サイト開設十五周年記念 キャラ座談会


デューク:デューク・アルシャイン(キラー・ビィ シリーズ
ジーン:ジーン(キラー・ビィ シリーズ
フェシ:フェシリア=エル・ディア=ミレニアナ=コーナ(楽園の守護者
アート:アーティルト=ナギ=セルヴィム(楽園の守護者
太郎丸:太郎丸(きつね
次郎丸:次郎丸(きつね


デューク: やあ、ほとんどの方は初めまして。そして久し振り、クイーン。
今のところ「キラー・ビィ」シリーズで、拍手お礼SSにのみ登場させてもらっている、傭兵団純白の牙ホワイト・ファングの団長デューク=アルシャインだ。
 
上座に着いた純白の髪に空色の瞳の青年が、芝居がかった仕草で一礼する。
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デューク: 本当はもっとちゃんと登場しているキャラクターが口火を切るべきなんだろうが、作者いわく「今回は小説に出せていない裏話をメインにしたいし、他の人間だと話の収集がつかなくなりそうだから」ということで、司会を仰せつかった次第だよ。
ジーン: あー……こいつは設定だけは阿呆なほどがっつり存在するくせに、作者が「宇宙での戦闘シーンなんて書けない」っつーしょうもない理由で、未だにちょっとした顔見せしかできてない奴なんだ。見た目は優男だが度胸は座ってるし、まあそこそこ常識もあるから、司会進行にはちょうど良いだろ。あとクイーンって呼ぶな。
デューク: フォローありがとう、クイーン★ まあそういった訳さ。
で、作者からの伝言。「このサイトもなんだかんだで開設十五周年。前回五周年の時の座談会では、日月堂シリーズを中心にほぼ同一世界観のキャラクターを集めてみたから、今回は本当なら絶対に顔を合わせることのありえない世界同士のキャラクターに、時間軸や本編の流れをまるっと無視して裏話をぶっちゃけてもらおうと思います。そういうのは読みたくない、各シリーズのネタバレやメタ発言が嫌だという方は、どうぞこのまま回れ右して下さい」とのことだ。
ジーン: 確かにものすごい顔ぶれだよな。俺とお前は、銀河連邦で宇宙船乗り回してるトラブル・コンダクターだし、そっちのお姫さんと片目の騎士さんは、中世っぽい格好だよな。あとこっちのお二人さんは、もうちょい近代的だが獣人型人種ビースト系かな?
フェシ:. 私は国家セイヴァンでコーナ女公爵エル・ディア=コーナを務めておる者だ。こちらは破邪騎士のアーティルト殿。ああ、アーティルト殿はちと言葉が不自由でな、筆談で済ませるゆえ手間を掛ける。
アート: 『…………』
 
部屋の片隅に設置されたホワイトボードの前で、黒髪の青年がマジックを手にスタンバイしている。
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太郎丸:. 『びーすと』とやらが何のことかは存じませんが、我々は稲荷社いなりやしろの神狐です。私は金気ごんきを産み出す白狐が太郎丸。
次郎丸:. 我は水気すいきを制する玄狐げんこが次郎丸よ。まあ、短い間だが楽しくやろうではないか!
 
黒ずくめの男が元気よく宣言するが、全員がうなずいた後しばし沈黙が落ちる。
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デューク: ……うーん、なんというか共通の話題がまったく無さそうだよね、この面子って(苦笑)
時代も年齢も性別も種族も、見事にバラバラだ。ああでも、人の上に立ったことがあるという点では、それなりに共通しているのかな?
ジーン: 俺はそんな偉い立場になったこたねえぞ。政治に関わってたのは、あくまで『前の』の方だからな。
フェシ: 私は確かに、国家の中でも筆頭と言える貴族の一員だの。アーティルト殿も、平民出とはいえそれなりの立場にあると言えよう。貴殿は傭兵団の長と言われたか。
デューク: せいぜい三十人ほどの小さな所帯だけどね。まあ一応、俺が団長ってことになってるよ。でも実質は旗印みたいなもんで、実際に団を立ち上げたのも運営してるのも、ガラクってえ副長さ。俺は顔と名前を貸してるだけだ。
ジーン: 顔と名前も、あれだけ売れてりゃ立派な看板さ。団作ってから五十年以上経つくせに、未だにお前を慕って入団希望する奴が跡を絶たねえんだから、そのカリスマで充分トップ張れてるだろ。
フェシ: ……待て。いろいろ言いたいことはあるが、まずはそなた、いったい幾つだ。
デューク:. ちっちっち、年齢としの話は野暮だぜ、お姫さま……と言いたいところだが、今回はネタバレ無礼講だしな。 詳しいところは忘れちまったけど、確か七十は超えたはずだよ。そろそろ八十行ってるかも。
フェシ: なるほど、亜人の中には我々とは年のとり方が違う種族もおると聞いたが、そなたもそのたぐいか。して名が売れておるとは? 戦場で活躍でもしたのかの。
ジーン: こいつは星系規模で略奪を働いてた大規模な海賊組織を、ほとんど個人でぶっ潰しちまったんだよ。最後は本拠地に生身で乗り込んで、末端構成員まで容赦なく皆殺し。そん時ついた「血まみれブラッディデューク」とか「白き悪魔」とか、「殺戮者ジェノサイダー」、「六翼の堕天使ルシファー」なんてえ物騒な二つ名が、今でも業界で語り伝えられてるって訳さ。
デューク: あの頃はいろいろあったからなあ……(遠い目)
ジーン: ちなみに実は、生まれもイイトコの坊っちゃんなんだぜ?
ここだけの話、本名はデュカリアス=エイデ・ウォン=ガスパーシャだとよ。大層な名前だろ?
フェシ: ほう、確かに立派な名だの。我が国の貴族の名乗りに響きも似ておる。
次郎丸: 貴族というと、武士か公家のようなものか。我らの国ではせいぜい名字を持っておる程度で、むしろ役職名のほうが重要であったが、姫ごの国では異なるのか。
フェシ: うむ。平民はほとんどが名を一つか二つ持つのみで、ある程度裕福な者なら、さらに家名を名乗る場合もある。だが、そこまでだ。私の場合はフェシリア=ミレニアナが名で、エルが貴族の女子を、ディアが家督を継いだことを示し、コーナが家名となる。アーティルト殿は平民ゆえ、昔はアート=ナギと名乗っておられたのを、騎士に叙任されるにあたり家名を加え、今のように改名したと聞く。
アート: 『アーティルト=ナギが、名前。セルヴィムが家名』
『だけど、』
デューク: だけど?
アート: 『本当の名前 セイヴァンの字 で 書けない』
『本当は、』
『「柳木綾人」』
デューク: うん? それは文字なのかい? 模様みたいできれいだけど、ずいぶん複雑な構造だな。
フェシ: 確かに、初めて見る文字だの。東方や南方の諸島などでは、それぞれに独自の文化が発達しているというが、これはまた歴史のありそうな……
ジーン: ってか、それってもしかして『漢字』じゃねえの?
デューク: カンジ? って何のことだい、クイーン。
ジーン:. だいぶ前に地球テラの一地方で使われてた、古い言語の表意文字だ。すっげえ数が多くてややこしいやつでさ。俺も一応先祖がそっち系なんだが、ぶっちゃけ自分のファミリー・ネームしか書けね。でもなんか、雰囲気が似てる気はする。
デューク: クイーンのファミリー・ネームって ―― ああ、『ジンノウチ』だったっけ?
ジーン: そう、確かこんな……
 
席を立ってマジックを手に取る。
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ジーン: 『陣ノ内』
太郎丸: ……どちらの文字も、かなり物申したいところはありますが……確かに元は日本の漢字のようです。
アーティルトさんの方は、おそらく『ヤナギ アヤト』と読むのでしょうね。
次郎丸: うむ。だいぶ崩れておるし、線が多かったり少なかったり、書き順もめちゃくちゃだが、まず間違いないの。
フェシ: ィアナギ ア・ト?
太郎丸: 『ヤナギ アヤト』です。 そうですよね? アーティルトさん。
アート: 『是』
『でも 発音 無理』
 
フェシリアが何度か繰り返してみるが、どうしても正確に発声できない。
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太郎丸: なるほど。外国語を学ぶ上で、自国語にない発音を正しく再現するのは難しい。しかもあなたは声を出せないため、手本となる音を実際に他者へ聞かせることができない。現地の文字で書いて伝えるのであれば、できるだけ近い音に置き換えるしかなかった、という訳ですね。
フェシ: むう……こうなるとアレを連れてきておけば良かったな。アレならば、意地でも短時間で覚えて帰っただろうに。
デューク: アレって言うと?
フェシ: 我が『愛しの』婚約者どのだ。ヤツはなにしろ負けず嫌いだからの。無理だと言われたら、絶対に覚えようとするはずだ。……ましてそれが仲間の、今では誰も呼べぬ本当の名とあればな。
アート: 『音 記録する 装置 ない』
『残念』
フェシ: 音を記録する装置……? 諸島にはそんな物まであるのか!?
ジーン: ……騎士さんが言ってるのって、レコーダーのことだよな。姫さん、たぶんそれ違う。姫さんの国がどこの星にあるのか知らないけど、名前からして騎士さん、生粋の日本人だよな。
 
こくこくとうなずきが返る。
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ジーン: ちなみに生年月日は?
 
たどたどしく書かれたアルファベットとアラビア数字に、首を傾げる。
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ジーン: 二桁ってことは銀河歴でも惑星歴でも西暦でもない……ってことはまさか和暦か!? 和暦でその記号……でもってレコーダー知ってる時代ってことは、ええと……
 
手首にはめている端末へ、何やら入力して調べている。
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ジーン: うっわ、宇宙進出どころか、まだ火星にも行けてねえよ。月にすら移住できてない……ってことは、星間移民船の不時着とかじゃないな。するとあれか、空間の歪みに巻き込まれた、生身による転移事故?
デューク: あー……天文学的に果てしなく可能性低いけど、理論上は一応、発生が証明されてるってやつ?
フェシ: どういうことか、もう少し判るように説明してもらえぬか。
デューク: ええと、姫さまに判りやすく説明すると、いわゆる神隠しってやつかな。
フェシ: 神? そこな二人も先ほどそう名乗っておったが……それは人心の拠り所となる偶像のことではないのか?
デューク: は? 姫さまって国の文化は中世レベルなのに、自分は無神論者なのか。いや為政者としてはそれで正解なんだろうけど。
アート: 『セイヴァン 宗教 ない』
『他国には、ある。だから、概念は、知ってる』
デューク: そうなんだ。まあ、そういう文明の発達のしかたもあるだろうけど、珍しいね。
アート: 『人心の 拠り所は 王家』
『民を守り 導くは 破邪の力 持つ セイヴァン王家 だけ』
デューク: なるほど、まだ祭政一致の段階なのかな。
ええとじゃあ、どう説明すれば良いのかな……姫さま、惑星って知ってる?
フェシ: 惑星とやらは知らぬが、先ほど星間移民船とか言っておったな。星から来た移民の船ならば、三百年ほど前にいくつか、大陸各地に落ちておるぞ。そこから溢れだした異界の生き物が、妖獣や亜人の祖先だと言うことだ。
デューク: ……俺にはもう、姫さまの国の知識レベルが判らないよ……
フェシ: 断っておくが、今の話は最重要国家機密ぞ。知っておるのはアーティルト殿を含めて十人もおらぬ。私とて完全に理解しておるわけではないが、陛下がごく信頼できる者に限り、そのようにご説明下されたのだ。
ジーン: 要するに姫さんは、星空の向こうに異なる世界があって、そこにも生き物が住んでるってことは知ってるんだな?
フェシ: そうさの。我々とは異なる生態を持ち、相容れぬ生き方をするモノがほとんどだが、中には亜人の先祖や『移民』と称される、人間に近い存在もおったと認識しておる。
ジーン:. じゃあもう細かいところはすっとばす。騎士さんはその、たくさんある星の向こうの異界のひとつ、地球テラの日本っていう国に住んでた。たぶんその国では普通の一般人……だよな?
アート: 『是』
『ただの、子供。十才前後』
ジーン: それが空間の歪みのせいで、移民船を使わずに身一つでいきなり姫さんの国に飛ばされたんだ。 言葉も文化も何もかも違うところに、十才の子供が一人っきりで。
太郎丸: 山中などで人が突然行方知れずになることは、確かに昔からときどき起きていますよ。戻ってくる者もいれば、消えたままの者もいます。
次郎丸: 戻ってきた中には、まったく見知らぬ不思議な国で過ごしてきたと語る者もおった。珍しいことではあるが、まったくのお伽話というほどでもないな。
太郎丸: なるほど、神隠しと呼ばれる事例のひとつが、ここにいらっしゃる彼という訳なのですね。
次郎丸: 言葉も通じなければ、右も左もわからぬ異国に、子供一人で放り出されたか。よくぞまあ、生き延びたものよ。
 
神の名を持つ狐ふたりは、しみじみと納得したようにうなずき合っている。
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フェシ: ふむ……しかと理解できたとは申せぬが、つまりアーティルト殿は海の向こうの未知なる諸島からの移民ではなく、星の向こうからやってきたまよであったということか。
ジーン:. (もしかしたら、時空をも超えた異世界パラレルワールドから飛ばされた可能性もあるけど、そこまで説明するのは無理だよな)まあ、そういうことだ。
フェシ: 墜落した空を翔ける船の中には、我々にはとても再現できぬ、不可思議な装置が数多く存在すると、陛下もおっしゃっておられた。ならばアーティルト殿の故郷にも、様々な変わったからくりが存在していたのであろうな。
デューク: ……(ようやく話が繋がってくれたか)……レコーダーなら俺達も持ってるけど、これ渡す訳には行かないよなあ。
ジーン: っていうか、いま話してる内容って、あとあと記憶に残るのか? そもそも、今の俺達って、どの段階の『俺』達なんだろう??
 
※ 深く考えてはいけません ※


◆  ◇  ◆


デューク: それにしても、俺といいクイーンといい騎士さんといい、揃いも揃って途中で名前が変わってるんだな。
フェシ: 我が婚約者どのも、幼少の折りと叙任前と今とでは、それぞれ名乗りが異なっておるそうな。 そういえば先日は書物を記しておったが、それにも筆名を使っておったな……
ジーン: 別に偽名ってわけじゃねえ。ただそれまでと生き方が変わったから、呼ばれ方も変えたってだけの話だけどよ。
次郎丸: 『名』というのは大切な物ぞ。呼ばれ方によって、そのモノが何をするかが決まるし、真名ともなれば、存在のあり方そのものすら左右する、重き存在だ。
太郎丸:. 然り。我らは名もなきただの狐から、年経としふ妖力ちからを得て妖狐となった折り、真名を得ました。これは我らが消滅するまで、一生変わることはありません。もしも真名が変じるような事態になったならば、その時にはもう、我らは今の我らとは異なるモノになっていることでしょう。それは存在そのものが消滅するのと同義です。
デューク: じゃあお二人さんのその名前は、何をするのか決める名前の方ってわけかい?
次郎丸: うむ。この名は数百年前、旅の行者と我らが契約し、ゲドウを封じる神狐として祀られた際、行者によってつけられたものだ。
太郎丸: よく誤解を受けますが、私と次郎丸は兄弟ではありません。不思議と馬が合ったので、昔から行動を共にしてはおりましたが、別々に生まれ別々に変化へんげした、赤の他狐です。
次郎丸:. 契約の折り、行者が対の神となるよう名付けただけよ。それまでは白の、くろのなどと、その場その場で適当に呼びうておったわ。
デューク: 限られた相手にしか真実の名を明かさないって風習は、こっちのほうでもたまに聞くな。
ジーン:. そりゃまあ、連邦だけでも数百ってえ惑星やら宇宙居住区スペース・コロニーやらが加盟してんだ。所変われば品も変わる。文化風習だって、星や種族によっていろいろあるさ。
太郎丸: 風習などと軽く思われては困ります。我々のような存在にとっては、下手な相手に真名を知られれば、文字通り生命を握られるに等しいのですよ。余人の耳がある場所で、うかつに口になどできるものではありません。
デューク: じゃあ、お二人さんの真名を知ってるのは、相当に信頼できる相手だけってことか。
次郎丸: 無論のこと。我の真名を知っておるのは、太郎丸以外一人しかおらぬわ!
太郎丸: かつては卑劣にも盗み取ろうとするような輩もおりましたが、すべて相応に始末いたしました。今では我らを呼べるのは、ただ彼のみです。……それなのに、どうしてああも頑なに呼んでくれないのか(嘆息)
 
ため息をつく二人の前で、デュークがどこからかメモを取り出す。
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デューク: そんなお二人さんに、読者からの質問だ。
「太郎丸さんと次郎丸さんの真名は、今後出てくることはありますか?」だそうだが。
 
応じて太郎丸が、やはりメモを取り出す。
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太郎丸: 作者いわく「若気の至りでつけた厨二臭いネーミングのため、恥ずかしくて今さら本文中に出せません」とのことです。
ジーン: ……恥ずかしい真名って当人としてはどうなんだ、お二人さんよ。
太郎丸: 複雑といえば複雑ですね。
次郎丸: なにしろ、十五周年になろうというこのサイトを、開設するよりさらに前に設定したというのだからの……確かに若気の至りと評しても、年齢的には過言でなかろうが。
フェシ: どのような名なのか、雰囲気だけでも尋ねてはいかぬのか。
太郎丸: ふむ……小説本編では出ることがないでしょうし、この場を借りて、音だけ申し上げましょうか。
私の真名は『アトリ』です。
次郎丸: 我は『セイル』だ。
フェシ: 文化の違いは私にはよく判らぬが、そうおかしな響きでもないと思うが……
太郎丸: この音に漢字を当てはめて、さらに意味を解説すると、猛烈に恥ずかしいんだそうです。
次郎丸: とは言え小説本文をよく読み込むと、どの字を当てるか想像がつく……かもしれないらしいが。
太郎丸: もっともそのように無理矢理解読した真名など、我らが自身の口で伝えた『彼』の呼ぶそれの、半分も影響力を持ちませんがね。
次郎丸: 要は我らの名を呼んでよいのも、呼ばれたいと思うのも、あやつただ一人ということよ!
デューク: 熱烈だねえ(苦笑)
……続いての質問はっと、「ほかにもアーティルトと同じ国から流れてきた人っていないのかなぁ・・・」、と。これはさっきのやりとりにも関わってくるな。
ジーン: 空間の歪みなんざ、そうそう滅多に起きるもんじゃねえぞ。
フェシ:. しかし以前、同郷の者とうたと言って、便宜を図ったことがあったはずだが。のう、アーティルト殿。
 
視線が集中する前で、マジックが動く。
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アート: 『自由交易都市 の 船乗り』
『前に、港で、会った』
フェシ: そうだ、思い出した。あの足が不自由な船長が率いておる商船の、乗員であったの。確かコウとか呼ばれておったか。
アート: 『本名は、「高良城静香」』
太郎丸: その字面でコウと呼ばれているのであれば、おそらく「コウラギ シズカ」ですね。
 
※「月の刃 海に風」及び、関連拍手SS(特に9と13)を参照のこと。
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次郎丸:. ……まるで女子おなごのような名だのぅ。
アート: 『だから コウ、と』
『下の 名前 コンプレックス』
フェシ: あの姿と気性で女子の名か……それはなんとも似合わぬと言うか、気の毒と言うか……(苦笑)
デューク: 騎士さんには、さらにもうひとつ質問が来てるよ。 「個人的希望としては、アーティルトに楽器を弾いて欲しいのですよ。喋れないけど弦楽器の名手とか、なってくれませんかね」ってことだが、そのへんはどうなんだい?
アート: 『詩は、作る。 楽曲は、しない』
『音は、公女ひめさまが、楽しめない から』
ジーン: 公女さまってえと……姫さんのことか?
 
問いかけにフェシリアがかぶりを振る。
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フェシ: 当代陛下の異母妹、ユーフェミア=グラシエナ公女のことだの。社交界には出ておられぬが、なんでも生まれつき両耳の聴力を失っておられると聞く。声の出せぬアーティルト殿とは、互いに良き話し相手であられるそうな。
ジーン: あー……補聴器とかないもんな。筆談も慣れないと辛いだろうし。
アート: 『普段 は 指文字』
『慣れると けっこう 便利』
デューク: へえ、手話も存在してるんだ。姫さまの国って、なんというか、ほんとに文化水準がちぐはぐな感じがするね。
ジーン: 『その昔、移民船から追放された民達がなんとか生き延びようと巷間に流した知識や、あるいは代々の王族が移民船のコンピューターから読み取った技術があるせいで、時代に合わない思想や文化が発達してるんです。バネ仕掛けの着火具ライターとか、製紙技術と活版印刷とか、焼畑農法とか、福利厚生とか』って言う声が、どっか遠くから聞こえてきた。
デューク: どっか遠くから(笑)
ジーン: ああ、遠くから(苦笑)
デューク: 次も姫さまの国への質問だ。
「主要登場人物のほとんどが貴族出身なので、絶対楽器の練習はさせられてたと思うんですよね。だから皆さんのお得意の楽器を教えて頂きたいデス。特にフェシリアは何を弾くんだろう」だそうだけど?
フェシ:. あくまで教養の一貫として、貴族男性は双弦琴、女性は平箏ひらそうか長提琴を学ぶ場合が多いの。だがそもそも男性はともかく、女性は人前で弾いてみせることなどほとんどないな。音楽を聴きたい場合は、あくまで人を雇うか目下の者に演奏させるのが、貴族としての一般的な在り方だ。それでも下級貴族の出であれば、より高位の貴族の元へ側仕えとして上がった際、主人あるじに所望されることも考えられるゆえ、身を入れて学ぶこともあろうが。そうでなければあくまで聴く耳を養うことと、手遊てすさびのために過ぎぬ。私も長提琴を、せいぜい形ばかりつけた程度だ。
 
双弦琴:同じ弦が二本ずつある竪琴
平箏:四角い撥弦楽器(長い脚のある和琴っぽい)
長提琴:弓を使って演奏する柄の長い擦弦楽器(胡弓みたいなの)
※どれも架空の楽器です。
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アート: 『カルセスト は 横笛も、得意』
『ロッドは 草笛と 下町のはやり歌』
フェシ: ……幼い折りには、年に似合わぬ双弦琴の上手と言われておったのだがな、あの男は(ため息)
今でも良いものを聴き分ける耳は持っておるし、楽譜も読めるようだが、いかんせん指が動かぬようだ。長年、楽器に触れることすらなかったのだから、しかたあるまいが……惜しいことよ。
陛下やその侍従どの、あとうちの侍従文官は、それなりに双弦琴を嗜むようだ。レジィ=キエルフは……騎士の情けだ。聞いてやってくれるな。
デューク: 騎士の情けね……(苦笑)
じゃあ次、「セイヴァン王国の皆さんはペットは飼わないのでしょうか。猫チックな生き物とか、ラブラドール・レトリーバーちっくな生き物とかいたらいいと思うんだけどな〜」
フェシ: 家畜の他となると、通信用の鳥や狩りに使う猟犬などはおるが、純粋に愛玩用の生き物というのは滅多におらぬの。平民達には余分なものを養う余裕なぞないし、さりとて裕福な者はそういった類の生き物がそばにおるのを不潔だと厭う傾向にある。
金持ちの中には、珍しいからと亜人や見目よい子供を飼って喜ぶような下郎もおるが、当然のことながら違法だ。見つかり次第、厳重に罰せられる。
ジーン: なるほど、姫さんとこでは奴隷はナシなんだ。
フェシ: うむ、人間であろうが亜人であろうが、何十年も前に人身売買は禁じられた。だが裏に回れば、まだまだ闇で売り買いされているのが実情よ。我が侍女だったリリアも、かつては売り物として海賊に囚われておったのを救ったのだが、果たしてどれほどの数が、今なお見つけきれずに売買されておるものか。市政に携わるものとしては、忸怩たる限りだ。
アート: 『……人買い、は 悪』
デューク: 騎士さん、騎士さん、なんか目ぇ座ってるぜ(汗)
大丈夫か?
アート: 『…………』
 
立ち上る冷気に、誰ともなく目を見交わして黙りこむ。


◆  ◇  ◆


デューク: ええと、それじゃあ……(ごほん)
気を取り直して、と。最後はやっぱり今後の予定で締めるべきかな。
ジーン: あ、ああ。そうだな。
えーと、作者いわく『今のところは日月堂シリーズ第16話「雨月露宿」を連載中です。例のごとく月イチ更新で、今月三章目をUPして、来月に四章。終章は三月半ばを予定しています』とのことだ。
フェシ: 最近はめっきり話をまとめる力が衰えてしまっていて、オリジナル小説は年に二作更新できるかどうかとのこと。情けないにも程があるというものよ。特に「楽園の守護者」関係は、今のところSSを含めてプロットひとつ存在していないそうだ。
太郎丸: その他のシリーズではいくつか、拍手お礼SSの下書きができているので、しばらくそれで何とかしのごうと目論んでいるようです。
次郎丸: そしてなんと! 我が「きつね」の中編もまた、なんとかなりそうだと言うぞ。これまでで一番短い、いわば勢いだけの話だが、拍手から頂いたコメントのお陰で妄想が暴走したらしい。めでたい事よ!!
太郎丸: 文章を推敲するのに時間が掛かるのと、手元にストックを残しておくために、そちらを発表する時期は未定ですが、ひそかに根強い「きつねシリーズの続編を」の声になんとかお答えできそうで嬉しいとの、作者からの言葉です。
次郎丸: 実は一番多い要望は、我ら神狐が日月堂を訪れるというものなのだが……これは時系列とやらが合わず、書くことができぬのだと言う。
太郎丸: 日月堂シリーズは、主役らが高校時代。対してきつねシリーズでは大学生。きつねの時系列に合わせると、必然的に日月堂側も数年時間を進めなければならず、その間に起きる事件をまだ書けていない以上、未来の状態を必要以上に描写することはしにくいという事情だそうです。
デューク: そもそも日月堂シリーズでは、主役に高校を卒業させてもいいものかどうか、作者としては悩みどころだったようだね。まあそのあたりは、今回の連載で多少方向性が見えてきたようだけど。
ジーン: ともあれ、もしもこの先どんどん話が書けなくなって、更新が一年に一度もできなくなったとしても、作者にサイトを閉鎖する意思は ―― 今のところ ―― ないそうだ。自分が書いたものを、ひとりでも多くの方に読んでもらって、そして楽しんでいただけたら嬉しいというのが、作者の考えらしい。だからそれこそ若気の至りの過去作品も、消さずに置いておくのだと。
フェシ: 故に、亀更新の当サイトを、できればこれからも見捨てることなく、時おりは覗いてやって貰えればありがたい。たとえ更新は少なくとも、次は二十周年を祝うことができたなら、それはそれで継続は力なりと言えるだろうからの。
アート: 『来訪者に 心より 感謝』
『これからも よろしく 願う』
 
一同、席から立ち上がって、それぞれの形で礼。



一部のキャラクターが微妙に壊れたり、ありえない会話が存在しておりますが、
あくまでお遊び企画ということで、深くお気にはなさいませぬよう……



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