ソ連版「シャーロック・ホームズとワトソン博士」
2014年04月23日(Wed)
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以前から存在は知っていたものの、DVD化されているとは思わなかった、ソ連で作成されたシャーロック・ホームズのテレビ放映用劇映画。 その作成は1979年と、かのグラナダ版よりも古く、一部のファンの間では「ワトソン博士を凡愚な引き立て役ではなく、紳士として描いた初の作品」として評価が高いとの情報を得ておりました。 チャットルームでオススメされたので調べてみたら、日本語字幕のついたDVDが発売されていると知って、ついうっかりポチッとな。さすがに大人買いはできなかったので、現在全5作中3作DVD化されているうちの、とりあえず1作目だけを購入です。
ロシア語音声・日本語字幕で、本編は二部構成の計134分。「まだらの紐」と「緋色の研究」をベースに構成されています。 まずはとり急ぎ、第一部目を見てみた感想。
物語は東方(アフガニスタンとは明記されていない)での戦争から帰ってきたばかりの軍医ワトソンさんが、経済的な理由でホームズさんとルームシェアをするところから始まります。友人の仲立ちによる二人の顔合わせは、いきなり221Bの部屋から。しかしホームズさんがヘモグロビン検出薬の研究をやっていて、それについて語ったあげく、ワトソンさんが「素晴らしい」と評するのは原作通りの流れです。さすがに死体のムチ打ちはなかった(苦笑) 「化学実験をする」「貴方の権利だ」「バイオリンを弾く」「音楽は好きです」「来客が多い」「自分には一人しか来ないから、平均数はちょうどいい」とか言った感じのやりとりも、ファンにとってはニヤリとさせられるところ。 もちろんお約束の「地動説を知らない!?」「ぼくの仕事には向いていない」「小学生の知識だぞ」「人間の脳は屋根裏部屋だ。馬鹿はなんでもしまい込んで出せなくなる」うんぬんもしっかりありますvv
そしてここから、オリジナル脚色が入りました。ホームズさんがいったい何の仕事をしているのか判らないため、女性客が来ては泣きながら帰っていったり、浮浪児集団に押しかけられたり、こっ汚い老人が尋ねてきてそのまま消える、実験と称してコップに人間の目玉を入れているかと思えば、自在合鍵なんてものまで持っているその様子に、ワトソンさんはどんどん不審を抱いていきます。……と、書くだけならば原作でもそうだったんですが、なんかレベルが違うんですよ(苦笑) 貴重品を共同空間である居間に置きっぱなしにするのを止め、引っ越し先を探すべく読む新聞を変え、しまいにはホームズさんにボクシングを申し込む。ボクシングが強いと聞いて、どの程度腕が立つのかを確かめたかったようなのですが、この段階では既にホームズ=犯罪者、しかも自分の手を汚さず配下の怪しい人々を操って事件を起こすという、完全にモリアーティータイプの悪人だろうという認識に立っています。なので殴り合うその部屋には、ばっちり軍用拳銃を隠してあったりして。 それを判った上で受けて立ち、思い切りノックアウトさせるホームズさんヒデエ(苦笑) っていうか、中年男二人が長袖長ズボンとはいえ、肌着姿で殴り合ってるシーンが妙にシュールっつーかさ……はははvv
でもって、「自分は確かに犯罪に関わっている。しかしそのベクトルは反対だ。マイナスではなくプラスなんだ」と、自らの探偵という職業を明かしたところで、折良くまだらの紐の依頼人ヘレン嬢がやってくるという流れです。 ここで一足飛びに、ワトソンさんを「助手」だと紹介して「秘密は守ります」と同席させるホームズさん。おいおい、いきなり過ぎるだろう。ワトソンさんも黙って受け入れてるし。
そもそもこのソ連版のワトソンさんは、何というかマイペースな感じがします。動じないといえば聞こえがいいですけど、怪しげな客人が行き交うその中で、黙々と一人でご飯食べてるし、ヘレン嬢の父親が怒鳴り込んできたときも、特に慌てたりせず黙って見てる。そのくせホームズさんを犯罪者だと一途に信じ込んじゃうあたり、男は無言で我が道を行くタイプ?? でもロイロット博士(父親)が乱暴者で、依頼に応じることにはホームズの身に危険を及ぼしそうだと思ったら、自分もついていくと自ら立候補する男らしい部分もあります。 うん、確かにワトソンスキーにとって、このキャラ造形は確かに良いですねえ。ハンサムで紳士で腕っ節もそこそこある男前★
……比べると、ホームズさんは少々微妙です。 大降りのパイプに鹿撃ち帽にインパネスコートにという、ステレオタイプなその服装は、まあありといえばありでしょう。言っている内容や行動など、脚本的な部分も悪くないと思います。 しかしなんというか、こう……威厳が足りないのです。変人でありながら、その根底にぴしりと一本通った、鋼のような芯。こいつはやばい奴だと思いつつも、それでも目を離せなくなるような吸引力。そして片付けられない駄目な人(笑)であるにも関わらず、全身から滲み出してくるようなあの品性が、どうにも感じられないのですよ。 惜しい、惜しすぎる。脚本も大小道具類も相棒の配役も上出来なのに、肝心の主役のキャストが微妙だなんて……ううむ、何が悪いんだろう? タレ目なところか? 表情に締まりが感じられないところか?? シニカルさが足りない点か???
まだらの紐の事件部分も、けっこうサクサクと消化されてしまい、物語のメインは二人の男が出会って、互いを理解していく点に重点が置かれていたように思います。蛇は耳が聞こえないから口笛よりも壁をノックする振動で操ったんだろう、なんてフォローを入れるよりも、輪に結んだ鞭と金庫とミルクの皿の使い方について言及しないと、原作知らない人間には話が意味不明だと思うんだ……
まだ後半部分は見ていないのですけれど、そちらは「緋色の研究」を軸に、ワトソンさんがホームズさんの伝記作家になると宣言するところまで描かれているようです。お話としては良い感じの流れではないでしょうか。 ……ああ、この二人の出会いエピソードを、ジェレミーのグラナダ版で見られなかったのがつくづく残念だ……
ちょっと気になった点は、やけにカメラがグラグラ揺れて、ちょっと画面酔いしそうになったところ。まさかカメラを手持ちで回していたのでしょうか? それともそういったシーンは不安感を煽るためにわざとそうしたのかな? あと場面と場面の繋ぎがやけに長くて、時々もたついた印象があったぐらいでしょうか。そして全体的に画面のトーンが暗くって、細かいところが見にくかったのもマイナス1。
……とは言え、「ちゃんとホームズしている」という点では、意外なほどしっかりした作品ではありました。視聴中、たまたま通りがかって画面をチラ見した次兄などは、別に字幕に二人の名前が表示されても、パイプやディアストーカーが映っていた訳でもないのに、「今日は珍しく字幕で見てるんだ?」とか聞いてきましたからね。どうやらグラナダ版を見ているのだと勘違いしたようです。新しく買ったやつだとパッケージを見せたら、「道理で見覚えがないと思った」と驚いていました。それぐらい、一瞥しただけで「ホームズ物だ」と判る雰囲気が出ていたわけで。
まだ後半を見ていないので最終的な結論を出すのは早いかもしれませんが、他人様にホームズものの正統派、入門編として薦めるならジェレミーのグラナダ版ですが、ホームズ作品のファン、特にワトソンが好きな人には「一度見てみると良い」と挙げたい作品だと思ったのでした。
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No.5776
(映像)
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この記事へのコメント
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iwamoto
2014/04/24/22:28:00
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Inverness coatって、原作には無いんですってね。
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No.5777
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神崎真
2014/04/24/23:24:58
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Inverness ……ということは、イン バ ネスなんですね。 またやらかしたか _| ̄|○ インバネスコートに鹿撃ち帽ルックは、本文中には出てこなくって、挿絵画家が勝手に着せたものらしいです。そもそもあれはアウトドアルックで、街中で着ているのはおかしいのだとかなんだとか。 パイプもホームズさんが使っていたのは、あんな大ぶりの曲がったものではないそうで。後の時代に舞台などで、解りやすい目立つものを使ったのが、そのまま定着してしまったそうです。 そのあたりの固着してしまった誤ったイメージを極力廃し、原作に近づけたということで評価が高いのが、ジェレミーのグラナダ版だというわけですね。
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No.5778
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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