2014年07月22日の読書
2014年07月22日(Tue)
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本日の初読図書:
パルス歴三二〇年 秋 西北方 ルシタニア王国軍 マルヤム王国を滅亡せしめ パルス王国に侵入 アンドラゴラス三世 自ら軍をひきいてアトロパテネの野に 侵略軍を迎え撃つ 王太子アルスラーン初陣す ときに十四歳
御存知、田中芳樹の中世ペルシャ風戦記のコミカライズです。 ……原作小説の方はあまりに刊行ペースが遅く、また第二部の展開がいささか微妙なこともあって、もう追いかけるのはやめてしまったのですけれど。 しかし第一部を読んでワクワクしていた、あの頃の気持ちを否定したくはありません。 アルスラーン戦記の第一部は、今でも紛れもなく名作だと思うのです。
そんな訳で買ってしまいました。 メディアミックスとしては、かつて5巻「征馬孤影」までが映画とOAVでアニメ化され、また第一部終了までを中村地里の作画でマンガ化されたこともあります。ちなみにカセットブック版は、CD−BOXで持っています(笑) 映画はわざわざ隣の市まで、電車に乗って見に行ったっけなあ……(懐) どれにもそれぞれにそれなりの良さがありましたが、この荒川版も、なかなかどうして、悪くありません。
作画の荒川弘さんは、あの「鋼の錬金術師」の作者さんです。いまなら「銀の匙」の原作者といったほうが通りがいいのでしょうか? 多少癖のある絵柄ではありますけれど、頑張る少年少女を描かせたらピカイチの人だと私は思っています。 実際、表紙のアズライールを肩に載せたアルスラーンを見て、私は購入を決めました。 ダリューンが長髪(サムソンスタイル?)だったり、キシュワードのヒゲ成分が足りない(笑)といった微妙な不満点はありますが、そこらへんは枝葉末節。 貧困なイメージ力では曖昧にしか想像できなかった古代ペルシャ風の服装や建物などが、とてもそれらしく描かれています。
そして第一話は、アトロパテネの三年前を舞台に、エクバターナの繁栄やアルスラーンと両親との確執、奴隷制度について初めて疑問を抱くといった部分を描いたオリジナルエピソード(どうもこのアルスラーンは下町育ちではない模様)から始まり、初見の読者にも物語を判りやすくしてくれています。
しかし何よりもまずは、冒頭第1ページでしょう。 アンドラゴラス王の「突撃!!」に心が震えました。 ああ、この世界に再び還って来たんだ……と。
戦闘シーンの迫力、そして凄惨さは圧巻です。 返り血を浴びて血まみれになったアルスラーンが、次のページでほとんどキレイになっているなんて御都合主義はありません。河で洗うまでずっと血だらけです。 何万もの人間が戦闘で命を落とし、そしてイアルダボート神の名のもとに行われる異教徒への虐殺もきっちりと描かれています。
一巻目はほとんどアトロパテネの会戦に費やされているので、荒川さんらしいギャグ要素は薄めでした。巻末予告を読む感じ、ナルサスを味方に引き入れる二巻目などは、コメディタッチな表現も出てくるようですが。
ラストは隠遁しているナルサスの元へ、エラムによって案内される所で終わっています。 このペースだと、第一部完まで何冊かかることやら心配になってきますが……しかしこのクォリティのまま行ってくれるのであれば、追いかけていけるかもしれません。 ギーヴやファランギースはもちろんのこと、ジャスワントやラジェンドラ王子がどんなふうに描かれるのかも楽しみだなあvv
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No.6031
(読書)
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2014年07月21日の読書
2014年07月21日(Mon)
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本日の初読図書: 時代は西暦1970年。ロサンジェルスに住む技術者ダニエル・ブーン・デイヴィスは、六週間戦争をかろうじて生き延びたのちに軍を退役し、画期的な自動床掃除器文化女中器を発明した。そして親友の元弁護士マイルズと株式会社を起業して業績を伸ばす。さらに窓ふきや風呂掃除をやってくれる万能ウィリイの開発に着手したダンは、より高品質なものを送り出すべくもっと時間をかけたがったが、早く会社を成長させたいマイルズとの間で意見の衝突が起きた。株式はダンが51%を持っていたので決定権はダンにあるはずだったが、ここで彼は予想外の裏切りを受ける。ダンは秘書であり婚約者であったベルに株式の一部をプレゼントしていたのだが、そのベルがマイルズの味方をしたのだ。さらにいつの間にか様々な書類が偽造されており、ダンはすべての特許や開発中の資料を奪われ、会社から追放されてしまう。 失意から酒浸りとなり自棄を起こした彼は、保険会社へ行き自分と愛猫ピートの冷凍睡眠を申し込んだ。これは眠っている間に保険会社へ財産を信託しておけば、数十年後に目覚めた時にはそれなりにまとまったものが手に入る制度で、未来に行きたい人間や、あるいは不治の病に侵された者が治療法が見つかる事に希望を託して眠りにつく事が多い。ダンは三十年後に年老いた二人を、若々しい姿であざ笑ってやろうと考えたのだった。 しかし事前健康診断でアルコールを抜いて素面に戻ると、やはり裁判でとことん戦おうと考えを改める。そうして結婚したベルとダンのもとを訪れると、二人はダンを殺そうとし、ピートはその騒ぎの中で行方不明に。ダンの荷物から冷凍睡眠保険の契約書を見付けた二人は、死体を始末せずにすむという理由から、書類を改ざんし別の保険会社へと変更。ダンを麻薬で人事不省にした状態で冷凍睡眠に送り込んでしまう。 三十年後、西暦2000年に目覚めたダンは、保険会社の倒産により無一文になっていた。知り合いも身よりもなく愛猫ピートもおらず、優秀な技術者として培ってきた知識ももはや時代遅れのものに成り下がっている。それでもどうにか働きながら、失った30年の間の歴史と進んだ技術を学んでいった彼は、じょじょに不可解な事実を知ることとなる。 たとえば自分が構想していた新型の製図器と同じものが、すでに社会に普及している。しかもその特許は1970年にD・B・デイヴィス名義で登録されているのだ。自分は頭の中で考えていただけで、開発など一切していないのに。 さらにマイルズの義理の子であり、ダンにとっては姪にも等しかった少女リッキイに遺しておいたはずの株券は、見知らぬハイニックなる人物に渡ったのち、十年後に保険会社へ信託されていた。 成功しさぞ良い気になっているだろうと思われたマイルズは、1971年に死亡。文化女中器会社は万能ウィリイを売り出せぬまま倒産し、ベルは落ちぶれ果てている。そして肝心のリッキイの行方はどうしてもつかめない。 自分が眠ってから、いったい何が起きたというのか。調べる手立ても尽きて悩みぬいたダンは、軍事機密とされているタイムマシンの存在を知り、三十年前の過去に戻ることを計画する。 しかしそれは二分の一の確率で失敗する、危険な賭けで……
1956年に発表された、古典SF不朽の名作。 先日読んだ「配達あかずきん」の中で読みやすいと紹介されており、しかも最近はけっこう古典ものを読む楽しさにも目覚めてきたところ。おまけにあらすじを調べてみたら、巌窟王的復讐譚のテイストもあると知って、これは読むしかない! と遅ればせながら手にとってみました。 そして最近出たというとっつきやすい新訳で行くか、古くから評価が高く味わい深い旧訳にするかでさんざん迷ったあげく、表紙の可愛さに負けて旧訳を選択してみたり。
やー、猫好きにとってこの表紙は販促もとい反則やろうvv
中身の文章も、ハインラインはどうやら半端ない猫好き。そしてきっと実際に猫を飼ったことがあるに違いないとニヤつかずにはいられない出来でした。
猫にはユーモアのセンスがない。あるのは極端に驕慢なエゴと過敏な神経だけなのだ。それではいったい、なぜそんな面倒な動物をチヤホヤするのだと訊かれたら、ぼくには、なんとも答えようがない(中略)にもかかわらずぼくは、眠りこんでいる小猫をおこさないために、高価な袖を切り捨てたという昔の中国の官吏の話に、心の底から同感するのである。
どうです、ダンのこの猫馬鹿ぶり(笑) 猫とは高慢で自分勝手で自分の都合を最優先すると評しながら、しかしそれらをすべて受け入れることで飼い猫ピートと固い友情を築き、冷凍睡眠に入る際も一緒に連れてゆくことを迷わないダンの揺るぎなさに、共感できるかどうかがこの話を面白く思えるか否かの、ひとつの別れ道かもしれません。 冬になると家中の扉の前で鳴いては開けろと訴える猫に対し、一つ一つ順番に開けてやって、どの扉の外も間違いなく冬なのだと確認させてやるとか、猫好きなら本当にやってそうvv でもピートは単にダンを都合の良い奴隷のように考えているのではなく、その危機に際しては持てる爪と牙のすべてでもって敵に立ち向かうし、移動するときには車の助手席やボストンバッグの中でいい子にしている、実に素敵な信頼関係を築いているあたりが、またたまらなくって。 あと鳴き声のバリエーション(笑) これは訳者さんにグッジョブ! と言うべきか。
……って、猫談義だけでどれだけvv
物語は冷凍睡眠とタイムマシンを効果的に活用して、三十年の時間を行き来して進みます。信じていた友人と婚約者に騙され、三十年後へ島流しにされたダンは、ほぼ無一文で見知らぬ世界へ放り出されます。 その未来の描写がまた、おもしろいのですよ。これぞ古典SFを読む醍醐味というか。
現在となってはもう、とっくに過ぎ去ってしまった西暦2000年。二十一世紀の先駆けが、夢と希望の未来都市として描写され、さまざまな『大発明』が世間を賑わしています。
たとえば車などはとうに時代遅れ。人々は滑走道路で街中を行き来し、車の制作はあくまで労働者を失業させないための雇用制度のひとつであり、できあがったものは余剰製品。二年もすればもう売れないので、スクラップにして鋼鉄工業会社へリサイクルされてしまうといった具合。 製図器ダンもおもしろいですよ。感じとしては旧来の製図台にキーボードを付けたような感じで、ボタンを押すことで簡単に平行線や斜め線などが書ける訳なんですが、これって今で言うCADですよね? でもあくまで製図台なんですよ。機械内で図面を仕上げてから一気にプリントするのではなく、一本一本線を引いていくところは手書き用のと変わらないのが、いかにも『昔に考えられた未来図』で。 そうそう、電動タイプライターも出てきますよん。電動だけどカーボン・リボン。そして書体は一台につき一種類vv そこでダンが構想するのは、口述筆記をしてくれる自動秘書機なのですよ。これにはなんと同音異義語に対応するための『候補選択』キーと、個々に合わせてカスタマイズできる単語登録機能まで考えられているのだから、ハインラインの先見の明は本当にすごいとしか言いようがなく。 他にも一見すると一枚に見えて、実は端をタッチすると記事がめくれていく新聞なんて、さながら iPad といったところでしょうか。 そもそも一番のメイン発明である文化女中器なんて、説明文読んでるとマニピュレーター付のルンバとしか思えないしvv
そしてこの作品世界での二十一世紀では、黄金はすでに貴金属的価値をなくし工業用の針金として商店で売られおり、お金は紙幣が廃止されてプラスチック製の貨幣になっています。
でも発電は原子力だし(笑) 人の消息を捜すのに電話帳を手でめくる必要があるし(笑) 過去の事件を調べるのには図書館で縮尺版を読んでるし(笑)
やー、原作の発表されたのが60年近く前で、物語の中で『現在』とされる1970年でさえもが近未来。 21世紀に至っては、まだまだはるかな彼方だと思われていた時代の、この古典的未来観がおもしろいったらありません。
ストーリーもよく練りこまれています。 私は最初にネットで最後までネタバレ込みのあらすじを知ってから読んでいたのですが、そうでなかったら読了後、即座にもう一度読み返しただろうことは疑いありません。 随所に散りばめられた細かい伏線が、ラストにどんどんと紐解かれていく様など、展開が判っていてもページをめくる手が止まらない。 勧善懲悪、予定調和、未来への希望に満ちているハッピーエンドで、読後感も爽やか。 そして読み終えた後、このタイトルと表紙の妙に、唸らせられるのです。
いやもうほんとに、この作品が名作と呼ばれるのも納得でした(しみじみ)
ひとつ惜しむらくは、復讐譚の要素が微妙に薄かった点ですかね。 結局のところダンが積極的にやったのは、自らと愛猫と姪っ子に等しい大切な子供を守ること、奪われた発明を取り戻すことの二点であり、裏切った友人と婚約者が幸せにならなかったのは、あくまで金のガチョウの腹を割くような真似をした二人の自業自得っぽく。 特にベルなんかは、あんまり罰も受けてない感じですし。まあある意味では、憎まれるよりも価値の無いものとして忘れ去られる方が、よっぽど残酷な罰なのかもしれませんがね。マイルズの末路も、どういうものだったのか具体的なことは明らかにならないままだったしなあ……
ともあれ、繰り返しますが、おもしろかったです。 最終的に、ダンの行動はすべてが予定調和であったのか。一度目の1970年の段階で、既に彼がやるべきことは決定していたのか。それともタイムパラドックスによるパラレルワールド的観念によって、どこかの次元宇宙にはダンもピートもリッキイも救われなかった世界も存在するのか。 問題提起はしながらも、ハインラインはそれを否定しています。 そこまでちゃんと考えているあたりも、さすがだなあと思うのでした。
ああしかし、猫好きには本当にオススメですぜ……ふふふふふ……
2014/08/05 追記: 新訳版も読んじゃいました(笑)
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No.6027
(読書)
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2014年07月20日の読書
2014年07月20日(Sun)
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本日の初読図書: 「異世界で生活することになりました(小説家になろう)」〜68話 http://ncode.syosetu.com/n6133r/
深い森の中、祭壇に捧げられているような姿勢で眼を覚ました神崎悠人。確かにパジャマ姿でベッドに入ったはずなのに、何故かアウトドア風の服装をしており、携帯食料や懐中電灯、GPSなどが入ったバッグもそばにある。 首を傾げる彼に話しかけてきたのは、エルシディアと名乗る少女の姿をした精霊だった。彼女の話を聞いてみると、どうやらここは異世界らしい。そしてエルシディアは悠人の魔力で目覚め実体化したので、彼と契約を結びたいのだという。 幸いエルはこの世界についての知識があるようだし、悠人が異世界から来たということもすんなりと理解し受け入れてくれた。そしてユートが帰還するためには歴史や古代遺跡について調べる必要がありそうだから、それらについても彼女の力は非常に役立ちそうだ。 かくしてエルとユートは契約を交わし、まずは最寄りの街へと向かった。そして冒険者ギルドに登録し、日々の生活費を稼ぎながら、様々な情報を集めるべくあちらこちらへと旅を始める。 ……その旅の優先順位が、いつの間にか『いかにして美味しいものを食べるか』に変わりつつあるのは、気のせいかも、しれない?
異世界トリップFT。連載中。 ありあまる魔力を、ひたすらおいしい食事を作るために無駄遣いする、14〜5歳と間違われがちな21歳成人男子と、食いしん坊な精霊の珍道中。 木漏れ日を「乾麺のような」と表現するって、どんだけ脳内が食事に占められてるんだvv そして古代遺跡からコルト社やS&Wの刻印付き魔術師用杖が発掘されていたり、過去の読み物に明らかに日本人とおぼしき謎の来訪者の記述が残っていたりと、何やら思わせぶりな謎がいっぱいですが、まだ全然そのあたりは明かされていません。 謎といえばユートの過去もかなり謎。 現役大学生なのは確定ですが、やけに経験豊かというか、どうも海外へのバックパック旅行とかをけっこうしていたみたいです。あとサバイバルゲームもやっていたのか、銃器についての知識がやけにあり、氷柱を飛ばす魔法を改良して、遠距離狙撃とかやってます。普通の大学生が、あそこまで狙撃とかに詳しいものかな……? あと横文字とか専門用語とかがけっこう出てくるので、ところどころ意味がよくわからない部分があるのが、ちょっとマイナスポイントかな。 更新ペースもかなりゆっくりめなので、次の更新時には内容を忘れてるかも……(苦笑)
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No.6023
(読書)
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2014年07月19日の読書
2014年07月19日(Sat)
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本日の初読図書: 「小さな奇跡と光り輝く闇の世界(小説家になろう)」〜51話 続・シーフード祭り http://ncode.syosetu.com/n6357bb/
19歳の青年が交通事故で死亡して、異世界に生まれ変わり。捨て子なのか赤子状態で森の中で泣いていたところを、夫と子供を亡くしたばかりの白龍に拾われて、無自覚なままに英才教育。三歳で高レベルの魔物を倒し始め、食生活改善を目指していろいろやっていく内に、どんどん規格外に。十五歳で成人を迎えてギルドに登録。一年でSクラス冒険者兼2Sクラスの商人になって、各国の迷宮を踏破しつつ、盗賊を退治したりスラムを改築したり様々な店(主に食堂とか)を立ち上げて成り上がってゆくお話。 ちなみに母親な白龍は後に妻へランクアップ。あと迷宮探査中に倒した元リッチィな精霊とか、ラスボスの光の精霊にも押掛けられて、現在三人の妻とハーレム中。 なんというか、挫折とか失敗とかやりすぎて痛い目にあうとかいう展開がまったくなく、とにかく「巨大な力ですべてを蹂躙」「莫大な資本投下で内政チート」「出てくる魔獣はすべからく美味しい」が続くので、読む人をいささか選ぶかも。あと妻以外の女性もほとんどが主役を狙ってますので、ハーレム系苦手な方は要注意。 かなりのハイペースで更新されていたのが、いきなりパタッと止まっているのも気になるところです。
「幼馴染をNTRれたら幸せになった件について。(小説家になろう)」 http://ncode.syosetu.com/n5476bt/
実は福の神体質だった女子高生が、貧乏神体質だった幼馴染兼彼氏に浮気されて捨てられた結果、それまでの不幸が一気に解消されて人生バラ色に。捨てた彼氏は一気に真っ逆さまというお話。 全三話+番外SS二本で完結済。
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No.6021
(読書)
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2014年07月17日の読書
2014年07月17日(Thr)
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本日の初読図書: 川崎宿で生まれ育った旅籠屋の娘おちかは、17歳になって間もなく、訳あって江戸に住む叔父の元へと身を寄せることになった。叔父の伊兵衛は振り売りから一代で袋物屋三島屋を構えた、なかなかの傑物である。二人の息子も育ち上がり、跡取りの心配はなくなった。そんな折りに姪を預かってほしいと頼まれた伊兵衛とお民の夫婦は、女中奉公というより娘同然の行儀見習いとして喜んでおちかを受け入れたのである。 しかしおちかはお嬢様扱いを拒み、女中としてひたすら働くことを望んでいた。なぜならそうしている間だけ、心の内に巣食う深い悲しみや苦しみを忘れることができるからだった。 せっせと働くおちかを伊兵衛夫婦も女中頭のおしまも、ありがたく思いながら心配していたが、心を閉ざした彼女にとっては、それすらもが重荷になっている。 そんなある日のこと、急な用事で伊兵衛夫婦が外出することになり、約束していた客人をおちかが相手しなければならなくなった。他人と接することを好まないおちかもしかたなく、話し相手として客人と相対する。 そしてそこで聞かされたのは、初老に達した建具問屋松田屋籐吉の、過去を懺悔する不可思議な物語で。 長年胸につかえていた罪をすべて吐き出していった藤吉は、その数日後、眠るように安らかな顔で息を引き取ったということだった。 以来、伊兵衛は数日ごとに客を招くようになった。不思議な話を心に秘めた客達を。おちかはそんな客達の相手をし、彼らの物語を聞いてゆくうちに、己の過去を改めて見つめなおし始めて ――
引き続き宮部さんの江戸物を読もう月間。 「曼珠沙華」「凶宅」「邪恋」「魔鏡」「家鳴り」の五編が収録されています。 ……ううむ、比較的人情系が多い宮部さんの江戸ものにしては、今回は暗かったというかオチてないというか(−ー;) おちかちゃんの過去が救われないものなのも辛いですが、松太郎さんの心情を考えるとさらに辛く。そこへ持ってきて、「あなたは人でなしの味方ばかりしている」「松太郎を許さんと、あんたは自分で自分を許せない。全部、あんたの都合です」とか言われると、読んでいて痛い痛い痛い(><) まったくもって人の心の暗部、深層心理をえぐりまわしまくってくれます。 まあそれだけ、宮部さんの描写力が素晴らしいとも言えるんですが。 ただ最後にいきなりファンタジー要素が強くなった点や、あれこの人たち普通に許されちゃうの?? とか、良助さんだけほったらかし? とか、家守りの番頭は結局何者だったのかとか、番頭との間にいまいち決着がつかなかったところとかが、何だかモヤモヤの残る読後感になってしまいました。 いろんな人達の話を聞いていく中で培っていった様々な『縁』が、おちか達を守ってくれるというのは、まあ救いがあったんですけどね。 このシリーズはまだ続きが出ているようですが、そちらにはこの番頭が関わっているんでしょうか。そしてこの先もこの消化不良な雰囲気のままなのか。
ところで、いまタイトルで検索してみたら、これ来月ドラマ放送されるらしく。
■宮部みゆき原作 『おそろし〜三島屋変調百物語』 制作開始! | 時代劇シリーズ http://www.nhk.or.jp/dramatopics-blog/7000/190020.html
2014年8月30日(土)スタート BSプレミアム 毎週土曜 午後8時〜8時58分 [連続5回]
ううむ、この時間帯だとリアルタイムはもちろん、録画もできなさそうだなあ(しょぼん) しかし個人的贔屓俳優佐野史郎さんは、はたしていったい誰の役をやるんだろう? あれか、家守りの番頭かな?? 宮崎美子さんも、クイズ番組で活躍されてるので好きな人です。叔母さんかなー、女中頭かなー、どっちだろう??
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No.6015
(読書)
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2014年07月16日の読書
2014年07月16日(Wed)
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本日の初読図書: 「僕の同居人は殺人鬼(小説家になろう)」 http://ncode.syosetu.com/n6725be/
善悪の区別がない殺人鬼の幼女と、そんな彼女に懐かれた情報屋の青年の、ちょっと歪んだ同居生活。短編です。 歳の差とか擬似親子とか、壊れた誰かの唯一絶対の相手とか、そんなキーワードに萌える方むけ。 なおけっこう血まみれ描写があるので、苦手な人は要注意。
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No.6013
(読書)
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2014年07月15日の読書
2014年07月15日(Tue)
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本日の初読図書: レンズマンシリーズの5巻目にして、銀河パトロール隊の発足を描く前日譚。小西宏さんの旧訳版です。 これまで本編では名前や説明だけが出てきた、最初のレンズマンにして太陽系評議員バージル・サムスや、彼を補佐する公安委員ロデリック・キニスン、そしてその息子や友人達などの、第一世代レンズマンが活躍する時代。 本編では既に絶対的な組織として確立していた、銀河パトロール隊がまだ存在せず、火星・木星・金星の三惑星連合軍や太陽系パトロールが最大規模の軍事組織です。物語のメインは、アリシアからレンズを入手したサムス達が、レンズの着用者を宇宙のあらゆる場所から発掘しつつ、その有効性を世間に周知させるために奔走し、そのために地球 ―― すなわち太陽系組織の中 ―― でもっとも権力を持つ北アメリカ選挙区で、エッドールに支援されているギャングや悪徳政治家を相手に大統領選を争うという、今までに比べると割とスケールが小さめな流れでした。 しかし最初の頃などは、アリシア人とエッドール人とが直接対話していたり、同じくアリシア人がサムス達へレンズを授けたりする中で、ずいぶん哲学的な描写が多く、かなり読み進めるのに難儀いたしました(−ー;) あと登場人物や惑星がやたら多かったり、しかもそれぞれが愛称やら偽名やらで呼ばれるため、どれが何で誰やら、こんがらがりがちだったのが参りました。 三つの計画が同時進行し、それぞれに同じようなレンズマンや悪役幹部が関わっていて、ほんとにもう、なにがなにやら……(苦笑)
とはいえシリーズお約束の、大船団による宇宙戦闘もばっちりありますし、レンズマンが荒くれ者に身をやつし、敵対サイドにスパイとして潜入し成り上がる展開も 胸・熱★
あと読んでいてワクワクしたのは、これまで慣用表現として多用されてきた「ザブリスカのフォンテマ」が、ついにどんなものか判明した場面ですねvv 他にも地球人(サムス)がリゲル星とパレイン星を訪問した時の模様とか。 特にリゲル人は視覚も聴覚も備えていない = 騒音対策や見た目の調和をまったく考えない街作りをしているなんて、よくもまあ半世紀以上も前に書かれた作品で、そんなところまで作り込まれているものです(嘆息)
そしてサムスが床屋でヒゲを剃られている最中、頬に傷をつけられるというメンターの予言は、TVアニメからレンズマンに入った私としては、読んでいて思わず「おお!」となったりとか。そうか、ここからなのか!!
今回の巻はサムスだけでなく、ロッド・キニスンやその息子、さらにその友人達やサムスの娘ジルなど、様々な人物に焦点が当たっていて、もっぱらキム一人の英雄譚だった本編とは少々趣が違いましたかね。そういう意味でも、今回は外伝的な要素が強かったと思います。
ちなみに私が今まで読んだシリーズ中で一番好きなのは、二作目の「グレー・レンズマン」です。 1930年代に発表された作品で、アメリカ至上主義なところとか、今から考えると笑えるような『未来的』小道具、わかりやすい善と悪の二元論など突っ込みどころは多々ありますが、それでもレンズマンシリーズの素晴らしさは今でもなお色褪せない! 今なら新訳版や Kindle 版も出ているので、未読の方はぜひ、まず「銀河パトロール隊」を手にとって欲しいです。 鉱山紳士ワイルド・ビル・ウィリアムのくだりとか、読んでるだけでわくわくと心が躍るんだぜ? クリア・エーテル!
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No.6011
(読書)
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2014年07月12日の読書
2014年07月12日(Sat)
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本日の初読図書: 駅ビル六階にある中堅書店成風堂には、さまざまな客が訪れる。たとえば本を探しているのだが、タイトルも出版社も作者も判らないなどという相手もしょっちゅうである。その日やってきたのは、最近ちょっと痴呆症が始まったと思しき病床の老人から、本を買ってきてほしいと頼まれた友人男性だった。しかしメモに書かれた文字は「あのじゅうさにーち」「いいよんさんわん」といった、まったく意味の判らないもので……『パンダは囁く』 旅雑誌などをいくつも定期購読している老婦人、沢村の娘が成風堂を訪ねてきた。母と連絡が取れなくなったので実家を見に行くと、何日分もの新聞が溜まった状態でいなくなっていたのだという。沢村は早くに夫を亡くし、娘と息子を女手ひとつで育てていた。だが息子は二十年ほど前、高校時代にひき逃げで死亡。今では母一人娘一人らしい。失踪前に沢村は成風堂で何故か普段は買わない少女マンガを購入し、そして娘に「その中に、とても重要な事があったの」と電話していた。いわく息子の死について見落としていたことがあったから、調べてくると言い残していたそうで……『標野にて君が袖振る』 ある美容院で事件が起きて、騒ぎになっているという噂が流れてきていた。少々癖のあるうるさ型の常連客がいたのだが、その女性が店内で雑誌を読もうとした所、中に彼女の盗撮写真が挟まっており、侮辱するメッセージまで書かれていたのだという。常連女性は激怒しており、警察沙汰にすることも辞さない状態。このままでは店長が責任をとって辞める羽目になるかもしれなかった。当の雑誌は成風堂が配達したものであることなどから、書店員の杏子は事件の行く末を案じていた。そんなある日のこと、注文先へ雑誌の配達に回っていたバイトの博美が、駅の階段から転落する。幸い怪我は軽くすみ、ただ足を滑らせただけの事故だと思われた。だがそこへ、若い男が突き落としていったのだという目撃証言が出てきて……『配達赤ずきん』 その日成風堂にやってきたのは、キャリアウーマン然とした女性だった。つい先日まで病気で入院していた彼女は、母親から差し入れられた本で読書の楽しさを知ったのだという。そしてその本はすべて成風堂で同じ男性店員に勧められたのだと聞いて、お礼を言いに来たのだと話す。ところが五冊のラインナップを聞いてみると、ジャンルも傾向も幅広く、成風堂の店員でそれらを網羅できる人物は思い当たらなかった。案の定、誰も心当りがない。しかし彼女の母親は、確かにこの店で同じ人に勧められたと言っており……『六冊目のメッセージ』 出版社が販促活動として、人気マンガ「トロピカル」のディスプレイコンテストを企画した。新人バイトの角倉夕紀が興味を示し、彼女は友人たちに協力を募ってパネルなどを作成し、特設コーナーを作り上げる。見事な出来栄えのそれに訪れた客達も感心し、色紙や人形などの差し入れが加わった。ところが一夜が明けた翌日、開店準備に訪れた店員が見付けたのは、黒いスプレーで滅茶苦茶にされたディスプレイの姿だった。呆然とする彼らだったが、どうやらその事件の裏には、ネット上で持ち上がっている「トロピカル」の盗作疑惑が絡んでいるようで……『ディスプレイ・リプレイ』
しっかりものの書店員 木下杏子と、手先がかなり不器用でもたつくこともあるけれど、頭の回転は早く機転も利くバイトの女子大生 西巻多絵のコンビをメインに据えた、書店が舞台の日常の謎解き系短篇集。 シリーズ一巻目にして、後に出た「平台がおまちかね」、「背表紙は歌う」と同一世界観のお話です。 平台〜の方はミステリというより出版業界よもやま話に近い感じがしましたけど、こちらは比較的謎解き要素が高めでした。事件の質も、5話中2話は明確に警察沙汰になりましたし、残りのうち一話は過去にひき逃げによる死者が出ているし、もう一話も不法侵入&器物損壊と場合によっては刑事事件になりかねない展開。そういう意味では、思ったよりもビターだったかな? とはいえ殺人事件までは行かないし、やっぱりミステリよりも人間ドラマがメインっぽく。 しかしこれ、本好きにとっては、確かにおもしろいですわ。 登場する実在の作品のほとんどを、あいにく私は読んでいませんでしたが、それでも伝わってくる「この本は面白いんだぞ〜〜!」というオススメ感。 とりあえず「夏への扉」はいずれ読んでみようと思います(笑)
あと本屋あるあるvv タイトルも出版社も作者も判らないのに買いに来る人、レジ横で聞いていて店員さんが気の毒になることがよくありました(うんうん) 良い子のみんなは、せめてタイトルと作者はメモしていこうね★ 出版社と文庫か単行本かなども判ると、なお店員さんに親切さっ(きゅぴーん)
……そしてごめんなさい。むか〜しの話ですが、本屋さんで気になった情報を、本買わずにメモしたことがあるのは私です……(懺悔) 若気の至りだったんや……後に携帯で撮影するのが電子万引きと呼ばれるようになって、初めて常識外だと知りました(−ー;) いやうん、さすがに店員に紙とペン貸せとか、店内のコピー機使うところまでは行きませんでしたけどね。ううう、穴があったら入りたい……
ともあれ。 一作目の謎解きなどは、読んでいても読者には絶対に解けないだろう、本屋あるあるでしょうな。リアル書店員でもさすがにこれは無理かろう。しかし謎が明かされた時の「ああ!」という目から鱗が落ちるあの感覚。本好きなら、本棚に並ぶ背表紙を眺めて楽しい気持ちになる人なら、きっとみな手を打つのではないでしょうか。 二作目に登場する源氏物語のコミカライズ「あさきゆめみし」も、自分は読んではいませんでしたが、周囲ではけっこう話題になっていたので実に懐かしく。少なくとも絵柄は脳裏に浮かびました。確かに細かいところまでぎっちり描き込まれてたっけなあ…… 三作目は本屋さんの意外なお仕事に、これまた目から鱗が落ちたというか。なるほど銀行とかお医者さんの待合室とか喫茶店とかに置いてある雑誌のたぐいは、こういうふうに購入されていたのかあと。普段なにげなく見過している一冊の本も、様々な人の手を経てその場所にやってくるんだとしみじみ思いました。 四作目は一番安心して読める、ほのぼのしたお話。はいはいお幸せにっていうかお前らばくは(ry 五作目は、自分も好きな作品についてネット上でいろいろ情報をやりとりしているだけに、考えさせられる部分もあるなあというか。でも極端はいかんよ極端は。 ……ところでこの話に出てくる『トロピカル』ってマンガはフィクションの作中作だと思うんですが、これってモデルはワ●ピだろうなあと感じるのは私だけでしょうか??
ともあれ、本当におもしろかったです! ふふふふふ、これは続きも読まなければvv
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No.6001
(読書)
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2014年07月11日の読書
2014年07月11日(Fri)
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本日の初読図書: 基本、小説ではなく海堂ワールドの解説ガイドブックですが、中に一作「ジェネラル・ルージュの凱旋」で伝説になっている、速水が将軍と呼ばれるきっかけになったデパート火災を描いた短編が含まれています。文庫版は他に二作収録されているそうですが、あいにく図書館には単行本版しかありませんでした(しょぼん) あの火災には天空の迦陵頻伽 冴子さんと、まだ別バンドに所属していた城崎さんも巻き込まれていたとか、改めて読むとなかなか世界観が深まります。 他にインタビューとか作者の半生とか制作の裏側とかありましたが、私はその辺りあんまり興味ないので、適当に流し読み。 登場人物相関図とかは、コピー取って置いておくと、のちのち便利かも。
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No.5998
(読書)
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2014年07月10日の読書
2014年07月10日(Thr)
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本日の初読図書: 「転生したんだけど俺なんか勘違いされてない?(小説家になろう)」〜帝都陥落 http://ncode.syosetu.com/n4824bz/
前世の記憶というか、知識だけを持って生まれ変わったのは、知っているのとわずかに異なる歴史をたどった少し未来の日本。 新量子学の母と呼ばれる天才女性科学者の息子として生を受けた荒川功樹少年だったが、本人はごく凡庸な子供として育っていた……と思っているのは自分だけで。 3歳の頃に書いたイタズラ書きを見た母親が、自分の名で世界に発表した量子学の数式により、異世界の存在が証明されたのを皮切りに、本人は落書きのつもりで新型の核融合炉やパワースーツを設計。特殊部隊所属の父親がうまく飛ばないとこぼした花火(実はミサイル)を改良して、巡航ミサイルを作成したり、除草剤を作ろうとホームセンターで買える材料を使って枯葉剤を調合。庭に散布して大騒ぎになったりしている。しかし本人はまったく自覚していない。 全世界の科学レベルをたった一人で50年は進行させ、そして気軽にミサイルを打ち上げたりバイオハザードを引き起こす彼を、世界の国々は悪魔の天才と呼び、その扱いに苦慮していた。 かくして十五歳になった功樹は、世界でも指折りの高等教育機関『国際科学技術学院』に通うことになった。何故か試験も受けていないし、進路希望すら訊かれなかった本人にしてみれば、まったくの寝耳に水の話である。その裏には、とりあえず少しでも倫理観を学ばせようという、国家間の苦しい選択があった。 もしも彼に何かがあれば、天才科学者である母親も、国連で特殊部隊を率いる父親も世界の敵に回るだろう。 そんな周囲の思惑も知らぬまま、功樹は初めての友達など作りつつ、周囲と自身を勘違いさせながら青春の日々を過ごし始める ――
半異世界転生で勘違い系。連載中 途中で異世界にトリップして帰ってきたり、このままでは息子が国家間で政略の道具になると危惧した両親が、いざとなったらすぐに逃げられるように逃走準備計画を発動。息子の作成した理論で異世界へのゲートを開いて亜人種国家と交流を持ちつつ戦闘援助を行ったりしております。 現在夏休み編なのでほとんど異世界で過ごしており、学園での友達は出てきてません。 友人たちは友人たちで、功樹に巻き込まれて学校の授業で世界的な伝染病のワクチンを作っちゃったり、一気に2世代かっとばしたパワースーツを開発したりしちゃってます。でも功樹は相変わらず無自覚。
……難点は、功樹の行動があくまで無自覚かつ偶然の産物にすぎないのか、それとも無自覚なだけで本当に天才なのかが、微妙にはっきりしないところですかね。 あと功樹の前世が何者だったのか、今後はっきりするのかな? ある程度の高等数学あたりまでは知っているけれど英語は判らない。でもロシア語と日本語は話せるるって……どんな人物だったのやら??
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No.5994
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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