外部から聞こえてくる物音に気がついて、志朗は下ろしていた目蓋を持ち上げた。
なにも見えなどしないのは相変わらずだったが、近づいてくる気配からして、事態の進展は期待できるようだ。
果たして、闇の一角からごくごく微かな光が漏れてくる。暗がりに慣れた目でなければ気づくことも無かっただろうそれは、扉の前に立った人間の持つ灯りが、わずかな隙間から差し込んでくるもののようだった。がたがたと数度、板戸が揺れる音が響き ―― 途端にまばゆい光が瞳を射る。
「……ッ」
とっさに手をかざそうとしたが、縛られている両腕にそんな自由などない。ただまぶたを下ろし、目の奥に走る痛みをこらえた。
「どうやら気がついたみてえだな」
そんな言葉が投げかけられる。
志朗はゆっくりと目を開き、声が発せられた方向を見やった。
手燭【※てしょく:柄のついた持ち歩きできる燭台】をかざした若い男を中心に、五人ばかりが志朗を見下ろしている。どの男もだらしなく着崩した、派手な身なりをしていた。ろくな定職にも就かず、賭博や女遊びにうつつを抜かす与太者ども、といったところか。
志朗は無言で男達を観察した。全員にやにやとしまりのない笑いを浮かべている。
一人が傍らへとしゃがみ込み、手燭を床に置いた。炎が揺らめき、男達の影を大きく壁に映しだす。
どうやら眩しいと感じたのは、闇に目が慣れていたためのようだ。志朗は小さな炎で充分にあたりの様子を見てとれたが、男達の方はそうもいかないらしい。顔を近づけるようにして、しげしげとのぞき込んでくる。
「どうやらお前さん、イロに見捨てられたらしいぜ」
「…………?」
情人という言葉が指しているのは、考えるまでもなく進之介のことであろう。
誤解を解くのも面倒なので、わざわざ反論する気も起きなかったが、見捨てられたというのは腑に落ちない表現だ。自分の知る人となりからして、むしろあのおっさんは、ときに子供扱いがうっとおしくなる程度に、自分を気にかけてくれているのだが。
眉をひそめた志朗をあざけるかのように、男は手を伸ばして彼の顎を持ち上げた。
「お前を返して欲しけりゃ、暮れ六ツに町外れの廃屋まで来いっつったのによ。いつまで待っても来やしねえ」
残念だったなと言って、喉の奥を鳴らす。
どうやらすっぽかされたこと自体は、男達にとってさほど痛手ではないらしい。むしろそれを知った志朗の反応を楽しみたくて、やってきたという雰囲気だ。
しかし志朗は、男達の言葉に内心で首をかしげていた。
自分がなかなか帰らないところにそんな知らせを受け取ったのであれば、進之介が無視などするはずがない。なにか考えあってのことなのだろうか。それともあるいは ――
そこまで考えて、志朗ははたとなにかに思い当たったようだった。
「あの、もしかして……」
問いかけようとしたが、その言葉は途中でさえぎられる。
男の一人が襟に手をかけ、強引に彼を引きずり起こしたのだ。
そのまま志朗の身体は、近くにあった板壁へと寄りかかるように座らせられる。
「別に来なけりゃ来ねえで、まぁいいさ。あの男の居場所は判ってるし、どうせ盗まれた物だって、単に客が忘れてった汚え書きつけだけだしな」
それより……
と、顔を近づけてくる男の表情に、志朗は思わず口元を引きつらせた。
この展開は、今までにも嫌というほど覚えがある。
「せっかく手間ァかけて
拐かした上玉だ、売っぱらえばけっこうな値がつきそうだが ―― 」
「このまま右から左ってのは、勿体ねえよなぁ」
男達がそれぞれ好色な笑みを浮かべてにじり寄ってくる。
志朗は全身に鳥肌をたてた。
「ちょ……待……っ」
反射的に逃れようとするが、襟を掴んだ男は、そう簡単に手を離してなどくれなかった。
「どうせいつも客を相手にしてんだろ? おとなしくしてりゃぁ、極楽見せてやっからよ」
勝手にそんな解釈などしないでくれ、と言いたいところだったが、えてしてこういう
輩は、こちらの言い分に耳を傾けるような人種ではなかった。四方から伸ばされてくる腕を避けようと、不自由な身を懸命によじる。
はだけた襟の間から潜り込んでくる手の感触に、背筋がぞわりと粟立った。
「 ―― ッ」
反射的に動かした肘が、一人の顎を下から突き上げる。
完全に油断していた男は、まともに舌を噛んだらしく、両手で口を押さえてうずくまった。その隙をとらえ、志朗は男を押しのけその場を逃れようとする。
が、他の男達が黙って見ているはずもなく。
「この野郎っ」
「おとなしくしやがれ!」
罵声を上げた一人が長い髪を鷲掴みにし、床へと引きずり倒した。
志朗の身体は派手な音をたて、板敷きへと叩きつけらる。食いしばった唇から苦痛の呻きが洩れた。したたかにぶつけた背中と引っ張られた髪が痛みを訴えてくる。
だが、間もなく訪れるだろう苦しみと屈辱は、そんなものなど比にならぬだろうそれだった。
唇を噛みしめ、せめてもの抵抗にと、男達を睨みつける。
が、目の前の獲物を楽しむことしか考えていない輩にとっては、そんな表情さえもが、情欲を煽りたてる要因となるようだった。
乱れた髪の間から覗く、濡れた光を宿す切れ長の瞳。
大きくはだけた襟元から、並の女よりよほど白い胸がかいま見える。
男達が、下卑た笑い声を上げて手を伸ばしてきた。
―― その時だ。
がらり
いささか間の抜けた音がして、この部屋唯一の出入口である板戸が、大きく開かれた。
唐突とも言えるその物音に、志朗を含めた一同は、思わず動きを止めてふりかえっていた。
床に置かれた手燭の明かりに浮かび上がったのは、鴨居に手をかけるようにしてのぞき込んでくる、大柄な男の姿。
薄暗い中でもそれと判る派手な身なりに、幾人かが声を上げて指差す。
大男 ―― 言わずと知れた進之介だ ―― は、しばし室内を眺めてから、ぽりぽりと後ろ頭を掻いた。
「なぁ……何やってんだ」
どこか間延びした口調で、そんなことを訊いてくる。
「…………」
しばし、室内には何とも言えない沈黙が漂った。
もつれ合うように折り重なった一同が、呆気にとられた表情で、突然現れた闖入者を凝視している。
やがて ―― 最初に口を開いたのは、やはり進之介の言動に慣れている志朗であった。
「見て、判らないのかい」
はだけられた襟の合わせを気にしながら、震える声音で問い返す。
あらわになった白い肌が、灯明を浴びてなまめかしく浮かび上がっていた。ほのかに上気したそこへと乱れた黒髪が落ちかかり、ぞくりとするほど劣情を煽る。
床に押さえつけられているので自然上目遣いとなった瞳が、ほのかに潤んで進之介を映した。
匂い立つような色香に、誰かがごくりと唾を呑んだ。
だが、視線を向けられた進之介当人は、特に感銘をうけた様子もなく、あっさりと返答する。
「見えねえし」
男達の目が点になった。
しかし誰かが何らかのつっこみを入れるより早く、真っ先に反応したのはやはり、押し倒されたままの志朗で。
「だからッ犯されかかってんだよ!! またッ!」
最大音量でわめき立てる。
耳元で叫ばれた男の一人が、耳鳴りを起こして壁にぶつかった。
艶麗な容姿に似合わぬ下品な物言いを受けて、進之介は呆れたように息を吐く。
「……またかよ? 懲りねえなぁ」
「こりごりなんだよ、俺は〜ッッ!!」
言い返す志朗は、完全にブチ切れていた。
ダンダンと不自由な体勢で床を踏み鳴らす。その音に、男達がようやく我を取り戻した。
はっと息を呑んで互いに顔を見合わせると、示し合わせたように進之介の方をふり返る。
「なんだてめえ、良いところで邪魔しやがって!」
「呼び出しすっぽかしといて、何だって今ごろ現れるんだ!?」
口々に言いながら、手に手に刃物をきらめかせた。
「あ〜、まぁ、色々あって、な」
進之介は後ろめたげに視線をそらした。そうしながらもその足は、ずいと室内へ踏みいっている。
固まっていては不利だと判断したのだろう。男達は志朗を拘束した一人を残し、じりじりと間をあけ、広がっていった。さすがにみな荒事には慣れているらしく、進之介を見る目には凶暴な光が宿り始めている。
「どうやってここを突き止めたか知らねえが、一人でやって来るたぁ、良い度胸してるじゃないか」
「おい、誰かいねえか! お客さんだぜッ」
騒々しい声をたて、同じ屋根の下にいる仲間達を呼ばわる。
いかに進之介の腕が立つとは言え、人質を取られたうえ、この狭い空間でいっせいに襲いかかられては、とてもさばききれるものではなかった。自分達の有利を確信する男達は、余裕に満ちた嗜虐の笑みを浮かべている。
が ――
進之介の背後、開け放たれた戸口にふらりと現れたのは、たったの二人だけであった。
しかもその二人の風体は、男達にとって、まるで見知らぬ町人のものだ。
「……生憎だが、この屋敷内で意識があるのは、既にお主達だけだ」
怜悧な雰囲気をまとった男が、切れ長の瞳で男達をねめつけた。右手に、抜き身の大刀を無造作に提げている。その刃に血の彩りはなく、男も息ひとつ乱しているようには見えなかった。が、全身から発せられる冷たい殺気に、ならず者達は動揺して身じろぎした。
その男の隣で、こちらは小太刀の峰を肩にあてた角兵衛が、にこにこと胡散臭いほど爽やかな笑みを見せている。
「けっこ〜、騒がしくしてたんだけどね。ま、それどころじゃなかったのかな」
ねえ、助さん?
などと同意を求める角兵衛を、助さんと呼ばれた男は完璧に無視した。
「そちらにも申し分はあろうが、その芸人は無関係な存在ゆえ、放してやってもらいたいのだが」
一応依頼の形を取ってはいたが、感情のこもらぬ平坦な物言いは、かえって男達の神経を逆撫でる結果となった。
案の定、仲間達の助けが得られぬと知った男達は、かえって闘争心を刺激されたように、奇声を上げて向かってきた。あるいはたかが三人、勢いに任せて押し切ればどうとでもなると考えたのか。
進之介達はそれぞれの得物を持ち上げ、身構えた。歩幅を広げ、腰を落とし、不敵な表情で迎えうつ。
しかし、
「っと?」
いきなり進之介が体勢を崩し、たたらを踏んだ。
その足下でなにかの割れる音がしたと思った瞬間、室内に闇の
帳が下りる。
「……へ?」
「な、なんだぁっ」
全員が目をしばたたき、反射的に動きを止めた。前触れもなく訪れた暗闇に、誰もがとっさに反応できない。
そんな彼らへと、進之介が自ら申告した。
「あー、悪い。明かり蹴飛ばした」
あろうことか、窓ひとつないこの部屋で唯一の光源だった手燭を踏み消してしまったらしい。
すまんすまんと謝罪する大男に、一同はげんなりと肩を落とした。
「おっさん……」
角兵衛が、ぼやきながら額を押さえる。
「 ―― 危ねえから、あんたらそこから動くなよ」
「え……あ、おい?」
気軽に投げられた言葉に、思わず聞き返そうとした。
それよりも早く、大柄な身体が動く。
己の指先すら見えぬまったき闇の中、かきまわされる空気の流れだけが、身動きする者の気配を伝えてくる。
「ぎゃッ」
蛙が潰れるような声がして、なにか大きな物の落ちる音が生じた。続いて衣擦れが、数度。
「大丈夫か? 志朗」
「ん……なんとか、ね」
ため息混じりの疲れた声が答えた。
「遅くなってすまん。ちょっとばかり手間取ってな」
「いいけどさ、もう ―― 」
そんな会話が洩れ聞こえる中、人質を奪い返されたと知った男達は、焦りの声を上げてそれぞれの得物を振りまわした。
「ち、畜生! どこだッ、ここか!?」
「うわ、やめろ。危ねえッ」
狭い室内。それも互いの位置関係も判らぬ暗闇でそんな真似をすれば、同士討ちは必至である。だが興奮している男達は、既に冷静な判断などできなくなっていた。そこここで悲鳴や物にぶつかる音が立て続けに起き、視界を奪われた男達の焦りと恐怖を増長してゆく。
またそれを煽るかのように、進之介の移動する気配がするたび、新たな悲鳴と物音が連続した。
「すまんが、こいつを頼む」
いきなり間近くから声をかけられて、角兵衛はぎょっと息を呑んだ。
見えないと判っていてもとっさに周囲を見まわしたその腕の中に、強引に何かが押しつけられる。
かすかに聞こえた鈴の音と長い髪の感触で、それが志朗の身体だと判った。が、そう判断したときにはもう、進之介の気配は離れてしまっている。
「頼むっつったってよ……」
隙なく小太刀を構えながら、角兵衛はじりじりと後ずさりした。
こんな暗闇の中で棒立ちになっていては、危険なこときわまりない。いつ闇の向こうから刃が襲ってくるやもしれぬのだ。緊張に冷汗が滲むのを感じながら、そろそろとあたりの様子を探った。慎重に後ろへと伸ばした足が壁につき当たったのを確認して、小さくため息をつく。
そのまま物音を立てぬよう静かに後退し、壁際へと身を寄せた。これで少なくとも、背後からばっさりやられるおそれはなくなった。
「ええと、大丈夫かね?」
文字通り後顧の憂いがなくなってから、ようやく腕の中へと問いかけた。
うなずく気配がして、それから見えないのだと気がついたのか、声に出して応えが返る。強がりではないらしいしっかりした声音を確認して、角兵衛は再び闇のむこうへと意識を戻した。
「さて、どうしたもんか。こう暗くっちゃぁ……」
ぼやく。せめて月明かりなと差し込んでくれていれば、角兵衛にも動きようがあるのだが。
と、その腕の中で志朗がかぶりを振った。
「別に、ほっときゃいいさ」
ん? と見下ろした先で、志朗は肩をすくめる。
「たかが五人程度に加勢する必要はないよ。ましてこの暗さじゃぁ、五人が十人でも相手になりゃしない」
男達の気を引かぬようにだろう。ひそめた声でささやく内容に、角兵衛は数回まばたきした。
「そういうもんかい?」
「ああ、そういうものさ」
言いながらもぞもぞと身じろぎする志朗は、どうやら
縛めを解かれているようだ。手探りで身なりを整えているらしい。
完全に警戒を解いてしまっているその様子に、角兵衛はちょっと首をかしげた。が、あえて反論はせず、その場で待つことに決める。
闇の向こうからは、相変わらず剣呑な物音と叫びが聞こえてくる。
ふと、角兵衛は息をひそめた。
志朗の身体にまわしていた腕に、力をこめる。
「悪いが、ちょっとどいててくれるかい?」
移動を促す手に従い、志朗は物音を立てぬよう動いた。背後にまわらせた彼を片手でかばいながら、小太刀を目の前に構え直す。
部屋の外。廊下から近づいてくる気配に、神経を集中した。
やがてほのかな光が戸口から射し込み ――
「……って、なんだ。助さんか」
ろうそくを掲げた相手を確認して、角兵衛は緊張を緩めた。
「へえ、灯を取りに行ってたんだ」
さっすが助さん。
ぱちぱちと音のない拍手をする彼をよそに、助さんこと助五郎はまず志朗の無事を確認した。
なぜこの二人が居合わせているのかは判らないが、その顔は志朗も先日行った座敷で見覚えている。ぺこりと会釈するのに無言でうなずいて、それから助五郎は灯りを高くかざした。充分な光量ではなかったが、それでも狭い室内が淡く照らし出される。
角兵衛が甲高い口笛を鳴らした。
「たいしたもんだねえ」
感嘆の言葉と共に見下ろす先には、意識を失って転がる四つの肉体があった。
ちなみに五人目の男は、進之介に襟首を掴まれ、高く宙へと吊り下げられている。ぐったりと力の抜けた様子からして、この男も既に失神しているようだ。
「明かりか」
進之介は眉間にしわを寄せ、すがめた目つきで助五郎を振り返った。
半ば目蓋を降ろしたその双眸に宿る、底知れぬ光。
角兵衛の喉がごくりと鳴った。
こちらの方を向いてこそいたが、その目はけして、彼らの姿を捉えてなどいなかった。茫漠とした、焦点すら定かではない瞳が、闘争の気配をはらむ暴力的な輝きをたたえ、ろうそくの炎を映し出す。
ただでさえ大柄な肉体が、さらにひとまわり大きくなっているように錯覚した。
指が開かれ、無造作に男の身体が放り出される。床に頭のぶつかる痛そうな音がしたが、誰も気にはとめなかった。
のそりと身体を動かし、大股に近づいてくる。ろくに足元を見てもいないが、投げ出された身体や手足など器用に避けていた。
無言で待つ一同の前で足を止めると、つと背中を丸める。
吐息が触れるほどに顔を近づけられて、志朗は思わず身を引いていた。背中を反らし顔を遠ざけようとするが、後ろに壁があるせいでそれ以上さがることができない。
「…………」
「…………」
しばし無言のにらみ合いのようなものが続いた。
進之介は両目をすがめたまま志朗の顔をねめつけるようにし、志朗は諦めたのか、軽く顎を上げてその視線を受け止める。角兵衛と助五郎は、どう声をかけたものか判断できず、黙ってそれを見守っていた。
いかに志朗の意志でないとはいえ、己の情人が押し倒されているのを目の当たりにしては、進之介も心穏やかでいられまい。痴話喧嘩に口を挟むのは愚かしいが、さりとて放っておいても良いものか。
……などと、志朗達が聞けば鳥肌を立てそうなことを考えている彼らをよそに、剣呑な雰囲気で見つめ合っていたふたりは、やがてどちらからともなくため息をついて視線をはずした。
「どうやら怪我ぁ、なさそうだな」
「ああ、おかげさんでね」
乱れた髪を掻き上げながら、志朗が答える。
その拍子に、辛うじて引っかかっていた髪紐が滑り落ちた。端についた小さな鈴が、床に当り、ちりんと場違いに可愛らしい音をたてる。
「おっと」
志朗が手を伸ばすより早く、進之介がかがみ込んだ。
床にとぐろを巻く紐を、数度手探りして拾いあげる。
「そら」
しゃがんだままで差し出すその姿は、既にいつもの茫洋とした穏やかな空気を取り戻していた。指に絡みついた紐を、志朗が丁寧に取り外す。
髪を結び直すのは後にして、ぐるぐると片手に巻きつけた
「 ―― で」
それから再び口を開く。
「なんでこの方達とあんたが、いっしょに現れるのさ?」
その問いかけに、進之介は例によって後ろ頭をかきむしった。
「んん、それがだな。話すと長く、なるんだが……」
「ちゃんと話せ」
説明を逃げようとする進之介に対し、志朗は一言、低い声で促した。
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