Shooting Star 〜 Jet 〜
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2002/9/22 19:21)
神崎 真


 間に合うかとか、助けられるのかとか。
 そんな言葉は、もう問題じゃあなかった。
 ただまっすぐに、大気を切り裂き駆け上る。
 冷たい空気の塊がぶつかってくる中で、思考はとうにどこかへと失せた。
 ただ上へ、上へと、そればかりが残る。
 残りの燃料のことが、ちらりと意識の片隅をよぎった。
 けれど噴射を緩めようとは思いもしなかった。
 既に雲の層も突き抜けて、見上げる先にあるのは何処までも広がる青。
 刻一刻と深みを増してゆく青の中へと、ただまっすぐに。


 ―― WHY?


 上にも下にも、何処までも広がる青い空間。
 痛いほどの冷たい風が、全身へと叩きつけてくる。
 ぎしぎしと音を立てて軋む、まがい物の肉体。
 耳元で渦巻く、大気の唸り。


 あたりには誰もいなかった。
 見上げる先にも、見下ろす足下にも。
 右にも左にも、前にも後ろにも。
 誰もいない。
 ただ俺一人が空を駆ける。


 ―― 俺はいったい、何をやっている?


 大きく見開き、上を凝視している瞳が、突き刺さる風に涙を滲ませる。
 それでも目を閉じようとは思わない。
 ほんの一瞬でも、何かが見えないかと、見える何かを見落としてはしまわないかと。


 見落とす?
 なにを?


 もうそれすらも判らなかった。
 けれど、探すことを止めようとは思わない。
 自分はなにを探そうとしていたのか。
 そんなことを思いわずらう余裕すら、惜しい。
 もっと高く。
 もっと早く。
 ただひたすらに上を目指す。
 それだけが、今の俺には意味あることで。


 じょじょに、身体に感じる抵抗が小さくなっていった。
 引き止めようとする重力の戒めも、押し返そうとする大気の壁も。
 気がつけば、空の色は夜よりもなお深く濃く。
 足下の蒼は、輝きを増して大きく弧を描いている。


 天と地の狭間。
 深く、暗く。
 青く、蒼く。
 その合間に浮かぶ、ちっぽけな赤い戦闘服。
 黄色いマフラーが長くなびいて。


 ―― ああ。


 思わずため息が洩れた。


 これが。
 この惑星ほしが、と。


 ―― ジョー!


 虚空のただ中へと、呼びかけた。
 この圧倒的な世界に、同じように存在するはずの、仲間へと。


 ―― どこだ、ジョー。返事をしてくれ!


 呼びかける声に、返事はない。
 それでも俺は呼び続けた。
 何度も、何度も。
 繰り返し、幾度も。


 返事はあるかもしれない。ないのかもしれない。
 見わたす限り、それらしき姿は見あたらないけれど。
 それでも呼びかけを止めようとは思えない。
 ここまでこうして、追いかけてきたように。


 なあ、ジョー。
 どこにいるんだ。
 迎えに来たぜ? 返事をしてくれよ。
 たとえそれがどこからだろうと、ひとっ飛びで行ってやるからさ。
 お前一人で逝っちまうなんて、絶対に許さねえぞ。
 なあ、返事しろよ。
 ジョー。


 耳の奥に、雑音ノイズのような響きが生じる。
 ともすれば聞き流してしまいそうなそれに、懸命に耳を傾けた。
 口元に、意図せぬ笑みが浮かぶ。
 そこか。
 そこにいるんだな。
 顔をもたげ、遙かな彼方を見はるかす。


 遠く、ほのかにきらめく一条の輝き。
 小さなその星めがけて、ジェットをふかす。
 残された距離を一息に翔け抜けて、求め続けたその姿を、虚空に見いだす。


 ―― さあ、ジョー。
 その手を伸ばしな。
 さあ、ほら……


(2002/9/22 20:28)


平成版アニメのヨミ編最終話「地上より永遠に」の予告編を見て、一気に書きました。
落ちもひねりも何もありません。ただあの予告の……まっすぐに空を駆けるジェットの姿が……姿が……(涙)
もはやあの名場面に言葉はいりません。
どうかこの思いにを裏切らない最終回になってくれることを、切に祈ってやみません。


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