2015年03月11日の読書
2015年03月11日(Wed)
|
|
|
本日の初読図書: 犀川が尊敬する偉大な数学者 天王寺翔蔵博士の館で、クリスマスパーティーが開かれることになった。天王寺博士は萌絵の父親の古い友人であり、また博士の孫である片山和樹が萌絵と同じ学部に通うこともあって、まず彼女がパーティーに招かれ犀川がそれに便乗したのである。 天王寺博士の住む三ツ星館は、三重県の人里離れた山奥にあった。博士の娘婿である建築家 片山基生がデザインしたその建物は、オリオン座をモチーフにした風変わりな建築物だ。長方形の広大で殺風景な敷地の中に、廊下で繋がれ赤白青にライトアップされた三つのドームと、高さ五メートルほどもある巨大なブロンズのオリオン像が建っている。敷地の四隅にもやはりライトが灯っており、上空からはまさにオリオン座の形に見えるだろう。 パーティーの参加者は、十二年前に亡くなった博士の長男 天王寺宗太郎の妻で舞台女優の律子と、その息子の俊一。それから博士の長女で五年ほど前に夫を亡くした片山亮子とその子供、志保と和樹。さらに亮子の愛人で建築家の湯川重治に、犀川と萌絵だった。屋敷には他に使用人として鈴木君枝と息子の昇が住み込みで働いている。 萌絵がこのパーティーに興味を持ったのは、和樹から聞かされた十二年前の不思議な出来事がきっかけであった。十二年前のクリスマスの晩、天王寺博士はやはりパーティーの最中、庭にあった巨大なオリオン像を消してみせたのだという。ブロンズ製で、重さ10tはあろうかという銅像は、確かにその時あとかたもなくなっていたらしい。そして翌朝には、元通りになっていたのだと。天王寺博士は「この謎を解いた者に、三ツ星館を譲る」と言ったとのことだった。 それから十二年、同じことが起きることは二度となく。当時中学生だった俊一や和樹らは、あれが本当のことであったのかすら疑っていた。しかし萌絵は博士がそう言う以上、そこに何かしらのトリックがあるのではないかとにらみ、興味津々だったのだ。 あいにく天王寺博士はパーティーに顔を出さず、スピーカー越しに声を届けるだけであった。しかし萌絵がオリオン像の消失について問いかけると、博士は「今、正面ゲートにオリオン像はない」と言い切った。そして全員で建物を出てみると、確かにオリオン像はあるべき場所から消えていたのだ。 博士はこのトリックを思考によって解決するよう、問題を投げかけ、そして全員が明朝まで建物から出ることを禁じた。 ところが深夜の三時頃、眠れずに窓の外を眺めた萌絵は、再び姿を表したオリオン像の足元に、人が倒れているのを見つける。慌てて犀川とともに駆けつけると、パーティーの途中で酔いつぶれて客室に担ぎ込まれたはずの律子が殺されていた。しかし三ツ星館から外に通じる扉も窓もすべて鍵がかかっており、外に出ることはできないはずだった。しかも律子の死体は自分に割り振られた客室の鍵を持っていたのだが、その客室を犀川が預かっていたマスターキーで開けてみると、今度はそこで俊一が死んでいる。死亡推定時刻などからすると、どうやら律子よりあとに俊一が殺されたらしい。 天王寺律子は、いったいどうやって外に出た、あるいは連れ出されたのか。なぜ俊一は律子の部屋で殺されていたのか。犯人は何故、わざわざ律子の部屋に戻ってきて、鍵をかけたのか。そしてオリオン像はどうやって消え、再び出現したのか。 警察を含め誰もが頭を悩ませるさなか、今度は深夜に建物の外にいた昇と萌絵が、何者かによって猟銃で撃たれて……
S&Mシリーズの三作目。 オリオン像消失のトリックは非常にシンプルで私でも早々に解けたんですが、それ以外はさっぱりでした(苦笑) って言うか、どんでん返しが多いあげく、最終的に一番根本的な謎が解決されないまま残っているあたり、ミステリものとしては読む人を選ぶと思います。特に人間関係が非常にややこしく、養子縁組やら偽装結婚やら不倫関係やらに愛と憎しみが錯綜して何が何だか(@_@)
お話のテイスト的には「冷たい密室〜」より「F」に近いかな。閉ざされた建物の中で暮らしていた、凡人には理解し難い天才。その奇妙な思考と、そして死体を残しての消失。殺されたのは、消えたのは果たして誰であったのか。 そうシンプルにまとめると、骨子的にはまんま「F」に通ずるというか。
しかし今回は前二作と異なり、コンピューター的なことはほとんど出てきませんでしたね。嵐の山荘っぽいところは古典とか本格といった類に近いのかもしれません。ただ理系人間達が交わす非常に哲学的な会話が、凡人の脳味噌にはなかなか厳しいです。そのあたりの会話を楽しめるかどうかが、この作品の評価を分けそうだなあ。
そして相変わらず、謎は解けるけど動機は理解できない犀川先生と萌絵ちゃん(笑) ……サンドイッチが何らかの手がかりになるのは読めてましたが、あまりにも些細かつひね曲がった手掛かり過ぎて、そこをとっかかりに謎を解いちゃう犀川先生のアクロバティックな発想には脱帽です。
あと最後の「地面に書いた円の中に立つ人物が、円をまたがないで外に出ることができるか」という問いかけの解は非常に面白いですね。内と外を定義するのは、いったいなんなのか? 私個人の解釈としては、ラストのあのお爺さんこそが数年前に出ていった天王寺博士で、地下にいたのは基生さんじゃないかなあと思ってるんですが、そこらへんは個人の解釈におまかせなんでしょうね……
追記: ああ! ここのネタバレ解説を読んだら、それが正解だとしか思えなくなっちゃった!!
■笑わない数学者 http://www31.ocn.ne.jp/~mfutaba/warawanai.htm
なるほどなあ。三人のうち、笑わなかったのはいったい誰なのか……その考え方は思いつかなかった。 これはすごい。そこまで計算する作者さんも、ここまでひとつの作品を読み込める読者さんも、どっちもすごいなあ(しみじみ)
|
No.6655
(読書)
|
|
|
|
この記事のトラックバックURL
|
https://plant.mints.ne.jp/sfs6_diary/sfs6_diary_tb.cgi/201503116655
|
|
|
|
プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
|
|
|