死神の鎌の向かう先
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2002/6/4 9:47)
神崎 真


 ―― マシンガンを放ったあの瞬間。
 まったく疑念がなかったといえば、それは。


*  *  *


 昼下がりのカフェテラスで、朗らかな笑い声があたりへと響きわたっていた。
 学会でこの地を訪れたギルモア博士、それに同行したジョーとフランソワーズ。
 黒い幽霊ブラックゴーストが完全に滅び去ったのではなく、その残党もしくは無傷で残っていた本体そのものが、再び俺達の周囲へと手を伸ばし始めたのではないか。このところ、そういった疑念を起こさせるような事件が何度か続いて起きていた。
 そんな時期に、ギルモア博士を無防備にしておくことはできない、と。そう考えた俺達は、事前に連絡を取り合い、交代で博士を護衛することになっていた。
 しかし、久しぶりに顔を合わせた二人には、敵を警戒するような緊張感などほとんどなかった。ギルモア博士もまた、そんなジョー達にからかわれたり怒ったりと、とてもリラックスしている。
 そしてやはり俺も、そんなみなとともに、くだらない冗談を口にしては笑いころげていた。


 目の前にいる老博士と同じ容姿のロボットを、この手に掛けたのはついさっき。
 あれはやはり、BGから送り込まれてきた暗殺者のひとつだったのだろう。
 あるいはその口振りからして、俺を再び研究材料として取り戻そうと、やつらは本気で計画していたのかもしれない。
 俺と全く同じ性能を持つ、しかし最新鋭のロボット。
 それを作り上げ、そして俺と戦わせ……

 ―― 無様じゃないか。004。何故その旧式の身体にこだわる?

 ギルモア博士と寸分違わぬ声で、這いつくばる俺へと投げつけられた言葉。

 ―― 何を今さら。もうとっくに人間ではないではないか。人間でも兵器でもない、半端なままでいるより、兵器として生きたほうが、いさぎよいとは思わんかね?

 薄暗い石造りの城の中に、冷酷に響きわたったその声音。
 それを耳にした瞬間、『これ』は博士ではないのだと確信した。
 ギルモア博士であったなら、こんなことなどけして口にはしない、と。
 確かに、BG基地から脱出したばかりの頃には、まだ信頼感などありはしなかった。ただ共に危険に身を置くという、その覚悟を示してくれたことで、この人を信用するしかないのだと思っていた。機械の身体をメンテナンスできる人間がこちらの陣営にいなければ、逃げ出したところでどうすることもできない。はじめの頃の俺達は、ある意味、そんな背に腹は代えられないという打算的な気持ちで、同じ屋根の下に暮らしていただけだった。
 だが、あれから多くの戦いを経て、長い時を過ごし ―― じょじょにその人柄を知っていって。
 実際、時として驚くほど無神経な物言いをする人ではあった。科学者として、その研究にかける意欲には、嫌悪感すら覚えることも無かったとはいえない。
 それでも、この人の誠実さは、けして偽りではなかった。
 俺達に対する罪悪感と、自らの愚かさを悔恨する思いは、けして口先だけのそれではなかったのだ。
 だからこそ……
 あの瞬間、侮蔑の言葉をまき散らす偽ロボットに、心底からの怒りを覚えた。
 わき上がる感情の激しさに、むしろ頭の中は冷たく冴えわたってすらいった。
 このロボットがおとしめているのは、いまこの場にいる俺のことだけではなく。
 あの哀しく、そして誠実な老博士さえもを、と。


 醜い内部構造をあらわにし、くすぶった煙を上げる偽物の俺。
 その残骸の前でごちゃごちゃとわめき散らしている『それ』に向けて、マシンガンの残弾全てを叩き込んだ。
 その行為に迷いはなかった。
 そんな代物に口をきかせておくことは、たとえあと一秒といえども、耐えられなかったのだ。
 俺にはもはや、そいつがどんな姿をしているかなど、どうでも良いことで ――


*  *  *


「お前たち、年寄りをからかうもんじゃない!」
「だってねえ?」
「うふふ」
 楽しげに笑う仲間達。
 そんな二人を真っ赤になって怒鳴りながらも、ギルモア博士の表情はどこか嬉しげなそれだった。
 まるで孫達にからかわれる隠居老人のように。
 あの偽ロボットを作ったのが誰かは判らないが、そいつにはこんな光景が存在するなど、欠片も想像できなかったのだろう。そうでなければ、あんな一発で偽物と判るような言動を、プログラミングするはずがない。
 まったく、馬鹿馬鹿しいの一言に尽きるというものだ。
 ようやく笑いの収まった俺は、まだ口元に笑みを残しながら、コーヒーへと手を伸ばした。すっかり冷めてしまったそれを、ゆっくりと味わう。


 ―― それでも。
 ふと、胸の内に浮かび上がる思い。
 ―― まったく疑念がなかったかといえば、それは。
 形になりかけたその言葉を、俺は苦い液体と共に飲みくだした。
 もしもなどという仮定は、まったく無意味なことだ。ことにそれが杞憂だと判ってしまった、現在においてはいっそうに。
 だから俺は、その思いを胸の奥底へと深く沈める。
 『そんなこと』など、実際に起きはしなかったのだから。
 そうだ。
 向けたマシンガンの先で飛び散ったのは、けして真紅の鮮血などではなく。
 倒れた身体は、機械部品で構成されたロボットのそれだった。


 ―― けれど、
 もしそれが違う結果であったとしても、俺は後悔しはしなかっただろう。
 あんな言葉を口にするような科学者を、死神オレはけして許しなどしないから。


 それは、起こらなかった『もしも』の話。
 だから考える必要も、思い返す理由もないものだ。
 俺はここで、みなといっしょに笑っている。
 そうすることが、俺にはできたのだから……


(2002/6/4 11:01)


平成版アニメ「機々械々」放送直後、別HNでNBG様に投稿していた作品です。
このお話を書いた頃、個人的に二次創作に関してかなりもの思うことがありまして。しかし悩みつつも、どうしても書く手を止めることができず、ずいぶんぐるぐるしながら書き上げた作品でした。発表しようかどうしようかも迷ったあげく、別HNでの投稿という形を取ってしまったのですが、結果、多くの方から「神崎さんですよね?」とご指摘をいただき、なんだか自分の中で何かが吹っ切れた感がありました(笑)
当時、チャット等で愚痴を吐きまくる神崎にこころよくおつき合い下さった皆様、NBG様でこの話を読んで感想を下さった方々、本当にありがとうございました <( _ _ )>


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