Hateness
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2002/04/10 16:31)
神崎 真


 戦いを始めたのが人間ならば、終わらせるのもまた人間であるべきだ。
 そんなふうに口にした彼は、はたしてどこまでその言葉を理解していたのだろうか。


*  *  *


 ときどきぼくは、疑問に思う。
 はたしてみなは、気がついているのだろうか。
 ぼくが、彼らとは違うということに。
 実験体としてその肉体を利用されたことで、ゼロゼロナンバーの仲間達は、否応なしに戦いの中へと身を置かざるを得なくなった。戦うための機械として改造された彼らは、そうすることでしかBG基地内で生きていくことを許されなかったからだ。そして……たとえ自由を求め、ブラックゴーストの元から離反してもなお、戦いの息吹は絶えずぼく達を追いかけてきたのだから。
 死にたくないと考えるのは、人間として当たり前のこと。
 だから彼らは、銃を手に取り戦ってきた。いったいそれは、どれほど辛く苦しい選択だったことだろう。
 ぼくは8番目のサイボーグ。脱出するその当日に出会った009をのぞけば、もっとも新しく加わった仲間だった。それでもぼくは、彼らの苦しみを、悲哀を、よく判っているつもりだ。
 ―― もしもブラックゴーストにさらわれることなく、元の生活を続けていられたならば、彼らは一生その手を血に染めることもなく、平穏に日々を暮らしていけたのだろう。
 だからこその苦しみ。だからこその、哀しみ。


 ぼくが初めて人を殺したのは、十五の時だった。
 使ったのは、自動小銃。
 ぼくはぼく自身の意志で、明確に相手を殺すことを意識して、人を撃った。


 腹を銃弾で引き裂かれたあの男は、溢れる血と千切れたはらわたをまき散らして、倒れ込んだ。
 見開かれた瞳がぼくの姿を映し、末期の痙攣に震える唇が、呪いの言葉をつむぐ。
 それでもぼくは、後悔などしていなかった。
 おそれる気持ちは確かにあった。この手で命を奪ったのだというその事実に、全身が小刻みに震えていた。
 けれどそれ以上に感じていたのは、為すべきことを為したという、達成感とでもいうべき想いで ――


 貧しい祖国。
 大統領の搾取さくしゅと圧政に、国民達はみな苦しんでいた。
 けして豊かとは言えない資源を一部の金持ち達が独占することで、ほとんどの民達が貧しくひもじい思いを余儀なくされていた。
 このままではいけない。
 この国は、その経済を支える民衆のものだ。
 畑を耕し、家畜を飼い ―― そうして働き続ける我々こそが、この国の根幹を為すべき存在なのだ、と。
 最初に立ち上がったのが誰なのかは判らない。
 それでも多くの男達が、武器を取り戦うことを選んだ。
 あとはお定まりの内乱の始まり。全世界のどこででも、普遍的に起きている、長い泥沼のような紛争が繰り広げられた。


 アルテミスの言葉を借りれば、愚かな争いだったのだろう。
 それは歴史上、枚挙にいとまがないほどに、幾度も繰り返されてきたことだったのだろう。
 だが、それでもぼく達は必死だった。
 人類全体から見れば、繰り返されてきたそれでしかなかったのかもしれない。けれど、その時その場にいたぼく達にとっては、たった一度の人生を賭けた、生涯唯一の戦いだったのだ。
 独立運動に加わると言ったぼくを、両親は止めた。妹は泣きながらすがってきた。
 なぜあえて危険に身を投じようとするのかと。
 確かに生活は苦しい。それでも生きていけないほどではないのだ。
 乏しい食料は分け合えばいい。銃を取って殺すよりも、くわを持って土を耕した方が、きっと未来の役に立つ。どうしてそれが判らないのか、と。


 すすり泣く家族を振りきって、それでもぼくは戦場に身を投じた。
 両親の言うことも判ってはいた。
 いや、当時のぼくは、無抵抗な彼らにもどかしさと反発ばかりを抱いていたかもしれない。
 ただ言えるのは、ぼくが彼らを心から愛していたこと。
 ぼくは彼らを守るために……彼らの幸せな未来を手に入れるために、銃を取ることを選んだ。
 たとえぼく自身はこころざし半ばで倒れることになろうとも、そのしかばねは、この国を富ませるいしずえとなるだろう。いつか浴びた血ゆえに裁かれることになったとしても、それでも家族は、仲間達は幸せになれるだろう。そう信じて、ぼく達は戦った。


 ひどい、戦いだった。
 飛び交う銃弾、爆発する地雷。捕らえられれば、待っているのは殺された方がましだと思えるほどの拷問と、見せしめを兼ねた残虐な処刑。
 幾人の仲間を失っただろう。
 笑いながら振り返った瞬間、目の前で蜂の巣にされた友がいた。仲間を逃がすために、あえて銃弾の雨に身をさらした男もいた。手榴弾に両足を吹っ飛ばされて、殺してくれと懇願するのに……黙って引き金をひいたこともあった。
 それでもぼく達は戦い続けた。
 村に戻り、貧しいが平穏な暮らしをしていくことは、いつだってできた。
 武器を捨て、仲間達へと背を向け、一歩身を退けばそれで良かったのに。それでもぼく達は戦い続けたのだ。自分達自身の意志で。誇りすら持って。


 もしも、ブラックゴーストに捕まらなければ。
 実験体としてこの身体を改造されることがなかったならば。


 ぼくは今も、あの地で戦い続けていただろう。


 この両手を敵と仲間と自らの血に染めて、あの戦場で引き金をひいていただろう。
 だからぼくは、今の生活をさほど苦だとは思っていないのだ。
 ぼくにとって、生きるために戦うことは、むしろ誇るべき行いだった。
 自身を、そして愛しい者達を守るためにこの手を汚すことは、喜びでさえあったのだ。


 ぼくはサイボーグになる前から、人を殺すことを知っていた。
 どこを撃てば人が殺せるのか、どこを刺せば人は死ぬのか。ブラックゴーストで戦闘訓練など受けるまでもなく、ぼくは充分に知っていた。
 人は人を殺すことができる。
 サイボーグになどならなくても、人間はたやすく人間を殺すことができるのだ。


 ―― けれど、
 人間がサイボーグを殺すのは至難の業だ。
 

 優れた防弾耐熱機能を誇る赤い防護服は、自動小銃程度では貫くことさえできない。その下に守られた人工皮膚もまた、尋常な武器で傷つけることはむずかしい。たとえどうにかして内部まで損傷を及ぼしたとしても、サイボーグの肉体は、部品さえ交換すればいくらでも修復が効くのだ。
 仮に腕や足がもげたとしても、新しいものをぐことはたやすく、炎にまかれ全身を灼かれたところで、人工皮膚を貼り替えればそれですむ。
 小指の先ほどの鉛玉一発で命を落とす、そんな人間とぼく達は、明らかに異質な存在なのだ。


 人間は、戦いを始めることはできても、終わらせることはできない。
 だから神である自分達が、それを終わらせてやるのだと。
 アポロン達は、そう主張した。
 それができるだけの力を持っている者が、そうするべきなのだと。それこそが地上に平和をもたらす、たったひとつの方法なのだと。
 確かに、ぼく達の力は人間の範疇からはずれてしまっている。
 かつて故郷にいた頃のぼくは ―― 独立運動の仲間と政府軍の兵士達とは、戦い合い、殺し合うことで、それぞれの信じるものを主張していた。己の信じるものに自らの命を託し、そうしてぶつかり合っていた。


 けれど、いまのぼくは違う。


 あの国で、かつての仲間達と再会して、痛切にそれを感じた。
 ぼくはもう、彼らと共に戦ってきたぼくではないのだと。
 カボレの村を襲った飛行戦車群を前に、たった三人でそれに立ち向かい、殲滅せんめつさせることができたぼく達。
 それはけして……人間ひとに許される力ではないのだと。


 人間は、人間を殺せる。
 なぜならそれは、人間は人間に殺されることができるからだ。
 殺し合いとは、殺し殺されること。
 信じるもののために相手を殺そうとすることは、その相手が信じるもののために、自分が殺されうる覚悟を持っていてこそ許されることだ。


 けれどいまのぼくは、一般の兵達に殺されるような存在ではない。
 ぼくが銃を取り彼らへと向けることは、一方的な虐殺に他ならない。
 だから、ぼくはカボレ達と共に戦うことができなかったのだ。
 このサイボーグとしての力があれば、どれほど心強い戦力になっただろう。
 望めば、ひとり官邸へと潜入し、政府の主要な人間を暗殺してくることさえできただろう。
 けれど、それでは駄目なのだ。


 人間は、人間を殺すことができる。
 それは同時に、人間を殺すことは、人間にだけ許されているということなのだと、ぼくは思う。
 自らの営みを守ること、自らを幸せにしようとあがくこと。
 それらは全て、人間が自身でやらなければならないことなのだ、と。


 だからぼくは、アポロン達を許せない。
 強大な力をたてにして、争う人間達を高みから裁こうとする彼らを。
 繰り返される愚かな争いだとひとくくりにまとめ、現実に戦場で血を流している兵達を見ようとしない彼らを。そこに存在する苦しみを、それでも武器を取らずにはいられない哀しみを、知ろうともしない彼らを。


 たとえ共に戦いたくても……それが許されぬこの苦しみなど、思いもしないであろう、彼らを ――


*  *  *


「もうすぐ、夜が明けるな」
 夜風に乗って届いた呟きに、ぼくは初めて甲板上に他人がいることに気がついた。
「眠らなかったのかい? お前さんにしちゃ珍しいな」
 言いながら歩み寄ってきたのは、007だった。
「別に、ずっと起きていたわけじゃないよ。戦いの前に充分な休息をとるのは大切なことだ」
 日が昇れば、神々を名乗る者達との最後の決戦に入る。
 ぼくと007は、ギルモア博士や001とともに地下のエネルギー増幅装置の破壊へと向かう手はずになっていた。ほかのメンバーが陽動として敵の目を引きつけてくれるとはいえ、それでも厳しい戦いになるだろう。それが判っている以上、よけいな体力を消費している余裕はなかった。
「なら良いんだがね」
 007はそれ以上追求することもなく。ぼくの横に並んで、ドルフィン号の甲板の手すりに身を預けた。
 そうして遠く、水平線上に浮かぶマグマ島の影を見はるかす。


*  *  *


 ぼく達は人間だと、人間であるべきだと。
 9番目の仲間はそう口にした。
 最高の性能を持つ、最後の試験体。
 ぼく達の誰よりも高い性能を持つ彼は、迷い苦しみながら、それでも人間であり続けようとしている。
 けれどぼくは、とてもそうだとは思えないんだよ、009。
 アポロン達のように、己が神なのだと、そんなふうに思うわけではないけれど。


 それでも、ぼくは ――


(2002/4/10 20:57)


うあぁぁああッ
ごめんなさい。すみません!!
暗いまんまで終わっちゃいました!!(平身低頭)
パロディにおいては痛いまんまで終わる話は書かない。御都合主義でも何でも、最後はハッピーエンド! を貫いていたこの私が……(滝汗)

えと、あのその、今回のお話は、小説と言うよりもむしろピュンマの解説というか、彼というキャラクターをつかむつもりで書いたものだったんです。このとき彼は何を想っていたのか、サイボーグにされたことについて、彼はどんなふうに感じているのか、と。そこら辺をつきつめてみようと思ったのですが……(汗)
008といえば、ヨミ編や神々との闘い編における、みずからの身体に対する嫌悪感というか、サイボーグであることを悲しみ苦しんでいる姿が思い出されます。そのあたりと、平成版アニメでの、元独立運動の戦士という設定。そしてふと思ったのが、かつては自身も戦争を経験していた彼が、神の名の下に、敵味方状況をまったく斟酌せず戦場をなぎ払ったアポロン達に対して、含むところはなかったのか? と言うことで。

その結果がこうなっちゃった訳なんですが……

彼は、生身の人間が行うことのできる殺戮の限界を知っているからこそ、機械化されることでその限界を突破してしまったサイボーグの身体に、嫌悪を持ったのではないか、と。
……う〜〜ん、いずれまたフォローの話を書くべきかもしれませんが……でも原作が『ああ』なので、なんかこうフォローのしようがないというか……ううう、すみません……(涙)


※2002/4/13追記
↑で書いていたフォロー話を書いてみました。こちらからどうぞ。


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