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 子供の時間(1)
 ― CYBORG 009 FanFiction ―
(2002/2/26 13:10)
神崎 真


 罵ることも、判りきった言葉を口にして皆を苛立たせることも。
 あの頃のキミからは、想像もつかなかった。
 あの頃のキミは、むしろどこか老成した部分を持つ、年に似合わぬ落ち着きを漂わせた青年だった。
 貧しい下町でその子供時代を過ごし、長じてからはBGの手で改造され。
 そうだ。
 運命の理不尽さを誰よりも思い知っていたキミは、ボク達の中で、誰よりも『大人』だった ――

*  *  *

「はっ、冗談じゃねえ! そんなまだるっこしいことなんかやってられっかよっ」
 いらだたしげな声が、狭い艦内に響き渡っていた。
 コックピットに集う者達は、みなまたかというようなうんざりとした表情を浮かべてため息をつく。
「先走るのもいい加減にしないか。002」
 一同の心中を代弁して、004が口を開いた。
「戦いというのは、ただ目の前の敵を倒せばそれで良いというものじゃない。お前のやり方で突き進んでいけば、確かにことは早く済むかもしれないが、それだけこっちの負担も大きくなると、何故判らない」
「悠長なこと言ってんじゃねえよ。そんな余裕こいてるひまがどこにある? むこうは大軍。こっちはジジイと女子供込みで、たったの10人だ。長引けば不利になるのは目に見えてるだろうが」
「そうだな。お前がきゃんきゃん騒いでいるせいで、交代で休もうにもうるさくて眠れやしない。とれる疲れもとれないってもんだ」
「……ッ」
 冷たい口調で言い放つ004に、002はぎりぎりと歯を噛みしめた。
 長い前髪の間からのぞく青い目が、射殺しそうな鋭さで相手をにらみすえる。
「判ったよ! 静かにしてれば良いんだなッ!」
 振り下ろした拳が、コントロールパネルの隅へと叩きつけられた。その鈍い音を残して、彼は席を立つ。
「おい、どこへ……」
 ふらりと出口へと向かった背中に、008が声をかけた。
 返ってきたのは吐き捨てるかのような言葉。
「部屋に戻る。オレがいちゃ邪魔なんだろ」
 前に立った彼を感知して、自動扉が音もなくすべり、道を空ける。


 その姿が見えなくなると、誰からともなくため息が洩れた。
 互いに顔を見合わせて、小さくかぶりを振ったり肩をすくめたり。
 それぞれのやり方で今の感情をあらわす。
「あいつの気持ちも……判らんではないんだが、な」
 壁に背中を預けた007が、そう呟いた。
「確かに、消耗戦になればこっちの方の分が悪い。それは事実だ」
 008は慎重に言葉を落とす。
「いつまでも逃げ回っているわけには行かない以上、こちらに余力が残っている内になんとかするべきだとは思うよ。でも……」
 009の言葉を004が引き取った。
「今すぐというのは無理だ。せめて少しでも休んでからでないと」
「そうネ。ちゃんと食べて、寝て、それからヨ!」
「ウム」
 今後の動向を検討してゆく仲間達を、ボクは003の腕の中から眺めていた。
 確かにみな、疲労がたまっている。
 振り切ったかと思えばまた現れる敵影に、満足に休む間すらない戦闘が続いていた。今はかろうじて海底の谷間に身をひそめているけれど、それだっていつまで隠れていられるか判ったものではない。
 この貴重な時間を休息に当てようという、みなの言い分は正しかった。
“見張リハ、ボクガシテオク。ミナハ今ノ内ニ休ンデオイテクレ”
「001?」
“大丈夫。ボクハアトマダ一週間ハ、眠ラナクテイイ身体ダ”
「でも、あなた一人だなんて……」
 003は心配そうに眉をひそめるが、それは何もボク一人では不安があるからと言うわけではなかった。彼女はみなと同じように疲労しているだろうボクを、案じてくれているのだ。けれど、そんな彼女こそが、もっとも休息を必要としているのは明らかだった。
“アトデみるくヲ持ッテ来テクレルカイ?”
 ボクはそう言って腕の中から浮かび上がった。
 念動力でバスケットを引き寄せ、操縦席のシートへと降り立つ。
“サア、時間ハ限ラレテイルンダ。グズグズシテイル暇ハナイ”
 振り返って告げると、ようやくみなは動き始めた。


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