よしなしことを、日々徒然に……
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 2012年10月24日の読書
2012年10月24日(Wed) 
本日の初読図書:
4488413129もろこし紅游録 (創元推理文庫)
秋梨 惟喬
東京創元社 2010-12-11

by G-Tools
後に儒家が春秋戦国と呼ぶ時代、斉国の王都には当時の中華最強の頭脳とも呼ぶべき顔ぶれがつどっていた。様々な知略軍略を持ち、我こそは大国をおさめるまつりごとの才を備えていると自負する者達が、王の名のもとに庇護されていたのだ。彼らは上大夫として遇され、時に政治顧問となり、時に軍師となり、また弟子をとって学問を伝授した。二十歳になったばかりの青年、霄(しょう)もまた、それらの上大夫に教えを請うべく斉国にやってきていた。故郷での師は「飽きるまで、吐き気がするまで学んでこい」と彼を送り出したのだが、しかしいざ斉国を訪れてみるとどの学者達の言葉も素晴らしく、誰の門戸を叩くべきか目移りして決められない。そうこうして半年も過ぎたある日のこと、彼は慎到という上大夫と昼食を共にした。彼が編み出した「システム」という説は、とても斬新で興味深い。そうして有意義な時を過ごしていた二人のもとへ、建物の番人の老婆が転がり込んできた。なんと庭で夫が殺されているというのだ。駆けつけてみるとそこには、胸を宝剣で一突きにされ即死した老人と、上半身裸でなぶり殺されている若い男の死体があった。男の全身は傷だらけで、彼を殺した凶器はどこにもない。おそらく犯人が持ち去ったと思われた。どうやらその若い方の死体は、最近王都で連続して見つかっている、身元不明の他殺死体と根を同じくしているようで……「子不語」
明代の初め、文官の家の生まれでありながら腕に覚えのあった許静は、武者修行という名の物見遊山の旅に出ていた。供もない一人旅だが、特に不自由はない。各地の有力者の門を叩いて武技を披露すれば、食客として一ヶ月ぐらいは滞在させてくれるし、それなりの額の金銭ももらえる。そんなふうに放浪していた許静は、ある日雨宿りに訪れた道観で奇妙な事件に巻き込まれてしまった。そこには顔半房と呼ばれる中年の男とおつきの蔡老人に導かれて行ったのだが、折しも三人もの著名な武林屈指の使い手が滞在していたのである。その一人破剣老人は、先頃から連続している暗殺事件に使われた「殷帝之宝剣」という謎の武器を運ぶ途中だったところを、彼自身が従者二人と共にその剣で殺されてしまったのだった。建物の構造上、犯人は現在滞在している人間でしかあり得ず、いまだ逃げてもいないはず。そして「殷帝之宝剣」らしきものはどこにも見つからない。果たして犯人は誰なのか。そして「殷帝之宝剣」とは、はたしてどういった武器なのか……「殷帝之宝剣」
劉小八は十歳。清の乾隆帝の時代に蘇州で饅頭の担ぎ売りをしている。父の作る饅頭は評判が良く、一家はそこそこ裕福な暮らしができていた。ある日のこと、売り上げを不良少年達に奪われそうになった小八は、鉄鞭を持ち弁髪をなびかせた巨漢に危ういところを救われる。幻陽と名乗ったその男に礼をしようと家まで案内した小八だったが、しかし帰宅したそこには、父の死体が待っていた。何故か首を切り落として奪い去られた、父の死体。取り乱す母を前に、しかし小八は奇妙に冷静でいた。これからは自分が主として、一家を支えていかなければならない。そう思う小八に、幻陽は弔いの手配などさりげなく力を貸してくれた。同じ頃、町では有力者で電速剣の使い手でもある、馬崇年が殺されるという事件が起きていた。手練れである崇年が正面から一刺しで殺されていることに不審を抱いた番頭が、幻陽に調査を依頼してくる。どうやら彼はそれなりに名の知れた人物らしく、崇年の事件を調べると共に、小八の父の首も探してやろうと言ってくれるのだが……「鉄鞭一閃」
辛亥革命を経て中華民国が建国され、そして袁世凱の死により中国は「皇帝」という存在を失った。英国を始めとする列強各国が多数その手を伸ばしてきており、時代は大きく乱れている。江仙は長江沿いにある中堅の都市で、太平天国の乱で壊滅的な打撃を受けたが、復興も早かった。鉄道の駅があり自動車が爆音を上げ電灯が明るい一方で、昔ながらの町並みの奥に秘密結社のうごめく闇が残る、そんな都市である。英国人との混血である関維(かんい)は、その町で売れない風水事務所を開いていた。行き倒れていたところを拾った十歳前後の少女 甜甜(てんてん)と共に、あまり裕福とはいえない暮らしを送っている。人付き合いが嫌いなうえに古い風水の手法を守る彼には、めったに仕事がなかった。そんな彼のもとを訪れたのは、品の良い商家の隠居婦人。数少ない友人 鄭警部からの紹介だという彼女を追い返すわけにも行かず話を聞くと、怪しげな風水師によって庭の神木を爆破されたので、風水上の悪影響がないか見てほしいとのことだった。情報を集めると、最近そういった謎の行動をとる正体不明の風水師集団が、あちこちに出没しているらしい。そしてさらに続けて依頼が舞い込んだ。そちらは町の元締め宋繍からで、近く町を訪れる英国商人の暗殺を防ぐために、狙撃や襲撃が可能な場所を地形から推察してほしいというものである。そして二つの件で町を歩き回る関維の前に、かつて袂を分かった弟弟子が姿を現し、今回の件には関わるなと告げてくる。二つの事件には弟弟子が関わっていて、しかもどうやらどこかでつながっているらしい。謎の風水師集団の目的はいったいなんなのか。頭を悩ませる関維だったが、そこへ弟弟子の死体が見つかったとの知らせが届いて……「風水一閃」

中国武侠ミステリ第二弾。
いやあ、今回もいろいろ意表をつかれておもしろかったです!
短編三作に中編一作という前回と同じ構成でしたが、これがまたそれぞれに特色がありましてね。
特に「鉄鞭〜」は何故か原哲夫(「花の慶次」の作画の人)の絵柄で、「風刃〜」は永久保貴一さん(「カルラ舞う」とか)の絵柄で脳内展開されました。
今回は一作目で、シリーズ全体を貫く根底の思想「システム」の成立が語られ、四作目では近代化に向かう時代の流れの中、天子を頂点に置いた支配体系の構造が失われるその先に、システムの具現者である銀牌侠と銀牌の存在が果たしてどうなってゆくのかという、ちょっと切ない雰囲気で締めくくられています。そう言う意味では最終巻っぽくもあるのですが、作者様曰く銀牌侠の活躍はこれからも続くそうですし、実際に三巻も刊行済みですから、今後も楽しませてもらえるようで一安心vv
それにしても四作目は、いろんな意味ですごかった……叙述トリックが使われているのはこれまでの作品でも何度かありましたけど、偽風水師達の奇想天外な目的に、銀牌の持ち主がいったい誰なのかという謎、重要脇役 甜甜の正体などなど、興味を引かれる事柄が目白押しで、最初から最後まで作者さんの手のひらで踊らされていた感じです。
それにしても使われた最終兵器は燃えました! あれって某カリオストロの城で次元が乱射してたタイプですよね? 普通の人間なら、手で持って撃つのはまず不可能なアレ。一定世代以上のアニメ好きなら、あれを思い出してたぎらないはずがない!
あと構成的にイレギュラーだという「殷帝〜」では、銀牌の持ち主が登場しない代わりに、一巻で右往左往していたあの人が、すっかり立派になって場を仕切っていて微笑ましかったです。ふふふふふ、好きなんですよー、あの主従vv
……ただ巻末の年表を見ると、「えーとこの人、普通の人間のはずなのに最低でも八十才超で、四十代に見える容姿を保ってるの? っていうか爺やはいくつよ??」って計算になるんですが。あれ?
……まあ、細かいところをつついてはいけません。
このシリーズの楽しさは、かつてのホームズや金田一(爺)さんのように、「いやそれ無理だから」という無粋なツッコミはせず、独特の世界観と、探偵やその脇を固めるキャラクター達の魅力を堪能することにあるのでしょう。

そして「鉄鞭〜」の幻陽と小八の十五年後は、また別の話でと書かれていますが、これは既に発表されているのでしょうか。是非是非読んでみたいところなので、すっごく楽しみです。

追記:
「銀牌女侠蒲公英」は、やっぱり架空の作中作だったそうな<後書き参照
めっちゃ……めっちゃ面白そうだったのに_| ̄|○ いっそそちらの話も書いてくれませんかね、秋梨先生……
No.4262 (読書)

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 プロフィール
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。

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