2012年10月25日の読書
2012年10月25日(Thr)
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本日の初読図書: 収録作は「本陣殺人事件(138P)」と「迷路荘の怪人(52P)」の二本。現在入手可能な長尾版金田一は、おそらくこれで網羅できたはずです<単行本未収録作がけっこうあるらしい ちなみに「迷路荘の怪人」は、以前上川隆也さんでドラマ化された長編「迷路荘の惨劇」とは別物というか、その原型となった短編なのだそうです。寡聞にしてその存在すら知りませんでした。ファン失格(−ー;) ざっと記憶を辿りつつ〜惨劇のラストを読んで比べてみた感じ、基本的な骨子はほぼ同じ感じです。キャラクターはかなり減ってますけど。そして全シリーズ通して屈指とも言えるだろう犯人(一部)の凄惨な最期もありませんでしたが、お話としてはむしろシンプルで分かりやすく、よくまとまっていると思います。最後には気の利いたどんでん返しもありますし。 これまでに読んだ長尾さんのコミカライズ(八つ墓村・犬神〜・本陣〜)を見るだに、おそらくこちらもかなり原作に忠実なのでしょう。ああ、原作の文章も読んでみたいなあ……今さら入手は無理だろうなあ(しょぼん) で、もって。 表題作「本陣〜」の方は、これまたやっぱり良かったですねえ(しみじみ) 一柳家の人たち、特に賢蔵さんと三郎の異常さをしっかり描いてあるところはもちろん、文章表現ではどうしてもピンときにくい空間的トリックが、分かりやすくなるのはマンガという媒体ならでは。ドラマなどではしばしば存在を消されがちな、レッドヘリングかつまっとうで理知的な弟 隆二さんがちゃんと登場していたのも嬉しいところです。 なにより素晴らしかったのは、金田一さんがタマのお墓に隠されていた三本指の手首と、炭焼き窯内に埋められていたその本体を発見するくだりを省略せずにいてくれたことでしょうか。 見つけた手首の包みをしれっとぶら下げて歩き、「お土産です」と磯川警部に手渡しちゃう。あくまでにこやかな金田一さんの、その内面に隠された『ライトな狂気』がかいま見えるような気のするこのエピソードが、私は奇妙に好きなんですよね。 金田一作品のコミカライズといえば、まず筆頭にあげられるだろうJET版でも省略されていたそのシーンや、同じく改変されてしまった「八つ墓村」での典子の扱い・美也子の死に様&動機・埋蔵金の有無など、本当に長尾版は原作を丁寧に再現していてくれて、嬉しい限りです。今まで絵柄で食わず嫌いしていたのが、かえすがえすも悔やまれる……っ 金田一さんが東北 → 東京 → アメリカと渡り歩き、麻薬中毒を経て銀造さんと邂逅 → 援助を得てカレッジを卒業したのち帰国して探偵になったという流れで、麻薬中毒シーンを削らなかったのも良し! 学士姿の金田一さんが新鮮だvv ……ただひとつ惜しむらくは、ラストですね。 原作では物語の最後を、一柳家の没落してゆく様で締めくくっています。いとけなく愛らしい鈴子ちゃんさえも、若くして病没してしまう。そんな切ないやりきれなさこそ、金田一シリーズの醍醐味だと思うのですけれど。このマンガでは共犯者の自白と、金田一&銀造おじさんが汽車に乗って帰ってゆくシーンで終わっていました。 これは長尾金田一の特長かもしれません。どの作品もだいたい、金田一さんが旅立つ場面で締めているように思えます(八つ墓村のみ、その後に辰弥の独白が1ページ入ってますが)。
あと細かいいちゃもんをつけるなら、金田一さんが既に名の知れた探偵になっちゃってるところが微妙ですね。 この作品は記念すべきシリーズ第一作。全作品中で唯一の戦前が舞台のお話で、金田一さんはまだ二十代の青年なのですよ。そんな得体の知れない若造を、こころよく捜査に参加させてくれて、のちにはかけがえのない親友の一人ともなってゆく磯川警部との、ファーストコンタクトがある。本陣〜とはそういったお話なのですYO!
……って、いま原作をめくり直してみたら、金田一さん「大阪での難事件を解いた帰り道で、警保局から添え書きをもらってきており、警部さんが恐れいってヘイコラしはじめた」って書いてあった。なんだすごい忠実じゃん(^ー^;;)ゞ
えー、と、ともあれ(ごほん) やっぱり細かいところまでつつかない限り、非常に良くできた素晴らしいコミカライズでした、まる。
ああこうなると、是非ともこの人の筆で「獄門島」が読みたいなあ! 「女王蜂」も良いですけれど、絵にするならやっぱり見立て殺人でしょう。うぐいすのみをさかさまにはつねかな、ですよ!! そしてどのメディアでも改変されがちな、主謀実行犯の衝撃的な最期を是非、忠実にきっちり描いて下さい〜〜《o(><)o》 あと単行本未収録作品も刊行してほしいです。まとめたら一冊分ぐらいあるんじゃないの??
それにしても、ブームも過ぎただろう今になって、これほど素晴らしい金田一耕助ものに出会えるとは思えませんでした。 長尾文子さんと、そしてあの晩に気まぐれで通販サイトをうろうろしていた自分に万歳vv
追記: ……ネットで調べてみたら、長尾さんすでに「獄門島」手がけておられるじゃん!? 未収録作品は「睡れる花嫁」「不死蝶」「獄門島」「悪魔の手毬唄」「鴉」って……これまとめたら1冊どころか2〜3冊行けるやろ! なぜだ、なぜ単行本化されない!? ……あんまり残念なので、とりあえず復刊リクエストにポチってきました_| ̄|○ もしアカウントをお持ちの方がいらしたら、ご協力いただけると嬉しいです。
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No.4264
(読書)
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この記事へのコメント
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雪華
2012/10/25/22:21:18 [HOME]
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こんばんわ、雪華です。
投票に行ってきました♪ 書籍化すると良いですね。
津守時生女史関連も様子を見てみましたが、票の伸びが微妙です。 『本』という形で手元に欲しいので、もういそのこと「アーシアン」のように出版社変えてでも再出版して欲しいものです。
ところで、S◇の最終巻は未読ですか?? 感想をお待ちしております。
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No.4265
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神崎真
2012/10/25/22:47:57
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おお、雪華さん、ありがとうございますーーーっっっ(平身低頭) ほんとにほんとに、この方のコミカライズは素晴らしいのですよ……ああ、なんで雑誌掲載を見落としていたんだろう(しくしくしく) そして復刊リクエスト項目が作成されてから何年も経つのに、いまだ一桁しか投票が入っていないあたり、かなり希望は少ないですが……しかしこうして周知していけば、いつの日か、きっと!!
でもって、言われてはたと思い出し、大慌てで検索。七宝綺譚の単行本未収録に投票してきました! この項目は100票超えたようなので、案外行けるかもですよ?? っていうかちゃんと完結してたんですね。そして携帯小説としては有料公開されてるんですね。ぜんぜん知りませんでした。 自前の本は裁断して自炊してしまったのですが、微妙に後悔も残るこのシリーズ。いっそ1巻から新装刊で出してくれたら、また揃えても良いと思ってるので、是非是非出てほしいところです。
> S◇ 手元にはあるんです。バッチリしっかり予約購入したんです。 しかし積読の山が行く手を阻む……_| ̄|○ このシリーズは流し読みなど断じてしたくない。ましてや最終巻。4〜5冊前からじっくり読み返し、伏線をしっかり押さえつつ、集中力を高めて挑みたいところなので、ソワソワしつつ手が出せずにいます。 ああ、二人の皇子と従者二人の最後は……そしてあの世界の行く末はいかに……ッ
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No.4266
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Googleでタイトル検索して
2012/10/26/09:08:20
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真っ先に出てきた単行本は原作じゃないんですか?<『迷路荘の怪人』
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No.4268
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神崎真
2012/10/26/12:23:45
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いつもいつもありがとうございます。 ……そこにはいろいろとややこしい経緯があってですね(苦笑) ざっくりまとめると、改稿癖のあった横溝先生は、この作品を二度に渡って書き直し、短編→中編→長編とじょじょに伸ばしていったらしいのです。現在普通に入手できる「〜惨劇」は、最終稿の長編。そしてこのマンガの原作は最初の短編、検索して出てくる「横溝正史探偵小説コレクション4」は中編を収録ということみたいです。
……さらに言うならば。 地元図書館に、1〜3は収蔵されているのに、なぜか4巻だけ置いていない「横溝正史探偵小説コレクション」_| ̄|○ あんまり残念だし、1〜3があるなら希望が通るかも知れないので、今度図書館に収蔵リクエストかけてこようかと思ってます。 でもなあ……横溝ものはいっぱいあるからって突っぱねられそうな気がひしひしと。タイトル似てる作品ばかりだから「既に他の版であります」とか言われちゃったりして<経験有り 貴重な絶版作品の再録なのだと力説してこなきゃ……
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No.4269
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ややこしいんですねー
2012/10/27/10:07:42
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ええと本の表題になってるのが中編版で「金田一耕助の帰還」に入ってるのが短編版ってことですか? なんかあちこちからいろいろ出てるから(出版芸術社の単行本と光文社文庫の収録作は同じなのだろーか? うん、「既に〜」といった人を責めることはあたしには出来ない・爆)極めるの大変でしょうねこれ。 四巻だけ置いてないって、そんな完結したら買おうと思ってたら最終巻だけ発行部数が少なくて入手出来なかったコミックスみたいな(違)。身勝手とは思うけどあちこちに散らばってややこしいからこそ図書館とかできちっとそろえてもらいたいところなんですけどねー、中身調べてからじゃないと怖くて買えない(笑)。もっとも有名どころちょっと読んだだけの身ではやっぱり言えなかったり……手元のテキストだけでも読んでから言うべきか。 ご説明ありがとうございました。
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No.4271
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神崎真
2012/10/27/18:16:00
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> 本の表題になってるのが中編版で「金田一耕助の帰還」に入ってるのが短編版 たぶん、そう言うことなんだと思います。 そして出版芸術社と光文社文庫の中身が同じなのかは、突き止められませんでした(しくしく) そもそも短編一話のために、本一冊買う余裕は、今の私には……うーん(悩) そもそも最終決定稿に限ってすら、現在ではシリーズ全てを版形揃えて紙書籍で入手するのは難しいんじゃないでしょうかね。私が揃えた角川文庫も、当時紙書籍は絶版が多くて電子書籍で買ったぐらいで。そして同じ出版社なのに重複して収録されている作品がありましたし(落ちてるよりはなんぼかマシですが)
……私も積読が山脈をなしているので、そっちから片付けていくべきですな。 金田一さんだって、まだ最終巻「病院坂の首縊の家」の感想書けてないし……(遠い目)
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No.4272
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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