2012年03月13日の読書
2012年03月13日(Tue)
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本日の初読図書: じょじょに年をとり、老いとともに気力を衰えさせてゆく二郎三郎。 いっぽうで十数年に及ぶ二郎三郎との暗闘により、結果として『いくさ人』としての帝王学を叩きこまれた形になった秀忠。 合戦の作法もわきまえず、汚くみみっちい手段で大阪城の秀頼を刺激し続けた秀忠は、ついに二郎三郎による懸命の和平交渉を無にし、決定的ないくさ『大阪夏の陣』を引き起こすことに成功する。 もはや豊臣家を救うことは不可能なのか ―― 一度は無力感にかられながらも、二郎三郎らは最後まであきらめずあがくことを決意する。そして秀忠が二度と再び合戦など起こす気にならぬほど、思い切りふてぶてしく戦い、思い切り未練たらしく、思い切りのたうち回った挙げ句に滅びてくれようと心を定めた。 関ヶ原の頃には八歳だった豊臣秀頼も、もはや二十三歳。救いの手を差し伸べようというのは、むしろ不遜であろう。十五年もの長きにわたり豊臣家の滅びを引き伸ばしてくれた二郎三郎に、島左近は深く感謝し、少しでも借りを返そうと自ら槍を取る。 甲斐の六郎もまた、風魔一族の誇りをかけて、秀忠と柳生忍軍から二郎三郎を守ると誓った。 一六一五年五月八日 大阪城陥落。 豊臣家は淀君、秀頼と共にその歴史を終えた。 そしてその瞬間より、秀忠と二郎三郎らの、最後の死闘が始まるのだった ――
読み終わってしまった…… 読了後、最初の感想がまずそれでした。あまりに面白くて読んでしまうのがもったいなく、充分な時間がとれるまでずっと温存していた最後の一冊。ついに読み終わってしまいました(ため息) いやあ……見事です。これだけの作品を書ききった作者の力量も、影武者二郎三郎の生き様も、なにもかも。 なによりもすごいのは、これだけのエンターテイメント性を持ちながら、後世に伝えられる『史実』には、一切手を加えていないところだと思います。歴史IFものではないんですよ。さりとてそのトンデモ設定は、けして普通の歴史小説とも言えない。 すべてはあくまで『これ故にこう伝えられた』とか『●●にはこう記されている』という形になっていて、作中の『公式記録』はあくまで現代に伝えられるままなんですよね。 何度も書いてますが、地の文びっちり、何ページにもわたって会話がない部分すら随所にありながら、なにこのすさまじい吸引力。これを作家生活わずか六年で没した人が書かれたとは。
読んでいてしっかり歴史の勉強になりつつ、しかし思い返してみると明らかにキャラクター小説でもあり。二郎三郎を始め、周囲を固めるキャラたちの魅力的なことといったら、こたえられません。悪役はあくまで憎たらしく、味方はどこまでも頼もしい。骨太でありながら、ふとしたところに可愛らしさを見せる好漢達には、ほんとに魅せられますvv 主役は五〜七十代、島左近も年齢不祥とかいいつつ白髪混じり。一番若い甲斐の六郎ですら終盤では四十代後半。平均年齢めっちゃ高いのになあ(苦笑) 歴史的な展開が変わらないと判っているだけに、大阪の陣から家康の没年に向かうこの下巻は、読んでいて切なくなってもくるのですが。特に二郎三郎の老いと衰えが見えてくるあたり、本当に本当に悲しいのですが。 ……ううう、幸せな時間(本を開いていた時間)をありがとう(涙)としか言えません。 最後が案外ばっさりと切られていたのが、正直物足りなくもありましたけれど、むしろそれはそれで良かったのかもしれません。 その後の歴史を調べてみると、わずか数代で秀忠の血筋は絶えて、二郎三郎の子孫(紀州徳川)が将軍家を継いでるしな!<ざまあみろ秀忠vv そして結果的には二郎三郎の望んだ三百年の平和が続いた訳だし、現代の『職業・宗教の自由』こそ、彼の築きたかった公界に他ならないわけですし。 良くやったよ、二郎三郎……
ともあれ時代小説を読む方、特に地の文黒くても大丈夫な方には、是非是非! おすすめしたい作品でした。
……そしてまた、一巻目から改めてめくり直す私がいたりとか(笑) しょっぱな関ヶ原のくだりは布陣がちょっと判りにくいですが、↓あたりをチェックしつつ読み返すと、非常に良く頭に入りますvv
■布陣図 http://www.cam.hi-ho.ne.jp/y-t-ueno/newpage112.htm
■関ヶ原布陣 - YouTube http://www.youtube.com/watch?v=97RvBs8tmrA
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No.3661
(読書)
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この記事へのコメント
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雪華
2012/03/14/21:55:36
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こんばんわ、雪華です。
『史実』には、一切手を加えていない> なんとなく「修羅の刻」を思い出しました。あれも大物に陸奥を絡ませつつも『史実』には手を加えていません。まあ、規模がちっちゃいですからねぇ(苦笑)。 しかし、作家生活わずか6年でこれだけの大作を世に残しまくった作者は、その稀有なる才能ゆえに早々に天上に招かれたかのようですね。
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No.3662
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神崎真
2012/03/14/22:31:06
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> 修羅の刻 義経がちゃっかり入り婿してたりとかいろいろありますけど、表向きは確かに史実通りですね(笑) 織田編読み返せてないから、あのあたりがどうなってたか良く思い出せませんが……いま読んだら、また違う目で見られて面白いかもvv
>稀有なる才能ゆえ 解説や前書きなどを参照するに、隆慶一郎氏はご本人もまた一種の傾き者であり、自由人でいらしたとのこと。 そう思うと残された作品の数々は、まるで昭和の最後を飾る徒花のようで。 未完に終わってしまったシリーズもおありだとか……歴史小説の世界は、本当に惜しい方を亡くされてしまったものです。
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No.3663
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プロフィール |
神崎 真(かんざき まこと)
小説とマンガと電子小物をこよなく愛する、昭和生まれのネットジャンキー。
ちなみに当覚え書きでは、
ゼロさん= W-ZERO3(WS004)
スマホ= 003P(Android端末)
シグ3= SigmarionIII です。
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