2013年10月12日の読書
2013年10月12日(Sat)
本日の初読図書: 「不思議の鈴(近代デジタルライブラリー)」三津木春影 http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/905339 「凾中の密書」に引き続き、保村俊郎大探偵と須賀原直人君のホームズ翻案。 タイトルだけではちと判りにくい原作は、「海軍条約文書」です。やはり重要書類が消えて、国家レベルで右往左往するお話。 今回はパーシー・フェルプスが栗瀬律夫(くりせ りつを)に、ホールダースト卿が堀戸春容(ほりど しゆんよう)に、ジョセフ・ハリソンが與瀬春藏(よせ はるざう)といった具合になっています。ハドソンさんは、前回が「小間使のお津多」だったのが、今回は「女中のお陸さん」に。ちょっと扱いが良くなってるvv 地名や名詞に関しては、皆さまご存知の例の住所が「久良瀬町(くらせまち)二百二十一番舘」に、「ウォーキングのブライアブレー邸」が「王琴町字降矢(わうきんまち あざ ふりや)」に、「チャールズ街」が「猿巣街(さるすまち)」に、「アイビーレーン」が「愛比町(あいびまち)」で、「ノーサンバーランド」は「諾撒波(のるさんぱ)」。ケンブリッジ大学が「劔橋(ケンブリツチ)大學」といったところ。 あと面白かったのが、「(懐中時計の鎖についている)ロケット」を「小金盒(こきんばこ)」と訳してありました。なるほど、確かに小さな金属製の盒(ごう/ふたつきの容器)ですな(笑) そしていったい何かと思った「油團 《 ゆだん 》 (和紙を厚く貼り合せて桐油または漆をひいたもの。夏の敷物に用いる/広辞苑より)」は、原作と照らし合わせてみたらリノリウムのことでした。うまく訳すものですなあ。 内容については、かなり原作に忠実です。冒頭のワトソンさんの述懐が削られているのは、長編シリーズではなく単体として発表された以上、当然の成り行きでしょう。 そして保村さんがやってきた友人ほったらかしで、リトマス試験紙とか使って実験しているのは原作の通りですが、場面の順番が入れ替わっていて、栗瀬さんからの手紙の内容を、保村さんちにやってきた須賀原君が、実験のあとに語っています。まだこの「シャーロック・ホームズ」という存在に馴染みのない当時の読者に対し、変人 保村のキャラクターを印象づけつつ、その興味をぐいぐい引き込むという点で、いきなり実験シーンから入ったのは正解だと思いますね。 その後の流れは、地名や固有名詞等を除けば、ほぼ原作通りだったかと。 ……実は正直言うと、相当にうろ覚えなんですがね(苦笑) 読んでいて意外だったのは、「襯衣(シヤツ)のカツフの上へ控えを書いた」という部分がちゃんと書かれていたこと。ここのところは、現代の翻訳で読んでみても「え!? 袖口 《 カフス 》 にメモ書いちゃうの??」とびっくりしませんか? それをあの時代に、一般大衆にもイメージしやすいだろう普通の帳面とかに改変しなかった点に、訳者の心意気を感じました。 ※当時のシャツの袖口や襟は、取り外して交換したり別個に洗えるものだったらしいです。 あと原作でもかなり唐突感のある「薔薇とは美しいものですね」うんぬんも、ちゃんと書かれています。ほんとに「いきなりなに言い出すんだこの人(きょとーん)」ですよ、あの場面vv 「希望を持ちましょう」って依頼人を慰めようとしたんだと私は解釈してるんですが、空回りしすぎてすべりまくってるあたり、口下手すぎる(笑) ……ちなみにここでは、「優雅な深紅と緑の調和( dainty blend of crimson and green )」を「深紅と青との美しい混合色」と訳されているあたり。いや確かに「ブレンド」だけど! 日本語では緑を青とも言うけど!! 読んだとき「マーブル模様の、しかも青い薔薇が!?」とびっくりしちゃったじゃないですか…… 妙な訳と言えば、「同じ階にある( on the same floor )」が「同じ床にある」って訳されてるのも、なんだかくすりと笑えます。 そりゃ確かに、「フロア」は「床」だvv 他にも直訳に近くって、意味が取りにくい部分もちょこちょこありました。 そのあたりはやはり、初期に訳されたがゆえの試行錯誤というものなんでしょうねえ。 そして相変わらずなこの二人のやりとり、 (前略)今日は兎に角研究の日として働かなけりやならぬ。」 「僕は――。」 「あゝ、君の方にこれより面白い事件があるならば――。」 と保村君は稍や不平さうな聲で言つた。 「いや、僕の言はうと思つたのはね、今は一年中一番閑暇な時だから、一日二日は思ふさま僕もこの事件に奔走出來るといふことなのさ。」 「あゝ、それは好都合ぢや。」と御機嫌が直つた。「では一所に研究してみやう(後略) なんだよ保村さん、ツンデレかよvv いや調べてみたら、原作もまさにこの通りの会話してるんですけどね。でも「御機嫌が直った」とかって可愛すぎるだろう(笑) 保護者か、須賀原君vv いやはや正直、原作をあんまり覚えていなかったのに、読んでみたら屈指の名シーンがここぞとばかりに詰め込まれているお話でした。 特に保村さんが取り返した重要書類を、朝食の蓋付き皿に隠しておいて依頼人をびっくりさせる場面は、ファンには外せないエピソードかと。 リマスター版のドラマでも、今夜に引き続き来週にはこの話が放送されるんですよね。ふふふ、見るのが楽しみです♪2015/03/31 追記: 著作権切れに付き、テキスト入力して公開することにしました。 閲覧室の「その他書架 」にUPしています。
No.5187
(読書)
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プロフィール
神崎 真 (かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。