2014年01月23日の読書
2014年01月23日(Thr)
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本日の初読図書: 今までこの物語が公表されなかったのは、その内容がホームズの名声を傷つけるおそれがあるからだった。そしてそれ以上に、活字にするにはあまりにおぞましく、身の毛のよだつような事柄が含まれているからだった。 社会に混乱を引き起こすことを恐れたワトソンは、書き上げた原稿を厳重に封印し、百年経ったら開封するようにとの指示を添えて、チャリング・クロスのコックス銀行へと預けることにした。百年後の読者であれば、今の時代よりも醜聞や堕落に慣れているだろうと、そう見込んで…… その事件は、一八九〇年も終わろうとしている寒い冬のある日、一人の美術商エドマンド・カーステアーズがベイカー街を訪れたことから始まった。彼は自宅の周囲を怪しい男がうろついていると訴える。おそらくは数年前にアメリカで壊滅させられた、ギャング団の生き残りであろうと言うのだ。彼はその壊滅に一枚噛んでいたため、恨みから命を狙われているのだと主張した。 ホームズは事情を聞いて、害はないだろうと一度はカーステアーズを帰した。しかしその夜、彼の家に賊が入り、金と宝石を奪われる事件が起こる。 捜査に手を付けることとなったホームズは、ベイカー街不正規隊と呼ぶ浮浪児集団に声をかけ、盗まれた宝石と謎の男の行方を探させた。ところが謎の男は、場末のホテルで殺害されているのが見つかる。さらにはそのホテルを見張っていたベイカー街不正規隊の新入りロスとその姉が、意味ありげな言葉を残して行方をくらましてしまった。 謎の男の正体は本当にギャングの生き残りなのか? ロスは誰かを強請ろうとしていたようだったが、いったい誰をどんな理由で? ロスの姉が口走った“ハウス・オブ・シルク”とは一体? そして手掛かりを追って阿片窟へと一人潜入したホームズを、かつてない苦難が待ち受ける ―― !
昨年ホームズ物のドキュメンタリーが集中して放送された際、インタビューされている人達の中に何度も「絹の家 著者」という人が出てきておりまして。いったいどんな本なのかなーと調べてみたところ、「コナン・ドイル財団から公式認定された、61番目のホームズ事件」とのあおりが。つまり新作の本格パスティーシュしかも長編ってことですよね? おまけに最寄り図書館に入ってるじゃないですか! もちろん速攻で予約しましたとも! それがようやく借りられましたvv でもって。 実際に読んでみた感じ、翻訳者の力量もあるのでしょうが、文章の雰囲気はまさに原典を読んでいると錯覚しそうな見事さでした。むしろ本家ではいささか冗長になりがちな長編を、飽きさせない構成でしっかりまとめています。読んでいて浮かぶイメージは、完全にジェレミー・ホームズvv 導入部はお約束通り、ホームズがワトソンさんの近況を推理するというじゃれあいやりとりを挟んで、依頼人の登場。そしてベイカー街不正規隊を大きな軸に、レストレイド警部やハドソン夫人、マイクロフト兄といったおなじみのキャラクターに加えて、「入院患者」での依頼人だったお医者さんとか、挙げ句の果てには名前を言えないあの人(笑)までが盛り沢山のご活躍。 もちろん随所にファンならニヤリとできるネタもちりばめられていて、否応なく物語に引き込まれてゆきます。 まあ、名前を言えないあの人については、出る意味あったのか? という部分もありはしましたが(苦笑) 途中ホームズさんがかつてないピンチに陥る下りに至っては、読んでいて辛くて辛くてもう……( T _ T ) 辛いと言えば、序章とあとがきも切ないです。もちろんどちらもワトソン博士が書いていらっしゃる体裁なんですが、これが最晩年に過去を振り返って、この作品が最後の執筆だと覚悟して筆をとっているのですよ。人生ここに至るまでには、あんなこともあった、こんなこともあったと回顧するその内容が切なすぎる ・゜・(ノД`)・゜・ っていうか、このあとがき、最後にペンを置いてからも数行続いてるんですが……これってやっぱりホームズさんがお迎えに……?(涙)
事件については、やはり原典の長編に多い二重構造的な部分がありました。過去にアメリカで起きたギャング団壊滅事件に端を発する復讐劇と、現在のロンドンで起きた堕落と醜聞に満ちた忌まわしい事件とが、実に複雑に絡み合っています。 その中でホームズさんは濡れ衣を着せられ、逮捕裁判投獄の憂き目にあい、ワトソンさんはワトソンさんで、様々な試練に巡りあう訳で。 ……ワトソンさんは、名前を言えないあの人のことと……そしておそらくメアリの病状についても、最大の親友であるホームズにすら言うことができないまま、晩年まで一人胸の内に秘め続けていたのでしょう。そう思うと、やっぱり彼の一個人としての、人間としての『剛さ』には計り知れないものがあるよなあとしみじみしてみたり。
あ、ちなみに『堕落と醜聞に満ちた忌まわしい事件』については、あくまで十九世紀のヨーロッパ基準でした(苦笑) いやうん、序章でうすうす予測はできてたんですけどね! 途中、あんまりワトソンさんが深刻だったから、どこまで陰惨で猟奇的な展開に行くのかと、ちょっとドキドキしちゃいました。 いやうん、充分忌まわしく痛ましい話ではあるんですけどね。でもほら、昨今はそういうジャンルも流行りだから……(苦笑) それだけに、事件が深刻だなんだと深刻に大騒ぎする周囲にちょっぴり違和感を感じる部分もありました。終わり方が少々尻切れトンボっぽいのは、むしろそれこそドイルらしいとも思うんですが。
……ただ正直を言うと、良くできた二次創作であるが故に、これは読む人を選ぶと思います。 私はあの二人がいつまでもロンドンで事件を追っている、そして私達の知らない事件を解決し続けていると思っていたい人間です。 たとえそれが人間の寿命としてあり得ないのだとしても、ホームズさんの没年は「今も生きている」説に一票を入れたいファンなのです。 それだけにこの本は、序章から切ない展開の一冊でした。 これから読もうという方には、そのあたりをお気をつけ下さいと、一言ご忠告申し上げる次第です。
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No.5507
(読書)
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この記事へのコメント
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paoまま
2014/01/24/14:37:49 [HOME]
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まこっちゃん、さすがシャーロックものだと熱く語ってますね。 私はただ今“シャーロック・ホームズの生還”を読み始めたところです。
「またココにも横ヤリが・・・」
コナン・ドイル財団っちゅうのがあるの? 日本で言うなら松本清長財団、横溝正史財団って感じ? いやいやそれを言うなら江戸川乱歩財団でしょうか。 サー・コナン・ドイルはよっぽどお稼ぎになられたのね。
以前まこっちゃんは、「長編は正直、冗長な部分もあったりしますし」って言ってたでしょ。 確かに事件解決より、その背景になった事柄の語りがずっと続いたりする部分はあるけど、それはそれで面白いね。 ロンドンやイギリスの当時の人の生活や、考え方などがうかがい知れて実に興味深いザンス。
あ、そうだ“空家の冒険”で、ワトソン氏が「私の身に起った悲しい離別」って言ってるんだけど、もしかして奥さんお亡くなりになっちゃったのですか?
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No.5511
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神崎真
2014/01/24/22:52:28
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……あれ? 私としてはかなり控えめに書いたつもりなんですが、まだ熱かったですか?? おっかしいなあ(^ー^;;)ゞ
そしてままさんは、ついに〜生還にたどり着かれましたか♪ 「空き家の冒険」は個人的オススメの一作ですvv ワトソンさんを気絶するほどびっくりさせる、お茶目なホームズさんが微笑ましくって。膝立ちでせっせと蝋人形を動かすハドソンさんもナイスです。 確か「赤毛組合」や「唇のねじれた男」、「青い紅玉」も、もう読まれてるんですよね。そろそろ「踊る人形」あたりでしょうかvv
> コナン・ドイル財団 私もよく知らないんですが、なんでもドイルの親族が中心になって運営している、ドイルの著作権を管理している団体なのだとか…… 映像化のロイヤリティとかがみんなドイルの懐に入っていたのなら、相当なお金になったと思うのですけれど……逆にドイル存命の頃は著作権とかまだ確立していなくて、映像化も他国での翻訳もやりたい放題だったの、かも?
> ロンドンやイギリスの当時の人の生活や、考え方などがうかがい知れて実に興味深いザンス 『緋色の研究』あたりを読むと、当時の異教徒に対する偏見とかがありありとうかがえますよね。シリーズ全体を通しても、アメリカという土地は『一攫千金を目指す男たちがつどう、野蛮な未開の地』という扱いっぽいですし。 上流階級の紳士淑女がゆきかう一方で、町には浮浪児がたむろしていたり、アヘン窟が普通に存在していたりと、あの時代のロンドン特有の空気を感じるのもまた面白いです。
> 「私の身に起った悲しい離別」 > 奥さんお亡くなりになっちゃったのですか? ほほう、ままさん良い所に目をつけられますね! 実は私、そこのところを普通に「ああ、奥さんと死別しちゃったんだ」と読み流してしまっていたのですよ。しかし最近ちょっと調べてみたところ、別の考え方もあるようなのです。 多くの研究者の説によると、ホームズさんが失踪している間にワトソンさんがメアリと死別、さらにその前後に結婚を複数回していたという解釈が主流だそうで。しかしその回数がはっきりしないのですね。物語の発表順と事件の時系列が一致していないため、作中時系列に合わせて物語を並べ替えると、どうしても齟齬が出てしまうらしく。 辻褄を合わせようとすると、最有力な説はなんと結婚3回! 「四つの署名」で出会ったメアリとは2回目の結婚だというのですよ。 ……しかし「私の身に起った悲しい離別」を、奥さんではなく彼女との間に生まれた子供との死別と解釈することで、ワトソンの結婚を1回、すなわちメアリー・モースタンとだけというふうに考えることができるのだとかなんとか。 自分で検証した訳ではないので、詳しいところまではよく判ってないんですが(苦笑)
ともあれ、ワトソンがなかなかモテる男だったことは確かなようですvv 実はホームズよりワトソンプッシュな私としては、女性陣見る目があったんだなと思う次第なのでした。
……って、今回もコメント長っ(汗)
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No.5512
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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