R e d B i r d
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2002/2/9 14:37)
神崎 真


 夢を見た。
 夢の中での俺は、仲間達とともに戦場を駆けていて。
 飛んでくるミサイル、俺達を捉えようと旋回する砲座。
 兵士達が構える銃口をかわし、逆に撃ち倒すこの身体は、赤い防護服の上からでもはっきりと判るほどに血まみれで。
 目を覚まして、最初に視界に入ったのは、薄汚れた天井板。
 雨もりのにじみが、まるで世界地図のような模様をえがきだす、ぺらぺらのベニヤ板。


 最近洗濯していなかったシーツが、寝汗でじっとりと湿っていた。
 いい加減クリーニングに出さないとまずいだろう。とりあえずひっぺがして丸めて、床の隅へと放り出す。二区画向こうのコインランドリーに行けば、今夜にはまた使えるだろうか。


 椅子に引っかけておいたジーンズに足をつっこみ、冷蔵庫の中をのぞく。
 中にはほとんどものがない。それでもリンゴを一個発見して、丸のままかぶりついた。
 上半身はだかで窓枠に腰掛け、外を眺め下ろす。そんな真似をしていても、見とがめる人間などこの街にはいない。
 NYの片隅の、貧乏人が吹きだまる一角。ここでは他人のことなど、誰も気にとめやしない。
 さびれたぼろアパートの一室で、若造が一人裸踊りしてようが、のたれ死にしていようが、この街では話題にさえのぼりはしないだろう。


 そんなこの街が大嫌いだった。
 それでもこの街を愛していた。


 黒い幽霊ブラック・ゴーストとの戦いが終わって。
 仲間達はそれぞれに自分の道を見つけていった。
 004はドイツに行くと言った。奴にとってもろくな思い出など無いはずの故郷。それでも自分は帰らなければと、笑っていた。005も同じ。006は、東京で中華料理店を開くと息まいていた。007が共同経営者になるそうで。008もまた、アフリカに戻って野生動物の保護に力を尽くしているらしい。そして009は、003や001と共にギルモア博士の研究を手伝っていて。
 そして俺は、懐かしいNYの下街で暮らしている。
 幸いなことに、仕事にはそれなりに困らない。
 001が用意してくれたSSN(身分証明書)は、誰にも偽造と見破られることなどなかったし、先立つものもいくらかなりとあったから、見苦しくない程度に身なりを整えられる。
 読み書きと計算ができて、あとは身元がしっかりしていれば、働き口はそこそこあるのだ。
 そのまま雇い続けてもらえるかどうかということは、また別の問題にせよ。


 昔は、自分の名前と簡単な単語ぐらいしか書けなかった。
 二桁の足し算に両手の指を使って、それでもときどき間違えた。
 けれど今の俺は、世界中どこへ行っても、とりあえずしゃべることに不自由はない。読み書きも、字の汚さを馬鹿にされることはあっても、それなりにひととおりはこなすことができる。足し算引き算、掛け算わり算。やり方ぐらいは頭に浮かぶ。
 それは、脳味噌の隣に埋め込まれた、人工頭脳のおかげだった。
 俺が努力して覚えた訳じゃあない。


 たとえば、武器を持った屈強なギャング共にからまれたとして。
 今の俺はそれをおそろしいとは思わない。
 撃たれたところで死にはしない。相手が何人いたとしても、叩きのめすことに苦労はしない。
 それもまた、俺が努力して強くなったからではなかった。


 けして望んだわけじゃぁない。
 人であることを失って。それまでのすべてと決別して。
 そうまでして、誰がこんなものを望むというのか。
 血にまみれ、泥と硝煙の中で這いずりまわり、化け物という叫びとともに銃を向けられて。
 平和な生活をはじめた今になってさえ、こうしてうなされては幾度も飛び起きる。


 ―― もう勘弁してくれ。


 真夜中にひとりで膝を抱えていると、あたりをはばからずわめきだしそうになった。


 カシリと音をたてて、リンゴをむ。
 気がつけば、手の中の果実は芯だけになっていた。
 上体を倒して窓枠から立ち上がり、ゴミ箱へと向かう。
 途中でシャツを拾い上げてはおった。


 ゴミの日はいつだったかとカレンダーをのぞき、赤い印があることに気がついた。
 そう言えば今日はと、慌てて時計を振り返る。
 ヤバイ。
 約束の時間まで、もう三十分と残ってやしない。
 ここから飛行場まで、どれだけ急いだとしても、一時間はかかった。
 まともな交通機関を使っていれば、だが。


 ―― 迷ったのは、数秒。
 このまま普通に表通りへと出て、まずタクシーを拾い、地下鉄の駅へ向かうべきか。それとも……


『この、ノロマが! 忘れてたとか言いやがったら、ぶっ飛ばすぞ』


 不機嫌そうにきらめく、薄い色の瞳が思い浮かぶ。


『何考えてんだ、おまえは。誰かに見られたらどうする気だ!?』


 手袋に覆われた鋼色の右手で、襟首を掴み上げられるさまを想像する。


「……どのみち怒られるんなら、早くついた方が良いよな」
 口の中で呟いて、ベッドの下からスーツケースを引っ張り出した。
 番号を合わせて鍵を開ける。
 中に畳まれているのは、真紅の防護服と黄色いマフラー。
 慣れた仕草で、手早く身につけてゆく。
 冷たい布地の手触りが、ひどく肌になじむのを感じた。
 口のはしに、小さく笑みが浮かぶ。


 ―― もう勘弁してくれと、はたして幾度叫んだだろう。
 誰に対してかなんて判らない。
 信じてもいない神に対してなのか、それとも運命とか、過去だとか、そんなものにかもしれない。
 けれど、その言葉が届くことなど、決してあるはずはなく。
 俺は俺で。
 血にまみれた機械人間であることを、今さら変えることなどできやしないのならば。


 ならば……


 夜ごと眠りをさいなむ悪夢も、消しようのない過去も。
 いくらでも訪れるがいい。
 それが俺だというのなら、俺はそれでいい。
 そしていつか再びやってくるだろう、戦いの日々も、おそれる必要などありはしない。
 その日が来れば、俺はこの防護服をまとい、銃を手に硝煙のただ中へとつっこんでいこう。


「……だって俺は、いま生きてることが嬉しいんだ」
 そんなふうに言ったら、あんたは笑うかい?
 今頃は着陸態勢に入っているだろう、飛行機のシートに座る死神を思い浮かべる。
 俺が、そしてあんたらが、いまこの世界に生きて存在している。泣き、笑い、苦しみ、もがいていたとしても、それでも俺達は生きている。
 あの戦いの中で、誰ひとりとして欠けることなく生き延びて。そうしてそれぞれの道を見つけ、たまにはこうして顔を合わせたりなどして。
 それが、たとえようもなく嬉しいのだ、と。
 いつもどこか死に場所を探しているようなあの男に、こんな話をしたら、どんな反応が返ってくるだろうか。


 ―― その答えは、もう間もなく得ることができる。
 さてと、それでは屋上に向かうとしようか。
 残り時間はあと十五分。
 なぁに充分に間に合うさ。
 なにしろ俺は、ゼロゼロナンバー最速の男なんだから……


(2002/2/9 16:16)


 ええとすみません、なんかちょこっと意味不明です(汗)
 ネットサーフィンしていたら、おもむろに『いかにも同人誌らしい009』を書きたくなっちゃって……(←べつにやおいという意味ではないです)
 でもって、刹那的というか前向きというか、ひとまず自己肯定しているジェットを書こうとしたんですが……う〜〜ん……
 それにしてもまあ、なんだってこう私の書くキャラって言うのは、みんな一人で自己完結してるんだろうか……(苦笑)
 


「ひとり暮しリンク」こと、ひとり暮らしをしているゼロゼロナンバー達を書いた小説と、 リンクを張らせていただきました。どれもとても素敵なお話ですので、是非どうぞvv



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