようになった。そうしていつしか、彼の耳にも汽笛が届くようになり……「花見川の要塞」。
ドイツを攻撃するイギリスのB17爆撃機ジーン・ハーロー。その機長であるジェイムズが、機体を撃たれ胴体着陸を余儀なくされたとき、部下の命を救うために取った行動「麦畑のミッション」。
東京駅で働く赤帽たち。その最古参である老人と、もっとも年若とはいえ四十を越えるその甥。赤帽は彼らの代で消えるだろう。老後をどう過ごすか、見果てぬ夢を抱いていた彼らの前に現れたのは……「終着駅」。
竜門卓は探偵だ。それも犬、しかも「猟犬」しか探さない。猟のさなかに見失ったり、あるいは盗まれたりした猟犬を探し出すのが仕事である。相棒の黒犬ジョーと共に山中に分け入り、あるいは伝手を頼りに情報を拾う。だが今回の依頼はいっぷう変わっていた。探して欲しいのは盲導犬だという。竜門は猟犬とはまた異なった人と犬との関わり方に、興味を覚え依頼を引き受ける「セント・メリーのリボン」。

先日読んだ「犬はどこだ」の解説で紹介されていたので読んでみました。
最初は長編か同シリーズの短編集かと思っていたら、目的だった猟犬探偵のお話は表題作一編のみでした。とはいえ全体の半分近くを占めているので、充分満足できましたが。
その他のお話も、それぞれに味わい深かったです。なんというか、一昔前の翻訳ハードボイルドを読んでいるような感じ。そのくせ、ちょっぴりファンタジックな要素を秘めているお話もあったりして、予断を許しません。
個人的にはやはり表題作と、あと「焚火」が面白かったかな。「焚火」なんて、登場人物の名前が一個も出てこないんですよ。「おれ」「女」「老人」「犬」。「おれ」によって描写される過去は、具体的な固有名詞を出さないまま、淡々と、しかし心抉る悲哀を漂わせています。そして最初はちょっと呆けた農夫にしか見えなかった老人が見せる格好良さときたら……!
あと「花見川の要塞」は、なんとなく「銀河鉄道の夜」を思い出させられました。ちょっと不思議な大人の童話という感じで、これもなかなか素敵です。
表題作はもう……ひたすら格好いいの一言です。私有地の山中で、猟銃と犬だけを傍らに暮らす竜門の男前なこと。無口で強面、ぶっきらぼう。でも心の底には不器用な優しさを隠しているのがたまりません。
気に入らない相手への容赦なさとか、事情持ちの犯人への処置の甘さとか、良いのかそれでと突っ込むのは野暮でしょう(笑)
今回は相棒犬ジョーの活躍が少なかったので、そちらは続編に期待したいです。
No.3786 (読書)


 2012年05月23日の読書
2012年05月23日(Wed) 
本日の初読図書:
4864231680SILVER DIAMOND(26) (冬水社・いち*ラキコミックス)
杉浦 志保
冬水社 2012-05-20

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うわぁぁぁあああ! なんだこれ、なんだこれ! なんだこれぇぇぇええッッ!?
いったいどこから伏線張り続けてるんだよ、杉浦先生! 羅貫と目の回路を結んだときの「これは……」なんて、あんなさりげないシーンに、どんだけ重たいものを秘めていたんですかッッッ(号泣)
もうもう、以前の感想で「不老不死の千艸はこの先、羅貫や親衛隊に取り残されてしまうんじゃないか」とか言っていた己の脳天気さが恨めしい。よもやまさか、こう来るとは(しくしくしく)
事情が判って読み返してみると、随所に出てくる千艸と羅貫の『一緒だ』発言の裏に込められた想いがもう( T _ T )

お話自体はね、ものすごく格好いいです。羅貫サイドも皇子サイドも、確固たる信念のもとに己の道を己で定め、笑顔さえ浮かべながら全力ですべてを燃やし尽くす。そのさまは惚れ惚れするほどに美しくて。妖芽の皇子のふっきれた笑顔。金隷との絆。
対する羅貫と千艸もまた、相手の覚悟を理解し共感し、時に楽しみさえ覚えながら死力を尽くす。
あまりに綺麗で切なくて、読んでいて涙が滲んできました。
残るはあと1冊。十月発売の27巻で、堂々完結とのこと。
あああ、本当にこのまま終了してしまうのでしょうか。そこになにかどんでん返しはないのか!?
残る五ヶ月を、首を長くして待つことになりそうです。
あとちょっと気になったんですが、刀蛇の虹もホシミノコトの作品ですよね? 彼ははたして大丈夫なんでしょうか……(汗)
No.3779 (読書)


 2012年05月22日の読書
2012年05月22日(Tue) 
本日の初読図書:
「艶容万年若衆」三上於菟吉

桜も散り果てた卯月なかばのこと、浮世絵師の露月は素晴らしく美しい若衆に出会った。年の頃、まだ咲きも盛らぬ十六七。艶々しい若衆髷は心持ち鬢のほつれた黒髪で、夢見るような瞳は夜の華を思わせる。なんとも美しくあでやかで、物やさしい美少年であった。
学者であった父の影響を受け、向学心にあふれる純粋な彼は、名を呉羽之介といった。そのうるわしさに魅せられた露月は、どうにかしてこの絶世の美の化身を未来永劫この世に遺したいと、ついに一枚の姿絵を描きあげる。それは露月の最高傑作と呼べる出来映えで、呉羽之介の美しさを余すところなく写し取っていた。
その姿絵を見た呉羽之介は、それによって初めて己の容貌が人並みはずれたものであることを自覚する。そしてそんな彼へと露月の友人 片里(へんり)は、まことしやかに様々な事柄を吹き込んだ。すなわち若く美しいそなたは、この世で最も仕合わせ者である。そんな人間が学問などすることはない。どのような女子とて思いのまま手に入るのだから、この世の喜びは得たい放題だ。その若さと美しさは、いずれ失われる貴重なもの。なればこそ今のうちに楽しく遊ぶべきだ、と ――
その言葉で己が遠くない未来、醜く老いさらばえるだろうことに気がついた呉羽之介は、恐怖に震えた。そのようなことは耐え難く、自分が老いてもなお美しいままであろう絵姿が、妬ましくてならなかった。
自分とこの絵姿が入れ替わり、自分の代わりに絵が年を取り、自分は常若に美しくあれれば良いのに。呉羽之介はむせび泣いた。
そして時は過ぎ ―― 果たしてどのような悪魔が願いを聞き届けたのか。呉羽之介の望み通り、絵の姿が変わり始めた。
どれほど経っても呉羽之介は若く美しいまま、しかし絵姿は徐々に年を取り、醜く恐ろしい顔に変じてゆく。それは遊蕩を覚え女達を弄ぶようになった呉羽之介の、内面を映し出しているのに他ならなかった。
清らかな外見はそのままに、精神が堕落してゆく呉羽之介に、露月は心を痛めるのだったが……

オスカー・ワイルド唯一の長編、「ドリアン・グレイの肖像」を翻案したという作品。B5サイズのハードカバーで33ページほどの短編? 中編? です。
よく様々な作品でモチーフに使われる有名どころですし、最初は原作(文庫一冊)の方を読もうとしたのですが、そちらは数頁で挫折しました。 文章とか、長さとかがね……
舞台は元禄時代のお江戸。美少年アドニスは振袖若衆に、油絵画家が浮世絵師に変えられていますが、ネットであらすじを見た感じ、基本的な流れはそこそこ忠実なようです。そしてやはり自分は日本人だからか、欧米の文学を引用した気障な語りより、「昨日少年今白頭さくじつのしょうねんきょうははくとう」とか「花のいろはうつりにけりないたづらに〜」といった表現の方がピンと来ますね。

そして既に良い年になっている私としては、十六だか七で己の容貌が衰えることを恐れる呉羽之介に苦笑いしつつ、判ってないなあと言いたくなります。
男の魅力は三十からよ! ビバ、人生経験のにじみ出る渋いおっさん!
呉羽之介の不幸は、純粋なところに片里の戯れ言を吹き込まれちゃったことですねえ。普通に年を取っていたら、どんな美中年になってくれていたことか。そう思うと惜しまれます。
No.3778 (読書)


 2012年05月18日の読書
2012年05月18日(Fri) 
本日の初読図書:
4488490093奇談蒐集家 (創元推理文庫)
太田 忠司
東京創元社 2011-11-19

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「求む奇談! 高額報酬進呈。ただし審査あり」
新聞の募集広告を目にして、酒場 strawberry hill を訪れる様々な人々。彼らは自身が経験した不思議な体験を、奇談蒐集家 恵美酒一(えびすはじめ)に語った。しかし恵美酒が感嘆の声を上げるとその時、美貌の助手 氷坂が待ったをかける。それは不思議でもなんでもないことだ、と。
自らの影に刺されたと主張する公務員。姫君の幽霊の生まれ変わりと結婚したと言う大学教授。かつて未来を見通せる魔術師に命を救われたシャンソン歌手。子供の頃、少女をさらって殺す水色の魔人に襲われた事が忘れられない男。少女時代、苦しい現実から美しい薔薇園のある館へと、誘われながらもチャンスを失った主婦の追憶。そして両親に顧みられず、家出した子供を救ってくれた邪眼の少年。
すべての不思議は、氷坂によって合理的に解決される ――

……んー、なんていうか、すみません。
とりあえず一話目読んだ段階で鬱にはまって、丸一日、ろくに飯も食えないくらいにどん底でした(−ー;) いや、犯人と被害者双方の造形がね、あまりにも己の駄目駄目部分と重なりすぎて(泣)
それでも読み始めたからには読了せねばと、がんばって最後まで読み終わりましたが、収録された短編六作+一話のうち三作が鬱結末。他の話も微妙な感じで。真実を暴かれて語り手が幸せになるどころか、知らない方が良かったりそのまま破滅コースという傾向が多く、気分が沈んでいるときに読むのは向かない作品だったかと。
っていうか、女子供が相談者の場合は比較的マシなあたり、作者は成人男子になにか恨みでもあるのか(苦笑)
まあ、そんな個人的なことはさておき。
読んでいる際にちょっと違和感を覚えた「いったいいつの時代の話だこれ」という部分が、ラストで回収される重要な伏線だった点は、なかなか意表をつかれました。あと恵美酒さんと氷坂さんの「あんたら何様だ」感も、最後まで読むと、一応納得できます。
幻想文学と見せかけて合理的な安楽椅子探偵……と見せかけつつ、その実は……? という構成は見事。特に六作目に出てきたちょっと唐突感のある「先生」が、ラストエピソードで果たす役割がまた、どうしてどうして。
それぞれ違う人生を歩んできた老若男女が、それぞれの視点で店内の様子や恵美酒さんと氷坂さんを描写する、その言葉の選び方の違いなども興味深かったです。
No.3763 (読書)


 2012年05月15日の読書
2012年05月15日(Tue) 
本日の初読図書:
4488451047犬はどこだ (創元推理文庫)
米澤 穂信
東京創元社 2008-02

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堅実な人生設計のもと東京で銀行マンとなった紺屋長一郎(25歳)は、とある避けようのない理不尽な理由から退職を余儀なくされ、出身地である地方都市へと戻ってきた。半年ほどは貯金と失業手当てで食いつなぎつつ無気力に引き籠もっていたが、社会復帰への第一歩として自営業を始めようと考える。
最初に思い浮かべたのはお好み焼き屋。しかし諸事情によりそれは叶わず、結局は調査事務所を開くことにした。
〈紺屋サーチ&レスキュー〉
想定している仕事はただひとつ。犬探しだ。まあ、猫でも構わない。小鳥だとちょっと厳しいだろうか。ともあれ病み上がりで気力も体力も減退している紺屋には、それぐらいがちょうど良かった。
……それなのに、何故か開業したその日に舞い込んできたのは、失踪した女性システムエンジニアの捜索と、神社に奉納されている古文書の解読という、想定外の依頼がふたつ。
さらには高校時代の後輩ハンペーこと半田平吉までもが、「探偵に憧れていたんです!」と叫んで押しかけ所員となる始末。
引き受けたものはしかたがない、やってくるものもしかたがない。ならばあとは条件をすりあわすまでだ。紺屋は拒む気力すら持たず、依頼期限や報酬内容を整え、調査へと乗り出す。
ひとまずは手分けをして、紺屋は失踪人を探し、ハンペーには古文書について調べさせた。
しかしまったく異なるはずの二つの件は、調査するにつれて何故か微妙に関わり合ってゆき ――

犬捜しを専門にしたがる無気力な探偵という設定に心ひかれて、手に取りました。普通なら「もっと探偵らしいことをしたいのに、犬捜しや浮気調査ばかり」と文句を言うところで、真逆を行くのがおもしろいと思ったのです。
蓋を開けてみたら、紺屋の現状にちょっと心をえぐられる部分もありましたが、それでも引き込まれて一気に読んでしまいました。
作者さんはオンライン作家出身なのだそうですが、悪い意味でのライトノベルという感じはしません。さりとて重厚すぎることもなく、普通に読みやすかったです。
そして元ネット作家だけあって、紺屋がオンライン仲間GENとチャットするシーンなど、非常に親近感を覚える書かれ方。あと粘着系荒らしにあって、HPを閉鎖する羽目になるサイトマスターさんのくだりも「見る見る、こういう話」という感じ。
……逆に言えば、そういったネット関係の情報に馴染みのない読者には、いささか判りにくい部分もあるかもしれません。

紺屋とハンペーの視点が交互に語られるのもおもしろいところ。
私は一人称で自己評価の低いキャラを、別キャラから見た描写というのがけっこう好きなのです。ハンペーの方も、登場時の印象とは異なって、けっこうお役立ちで一本筋が通ってましたしvv
あとこの二人がちゃんと情報交換しないせいで、早く気付けよあれとかこれとか! とやきもきさせられるのが、また楽しくて(笑)

二つの事件の流れを追いつつ、それがひとつにまとまっていき、さらにそこで物語は驚きの逆転を見せます。そして衝撃の結末と、あとを引く余韻 ――
ついに見つかった失踪者 佐久良桐子と紺屋の会話が、穏やかなのにゾッとするような感じで、非常に印象深かったです。

ミステリ小説でありながら、一度は崩壊しかけた紺屋の再生の物語でもあったこのお話は、シリーズものになるらしいです。……その割には、かなり長らく二巻目が出ていませんが。
しかし出てくれたら、是非これは読みたいところ。もうちょっとアクティブになって、これだけは自慢できるという記憶力を発揮しつつ、ハンペーをこき使って事件解決する紺屋が見たいですvv
No.3758 (読書)


 2012年05月14日の読書
2012年05月14日(Mon) 
本日の初読図書:
4843311138昭和初期世界名作翻訳全集 (43)
デューマ 三上 於菟吉
ゆまに書房 2004-07

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三上於菟吉翻訳のモンテ・クリスト伯。
やっぱり五日ぐらいかかりましたが、どうにか中篇も読了。
……ううむ。
ちょーっと、翻訳が荒いかなあと思い始めています。
人名地名などが、場所によって違うのは当たり前。一行前でデビネーだった人が、次の行でドピネーになっているような適当さが随所にあって、事前知識がないとごっちゃになりそうです。あと翻訳せずに省略してあった部分で説明されていたはずの内容が、後になって普通に出てきたりとか、年数・金額の勘定が適当だったりとか<ダンテスが脱獄してから、結局何年経ってるの??
表記も気になりますね……二百〇五フランって、なんて読むんだよ。脱字や文字が入れ替わっている部分も相当多く、活字そのものがひっくり返っていたりも一ヶ所や二ヶ所じゃありません。
……まあそれを言ったら、涙香版もお金の単位がフランになったり圓になったり両になったりと、かなり行き当たりばったりではあるんですが(苦笑)

追記:
時系列が気になったので、原作について調べてみました。

 1815年2月24日 ファラオン号が帰港。エドモン19歳、メルセデス17歳。 
 1815年2月28日 エドモンがイフ城の地下牢に幽閉される。
 1824年      地下牢でファリア司祭に出会う。
 1829年2月28日 エドモン(33歳)が14年ぶりにイフ城を脱出。
 1838年      モンテ・クリスト伯爵として復讐に乗り出す。

以上こちらを参照。
三上版では、復讐に乗り出すのが一八八三年となっていたので(?_?)
八と三の活字が入れ替わってたんですね……(−ー;)

追記ここまで。

もちろん、面白いなあと思うところもあります。たとえば「提燈」と書いて「かんてら」と振り仮名がついていたり、「擦筆畫(さつぴつぐわ)」って「デッサン画」のことだろうかとか、「王子旅館」ってもしか「プリンス・ホテル」!? などなど、昔ながらの翻訳の妙が色々とvv

あと涙香版では省略されていた、信号手を買収して偽の電信を送らせるくだりや、ルイジ・ワ゛ンパの過去などがちゃんと書かれていたのは嬉しいところです。

お話は、オオツュイユの別荘にて赤子の死体の話を聞かされたヴィルフォールとダングラール夫人が密会し、ダングラールは娘婿にアンドレア・カワルカンチをロックオンし、アルベールが伯爵を自宅の晩餐会に誘ったあたりまで進んでいます。
これからが復讐の本番ですね。さてはて、そのあたりはどうなるのでしょう。
今まで読んだバージョンだと握手をしていたシーンが、こちらでは肩を組んでいたりとか、持ち家だったのがホテルになっていたりと、非常に微妙な部分で変化があるので、なかなか油断できません。
さて残るは一冊。最後まで楽しめることを祈りつつ……
No.3757 (読書)


 2012年05月10日の読書
2012年05月10日(Thr) 
本日の初読図書:
B000JACNY2火星の女神イサス (1965年) (創元推理文庫)
エドガー・ライス・バローズ 小西 宏
東京創元新社 1965

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十年の時を経て、再び懐かしき火星、バルスームの土を踏んだジョン・カーター。
しかしそこは勇猛な緑色人の住む荒野でも、愛すべき赤色人が築いた美しい都市でもなかった。見たこともない森林と草原、そして火星で唯一の海が広がる、火星人達がその人生の終わりに巡礼として訪れる来世の国、イス河の果てだったのだ。
愛と平和に満ちた永遠の楽園だと信じられていたそこは、しかし残虐な白色人サーンに支配された地獄に他ならなかった。巡礼達のほとんどは、たどり着いてすぐ恐ろしい植物人間や大白猿に喰い殺され、生き残った者達もサーンの奴隷として虐待の日々を送っているのだという。
死んだと思われたカーターを追い、タルス・タルカスは自らイス河の巡礼の途についていた。この過酷な地で無二の親友たる彼と再会したカーターは、デジャー・ソリスの待つ俗界へと戻るべく、サーンの魔の手から逃れようと奮戦する。
しかし残酷な支配者サーンも、さらに上位の種族ブラック・パイレーツこと黒色人に搾取される存在であった。「死と永遠の生命の女神イサス」をいただく黒色人は、火星の最も古い種族ファースト・ボーンとして君臨していたのだ。
タルス・タルカスと赤色人の娘スビアを逃す代わりに黒色人の捕虜となったカーターは、サーンの乙女ファイドールと共にイサス神殿へと連行される。そこで奴隷となった彼は、同じく奴隷に落とされた黒色人の男ゾダールと友誼を結び、また一年前から捕らわれているという赤色人の少年とも親しくなった。その少年には、不思議とどこか懐かしい、親しみのようなものが感じられるのだったが……

火星シリーズ二冊目の旧訳版を読了。
相変わらずノリと勢いの、御都合主義満載なカーター無双です(笑)<褒め言葉
そして今回のデジャー・ソリスは思い切りありがちな、足手まといヒロイン以外の何者でもないんですが……でも魅力的なんだよなあ。なんでだろう?
でもって、前回読んだときも思いましたが、カーターはいろいろタラしすぎです。前回はタルス・タルカスとデジャー・ソリスとウーラでしたが、今回はあっという間に黒色人将校と赤色人の奴隷娘と白色人のお姫様ですか。最後の一人はおかげで大変なことになってますが。
っていうか、ゾダール(黒色人将校)はほんとにお役立ちです。ラストシーンで黙々と扉の隙間から缶詰放り込んでいく、その冷静さが素晴らしすぎるvv

プロローグがある段階で、デジャー・ソリスが無事だと言うことは判りきっているのですけれど、それでもここで話が切られることは、リアルタイムで読んでいた読者にはさぞかしやきもきさせられたことでしょう。
わたしも次の巻の内容をはっきりとは覚えていないので、スビアがどうなったのかがとても心配です。
……あと荒野で迷子になっていそうなウーラのことも気になるのですが。カーター、前巻であんなに助けてくれた「親友」なんだから、もうちょっと気にかけてあげようよ……
No.3754 (読書)


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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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