2012年05月26日の読書
2012年05月26日(Sat)
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本日の初読図書: 女と共に逃げた男は、途中その女も殺され、銃を手にひとり森の中をさまよっていた。そこで出会った老人とのひとときを綴る「焚火」。 カメラマンの松村が見つけたのは、花見川沿いの茂みに埋もれた古いトーチカ。そこには陸軍工兵軍曹を名乗る少年と、担ぎ売りの老婆がいた。少年は軍用鉄道を守っているのだと言い、実弾の籠められた本物の九九式小銃と旧帝国陸軍の階級章を身に着けていた。二人の話によれば、鉄道は今も夜ごとトーチカのそばを走っているという。いつしか二人の話に引き込まれた彼は、トーチカへと足しげく通い、松村二等兵として共に見張りをするようになった。そうしていつしか、彼の耳にも汽笛が届くようになり……「花見川の要塞」。 ドイツを攻撃するイギリスのB17爆撃機ジーン・ハーロー。その機長であるジェイムズが、機体を撃たれ胴体着陸を余儀なくされたとき、部下の命を救うために取った行動「麦畑のミッション」。 東京駅で働く赤帽たち。その最古参である老人と、もっとも年若とはいえ四十を越えるその甥。赤帽は彼らの代で消えるだろう。老後をどう過ごすか、見果てぬ夢を抱いていた彼らの前に現れたのは……「終着駅」。 竜門卓は探偵だ。それも犬、しかも「猟犬」しか探さない。猟のさなかに見失ったり、あるいは盗まれたりした猟犬を探し出すのが仕事である。相棒の黒犬ジョーと共に山中に分け入り、あるいは伝手を頼りに情報を拾う。だが今回の依頼はいっぷう変わっていた。探して欲しいのは盲導犬だという。竜門は猟犬とはまた異なった人と犬との関わり方に、興味を覚え依頼を引き受ける「セント・メリーのリボン」。
先日読んだ「犬はどこだ」の解説で紹介されていたので読んでみました。 最初は長編か同シリーズの短編集かと思っていたら、目的だった猟犬探偵のお話は表題作一編のみでした。とはいえ全体の半分近くを占めているので、充分満足できましたが。 その他のお話も、それぞれに味わい深かったです。なんというか、一昔前の翻訳ハードボイルドを読んでいるような感じ。そのくせ、ちょっぴりファンタジックな要素を秘めているお話もあったりして、予断を許しません。 個人的にはやはり表題作と、あと「焚火」が面白かったかな。「焚火」なんて、登場人物の名前が一個も出てこないんですよ。「おれ」「女」「老人」「犬」。「おれ」によって描写される過去は、具体的な固有名詞を出さないまま、淡々と、しかし心抉る悲哀を漂わせています。そして最初はちょっと呆けた農夫にしか見えなかった老人が見せる格好良さときたら……! あと「花見川の要塞」は、なんとなく「銀河鉄道の夜」を思い出させられました。ちょっと不思議な大人の童話という感じで、これもなかなか素敵です。 表題作はもう……ひたすら格好いいの一言です。私有地の山中で、猟銃と犬だけを傍らに暮らす竜門の男前なこと。無口で強面、ぶっきらぼう。でも心の底には不器用な優しさを隠しているのがたまりません。 気に入らない相手への容赦なさとか、事情持ちの犯人への処置の甘さとか、良いのかそれでと突っ込むのは野暮でしょう(笑) 今回は相棒犬ジョーの活躍が少なかったので、そちらは続編に期待したいです。
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No.3786
(読書)
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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