2014年06月04日の読書
2014年06月04日(Wed)
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本日の初読図書: ―― あの子がいたということを、一生、忘れないでくれ。 この二年半の間、その言葉だけが須賀原を生かしていた。死んで償うことなど許されない。自分は生きて、ただ生き続けて、あの子のことを覚えていなければならないのだ、と。 抜け殻のように生きる彼は、務めているレンタルDVDショップを最近訪れる中学生が妙に気になっていた。その少年はこの10日というもの、毎日のように店を訪れては、ホラーものの棚の前で涙を流しているのだ。しばらくそうして立ち尽くし、何も借りずに帰っていく。まったくもって意味が判らない。 ある日のこと、信号待ちをしていた須賀原の隣に、たまたまその少年が並んだ。そしていきなり怯えた様子を見せたかと思うと、赤信号の横断歩道に飛び出した。とっさに手を伸ばし、走ってくる車から救い出した須賀原は、少年を怒鳴りつけた。だがその視線を追った先に立っていたのは、血まみれでどう見ても生きているとは思えない一人の老婆で。 死者を見ることができる少年 明生と須賀原は、そうして出会った。 明生に触れることで、須賀原もまた、死者を見ることができる。最初は打算から明生に近づいていった須賀原だったが……
二三日かけてゆっくり読むつもりで読み始めたら、さくっと読了。 これは主役二人がもっと仲良くなって、読切連作のバディものとして続けていくこともできたと思うのですが……こういう終わり方だからこそ、主人公救済の物語として、深みが出ているのかもしれません。 五話収録されている物語は、ずっと須賀原視点で進んでいきます。彼が何故、抜け殻のようになって暮らしているのか、自分は幸せになってはいけないと考えているのか、少しずつ匂わされては行くのですけれど、はっきりとはなかなか語られません。 最初から判っているのは、彼が過去に子供の交通事故死を間近で目にしたこと。そのことに責任を感じていることぐらいです。おそらく彼が過去警察官であっただろうことも読者はすぐに気がつくでしょうが、それさえも確定するのはかなり後になってから。 交通事故で死んだ老婆、虐待されて死んだ犬、冬の池に落ちて死んだ少女、狂言自殺を図って本当に死んでしまった女性。そんな霊達と出会っていく内に、彼は少しずつその過去を明らかにしてゆき ―― そうして最後、意図せずしてその心を救った孤独な少年 明生との別れを迎えるにあたって、ようやく自身が過去死に至らしめてしまった少年とその家族に、向き合うこととなるのです。
須賀原さんも、過去に死なせてしまった少年も、そしてその遺族も、切ないまでに普通の人でした。 真面目で、融通がきかなくて、他人を愛し、そして弱い。自分の罪を誰よりも知り、自分を貶め、それでいて誰かを遠ざけたり憎んだりしなければいられなかった。
須賀原さんが明生くんに出会えたのは奇跡と言っていいでしょう。 彼と出会えたから、須賀原さんや遺族達は、二度と会えなかったはずの少年と再会し、その言葉を聞き、前へと進むことができた。これはあくまでフィクションで、実際にはけっして起こらないことです。 それでも……こんなことが起きてくれたらいいと、そう思えるお話でした。
そして、須賀原さんが明生くんと出会えたのは、やはり彼が彼だったからなんですよね。 様子のおかしい明生くんに気が付き、そして事故にあいかけた彼へと、とっさに手を伸ばせた須賀原さんだったから。 そんな彼と出会ったからこそ、明生くんもまた自身の道へと顔を上げて踏み出すことができた。 けして互いに依存し、二人で世界を閉ざしてしまうのではなく、それぞれの新たな道を選んだ二人。 切ないし寂しいけれど、彼ら二人はこれでよかったんだろうなあと思います。
願わくば数年後、二人がまた再会し、良き友人として付き合っていけますように……
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No.5890
(読書)
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この記事へのコメント
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paoまま
2014/06/05/10:39:34
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まこっちゃんこんにちは
昨日宮部みゆきさんへの書き込みをしてなかったじゃんと思い、リターンして来たのですが書き込むより先にこっちの記事を読んでしまいましてん。
なんか私の好きそうな匂いがする・・・
だけど・・・
大丈夫? 読んでも大丈夫ぅ?
虐待されて死んだ犬・・・ ううう〜〜辛いよー
本当に読んでも大丈夫? 私二・三日落ち込まん?
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No.5892
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神崎真
2014/06/05/17:11:48
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かなりざっくりした紹介になってしまっていましたが、興味を覚えていただけたでしょうか。 幽霊の見える少年と元刑事の男性がコンビを組んで、様々な事件を解決する読切連作もの、とくくってしまうとありがちな感じがしますが、これがなかなか面白かったですよ。
確かに切ない部分や、幽霊よりも人間のほうが怖いところ、残酷な描写ややりきれない部分もありましたけれど、でも全体を読み終えた後は、なんだか心が暖かくなるタイプのお話でした。 犬ちゃんは登場シーンこそかなり辛い見た目でしたが、ちゃんと救われてくれます。っていうか、私はこの犬の話が一番好きです。 ひどい目にあった犬の霊に一方的に懐かれて、そこでドッグフードや首輪を買ってやる須賀原さんが素敵なんですよぅ。くうう、惚れてまうやないかーーーっっ
という訳で、読んだあとにどよ〜んとすることはないと思います。 文庫版も出ているようですし、なかなかお勧めですよん。
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No.5893
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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